RPV 監視試験片の再生方法における 電子ビーム溶接の適用性評価

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カテゴリ: 第14回
1.背景・目的
1.1 背景 原子炉圧力容器(以下、RPVという。)構造材における 供用期間中の中性子照射による機械的性質の変化を確認 するため、炉内には監視試験片が備えられており、監視 試験片を用いた監視試験を行うに当たっては、「原子炉構 造材の監視試験方法」[1](以下、JEAC4201という。)に 基づき実施するよう定められている[2]。一方で、東日本 大震災後、原子力利用に係る安全規制体制の見直しが 行われ、原子力発電所の運転期間の延長認可申請を行う 場合には、追加の監視試験の実施が求められている。監 視試験片の数は限られているため、試験後の試験片残材 を有効活用することが重要となっており、残材を用いた 試験片の再生が考えられている。 JEAC4201 には監視試験片の補充等を目的として、照射 履歴のある試験後試験片の未変形部分を用いた監視試験 片の再生方法について定められている。図1 にシャルピ ー衝撃試験片の再生手順の模式図を示す。(以下、建設時 に製作され炉内に装荷されている再生していない監視試 験片をオリジナル試験片、再生後の監視試験片を再生試 験片という。)再生方法の手順としては、まず試験後のオ リジナル試験片から採取した未変形部分をRPV炉内へ再 装荷し追加照射を行い、炉内から取出し後に再生試験片 の試験部位となるインサート材に加工する。その後、イ ンサート材の両側に補完材であるタブ材を溶接等により 接合することにより再生試験片を製作する。 試験片再生時の接合方法として電子ビーム溶接の適用 が検討されているが、実際の監視試験片再生への適用に あたっては、JEAC4201附属書CのC-2200項に記載の「接 合方法の確認試験方法」に従い、予め試験により以下の(1)および(2)を満足するとともに(3)および(4)を実施する必 要がある。(1) 接合後、目視試験および断面観察を行い、接合部に有害な割れまたは融合不良のないことを確認する。
(2) 接合部の強度が十分であることを確認するため、再 生試験片を用いて、上部棚吸収エネルギー領域の温 度で衝撃試験又は破壊じん性試験を実施し、接合部 から破壊しないことを確認する。 (3) 熱影響部幅を測定する。 (4) インサート部の温度履歴を計測または解析により 求め、熱回復幅を求める。 また、監視試験片を再生する場合において、再生方法 以外の課題としてJEAC4201における溶接熱影響部(以 下、HAZという。)試験片の採取位置要求が挙げられる。 監視試験片は供試材の種類で母材試験片、HAZ 試験片、 溶接金属試験片に分類され、各試験片で供試材からの板 厚方向採取位置が定められている。図2 に監視試験片の 採取位置の模式図を示す。供試材の板厚をtとして、母材 試験片とHAZ試験片は(1/4)t位置、溶接金属試験片はル ート部及び表面より13mm 以上離れた位置から採取する よう定められており、各試験片に含まれる溶接金属や HAZの位置関係から、HAZ再生試験片のインサート材は、 (1/4)t位置以外から採取された溶接金属試験片のHAZ部 を活用する必要が生じる。 1.2 目的 本研究では、監視試験片再生の接合方法として検討し ている電子ビーム溶接の適用性を評価することを目的に、 シャルピー衝撃試験片を対象としてJEAC4201に準拠し た接合方法の確認試験を行った。さらに、試験片再生有 無による衝撃特性への影響確認を行うため、再生試験片 および再生していない試験片(以下、未再生試験片とい う)を用いた衝撃試験を行った。 また、(1/4)t以外から採取されたHAZ部を用いたHAZ 試験片の再生を想定し、HAZ試験片の板厚方向採取位置 の違いによる衝撃特性等への影響確認試験を行った。 ?? ?嵒??嵓??? ??? ?? ???? ????? ??????????? ????? ??? ??????? ?? ??? ???? ?????? 崧?? ??????????図1 シャルピー衝撃試験片の再生手順の模式図 PP?? ?? 嵓??????? +$= ?? +$=??? 図2 監視試験片の採取位置の模式図 2.