可搬型高エネルギーX線源による橋梁内部構造3次元可視化 と健全性評価
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カテゴリ: 第14回
Keywords: 可搬型高エネルギーX 線源、非破壊検査、橋梁検査、トモシンセシス、画像処理
1. 概要 日本のインフラに老朽化の波が迫っている。 1970年代の高度経済成長期に建造された多くの社会イ ンフラが老朽化しつつあり、それらを経済的・財政的に 滞りなく更新する必要がある。建て替え・補修・継続使 用のいずれに該当するかを検討し、またその中でも対処 が必要な緊急度合いを判定して優先順位をつけて対応し ていくためにも、まず高精度な検査技術の確立が必要で ある。 特に橋梁は、沿岸部や山間部にあり、コンクリートの 塩害や凍害、融雪剤の散布などによる劣化が激しい。劣 化に伴うひびなどからの橋梁内部への水分侵入による内 部鋼材の腐食は、外観からの検知が困難なため、新たな 検査手法の確立が求められている。 当研究室では、可搬型の高エネルギーX線源を使用し た非破壊検査システムを開発している。本研究では、特 に橋梁を対象とした透過X線による内部構造3次元可視 化をテーマとする。
1.1 X線検査システムの概要 当研究室で開発しているX線検査システムの概要を Fig.1 に示す。まず現場でX線撮像を行い、投影画像から 内部の構造材の断面積減少率を定量的に評価する。次に、 断面積減少率をインプットデータとし、構造分析ソフト ( DuCOM-COM3 )を用いて橋梁の耐荷力低下を算出した 上で健全性を評価する。これがシステムの流れである。
Fig.1 Overview of our conventional x-ray inspection system
1.2 X線源と検出器 橋梁検査に使用するX線源は、厚みのあるコンクリー トをも透過するX線の高エネルギー性、また装置の可搬 性に優れていなければならない。 当研究室では、950 keV、3.95 MeV X 線源を開発・所有 している。諸性能をTable1に示す [1]。950 keV X線源は コンクリート厚さ200 mm から 350 mm、3.95 MeV X線 源は350 mmから700 mmの範囲で適用可能である [2]。 また、950 keV、3.95 MeV X 線源はともにマグネトロン高 周波源とX線源の二つから構成され、それらはXバンド フレキシブル導波管で接続されている。それぞれの位置 関係は可変であり、柔軟な設置・運用が可能である。 また、本研究で用いるフラットパネル検出器の諸性能 をTable2に示す。 Table 1 A list of Parameters of 950 keV / 3.95 MeV Linac Table 2 A list of Parameters of Flat Panel Detector 1.3 内部構造の3次元可視化の必要性 一般的なX線撮像では、被写体内部の3次元的情報が 積算され、2次元画像として投影されるため、X線透過 方向の前後関係や奥行に関する情報が失われる。日本の Fig.2 Overview of new x-ray inspection system トモシンセシスとは、被写体に対しX線源を移動させ て様々な角度から撮像を行い、その撮像データを再構成 することで、検出器と平行な任意の断面に焦点を当てた 画像が得られるという技術であり、歯科診断など医療分 野で既に用いられている。求める断面の位置に応じて、 撮像画像をそれぞれ適切な量をずらして重ね合わせ1枚 の画像にすることで、見たい断面にあるものには焦点が 合い、それ以外の断面情報はぼかすことができる。[4] 橋梁の多くを占めるプレストレスコンクリート橋(PC 橋)は、PC鋼材と呼ばれる緊張材を用いてコンクリート に圧縮をかけ強度を保っているが、橋梁内部への塩分の 侵入などによりPC鋼材が減肉し、耐荷力が低下すること が問題となっている [3]。耐荷力の低下を判定するために は、PC鋼材の断面積減少を高精度に評価する必要がある が、一枚の単純投影画像では2次元的な断面情報が1次 元になるため、その正確な評価が難しい。 そこで、当研究室では「トモシンセシス」や「部分角 度CT」などの3次元可視化技術を橋梁検査に応用する研 究をしている。これらの技術を用いることで、高精度な 断面積減少率の評価が可能となり、X線検査システム全 体の精度も向上することが期待される。(Fig.2) 本研究では、トモシンセシスを使用した橋梁検査をテ ーマとする。 