福島第一原発廃止措置へのジオポリマーの適用可能性検討
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カテゴリ: 第14回
1.背景・目的
福島第一原子力発電所では今も廃止措置作業が進めら れており、その中でも最も重要な作業の一つである燃料 デブリの取り出しに関しては2021年の取り出し開始に向 けて現在工法の検討が進められている[1]。主な工法案と して冠水取り出し工法と気中取り出し工法が想定されて いるが、PCVの止水の実施や放射性核種を含んだ粉塵の 飛散防止、作業環境の線量低減など解決しなければいけ ない課題は多く残っている。これに対しSuzukiら[2]はジオポリマーを活用した新しい燃料デブリ取り出し工法を 提案している(Fig.1)。この工法では、PCV底部に落下し MCCI(Molten Corium Concrete Interaction)生成物となっ た燃料デブリ表面をジオポリマーで被覆する事で、止水 作業および臨界防止対策の簡素化や時間経過に伴う性状 が変化するデブリの準安定化などを実現する事ができる と考えられる。ジオポリマーは1988 年にフランスの Davidovitsによって提唱された、アルカリシリカ溶液とア ルミナシリカ粉末の縮合反応によって形成される非晶質 ポリマーの総称であり[3]、耐放射線性・耐熱性・含有水 の少なさなどの特徴を有しているため福島第一原発の廃 止措置にも廃棄物固化などの分野への適用が検討されて いる[4]。しかし、大規模工事に際した施工性等について はこれまで包括的な研究がなされていなかった。 そこで本研究では、ジオポリマーが福島第一原発炉内 の燃料デブリ等の準安定化に対して有用である事を示す 事を目的として、流動性と凝結時間に着目して実験およ びシミュレーションを行う。本報告では、実験計画およ び事前シミュレーションの結果を示す。
Fig.1 New method to retrieve the fuel debris
2.実験 本研究では、ジオポリマーが先の工法において実用に 足る性能を発揮できるかを判定するべく、工法の実現に 際し要求される事が想定される(1)輸送機能(2)拡 散機能(3)凝結機能の3機能について試験を実施する。 連絡先:酒井泰地、〒113-8656 東京都文京区本郷7- 3-1、東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 E-mail: sakai@vis.t.u-tokyo.ac.jp - 268 - 各機能に対応する試験として、(1)漏斗試験(2)ス ランプ試験(3)凝結試験を行う。特にスランプ試験に ついては、適用環境を考慮し床面温度および気中/水中 環境条件をパラメータとする。試験材料として、ジオポ リマーの他に参照値を得るためセメントモルタルも用い る。混練開始からの経過時間によって粘性の異なる3種 類の試験体で試験を実施する。また、実際に利用する際 には遮蔽性能の向上や燃料デブリの再臨界防止を目的と した添加物を付与する可能性がある事を踏まえ、金属粉 末の添加の有無によって流動性にどのような影響が与え られるかについても実験を通して確認する。 3.シミュレーション 実スケールでの試験は予算等の問題もあり実現困難で ある事から、工法の実現性の最終的な判定はシミュレー ションによって為される可能性が高い。本研究では、今 後実施されると考えられるより詳細な解析に先立ちシミ ュレーション手法の精度を向上させる事を目的として、 前項で述べた実験結果の再現を行う。解析には連続体の 挙動を粒子の運動で表現する粒子法のうち、Kondo が開 発したMPF法[5]を使う。このMPF法を用いる事により、 流動体の回転挙動を再現できるようになっている。 事前シミュレーションとして、スランプ試験を模擬し たモデルを作成し解析を行った。流体粒子が床粒子をす り抜けてしまう現象を防ぐため、床粒子は2層配置して いる。以下に計算条件を示す(Table. 1)。 Table 1 A list of the calculational conditions パラメータ 値 試験体粘性 μ (Pa s) 10 試験体密度 ρ(g/cm3) 2.0 試験体温度 T(°C) 30 床面温度 Tf(°C) 50 粒子間隔 d(m) 0.003 計算間隔 Dt (s) 0.01 次ページに計算結果を示す(Fig.2)。計算の結果、上記の 条件においては本手法を用いる事で高粘性流体の流動挙 動を再現できる事が分かった。 t = 0.0 sec t = 5.0 sec Fig.2 Simulation results of slump experiment 4.結論 本報告では実験計画および事前シミュレーションの結 果を示した。シミュレーションの結果、対象流体の粘性 において流動体先端の回転挙動を再現できる事が分かっ た。今後実際に実験を行いその結果をシミュレーション にフィードバックする事で、粒子法によるジオポリマー の挙動の可視化の精度が向上する事が予想される。 参考文献 [1] 原子力損害賠償・廃炉等支援機構, _東京電力(株) 福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略 プラン2015”, http://dccc-program.jp/files/20150630_1-2-J.pdf [2] 鈴木俊一、 岡本孝司 _ジオポリマーを活用した燃 料デブリ取り出し工法の提案”、日本保全学会第14 回学術講演会要旨集、2017.8 [3] 甲本達也、”フライアッシュをベースとしたジオポリ マーによるバンコック粘土の固化について”,佐賀大 学農学部彙報,第94 号,pp.15-22,2009.2 [4] 東京電力ホールディングス株式会社、_水処理二次 廃棄物の処理にむけた検討状況”、 https://www.nsr.go.jp/data/000178233.pdf [5] 近藤雅裕、” 高粘度流体解析のための角運動量を保 存する粒子法の開発”, 計算工学講演会論文集、 Vol.22、2017.5 - 269 - 福島第一原発廃止措置へのジオポリマーの適用可能性検討 酒井 泰地,Taichi SAKAI,鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,岡本 孝司,Koji OKAMOTO