試験片 2.1 供試材 供試材は未照射の母材(低合金鋼SQV2A(JIS G 3120 (2003))および溶接継手(母材SQV2A、溶接材料 YS-NM1(JIS Z 3351(2012))である。表1に母材の化学 成分、表2に母材の機械的性質、表3に溶接材料の化学 成分を示す。母材および溶接材料ともにJIS に規定されて いる化学成分および機械的性質を満足している。実際の 監視試験片の供試材と同様に、溶接継手は溶接後に溶接 後熱処理を実施し、母材に対しても同条件の熱処理を行 った。母材は接合技術確証および試験片再生有無の影響確認 に供し、溶接継手はHAZ試験片の板厚方向採取位置の影 響確認に供した。 表1 母材の化学成分 C Si Mn P S Ni Mo Cu 溶鋼分析 W ?? W PP?? ????? ??????? JIS G SQV2A 規格値 3120 (2003) 0.150.40 ~1.151.50 ~0.400.70 ~0.450.60 ~- 実績値 0.18 0.27 1.44 0.003 0.003 0.65 0.51 0.01 製品分析 以下 0.25 0.030 以下 0.030 以下 JIS G SQV2A 規格値 3120 (2003) 0.130.42 ~1.101.55 ~0.370.73 ~0.410.64 ~- 実績値 0.17 0.26 1.40 0.003 0.002 0.65 0.50 0.02 表2 母材の機械的性質 引張強さ N/mm2 以下 0.25 0.030 以下 0.030 以下 耐力 伸びN/mm2 % シャルピー吸収エネルギー J (2mmVノッチ、4°C) 個別値 3個の平均 規格値 JIS G 3120 (2003) 550~ 690 345以上 18以上 34以上 40以上 実績値 589 449 28 256 250 227 244 表3 溶接材料の化学成分 C Si Mn P S Cu Ni Mo 規格値 JIS Z 3351(2012) YS-NM1 0.15 以下 0.60 以下 1.30~ 2.30 0.018 以下 0.018 以下 0.20 以下 0.40~ 1.75 0.30~ 0.70 実績値 0.09 0.15 2.10 0.005 0.001 0.11 0.77 0.45 2.2 試験片 図3に再生試験片の接合手順を示す。電子ビーム溶接 を用いた試験片の接合時は、まず、インサート材および タブ材の接合面を接触させ、接合面がずれないように押 - 272 - さえ材で保持した後に、図3 に示すようにノッチ面およ び裏面からそれぞれ2パスで溶接接合する手順とした。 再生試験片形状はオリジナル試験片と同サイズ(10mm× 10mm×55mm)のVノッチシャルピー衝撃試験片とした。 再生試験片の試験部となるインサート材は(1/4)tより採取 し、採取方向はJEAC4201の衝撃試験片に準拠した。接 合後に押さえ材および溶接ビードの盛り上がり部を機械 加工により除去し、JEAC4201の再生した衝撃試験片の寸 法要求を満足するよう試験片を製作した。未再生のシャ ルピー衝撃試験片はJIS Z2242(2005)に準拠し製作した。 図4はHAZ試験片の板厚方向採取位置の影響確認試験 における試験片採取位置を示している。板厚をt(167mm) とし、HAZ試験片の採取位置の基準ある(1/4)tの他、(1/8)t、 (3/8)tならびに(1/2)tの位置から試験片を採取した。 インサート材 タブ材タブ材 図3 再生試験片の接合手順 W W ?? W W W ???? +$= ?? ?? 図4 HAZ 試験片の板厚方向採取位置の影響確認試験における 試験片採取位置 3.試験結果 3.1 接合技術確証 JEAC4201の接合方法の確認試験方法に基づき電子ビ ーム溶接の接合技術確証を行った。インサート長さ(Wa) は10mm および14.4mm の2 条件とした。 3.1.1 目視試験/断面観察 図5に接合後の外観写真、図6に接合部の断面観察写 真を示す。いずれもWaが14.4mm の例である。図6は溶 接方向に直行する断面であり、硝酸ナイタールエッチン グを施している。Waが10mmおよび14.4mmのインサー ト材を用いてそれぞれ3本ずつ製作した再生試験片に対 し目視試験および断面観察を行った結果、すべての接合 部で割れや融合不良は確認されなかった。