2. トモシンセシス 2.1 トモシンセシスの原理 - 236 - Fig.3 The Process of Tomosynthesis to reconstruct cross sectional images vertical to the ground Fig.3 は赤と青の鉄筋を含むコンクリートサンプルを被 写体として、そのトモシンセシスの撮像を行う様子を真 上から眺めた図である。ここでは3か所の位置からX線 を照射し、得られた3枚の投影画像を適量ずらして重ね 合わせることで、赤い鉄筋や青い鉄筋のある検出器と平 行な断面(垂直断面と呼ぶことにする)を取得している。 また、垂直断面をX線透過方向に細かく(0.1 mm単位 など)取得し、処理することで検出器と垂直な水平断面 も取得することができる。(Fig.4) Fig.4 Reconstructed cross sectional images horizontal to the ground 水平断面で再構成した像はX線透過方向(奥行方向) に伸びる性質があり、内部鋼材の断面積を精度よく評価 するためには、この伸びをできるだけ抑えるような撮 像・再構成手法の開発が必要である。 2.2 これまでのトモシンセシス試験 本研究では日本初の実橋梁を対象にしたトモシンセシ ス試験として、北海道の老朽化した橋梁を対象に透過X 線検査を行った。2016年9月に土木研究所と共同で実施 した。目的は、トモシンセシス再構成処理の実証とその Fig.5 Reconstructed cross sectional image inside Mie-bashi vertivcal to the ground トモシンセシスの撮像で可変なパラメーターは、X線 源の移動方法に関する数値である。 今回の被写体に対するX線入射アングルの最大角度は 3rであったが、これを大きくすることで(X線源の最大 移動幅を大きくすることで)取得情報量が多くなり、断 面の再現精度も向上することが予想される。また、X線 源の移動の刻み幅の再現精度への寄与の有無も確認する 必要がある。X線源の移動幅(レンジ)、刻み幅(ピッチ) の影響ついて、次章のシミュレーションで検討する。 結果として、再構成された垂直断面の位置を奥行方向 にずらすことで焦点の当たる構造物が変化したことから、 トモシンセシス処理は成功したといえる。また、奥行方 向に一定値以上の間隔があると思われる2本の水平方向 鉄筋とシース管、マーカー用に設置したネジにはそれぞ れ焦点を合わすことができたが、PC鋼材があるシース管 内部を詳細に確認することはできなかった。(Fig.5)被検 体間に奥行方向に十分距離があればトモシンセシスが適 用可能であるが、近すぎると像が重なり(奥行方向に像 が伸びるため)トモシンセシスでのPC鋼材断面の解析が 困難であることが考察された。 - 237 - 性能の把握である。 ;線源として、東大所有の NH9 ; 線源と N9 ; 線管を用意したが、前者は電源不調により使用できなか った。検出器はフラットパネル検出器 3HUNLQ (OPHU 社製 ;5' を使用した。 事前の目視検査でコンクリートの溶解・漏水が確認さ れた箇所に対して、X線入射アングルが最大3rとなるよ う垂直にX線源を動かし、異なる位置から計15投影撮像 して、トモシンセシス処理を施した。 3. X 線源移動方法の最適化に向けたシミ ュレーション 3.1 実験概要 X線源の移動方法によって再構成画像の再現精度がど のように変化するかを確かめるために、シミュレーショ ンで実験を行った。 実験体系はFig.5のように設定した。被写体は直方体の コンクリートとし、中央のシース管には4本のPC鋼材が 均等に配置されている。X線源の移動幅の刻みの大小(実 験1)、X線源の移動範囲(実験2)をそれぞれ変えて投 影画像を取得し、トモシンセシス処理で被写体の水平断 面画像を取得した。 Fig.5 The layout of equipments for simulation 実験1の刻み幅は、2.5 mm、25 mm、100 mm、300 mm と変化させ、X線源の最大移動幅はいずれも±600 mm (被 写体正面の座標を0 mm)と固定した。 実験2の移動範囲は、0~±200 mm(7r)、±200~±400 mm(14r)、±400 mm~±600 m(20r)と変化させ、刻み幅 は2.5 mmと固定した。 3.2 実験結果 水平断面の再現結果を以下に示す。 Fig.6の右上にあるような4本のPC鋼材断面が、左側 の黒い画面に白く再現されている。X線透過方向(紙面 上右から左)に像が全体的に伸びていることが確認でき る。 