低周波アレイ探触子を用いたコンクリート内部の鉄筋および 円筒管の高速映像化

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カテゴリ: 第14回
1. はじめに
超音波アレイ探触子を用いた非破壊検査が金属材料等 の探傷で導入されている[1]。これは、電子スキャン装置 を用いてアレイ素子の励振タイミングを制御することで、 対象とする材料の任意の位置に超音波を送信する技術 [1]であり、リニアスキャンやセクタスキャン等の映像化 法がある。著者らはアレイ探触子を用いて、全波形サン プリング処理(Full-waveforms sampling and processing: FSAP)方式[2]による映像化手法を提案している。FSAP 方式は、アレイ探触子の1 つの素子から超音波を送信し、 それぞれの素子で個別に欠陥エコーを受信する。それぞ れの波形はコンピュータ内のメモリに保存する。送信素 子を変えながら、各素子で受信し、すべての送受信パタ ンを得る。映像化対象の各画素にビームが集束するよう に、ポスト処理でビームを合成する。本研究では、FSAP 方式をコンクリート構造部材に適用する。ここでは、高 さ 800mm のコンクリート供試体を作成し、内部の鉄筋や円筒管の映像化を試みた。 コンクリートは骨材分布に起因して波動減衰が顕著で あるので、深部まで超音波が到達するように、送信周波 数を調整する必要がある。ここでは、音場シミュレーシ ョンを行い、コンクリート深部でも効率的にビームが集 束でき、適切な分解能を有する探触子を設計・製作した。 また、現場での実時間映像化のために、Graphics Processing Unit (GPU) 計算[3]を導入してFSAP 方式を高 速化した。ここでは、FSAP 方式を実装した超音波アレ イ映像化システムの概要を示し、コンクリート供試体の 内部映像化の事例を示す。
2.アレイ映像化 2.1 FSAP 方式の映像化原理 FSAP 方式では、1素子から超音波を送信し、各素子で 受信する。この操作を繰り返し、波形記憶マトリクスと 呼ばれるメモリに全ての素子の組み合わせの波形を保存 する。Fig.1(a)のように、振動素子を一列に並べたリニア 連絡先: 中畑和之、〒790-8577 松山市文京町3 愛媛大学大学院理工学研究科生産環境工学専攻 アレイを考える。素子番号iで送信し、jで受信したとき の時刻歴波形を?????? とし、すべての送受信パタンを E-mail: nakahata@cee.ehime-u.ac.jp Fig.1(b)の波形記憶マトリクスに保存する。各パタンで時
刻歴サンプル数??個を保存する。波形記憶マトリクスの すべての要素が埋まると、合計? ? ?パタンの波形が保 存されることになる。超音波を送信する位置の画素を ??????とし、画素?とアレイ探触子の中心座標を??とす ると、この往復の伝搬時間????(基本伝搬時間と呼ぶ)は 以下のように示される。 ???? ? ?????? ?? -1ここで、?は材料中を伝搬する縦波音速である。素子番 号iから発振した超音波が??????に到達し、素子jに戻っ てきた時間と、基本伝搬時間との差(ディレイ)は ???? ? ο??? ??となる。ディレイを考慮しながら、i と j の全 ての組み合わせを重ね合わせると、画素?への集束ビー ムが合成される。これは以下の式で表される。 ??????????? ? σ ???? σ ???? ????? ? ο??? ??? (2) 映像化のためには、基本伝搬時間???? の振幅値を抽出す る。 ???? ? ????????????? ? (3) すべての画素でこの計算を行い、 ???? の値にカラーをつ けて表示することにより、内部の散乱体の形状や配置を、 散乱波の振幅値から評価する。 Fig.1 (a) Location of array transducer and focal point x, (b) Signal matrix storage. Fig.2 Hardware and software architectures of the proposed flaw imaging system - 208 - 2.2 超音波映像化システム Fig.2 に FSAP 方式を実装した超音波映像化システム の概要図を示す。ここでは、送信素子を高速に切り替え ながら、散乱波を各素子で受信するために、電子スキャ ン装置(ジャパンプローブJAS21) を使用した。波形取得 命令がPC から発せられると、1 素子ずつ超音波が発振 され、N 素子で個々に超音波が受信される。レシーバで 受信したデジタル信号は、USB3.0 を経由して波形記憶 マトリクスとして CPU 側の Dynamic random access memory(DRAM)に保存される。次に、GPU ボードの VRAM にデータを転送し、GPU 計算によってビーム合 成のカーネルを実行する。?方向に?個、?方向に?個の 画素があるので、全画素に集束ビームを送信するのに必 要な演算回数は?? ? ? ? ?回である。映像出力後に、再 び波形取得の命令を発し、次の映像化をスタートさせる。 GPU 計算のカーネルコードを作成するために、PGI 社 の CUDA FORTRAN(Accelerator Fortran Ver.15.4 for Windows 64 bit)を使用した。このCUDA FORTRAN に よってFSAP 方式のDynamic link library(DLL)を作成 し、外部から呼び出すこととした。 3. 低周波アレイ探触子 コンクリート標準示方書によれば、コンクリート中の 骨材の最大粒径は、鉄筋コンクリートで 20mm、無筋コ ンクリートで40mmと示されている。コンクリートを対 象として超音波探傷を行う場合は、骨材による散乱減衰 の影響を考慮する必要がある。この影響を小さくするに は、骨材径よりも送信波の波長λを大きくすることが肝 要である。 ? ?? ??? ? ?????? 音速cを4000 m/sと仮定すると、少なくともf = 100kHz 以下の周波数を選択すればよい。ここで、探触子を設計 するにあたって、中心周波数を50kHz としたときの音場 をマルチガウシアンビーム理論[4]を用いてシミュレー ションしてみた。映像化断面のアレイ探触子からの放射 音場をFig.3 に示す。