原子力発電所における供用期間中検査について
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
我々事業者は、構築物、系統及び機器の重要度を勘案 し、事故・故障事例などの運転経験や劣化・故障モード などを考慮して保全計画を策定し、点検・補修・取替等 の保全を実施することにより、原子力発電所の設備の信 頼性を維持・向上させている。 保全の中でも(一社)日本機械学会の「発電用原子力 設備規格 維持規格2008年版」(以下、維持規格)に基づ き実施している供用期間中検査(以下、ISI)については、 原子力発電所の設備の健全性を確認する検査の一つであ ることから、本稿で紹介する。
2.供用期間中検査 ISIとは、原子力発電所の運転(供用)開始後に、機器、 配管などの健全性を確認するため、維持規格及び「実用 発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こ す亀裂その他の欠陥の解釈」(原子力規制委員会制定文書。 以下、亀裂解釈)に基づき検査方法・検査範囲・検査間 隔を計画的に定め、機器毎に実施する非破壊検査及び系 統毎に実施する漏えい検査のことである。 非破壊検査の基本的な流れは、1ISIの結果と比較する ために供用前検査(以下、PSI)を実施、2維持規格に規 定された検査程度について非破壊検査により指示の有無 を確認、3指示が検出された場合はPSIと比較し有意な 差異等のないことを確認、4比較の結果、有意な差異が 認められた場合は、欠陥評価・原因究明を実施となる。 Fig.1 Chart of In-Service Inspection (Non Destructive Inspection)
2.1供用前検査(PSI) PSIは、ISIの非破壊検査結果と比較することができる ようにベースラインデータを蓄積する検査であり、基本 的には原子力発電所の運転(供用)開始前に実施している。 非破壊検査の一つとして実施している超音波探傷検査 については、設備の重要度を踏まえて(Graded Approach)、 基本的にはクラス1機器についてはISIの対象となる溶 接線の全数、クラス2機器については経年変化を確認す るための代表部位(以下、定点)の候補となる構造不連 続部等の溶接線についてPSIを実施している。 米国における原子力発電設備の供用期間中における検 査に関する規格であるASME規格もPSI はISIとの比較を 目的の一つとしており、設備の重要度を踏まえて実施さ れている。 Table1 Comparison of scope of Pre-Service Inspection between Japan and US ISIは定点について検査を実施していることから、基 本的には定点に対してPSIデータを蓄積しておけばISI の結果と比較することができる。これは、ASME規格も 同様の考え方である。 2.2原子炉容器の検査程度 原子炉容器の検査程度は、設備の重要度(機種区分) や形状・材質等から経年変化の可能性が大きいと考えら れる部位(構造不連続部、異種金属溶接継手部等)の特 性などを考慮して、対象部位の検査程度を設定しており、 ASME規格でも同様の考え方により設定している。 非破壊検査については、溶接線を対象に基本的には超 音波探傷検査により、維持規格に規定されている検査程 度を実施している。具体的には応力集中が比較的生じや すい異材金属溶接線及び構造不連続部、また中性子照射 の影響が比較的大きい炉心領域については10年間で溶接 線全数(100%)、一般部(顕著な応力集中がない部分) については10年間で定点(7.5%)を検査している。 ISIの検査程度については、重要度を踏まえて設定され ており(Graded Approach)、これまでに検査程度の見直し につながるような国内外のトラブル事例は確認されてい ない。 3.米国ISIにおけるリスク情報の活用 米国ではASME規格でISIの内容が定められているもの の、確率論的安全評価(PSA)の活用によりISIの対象を リスク重要度の高い配管に再配分し、安全性維持と作業 合理化・コスト低減の両立を図ることを目的とした RI-ISI(Risk-Informed In-Service Inspection)へ移行 しているプラントもある。 4.維持規格技術評価の状況 ISIについては亀裂解釈で引用されている維持規格に 基づき実施されているが、「維持規格2012年版」を活用 するために平成27年6月以降、「維持規格の技術評価に 関する検討チーム」において技術的妥当性やASME規格と の相違点(変更点)といった観点から技術評価が行われ ている。 5.まとめ 維持規格に基づき実施しているISIの基本的な内容に ついて紹介した。 ISIの内容を規定している維持規格については、国内の 長年に亘る運用実績のある電気協会の規格を基礎として、 過去のトラブル事例などの最新知見を反映するなどの改 善が図られており、国際的な規格であるASME規格とも同 等であることから、維持規格に基づくISIは設備の健全 性を確認する保全の一翼を十分に担うことができている。 また、今後とも国内外のトラブル事例などの最新知見が 反映され、国による技術評価がなされた「維持規格」に よりISIを実施していく。 今後の課題としては、見直されている検査制度の基本 的な考え方の一つとして、安全上の重要度に応じた効果 的な活動を実現するため客観的な指標としてリスク情報 の活用があげられており、国内の保全においても、米国 で運用されているようにリスク情報に基づいた定量的な 科学的評価手法を確立して適用していくことが求められ る。 - 282 - 原子力発電所における供用期間中検査について 中野 守人,Morihito NAKANO,長谷川 順久,Yukihisa HASEGAWA,西住 健治,Takeharu NISHIZUMI,川上 一喜,Kazuki KAWAKAMI