Fig.9 Reconstructed image (300 mm pitch) 実験1 Fig.6 Reconstructed image (2.5 mm pitch) Fig.8 Reconstructed image (100 mm pitch) - 238 - Fig.7 Reconstructed image (25 mm pitch) 向の直線状にならぶ2本のPC鋼材が強調され(つながっ 実験2 て見える)、残り2本のPC鋼材はほぼ見えなくなってい る。トモシンセシスの重ね合わせの際の加重を変化させ ることで(強調フィルターなどを用いることで)残り2 本も可視化できるものと考えられる。 4.実橋梁試験 Fig.10 Reconstructed image (±0 ~±200 mm) 2017年6月下旬に実橋梁を対象としたトモシンセシス 試験、7月下旬に同橋梁を対象とした載荷・破壊試験を実 施する予定である。実験の目的は、1前章のシミュレー ションで得られた知見を活かし、トモシンセシスにおけ るX線源の移動方法最適化の実橋梁試験での実証、2本 研究室のX線検査システムで評価された橋梁の耐荷力低 下と、載荷試験を行った際の実際の耐荷力低下との比較、 である。1と2は別の実験として行い、それぞれ異なる 箇所を撮像する予定である。 Fig.11 Reconstructed image (±200 ~±400 mm) ?の実験では、被写体へのX線の入射角度が大きく なるように撮像体系を設計し検査を行う。 2の実験では、橋梁の最劣化部分に対して透過X線撮 像を行いPC鋼材の断面積減少を評価し、その数値を1 章で述べた構造解析ソフトに代入して耐荷力低下を算出 するという流れで行う。 この実験の結果については、本稿の提出に間に合わな いため、当日に結果を発表したいと考えている。 Fig.12 Reconstructed image (±400 ~±600 mm) 謝辞 本研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーショ 実験1では、25 mm以上の刻み幅 (Fig.7 ~ 9)では白いも ン会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「イ や状のノイズが発生しているが、2.5 mm幅 (Fig.6)ではノ ンフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(管理法人: イズの発生が抑えられている。25 mm以上ではノイズの JST)により行われた。ここに記し謝意を表したい。 発生具合に大きな差は見られない。2.5 mm幅の精度が最 も良くなるものの、現地での運用上の効率を考えると25 mm 以上の刻み幅が良いと考えられる。 参考文献 実験2では、X線源の移動範囲を±400 ~±600 mmと した場合に最もよく再現できた。PC鋼材断面のX線透過 [1] M. Uesaka, M. Jin, W. Wu, K. Dobashi, T. Fujiwara, J. 方向への伸びも、移動範囲±200 ~±400 mmより±400 ~ Kusano, N. Nakamura, M. Yamamoto, E. Tanabe, S. Ohya, ±600 mmの時の方が抑えられた。よって、被写体へのX Y. Hattori, I. Miura: _Commisioning of Portable 950 線入射角度が大きい方が再現精度が良くなると考えられ keV/3.95 MeV X-band linuc X-ray source for on-site る。 transmission testing”, E-Journal of Advanced Maintenance, ±0 ~±200 mmの場合では、座標0 mmのX線透過方 Vol.5, No.2, 2013, p.93-p.100 - 239 - [4] [2] 竹内大智、小沢壱生、矢野亮太、三津谷有貴、土橋 篠原広行、陳 欣胤、中世古和真、橘篤志、橋本雄幸、 克広、上坂充、田中泰司、高橋佑弥、草野譲一、吉 _断層映像法の基礎 第37 回 トモシンセシス(ラ 田英二、大島義信、石田雅博、_コンクリート橋検査 ミノグラフィ)”断層映像研究会雑誌、第39巻、第 における可搬型高エネルギーX線源撮像能力の定量 2 号、2013、p.15-p.20. 化” 土木学会誌(投稿中) [3] 小林一輔、魚本健人,_特集 12: コンクリート中の鋼 材腐食によるコンクリート構造部材の破壊機構.”生 産研究、第36巻、6号、1984、p.290-p.292. 可搬型高エネルギーX線源による橋梁内部構造3次元可視化 と健全性評価 小沢 壱生,Issei OZAWA,土橋 克広,Katsuhiro DOBASHI,上坂 充,Mitsuru UESAKA,草野 譲一,Joichi KUSANO,吉田 英二,Eiji YOSHIDA,大島 義信,Yoshinobu OSHIMA