アレイ素子のピッチは29mm、奥行 きは210mmとして、これを16素子配置した場合を想定 する。Fig.3の左に示す図は、探触子の中心から深さ700m にビームを集束させた場合、Fig.3 の右に示す図は、深さ 700mm で探触子の中心から250mm左側に焦点を設定し た場合のシミュレーション結果である。いずれも意図し た位置にメインローブが発生していることがわかる。 シミュレーションで設計した形状に倣って、Fig.4に示 すようなコンポジット素子のアレイ探触子を作成した。 ここでは、可搬性を考慮して1 探触子あたり8素子とし、 実際はこの探触子を2 つ用いて計16 個の素子で映像化 を行う。アレイ探触子の7番目の素子でアクリル底面に 超音波を送信し、8 番目の素子で受信したときの波形の フーリエスペクトルをFig.5 に示す。50 kHz を中心にブ ロードな周波数スペクトルが得られていることがわかる。 Fig.4 Picture of the low frequency array transducer with 16 elements (left) and its element configuration (right). Fig.3 Radiated ultrasonic wave fields calculated with the MGB simulation[4]. Fig.5 Frequency spectrum of reflected signal from flat bottom surface in acrylic material. 4.コンクリート内部の映像化結果 本研究では、Fig.6(a)に示すようなコンクリート供試体 を作成した。供試体の高さ 800mm、幅 800mm、奥行き 300mm であり、コンクリート供試体の骨材の最大粒径は 20mm、骨材含有率は 70%である。供試体は水中養生後 に、室外で自然乾燥させている。映像化時の縦波音速 c=4260m/s であり、密度は2700kg/m3である。供試体内部 には鉄筋(?=25mm と29mm)、鋼製の中空円筒(?=42mm)、 プラスチックフレキシブル電線管(PF管、?=42mm) が奥 行方向に配置されている。FSAP 方式によって得られた 再構成結果を Fig.6(b)に示す。映像化範囲は 800mm × 800mm であり、集束ビームは画素1mm 毎に送信した。 ここでは、全画素で得られた ????のうち、その最大値で 割ることで正規化したものに色をつけてプロットしてい る。映像化の結果から、鉄筋、円管、PF 管の位置を正 確に再構成できていることがわかる。また深部の ? =29mm の鉄筋と ?=42mm の円筒を比較すると、円筒の 方が境界部の値が大きい(赤色が濃い)ことがわかる。こ れは、散乱波の位相を反映したものであり、音響インピ ーダンスの違いに起因する。すなわち、鉄筋と円筒では 音響インピーダンスが大きくことなることから、位相を 評価することで鉄筋と円筒の識別が可能であると考える。 - 209 - 5.結言 なお、本研究で開発したFSAP 方式の映像化システムは、 上記の設定では、1秒間に5 アルタイム映像化が実現できている。 フレームの更新ができ、リ 部材の内部を非破壊的に評価することを目標として、低 本研究では、発電プラントで用いられるコンクリート 周波アレイ探触子を用いた FSAP 方式による超音波映 像化を試みた。ここでは、音場シミュレーションに基づ いて、50 kHz の中心周波数を有する低周波アレイ探触 子を製作した。このアレイ探触子を用いてFSAP を実行 した結果、高さ 800mm の供試体内部の鉄筋や円筒等の 位置や形状を精度よく映像化することができた。GPU 計算を取り入れることで、高速にFSAP方式が実行でき、 実時間で内部像の出力が可能であった。今後はアレイ探 触子の軽量化を行うこと、より多くの実構造部材で検証 を行っていきたいと考える。 参考文献 [1] B.W. Drinkwater, P.D. Wilcox, Ultrasonic arrays for non- destructive evaluation : A review, NDT & E International, Vol.39, pp.525-541, 2006. [2] K. Nakahata, S. Tokumasu, A. Sakai, Y. Iwata, K. Ohira, Y. Ogura, Ultrasonic imaging using signal post-processing for a flexible array transducer, NDT & E International, Vol.82, pp. 13-25, 2016. [3] G. Rougeron, J. Lambert, E. Iakovleva, L. Lacassagne, N. Dominguez, Implementation of a GPU accelerated total focusing reconstruction method within CIVA software, Review of Progress in Quantitative Nondestructive Evaluation, AIP Conference Proceedings, Vol.1581, pp. 1983-1990, 2014. [4] X. Zhao and T. Gang, Nonparaxial multi-Gaussian beam models and measurement models for phased array transducer, Ultrasonics, Vol.49, pp.126-130, 2009. Fig.6 (a) Concrete specimen and (b) Images of steel pipe, steel bar, and plastic flexible conduit. 低周波アレイ探触子を用いたコンクリート内部の鉄筋および 円筒管の高速映像化 小澤 耀生,Akio OZAWA,中畑 和之,Kazuyuki NAKAHATA,大平 克己,Katsumi OHIRA,小川 健三,Kenzo OGAWA
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