また、上下か 2WHAZ 図6 接合部の断面観察写真 3.1.2 再生試験片の試験 再生試験片を用いて上部棚吸収エネルギー領域の温度 でシャルピー衝撃試験を実施した。試験温度は室温、50°C、 100°Cとし繰返し数は3とした。表4に接合技術確証試験 におけるシャルピー衝撃試験結果を示す。室温(19°C) は上部棚から遷移領域に入る境界と考えられ、延性破面 が100%のものと100%未満のものがあった。一方で、温 度50°Cおよび100°Cは、上部棚吸収エネルギー領域の温 度と考えられ、全ての試験片で延性破面率は100%であっ た。図7にシャルピー衝撃試験後の試験片外観を示す。 Waが10mmおよび14.4mmの全ての再生試験片において、 接合部からの破断は無く、接合部の強度が十分であるこ とを確認した。 表4 接合技術確証試験におけるシャルピー衝撃試験結果 Wa (mm) 試験温度 (°C) エネルギー 吸収 破面率 延性 (J) (%) 10横膨出量 (mm) 19(室温) 151 1.94 90 19(室温) 141 1.84 85 19(室温) 185 2.14 100 50 181 2.14 100 50 182 2.14 100 50 191 2.04 100 100 208 2.30 100 100 207 2.27 100 100 206 2.28 100 14.419(室温) 189 2.23 100 19(室温) 179 2.15 100 19(室温) 161 2.03 75 50 199 2.28 100 50 202 2.31 100 50 185 2.17 100 100 214 2.31 100 100 213 2.22 100 100 218 2.43 100 - 273 - らの電子ビーム溶接により試験片内部まで完全に溶込み 接合されていることを確認した。 (Vノッチ) 押さえ材 (溶接接合部) タブ材 タブ材 インサート材 図5 接合後の外観写真 (b)インサート長さ10mm の例(試験温度:100°C) 図7 シャルピー衝撃試験後の試験片外観 3.1.3 熱影響部幅(WHAZ)計測 断面観察を行った試験片6本に対して、熱影響部幅 (WHAZ)を計測した。なお、図6に示しているように、 エッチングによる着色で確認できる接合面両側の熱影響 部の幅が2WHAZであり、WHAZは片側分の幅と定義される。 WHAZの計測ラインはシャルピー試験片の高さ10mmをh とした場合の(1/4)h、(1/2)h、(3/4)h(ノッチ側表面から 2.5mm、5mm、7.5mm の深さ位置)の3ラインであり、2 か所の接合部に対して計測し、平均値を各試験片のWHAZ とした。計測の結果、インサート長さによらず全ての試 験片でWHAZは0.8mmであった。 断面観察により計測したWHAZと溶接接合による硬化領 域の関係を把握するため、接合部のビッカース硬さ測定 (測定荷重:0.98N)を実施した。硬さ測定は、WHAZ計測 ライン上に対し、接合面から±3mm の範囲を0.2mm ピッ チで実施した。図8 にWHAZ計測ライン上の硬さ測定結果 を示す。表5 に接合部の硬化領域とWHAZの比較を示す。 接合部近傍では溶接の熱影響により硬化する領域が確認 され、硬化領域の平均値は1.4mm~1.5mm であった。硬 化領域を基に想定されるWHAZは0.7mm~0.75mmとなり、 断面観察において計測したWHAZである0.8mmと概ね一 致した。700 硬化領域a側 硬化領域b側 600 500400300200(1/4)h 100 (1/2)h (3/4)h 0 -10 -7.5 -5 -2.5 0 2.5 5 7.5 10 Vノッチからの距離/mm 図8 WHAZ計測ライン上の硬さ測定結果 (a)インサート長さ14.4mm の例(試験温度:100°C) 表5 接合部の硬化領域とWHAZの比較 試験片番号 (インサート 長さ(mm)) 表面から 接合部 硬化領域 の距離 (mm) 接合部 硬化領域 想定 a側 (mm) W(mm) HAZ 硬化領域 b側 (mm) 硬化領域 平均値 (mm) 計測 (mm) WHAZ B48U1MC01 -14.42.5 1.6 1.6 5.0 1.2 1.2 1.5 0.75 0.8 7.5 1.6 1.6 B48U1MC02 (14.4) 2.5 1.6 1.8 