福島第一原子力発電所では今も廃止措置作業が進めら れており、その中でも最も重要な作業の一つである燃料 デブリの取り出しに関しては2021年の取り出し開始に向 けて現在工法の検討が進められている[1]。主な工法案と して冠水取り出し工法と気中取り出し工法が想定されて いるが、PCVの止水の実施や放射性核種を含んだ粉塵の 飛散防止、作業環境の線量低減など解決しなければいけ ない課題は多く残っている。これに対しSuzukiら[2]はジオポリマーを活用した新しい燃料デブリ取り出し工法を 提案している(Fig.1)。この工法では、PCV底部に落下し MCCI(Molten Corium Concrete Interaction)生成物となっ た燃料デブリ表面をジオポリマーで被覆する事で、止水 作業および臨界防止対策の簡素化や時間経過に伴う性状 が変化するデブリの準安定化などを実現する事ができる と考えられる。ジオポリマーは1988 年にフランスの Davidovitsによって提唱された、アルカリシリカ溶液とア ルミナシリカ粉末の縮合反応によって形成される非晶質 ポリマーの総称であり[3]、耐放射線性・耐熱性・含有水 の少なさなどの特徴を有しているため福島第一原発の廃 止措置にも廃棄物固化などの分野への適用が検討されて いる[4]。しかし、大規模工事に際した施工性等について はこれまで包括的な研究がなされていなかった。 そこで本研究では、ジオポリマーが福島第一原発炉内 の燃料デブリ等の準安定化に対して有用である事を示す 事を目的として、流動性と凝結時間に着目して実験およ びシミュレーションを行う。本報告では、実験計画およ び事前シミュレーションの結果を示す。
Fig.1 New method to retrieve the fuel debris
2.実験 本研究では、ジオポリマーが先の工法において実用に 足る性能を発揮できるかを判定するべく、工法の実現に 際し要求される事が想定される(1)輸送機能(2)拡 散機能(3)凝結機能の3機能について試験を実施する。 連絡先:酒井泰地、〒113-8656 東京都文京区本郷7- 3-1、東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 E-mail: sakai@vis.t.u-tokyo.ac.jp - 268 - 各機能に対応する試験として、(1)漏斗試験(2)ス ランプ試験(3)凝結試験を行う。特にスランプ試験に ついては、適用環境を考慮し床面温度および気中/水中 環境条件をパラメータとする。試験材料として、ジオポ リマーの他に参照値を得るためセメントモルタルも用い る。混練開始からの経過時間によって粘性の異なる3種 類の試験体で試験を実施する。また、実際に利用する際 には遮蔽性能の向上や燃料デブリの再臨界防止を目的と した添加物を付与する可能性がある事を踏まえ、金属粉 末の添加の有無によって流動性にどのような影響が与え られるかについても実験を通して確認する。 3.シミュレーション 実スケールでの試験は予算等の問題もあり実現困難で ある事から、工法の実現性の最終的な判定はシミュレー ションによって為される可能性が高い。本研究では、今 後実施されると考えられるより詳細な解析に先立ちシミ ュレーション手法の精度を向上させる事を目的として、 前項で述べた実験結果の再現を行う。解析には連続体の 挙動を粒子の運動で表現する粒子法のうち、Kondo が開 発したMPF法[5]を使う。このMPF法を用いる事により、 流動体の回転挙動を再現できるようになっている。 事前シミュレーションとして、スランプ試験を模擬し たモデルを作成し解析を行った。流体粒子が床粒子をす り抜けてしまう現象を防ぐため、床粒子は2層配置して いる。以下に計算条件を示す(Table. 1)。 Table 1 A list of the calculational conditions パラメータ 値 試験体粘性 μ (Pa s) 10 試験体密度 ρ(g/cm3) 2.0 試験体温度 T(°C) 30 床面温度 Tf(°C) 50 粒子間隔 d(m) 0.003 計算間隔 Dt (s) 0.01 次ページに計算結果を示す(Fig.2)。計算の結果、上記の 条件においては本手法を用いる事で高粘性流体の流動挙 動を再現できる事が分かった。 t = 0.0 sec t = 5.0 sec Fig.2 Simulation results of slump experiment 4.結論 本報告では実験計画および事前シミュレーションの結 果を示した。シミュレーションの結果、対象流体の粘性 において流動体先端の回転挙動を再現できる事が分かっ た。今後実際に実験を行いその結果をシミュレーション にフィードバックする事で、粒子法によるジオポリマー の挙動の可視化の精度が向上する事が予想される。 参考文献 [1] 原子力損害賠償・廃炉等支援機構, _東京電力(株) 福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略 プラン2015”, http://dccc-program.jp/files/20150630_1-2-J.pdf [2] 鈴木俊一、 岡本孝司 _ジオポリマーを活用した燃 料デブリ取り出し工法の提案”、日本保全学会第14 回学術講演会要旨集、2017.8 [3] 甲本達也、”フライアッシュをベースとしたジオポリ マーによるバンコック粘土の固化について”,佐賀大 学農学部彙報,第94 号,pp.15-22,2009.2 [4] 東京電力ホールディングス株式会社、_水処理二次 廃棄物の処理にむけた検討状況”、 https://www.nsr.go.jp/data/000178233.pdf [5] 近藤雅裕、” 高粘度流体解析のための角運動量を保 存する粒子法の開発”, 計算工学講演会論文集、 Vol.22、2017.5 - 269 - 福島第一原発廃止措置へのジオポリマーの適用可能性検討 酒井 泰地,Taichi SAKAI,鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,岡本 孝司,Koji OKAMOTO