1. 概要 日本のインフラに老朽化の波が迫っている。 1970年代の高度経済成長期に建造された多くの社会イ ンフラが老朽化しつつあり、それらを経済的・財政的に 滞りなく更新する必要がある。建て替え・補修・継続使 用のいずれに該当するかを検討し、またその中でも対処 が必要な緊急度合いを判定して優先順位をつけて対応し ていくためにも、まず高精度な検査技術の確立が必要で ある。 特に橋梁は、沿岸部や山間部にあり、コンクリートの 塩害や凍害、融雪剤の散布などによる劣化が激しい。劣 化に伴うひびなどからの橋梁内部への水分侵入による内 部鋼材の腐食は、外観からの検知が困難なため、新たな 検査手法の確立が求められている。 当研究室では、可搬型の高エネルギーX線源を使用し た非破壊検査システムを開発している。本研究では、特 に橋梁を対象とした透過X線による内部構造3次元可視 化をテーマとする。
1.1 X線検査システムの概要 当研究室で開発しているX線検査システムの概要を Fig.1 に示す。まず現場でX線撮像を行い、投影画像から 内部の構造材の断面積減少率を定量的に評価する。次に、 断面積減少率をインプットデータとし、構造分析ソフト ( DuCOM-COM3 )を用いて橋梁の耐荷力低下を算出した 上で健全性を評価する。これがシステムの流れである。
Fig.1 Overview of our conventional x-ray inspection system
1.2 X線源と検出器 橋梁検査に使用するX線源は、厚みのあるコンクリー トをも透過するX線の高エネルギー性、また装置の可搬 性に優れていなければならない。 当研究室では、950 keV、3.95 MeV X 線源を開発・所有 している。諸性能をTable1に示す [1]。950 keV X線源は コンクリート厚さ200 mm から 350 mm、3.95 MeV X線 源は350 mmから700 mmの範囲で適用可能である [2]。 また、950 keV、3.95 MeV X 線源はともにマグネトロン高 周波源とX線源の二つから構成され、それらはXバンド フレキシブル導波管で接続されている。それぞれの位置 関係は可変であり、柔軟な設置・運用が可能である。 また、本研究で用いるフラットパネル検出器の諸性能 をTable2に示す。 Table 1 A list of Parameters of 950 keV / 3.95 MeV Linac Table 2 A list of Parameters of Flat Panel Detector 1.3 内部構造の3次元可視化の必要性 一般的なX線撮像では、被写体内部の3次元的情報が 積算され、2次元画像として投影されるため、X線透過 方向の前後関係や奥行に関する情報が失われる。日本の Fig.2 Overview of new x-ray inspection system トモシンセシスとは、被写体に対しX線源を移動させ て様々な角度から撮像を行い、その撮像データを再構成 することで、検出器と平行な任意の断面に焦点を当てた 画像が得られるという技術であり、歯科診断など医療分 野で既に用いられている。求める断面の位置に応じて、 撮像画像をそれぞれ適切な量をずらして重ね合わせ1枚 の画像にすることで、見たい断面にあるものには焦点が 合い、それ以外の断面情報はぼかすことができる。[4] 橋梁の多くを占めるプレストレスコンクリート橋(PC 橋)は、PC鋼材と呼ばれる緊張材を用いてコンクリート に圧縮をかけ強度を保っているが、橋梁内部への塩分の 侵入などによりPC鋼材が減肉し、耐荷力が低下すること が問題となっている [3]。耐荷力の低下を判定するために は、PC鋼材の断面積減少を高精度に評価する必要がある が、一枚の単純投影画像では2次元的な断面情報が1次 元になるため、その正確な評価が難しい。 そこで、当研究室では「トモシンセシス」や「部分角 度CT」などの3次元可視化技術を橋梁検査に応用する研 究をしている。これらの技術を用いることで、高精度な 断面積減少率の評価が可能となり、X線検査システム全 体の精度も向上することが期待される。(Fig.2) 本研究では、トモシンセシスを使用した橋梁検査をテ ーマとする。 2. トモシンセシス 2.1 トモシンセシスの原理 - 236 - Fig.3 The Process of Tomosynthesis to reconstruct cross sectional images vertical to the ground Fig.3 は赤と青の鉄筋を含むコンクリートサンプルを被 写体として、そのトモシンセシスの撮像を行う様子を真 上から眺めた図である。