5.0 1.4 1.2 1.5 0.75 0.8 7.5 1.6 1.6 B48U1MC03 (14.4) 2.5 1.6 1.6 5.0 0.8 1 1.4 0.7 0.8 7.5 1.6 1.6 B48U2MC01 (10) 2.5 1.6 1.6 5.0 1.0 1.0 1.4 0.7 0.8 7.5 1.6 1.6 B48U2MC02 (10) 2.5 1.4 1.6 5.0 1.0 1.0 1.4 0.7 0.8 7.5 1.6 1.6 B48U2MC03 (10) 2.5 1.6 1.6 5.0 1.0 1.4 1.5 0.75 0.8 7.5 1.6 1.6 3.1.4 熱回復幅(WANL)計測 熱回復幅(WANL)は、接合した際の熱履歴によりイン サート材の照射脆化が熱回復する幅と定義されている。 本研究では熱回復パラメータから求めるWANL算出方法に 準拠しWANLを評価しており、熱回復パラメータ は”Abaqus”の3次元熱伝導解析を用いた試験片内の過渡 温度履歴評価を基に算出した。なお、接合時の試験片の 実温度の確認および熱伝導解析の妥当性確認のため、接 合中のインサート材の過渡温度履歴を測定しており、長 手方向と直交する10mm角の正方形面の中央部(試験片 表面から5mm の深さ)に穴をあけ、K型シース熱電対(常 用限度:500°C)を設置しインサート材内部の温度を測定 した。図9は溶接接合時の過渡温度履歴の測定および解 析結果を示しており、凡例( )内は接合面からの距離 を表している。測定値と解析値を比較すると、接合面か ら1.5mmの位置において良く一致している。接合面から の距離がほぼ等しい測定値(1.9mm)と解析値(2mm) では、過渡温度の時間応答に違いがみられるものの、最 高到達温度はほぼ等しい結果であった。以上より、解析 結果は測定結果と概ね同様であり、インサート材の過渡 温度履歴を解析によりよく模擬できていると考えられる。 図10に熱伝導解析結果を基にした熱回復パラメータと接 合面からの距離の関係を示す。ここで、熱回復が無視で きるとみなされる熱回復パラメータ最大値は-42とされ ており、その際の接合面からの距離が熱回復幅とされて いる。図10 より、熱回復幅は0.81mm と評価された。こ こで、解析における熱影響部の幅(Ac1変態点(700°C) 以上に到達した領域と定義)は接合面から0.5mmの範囲 であった。すなわち、熱影響部の端部からさらに母材側 に0.31mm離れた領域まで熱回復しているとみなされ、 この領域を熱回復領域の幅とする。一方、3.1.3項で断面 - 274 - 面率100%の吸収エネルギーの平均値)を比較評価した。 観察により計測した熱影響部幅(WHAZ)は0.8mmであり、 解析上の熱影響部の幅0.5mmより広い領域であった。そ Tr30は再生試験片で-72°C、未再生試験片で-67°C、Emaxは のため、本研究では計測したWHAZである0.8mm に熱回復 再生試験片で205J、未再生試験片で222Jであり、いずれ 領域の幅0.31mm を加えたものを熱回復幅(WANL)とし、 も再生試験片と未再生試験片で概ね同等の値を示した。 WANLは1.1mm と評価した。 以上より、再生試験片の衝撃特性は未再生試験片の結 果と同等であり、電子ビーム溶接を用いた監視試験片再 800 生による衝撃特性への影響はなく、監視試験片再生の接 合方法として電子ビーム溶接が適用可能であることを確 認した。 表6 再生/未再生試験片のシャルピー衝撃試験結果 試験片 再生有無 0:00:000 2 4 6 8 10 時間 (sec) 解析 (0.5 mm) 700 解析 (1.0 mm) 600解析 (1.5 mm) 500解析 (2.0 mm) 測定 (1.5 mm) 400 測定 (1.9 mm) 300200図9 溶接接合時の過渡温度履歴の測定および解析結果 0延性 破面率 (%) 再生 試験片 試験片 吸収 No. 