我々事業者は、構築物、系統及び機器の重要度を勘案 し、事故・故障事例などの運転経験や劣化・故障モード などを考慮して保全計画を策定し、点検・補修・取替等 の保全を実施することにより、原子力発電所の設備の信 頼性を維持・向上させている。 保全の中でも(一社)日本機械学会の「発電用原子力 設備規格 維持規格2008年版」(以下、維持規格)に基づ き実施している供用期間中検査(以下、ISI)については、 原子力発電所の設備の健全性を確認する検査の一つであ ることから、本稿で紹介する。
2.供用期間中検査 ISIとは、原子力発電所の運転(供用)開始後に、機器、 配管などの健全性を確認するため、維持規格及び「実用 発電用原子炉及びその附属施設における破壊を引き起こ す亀裂その他の欠陥の解釈」(原子力規制委員会制定文書。 以下、亀裂解釈)に基づき検査方法・検査範囲・検査間 隔を計画的に定め、機器毎に実施する非破壊検査及び系 統毎に実施する漏えい検査のことである。 非破壊検査の基本的な流れは、1ISIの結果と比較する ために供用前検査(以下、PSI)を実施、2維持規格に規 定された検査程度について非破壊検査により指示の有無 を確認、3指示が検出された場合はPSIと比較し有意な 差異等のないことを確認、4比較の結果、有意な差異が 認められた場合は、欠陥評価・原因究明を実施となる。 Fig.1 Chart of In-Service Inspection (Non Destructive Inspection)
2.1供用前検査(PSI) PSIは、ISIの非破壊検査結果と比較することができる ようにベースラインデータを蓄積する検査であり、基本 的には原子力発電所の運転(供用)開始前に実施している。 非破壊検査の一つとして実施している超音波探傷検査 については、設備の重要度を踏まえて(Graded Approach)、 基本的にはクラス1機器についてはISIの対象となる溶 接線の全数、クラス2機器については経年変化を確認す るための代表部位(以下、定点)の候補となる構造不連 続部等の溶接線についてPSIを実施している。 米国における原子力発電設備の供用期間中における検 査に関する規格であるASME規格もPSI はISIとの比較を 目的の一つとしており、設備の重要度を踏まえて実施さ れている。 Table1 Comparison of scope of Pre-Service Inspection between Japan and US ISIは定点について検査を実施していることから、基 本的には定点に対してPSIデータを蓄積しておけばISI の結果と比較することができる。これは、ASME規格も 同様の考え方である。 2.2原子炉容器の検査程度 原子炉容器の検査程度は、設備の重要度(機種区分) や形状・材質等から経年変化の可能性が大きいと考えら れる部位(構造不連続部、異種金属溶接継手部等)の特 性などを考慮して、対象部位の検査程度を設定しており、 ASME規格でも同様の考え方により設定している。 非破壊検査については、溶接線を対象に基本的には超 音波探傷検査により、維持規格に規定されている検査程 度を実施している。具体的には応力集中が比較的生じや すい異材金属溶接線及び構造不連続部、また中性子照射 の影響が比較的大きい炉心領域については10年間で溶接 線全数(100%)、一般部(顕著な応力集中がない部分) については10年間で定点(7.5%)を検査している。 ISIの検査程度については、重要度を踏まえて設定され ており(Graded Approach)、これまでに検査程度の見直し につながるような国内外のトラブル事例は確認されてい ない。 3.米国ISIにおけるリスク情報の活用 米国ではASME規格でISIの内容が定められているもの の、確率論的安全評価(PSA)の活用によりISIの対象を リスク重要度の高い配管に再配分し、安全性維持と作業 合理化・コスト低減の両立を図ることを目的とした RI-ISI(Risk-Informed In-Service Inspection)へ移行 しているプラントもある。 4.維持規格技術評価の状況 ISIについては亀裂解釈で引用されている維持規格に 基づき実施されているが、「維持規格2012年版」を活用 するために平成27年6月以降、「維持規格の技術評価に 関する検討チーム」において技術的妥当性やASME規格と の相違点(変更点)といった観点から技術評価が行われ ている。 5.まとめ 維持規格に基づき実施しているISIの基本的な内容に ついて紹介した。 ISIの内容を規定している維持規格については、国内の 長年に亘る運用実績のある電気協会の規格を基礎として、 過去のトラブル事例などの最新知見を反映するなどの改 善が図られており、国際的な規格であるASME規格とも同 等であることから、維持規格に基づくISIは設備の健全 性を確認する保全の一翼を十分に担うことができている。 また、今後とも国内外のトラブル事例などの最新知見が 反映され、国による技術評価がなされた「維持規格」に よりISIを実施していく。 今後の課題としては、見直されている検査制度の基本 的な考え方の一つとして、安全上の重要度に応じた効果 的な活動を実現するため客観的な指標としてリスク情報 の活用があげられており、国内の保全においても、米国 で運用されているようにリスク情報に基づいた定量的な 科学的評価手法を確立して適用していくことが求められ る。 - 282 - 原子力発電所における供用期間中検査について 中野 守人,Morihito NAKANO,長谷川 順久,Yukihisa HASEGAWA,西住 健治,Takeharu NISHIZUMI,川上 一喜,Kazuki KAWAKAMI