ここでは3か所の位置からX線 を照射し、得られた3枚の投影画像を適量ずらして重ね 合わせることで、赤い鉄筋や青い鉄筋のある検出器と平 行な断面(垂直断面と呼ぶことにする)を取得している。 また、垂直断面をX線透過方向に細かく(0.1 mm単位 など)取得し、処理することで検出器と垂直な水平断面 も取得することができる。(Fig.4) Fig.4 Reconstructed cross sectional images horizontal to the ground 水平断面で再構成した像はX線透過方向(奥行方向) に伸びる性質があり、内部鋼材の断面積を精度よく評価 するためには、この伸びをできるだけ抑えるような撮 像・再構成手法の開発が必要である。 2.2 これまでのトモシンセシス試験 本研究では日本初の実橋梁を対象にしたトモシンセシ ス試験として、北海道の老朽化した橋梁を対象に透過X 線検査を行った。2016年9月に土木研究所と共同で実施 した。目的は、トモシンセシス再構成処理の実証とその Fig.5 Reconstructed cross sectional image inside Mie-bashi vertivcal to the ground トモシンセシスの撮像で可変なパラメーターは、X線 源の移動方法に関する数値である。 今回の被写体に対するX線入射アングルの最大角度は 3rであったが、これを大きくすることで(X線源の最大 移動幅を大きくすることで)取得情報量が多くなり、断 面の再現精度も向上することが予想される。また、X線 源の移動の刻み幅の再現精度への寄与の有無も確認する 必要がある。X線源の移動幅(レンジ)、刻み幅(ピッチ) の影響ついて、次章のシミュレーションで検討する。 結果として、再構成された垂直断面の位置を奥行方向 にずらすことで焦点の当たる構造物が変化したことから、 トモシンセシス処理は成功したといえる。また、奥行方 向に一定値以上の間隔があると思われる2本の水平方向 鉄筋とシース管、マーカー用に設置したネジにはそれぞ れ焦点を合わすことができたが、PC鋼材があるシース管 内部を詳細に確認することはできなかった。(Fig.5)被検 体間に奥行方向に十分距離があればトモシンセシスが適 用可能であるが、近すぎると像が重なり(奥行方向に像 が伸びるため)トモシンセシスでのPC鋼材断面の解析が 困難であることが考察された。 - 237 - 性能の把握である。 ;線源として、東大所有の NH9 ; 線源と N9 ; 線管を用意したが、前者は電源不調により使用できなか った。検出器はフラットパネル検出器 3HUNLQ (OPHU 社製 ;5' を使用した。 事前の目視検査でコンクリートの溶解・漏水が確認さ れた箇所に対して、X線入射アングルが最大3rとなるよ う垂直にX線源を動かし、異なる位置から計15投影撮像 して、トモシンセシス処理を施した。 3. X 線源移動方法の最適化に向けたシミ ュレーション 3.1 実験概要 X線源の移動方法によって再構成画像の再現精度がど のように変化するかを確かめるために、シミュレーショ ンで実験を行った。 実験体系はFig.5のように設定した。被写体は直方体の コンクリートとし、中央のシース管には4本のPC鋼材が 均等に配置されている。X線源の移動幅の刻みの大小(実 験1)、X線源の移動範囲(実験2)をそれぞれ変えて投 影画像を取得し、トモシンセシス処理で被写体の水平断 面画像を取得した。 Fig.5 The layout of equipments for simulation 実験1の刻み幅は、2.5 mm、25 mm、100 mm、300 mm と変化させ、X線源の最大移動幅はいずれも±600 mm (被 写体正面の座標を0 mm)と固定した。 実験2の移動範囲は、0~±200 mm(7r)、±200~±400 mm(14r)、±400 mm~±600 m(20r)と変化させ、刻み幅 は2.5 mmと固定した。 3.2 実験結果 水平断面の再現結果を以下に示す。 Fig.6の右上にあるような4本のPC鋼材断面が、左側 の黒い画面に白く再現されている。X線透過方向(紙面 上右から左)に像が全体的に伸びていることが確認でき る。 Fig.9 Reconstructed image (300 mm pitch) 実験1 Fig.6 Reconstructed image (2.5 mm pitch) Fig.8 Reconstructed image (100 mm pitch) - 238 - Fig.7 Reconstructed image (25 mm pitch) 向の直線状にならぶ2本のPC鋼材が強調され(つながっ 実験2 て見える)、残り2本のPC鋼材はほぼ見えなくなってい る。