試験温度 エネルギー (°C) (J) 横膨出量 100 (mm) 1 -120 5 0.14 5 2 -60 31 0.55 10 3 -60 100 1.46 25 4 -40 103 1.49 45 5 -40 102 1.51 45 6 -20 173 2.18 65 7 -20 150 2.18 60 3 8 0 186 2.38 85 9 0 158 2.07 70 2.510 40 209 2.35 100 11 40 206 2.37 100 2 12 60 200 2.28 100 1.5未再生 試験片 -70 -60 -50 -40 -30 -20 熱回復パラメータ 1 -120 11 0.23 5 2 -60 78 1.13 20 3 -60 72 1.03 20 4 -40 39 0.60 15 1 5 -40 106 1.53 40 -0.81 6 -20 113 1.51 45 0.57 -20 131 1.75 50 8 0 148 1.90 70 9 0 178 1.78 80 -42 10 20 218 2.45 100 11 20 208 2.41 100 12 40 239 2.31 100 図10 熱回復パラメータと接合面からの距離の関係 3.1.5 接合技術確証まとめ 電子ビーム溶接を用いた試験片の接合部で有害な割れ や融合不良は認められず、また、衝撃試験において十分 な強度を有しており、JEAC4201の接合方法の確認試験の 要求を満足することを確認した。また、熱影響部幅(WHAZ) 50 は0.8mm、熱回復幅(WANL)は1.1mmと評価した。 03.2 試験片再生有無の影響確認 再生試験片および未再生試験を用いてシャルピー衝撃 試験を実施した。再生試験片のインサート長さは14.4mm とした。表6 に再生/未再生試験片のシャルピー衝撃試 験結果を示す。図11に再生/未再生試験片のシャルピー 衝撃試験結果の比較を示す。図中の遷移曲線は、 JEAC4201にも記載されている双曲線関数により作成し ており、再生試験片と未再生試験片の遷移曲線はよく一 致している。図11の遷移曲線より、実機の監視試験で評 価対象となる関連温度(Tr30:41Jの吸収エネルギーに対 応する温度)および上部棚吸収エネルギー(Emax:延性破 300再生試験片 250 未再生試験片 200150100-160 -140 -120-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 試験温度 (°C) 41J Tr30 図11 再生/未再生試験片のシャルピー衝撃試験結果の比較 3.3 HAZ試験片の板厚方向採取位置の影響確認 HAZ試験片の板厚方向採取位置(以下、採取位置とい う。)の違いによる衝撃特性への影響を確認するため、溶 接試験体より板厚t(167mm)に対して(1/8)t、(1/4)t、(3/8)t ならびに(1/2)tの位置から試験片を採取し試験を実施した。 各板厚でフルカーブ(試験数12 本)のシャルピー衝撃 特性を3シリーズ取得し、衝撃特性を評価した。表7~表 10 にHAZ試験片のシャルピー衝撃試験結果を示す。図 - 275 - 表8 HAZ試験片のシャルピー衝撃試験結果((1/4)t) シリーズ 試験片 No. 試験温度 吸収エネルギー (°C) (J) 横膨出量 延性破面率 (mm) (%) 14HC105 -140 26 0.36 5 14HC101 -120 48 0.64 15 14HC112 -120 65 0.75 15 14HC110 -80 171 2.09 70 14HC111 -80 177 2.16 70 シリーズ1 14HC106 14HC107 -60 -60 243 2.32 100 187 2.30 60 14HC108 -20 264 2.27 100 14HC109 -20 267 2.37 100 14HC102 40 309 2.27 100 14HC103 40 266 2.49 100 14HC104 60 279 2.30 100 14HC217 -140 30 0.36 10 14HC213 -120 49 0.64 15 14HC224 -120 42 0.52 10 14HC222 -80 173 1.94 65 14HC223 -80 134 1.46 50 シリーズ2 14HC218 14HC219 -60 -60 12および図13にそれぞれHAZ試験片の採取位置と上部 棚吸収エネルギー(Emax)および関連温度(Tr30)の関係 を示す。