渦電流磁気指紋法による炭素鋼の残留ひずみ評価

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
原子力発電所が地震に遭遇した場合には、基本点検と 地震応答解析の結果に応じて非破壊試験による残留ひず みの測定がガイドラインにより定められている[1]。これ は残留ひずみが低サイクル疲労強度を低下させる可能性 があるからであり、数%以下の残留ひずみについては硬さ試験との相関が報告されている。しかし、硬さ試験を十分な精度で行うには膨大な測定回数が必要で多大な労力を要する。したがって、硬さ試験に替わる簡便かつ信頼性の高い新たな残留ひずみの非破壊評価手法が求めら れている。 本研究では、炭素鋼における低残留ひずみを定量的に非破壊評価するために、新しい磁気的試験法である渦電 流磁気指紋法を提案し、その可能性について検討する。 数%程度までの残留ひずみを有する炭素鋼引張試験片を作製し、引張試験片の渦電流磁気指紋を取得する。渦電流磁気指紋と残留ひずみとの関係性ならびに引張方向と 圧延方向の依存性について議論を行う。
2.引張試験片および渦電流磁気指紋法 本研究では、ボイラ及び圧力容器用炭素鋼SB410の引 張試験片を作製した。引張試験片の平行部の長さは98 mm、幅は20 mm、厚さは8 mm である。引張試験片の引 張方向が圧延方向と水平または垂直になるよう2種類の 試験片を作製した。引張試験は室温環境でゲージ長50 mm のクリップゲージを用いて変位制御で行った。試験 条件として、クロスヘッド速度を1 mm/1 minとし、目標 ひずみ到達後30秒保持した後、-1 mm/1 minの速度で除 荷した。最終的な残留ひずみは試験片中央部に貼り付け たひずみゲージの値を採用した。 Fig. 1に本研究で提案する渦電流磁気指紋法の実験装 置体系を示す。渦電流磁気指紋法の測定原理は増分透磁 率法の測定原理に基づいている[2]。増分透磁率の定義は 低周波磁場に更なる微小高周波磁場を印加した際のマイ ナーループの比透磁率である。そのためU字型ヨークを 用いて試験片に磁場振幅15 kA/m、周波数0.1 Hzの低周 波磁場を印加し、試験片の上に設置したECT コイルによ り50 kHz の微小高周波磁場を更に印加する。その際の ECT コイルインピーダンスは増分透磁率に比例することからLCR メータを用いて測定する。測定したコイルインピーダンスは位相平面上に描くことができ、印加した交 Fig. 1 Experimental setup.
流磁場の変動に伴いFig. 2 のような特徴的な軌跡を描く。 この軌跡を渦電流磁気指紋と本研究では呼称する。 LCRメータによりコイル電流の実効値を5 mAに制御 した場合のインピーダンスを測定する。ECT コイルの外 径は3.95 mm、内径は3.3 mm、高さは3.0 mm、巻数は200 回、導線の太さは0.05 mmである。また、印加した磁場 はホール素子により測定する。 3.実験結果および考察 引張方向と圧延方向が平行な試験片の渦電流磁気指紋 をFig.2に示す。ここでは残留ひずみ評価のために印加磁 場が最大となる点を原点として位相平面上で信号を平行 移動している。渦電流磁気指紋は保磁力周辺でループを 描き、飽和するに従いループが閉じ直線的な軌跡を描い ている。Fig. 2に示すように残留ひずみの増加に伴い渦電 流磁気指紋が反時計回りに移動しており、原点からの最 大距離すなわちインピーダンス絶対値が減少傾向にある ことが確認できる。引張方向と圧延方向が垂直な試験片 においても同様の傾向が確認できたが、無ひずみの試験 片においては位相およびループ形状の傾向が異なること が確認された。Fig. 3に原点から最大距離と残留ひずみの 関係を示す。残留ひずみの増加に伴い圧延方向と引張方 向の違いに因らず最大距離が指数関数的に減少すること が確認できた。 4.結言 本研究では、新たに提案した渦電流磁気指紋法を用い て炭素鋼 JIS SB410 の低残留ひずみの非破壊評価につい て検討を行った。その結果、圧延方向の違いに依存せず、 残留ひずみの増加に伴い渦電流磁気指紋が反時計回りに 遷移することが確認された。無ひずみ状態の渦電流磁気 指紋は圧延方向に依存することがわかった。渦電流磁気 指紋の原点からの最大距離は残留ひずみの増加に伴い、 圧延方向によらず指数関数的に減少することがわかった。 0%1.21 0.81.3% 2.0% 2.8% 3.9% 5.1% 15.9% -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 Resistance [Ω] Fig. 2 Trajectories of eddy current signals in complex plain with tensile test specimens. 0 1.210.6 0.80.60.4 0.40.2 0.2-0.25 0-0.2 -0.15 -0.1 -0.05 0 0 1Parallel 0.8Perpendicular 0 5 10 15 20 Strain [%] Fig. 3 Relationship between residual strain and distance from origin to top of the loop. 以上のことから、渦電流磁気指紋法を用いた炭素鋼の残 留ひずみ評価の可能性が示された。 謝辞 本研究は、独立行政法人日本学術振興会の研究拠点形成 事業(A.先端拠点形成型)「省エネルギーのための知的層 材料・層構造国際研究拠点」、日本学術振興会平成28年 度二国間交流事業(ハンガリーとの共同研究)および特 別研究員奨励費(16J04522)の助成ならびに中部電力(株) 原子力安全技術研究所 2016年度公募研究による。 参考文献 [1] 日本原子力技術協会、地震後の機器健全性評価ガイ ドライン、JANTI-SANE-G2、2012. [2] A. Yashan and G. Dobmann, Measurement and Semi-analytical Modeling of Incremental Permeability using Eddy Current Coils in the Presence of Magnetic Hysteresis, Electromagnetic Nondestructive Evaluation VI, IOS Press, 2002, pp.150-157. - 261 - 0.60.40.2 渦電流磁気指紋法による炭素鋼の残留ひずみ評価 松本 貴則,Takanori MATSUMOTO,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI,阿部 悟,Satoru ABE,熊野 秀樹,Hideki YUYA
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