トモシンセシスの重ね合わせの際の加重を変化させ ることで(強調フィルターなどを用いることで)残り2 本も可視化できるものと考えられる。 4.実橋梁試験 Fig.10 Reconstructed image (±0 ~±200 mm) 2017年6月下旬に実橋梁を対象としたトモシンセシス 試験、7月下旬に同橋梁を対象とした載荷・破壊試験を実 施する予定である。実験の目的は、1前章のシミュレー ションで得られた知見を活かし、トモシンセシスにおけ るX線源の移動方法最適化の実橋梁試験での実証、2本 研究室のX線検査システムで評価された橋梁の耐荷力低 下と、載荷試験を行った際の実際の耐荷力低下との比較、 である。1と2は別の実験として行い、それぞれ異なる 箇所を撮像する予定である。 Fig.11 Reconstructed image (±200 ~±400 mm) ?の実験では、被写体へのX線の入射角度が大きく なるように撮像体系を設計し検査を行う。 2の実験では、橋梁の最劣化部分に対して透過X線撮 像を行いPC鋼材の断面積減少を評価し、その数値を1 章で述べた構造解析ソフトに代入して耐荷力低下を算出 するという流れで行う。 この実験の結果については、本稿の提出に間に合わな いため、当日に結果を発表したいと考えている。 Fig.12 Reconstructed image (±400 ~±600 mm) 謝辞 本研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーショ 実験1では、25 mm以上の刻み幅 (Fig.7 ~ 9)では白いも ン会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「イ や状のノイズが発生しているが、2.5 mm幅 (Fig.6)ではノ ンフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(管理法人: イズの発生が抑えられている。25 mm以上ではノイズの JST)により行われた。ここに記し謝意を表したい。 発生具合に大きな差は見られない。2.5 mm幅の精度が最 も良くなるものの、現地での運用上の効率を考えると25 mm 以上の刻み幅が良いと考えられる。 参考文献 実験2では、X線源の移動範囲を±400 ~±600 mmと した場合に最もよく再現できた。PC鋼材断面のX線透過 [1] M. Uesaka, M. Jin, W. Wu, K. Dobashi, T. Fujiwara, J. 方向への伸びも、移動範囲±200 ~±400 mmより±400 ~ Kusano, N. Nakamura, M. Yamamoto, E. Tanabe, S. Ohya, ±600 mmの時の方が抑えられた。よって、被写体へのX Y. Hattori, I. Miura: _Commisioning of Portable 950 線入射角度が大きい方が再現精度が良くなると考えられ keV/3.95 MeV X-band linuc X-ray source for on-site る。 transmission testing”, E-Journal of Advanced Maintenance, ±0 ~±200 mmの場合では、座標0 mmのX線透過方 Vol.5, No.2, 2013, p.93-p.100 - 239 - [4] [2] 竹内大智、小沢壱生、矢野亮太、三津谷有貴、土橋 篠原広行、陳 欣胤、中世古和真、橘篤志、橋本雄幸、 克広、上坂充、田中泰司、高橋佑弥、草野譲一、吉 _断層映像法の基礎 第37 回 トモシンセシス(ラ 田英二、大島義信、石田雅博、_コンクリート橋検査 ミノグラフィ)”断層映像研究会雑誌、第39巻、第 における可搬型高エネルギーX線源撮像能力の定量 2 号、2013、p.15-p.20. 化” 土木学会誌(投稿中) [3] 小林一輔、魚本健人,_特集 12: コンクリート中の鋼 材腐食によるコンクリート構造部材の破壊機構.”生 産研究、第36巻、6号、1984、p.290-p.292. 可搬型高エネルギーX線源による橋梁内部構造3次元可視化 と健全性評価 小沢 壱生,Issei OZAWA,土橋 克広,Katsuhiro DOBASHI,上坂 充,Mitsuru UESAKA,草野 譲一,Joichi KUSANO,吉田 英二,Eiji YOSHIDA,大島 義信,Yoshinobu OSHIMA