採取位置によりEmaxおよびTr30に有意な差があ るかを評価するため、分散分析による統計解析を行った 結果、各採取位置((1/8)t、(1/4)t、(3/8)t、(1/2)t)のデータ 群(Emaxもしくは Tr30)の平均値の間に統計的な有意な差 は無く、いずれの値においても採取位置の依存性は認め られなかった。 表11にHAZの断面ミクロ組織観察結果を示す。採取 位置による金属組織の違いは認められなかった。 各採取位置で溶接金属、HAZ、母材を対象にビッカー 213 2.05 75 ス硬さ測定(測定荷重:9.8N)を実施した。図14に硬さ 214 2.28 80 14HC220 -20 265 2.43 100 測定結果を示す。HAZ部と推定される領域では溶融境界 14HC221 -20 262 2.37 100 14HC214 40 295 2.23 100 から母材側に離れるにつれて硬さが低下する傾向であり、 14HC215 40 285 2.19 100 14HC216 60 267 2.36 100 採取位置による違いは認められなかった。なお、母材部 14HC329 -140 18 0.24 5 14HC325 -120 70 1.26 15 の硬さについても採取位置による違いは認められなかっ 14HC336 -120 58 0.73 15 14HC334 -80 173 2.06 70 た。以上より(1/8)t、(1/4)t、(3/8)tおよび(1/2)tにおいて、HAZ 14HC335 -80 シリーズ3 14HC330 14HC331 -60 -60 14HC332 -20 172 2.02 65 211 2.14 80 208 2.20 80 270 2.31 100 試験片の採取位置の違いが衝撃特性、金属組織および硬 14HC333 -20 265 2.28 100 14HC326 40 291 2.30 100 さに影響しないことを確認した。 14HC327 40 276 2.23 100 14HC328 60 274 2.28 100 表7 HAZ試験片のシャルピー衝撃試験結果((1/8)t) シリーズ 試験片 No. 試験温度 吸収エネルギー (°C) (J) 横膨出量 延性破面率 (mm) (%) 18HC105 -140 23 0.34 5 18HC101 -120 73 0.89 15 18HC112 -120 40 0.54 10 18HC110 -80 165 1.99 65 18HC111 -80 177 2.13 70 シリーズ1 18HC106 18HC107 -60 -60 189 2.16 70 206 2.28 75 18HC108 -20 255 2.42 100 18HC109 -20 254 2.35 100 18HC102 40 282 2.42 100 18HC103 40 267 2.27 100 18HC104 60 272 2.35 100 18HC217 -140 26 0.37 5 18HC213 -120 64 0.74 15 18HC224 -120 62 0.66 15 18HC222 -80 183 1.97 70 18HC223 -80 167 1.96 60 18HC218 -60 190 2.00 85 18HC219 -60 216 2.30 80 18HC220 -20 249 2.31 100 18HC221 -20 264 2.28 100 18HC214 40 299 2.19 100 18HC215 40 306 2.30 100 18HC216 60 252 2.40 100 18HC329 -140 21 0.29 5 18HC325 -120 36 0.49 10 18HC336 -120 56 0.57 15 18HC334 -80 180 2.06 70 18HC335 -80 160 1.82 65 18HC330 -60 205 2.07 75 18HC331 -60 246 2.29 100 18HC332 -20 268 2.25 100 18HC333 -20 268 2.13 100 18HC326 40 297 2.29 100 18HC327 40 295 2.20 100 18HC328 60 295 2.18 100 表9 HAZ試験片のシャルピー衝撃試験結果((3/8)t) シリーズ 試験片 No. 試験温度 吸収エネルギー (°C) (J) 横膨出量 延性破面率 (mm) (%) 38HC105 -140 30 0.37 10 38HC101 -120 52 0.65 15 38HC112 -120 31 0.57 10 38HC110 -80 144 1.73 50 38HC111 -80 139 1.54 50 シリーズ1 38HC106 38HC107 -60 -60 187 2.25 65 184 2.29 65 38HC108 -20 247 2.38 100 38HC109 -20 250 2.35 100 38HC102 40 291 2.22 100 38HC103 40 293 2.30 100 38HC104 60 239 2.37 100 38HC217 -140 30 0.40 10 38HC213 -120 39 0.65 10 38HC224 -120 52 0.59 15 38HC222 -80 184 1.97 70 38HC223 -80 185 1.99 70 38HC218 -60 253 2.34 100 38HC219 -60 183 2.18 65 38HC220 -20 258 2.31 100 38HC221 -20 303 2.28 100 38HC214 40 280 2.28 100 38HC215 40 290 2.33 100 38HC216 60 247 2.32 100 38HC329 -140 23 0.31 5 38HC325 -120 61 0.89 15 38HC336 -120 48 0.68 10 38HC334 -80 190 2.16 75 38HC335 -80 164 2.05 60 38HC330 -60 261 2.31 100 38HC331 -60 238 2.08 100 38HC332 -20 235 2.03 85 38HC333 -20 266 2.15 100 38HC326 40 290 2.28 100 38HC327 40 289 2.29 100 38HC328 60 273 2.24 100 - 276 - シリーズ2 シリーズ2 シリーズ3 シリーズ3 表10 HAZ 試験片のシャルピー衝撃試験結果((1/2)t) シリーズ 試験片 No. 試験温度 吸収エネルギー (°C) (J) 横膨出量 延性破面率 (mm) (%) 12HC105 -140 21 0.28 10 12HC101 -120 58 0.66 15 12HC112 -120 55 0.72 15 12HC110 -80 181 1.84 75 12HC111 -80 179 1.99 75 シリーズ112HC106 12HC107 -60 -60 214 2.23 80 218 2.18 80 12HC108 -20 270 2.39 100 12HC109 -20 266 2.37 100 12HC102 40 306 2.19 100 12HC103 40 297 2.22 100 12HC104 60 270 2.34 100 12HC217 -140 7 0.08 5 12HC213 -120 29 0.42 5 12HC224 -120 28 0.32 5 12HC222 -80 170 1.99 65 12HC223 -80 158 1.88 60 シリーズ2 12HC218 12HC219 -60 -60 191 2.08 65 202 2.01 70 12HC220 -20 263 2.31 100 12HC221 -20 280 2.37 100 12HC214 40 296 2.24 100 12HC215 40 285 2.22 100 12HC216 60 254 2.32 100 12HC329 -140 19 0.30 5 12HC325 -120 26 0.37 5 12HC336 -120 26 0.40 5 12HC334 -80 172 2.01 65 12HC335 -80 136 1.53 30 シリーズ3 12HC330 12HC331 -60 -60 206 2.02 80 170 1.87 60 12HC332 -20 267 2.17 100 12HC333 -20 254 2.26 100 12HC326 40 285 2.27 100 12HC327 40 299 1.96 100 12HC328 60 271 2.20 100 300Emax 200 1000(1/8)t (1/4)t (3/8)t (1/2)t 図12 HAZ試験片の採取位置と上部棚吸収エネルギー(Emax) の関係 - 277 - -500 ( 03rTTr30 -100-150(1/8)t (1/4)t (3/8)t (1/2)t 図13 HAZ試験片の採取位置と関連温度(Tr30)の関係 表11 HAZ の断面ミクロ組織観察結果 300250200150溶接金属 ライン1 ライン2 ライン3 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 溶融境界からの距離 (mm) (1/8)t HAZ 母材 100500(a) (1/8)t 位置 300(1/4)t 250 200150溶接金属 HAZ 母材 100ライン1 50ライン2 ライン3 0-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 溶融境界からの距離 (mm) (b) (1/4)t 位置 300(3/8)t 250 200150溶接金属 HAZ 母材 100ライン1 50ライン2 ライン3 0-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 溶融境界からの距離 (mm) (c) (3/8)t 位置 300250200150溶接金属 100ライン1 50ライン2 ライン3 0-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 溶融境界からの距離 (mm) (1/2)t HAZ 母材 (d) (1/2)t 位置 図14 硬さ測定結果 4.結言 RPV構造材の監視試験片に使用されている低合金鋼を 用いて、監視試験片の再生方法として検討している電子 ビーム溶接の適用性を評価した。また、HAZ試験片の再 生を考慮し、HAZ試験片の板厚方向採取位置の違いによ る衝撃特性等への影響確認試験を実施した。本研究で得 られた成果を以下に記す。 ・電子ビーム溶接による試験片の接合部において有害な 割れや融合不良は確認されず、また、シャルピー衝撃 試験において接合部は十分な強度を有しており、 JEAC4201 の接合方法の確認試験の要求を満足するこ とを確認した。また、本試験より得られた熱影響部幅 (WHAZ)は0.8mm、熱回復幅(WANL)は1.1mm であっ た。 ・電子ビーム溶接により接合した再生試験片および試験 片の接合を行っていない未再生試験片のシャルピー衝 撃特性を比較した結果、両者の衝撃特性は概ね同等で あり、試験片再生の有無は衝撃特性に影響しないこと を確認した。監視試験片再生の接合方法として電子ビ ーム溶接が適用可能であることを確認した。 ・(1/8)t、(1/4)t、(3/8)tおよび(1/2)t位置において、HAZ試 験片の板厚方向採取位置の違いが衝撃特性、金属組織 および硬さに影響しないことを確認した。 本論文に記載の商品の名称は、それぞれ各社が商標とし て使用している場合があります。 謝辞本研究は電力共通研究として実施いたしました。東北 電力(株)、中部電力(株)、北陸電力(株)、中国電力(株)、 日本原子力発電(株)、電源開発(株)、(一財)電力中央 研究所、(株)IHI 及び三菱日立パワーシステムズ(株) の関係各位に感謝の意を表します。 参考文献 [1] “原子炉構造材の監視試験方法(JEAC 4201-2007)”, 社団法人 日本電気協会 原子力規格委員会 [2] “実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に 関する規則その解釈”, 原子力規制委員会(平成29 年4 月5 日改正) - 278 - RPV 監視試験片の再生方法における 電子ビーム溶接の適用性評価 山岡 鉄史,Tetsushi YAMAOKA,森島 康雄,Yasuo MORISHIMA,小川 琢矢,Takuya OGAWA,豊田 哲也,Tetsuya TOYOTA,石嵜 貴大,Takahiro ISHIZAKI,櫻谷 誠司,Seiji SAKURAYA,神長 貴幸,Takayuki KAMINAGA,大木 俊,Suguru OOKI
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