炉内計装筒管台溶接部およびその補修溶接時を 想定した残留応力解析

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
近年、運転開始からの期間が長い原子力発電プラント が増えてきており、これらのプラントに対する補修、保 全の対策が施工されつつある。原子炉や炉内構造物への 保全技術を考えると、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking, SCC)への対策に関するものは重要であり、こ れを目的とする取替技術や予防保全のための技術、ひび に対する補修技術が種々に開発されてきている[1]。 原子炉容器炉内計装筒においては、同様の構造である 原子炉容器蓋用管台において損傷が国内外で報告されて おり、今後の損傷の発生が否定できない状況にある。し たがって、点検時期の制約が大きい炉内構造物の健全性 を技術的合理性に基づいて確認・評価する手法や損傷が 認められた場合の迅速かつ高い信頼性を有する補修技術の確立が望まれる。
原子炉容器炉内計装筒における経年変化事象の1つと して、同様の構造を有する原子炉容器蓋用管台での国内 外のプラントにおける損傷事例を参考に、加圧水型原子 炉(Pressurized Water Reactor, PWR)の一次環境下の応力 腐食割れ(Primary Water SCC, PWSCC)が想定される。 PWSCC によるき裂発生は、材料・環境(温度)・応力に 影響されることが知られており、「応力」に関しては、プ ラント運転中の内圧および熱による応力のみならず、取 付けの際の溶接残留応力も考慮する必要がある。原子炉 容器炉内計装筒はその設置位置に応じて下部鏡との取付 角度が異なり、部分差込溶接部(J 溶接部)にはその複雑 な形状に起因した残留応力分布が生じることも想定されるため、原子炉容器炉内計装筒J 力分布特性を詳細に把握しておくことが望ましい。加えて溶接部における残留応て、今後の適用の可能性も考えられるテンパービード補修溶接[2]を想定した部分補修溶接時の残留応力分布特性 も把握しておくことで、実際に適用する際の施工条件の 選定に際して1つの有用な知見となることが期待される。 最近では、コンピュータを援用した数値シミュレーショ ンによる溶接残留応力解析の精度・信頼性も向上してき ており、原子炉や炉内構造物における溶接残留応力分布 の詳細な評価に向けた有用なツールとなりつつある。 本検討では、反復サブストラクチャー法を導入した大 規模高速シミュレーション技術を活用して、原子炉容器 炉内計装筒J 溶接部ならびにテンパービード溶接による 部分補修溶接を想定した残留応力解析を実施する。複雑 形状機器配管健全性実証事業[3]において既に実施されて いる実測値との比較を通して、本残留応力解析の有用性 を評価するとともに、原子炉容器炉内計装筒と下部鏡と の取付角度の違いによるJ 溶接部残留応力分布特性への 影響やテンパービード補修溶接部残留応力分布特性に及 ぼす溶接施工条件の影響に関して検討する。 2.原子炉容器炉内計装筒 J 溶接部の残留 応力解析 2.1 数値解析モデル 数値解析の対象の一例をFig. 1に示す。内面(上面)に 5.5mm 厚のステンレスクラッドを施した低合金鋼 SQV2A 製の原子炉容器下部鏡と600系ニッケル基合金 Alloy600製の炉内計装筒を600系ニッケル基合金用溶接 材料を用いたバタリング溶接・本溶接によって接合した 異材継手である。モデルには剛体回転・移動を生じない ような拘束条件を与えている。原子炉容器炉内計装筒と 下部鏡の取付角度は、Fig. 2 に示すように、0、15、30、 45°の4 種類とし、取付角度0°のものは原子力安全基盤機 構が作製したモックアップを参考に、その他は開先寸法 が変化しないように取付角度(開先形状)を変化させた。 (a) BMI mounting angle is 0° (b) BMI mounting angle is 15° (c) BMI mounting angle is 30° 6.521.26.56.51021.221.210101900/01/15J-weld layer 161900/01/15J-weld layer J-weld layer Buttering layer Buttering layer (Unit : mm) J-weld layer J-weld layer Buttering layer Buttering layer Buttering layer 6.56.5(Unit : mm) Unit :mm Unit :mm 6.56.56.56.56.5Fixed z y z 200 200 Fixed x,z (Unit : mm) 6.56.5(Unit : mm) (Unit : mm) Buttering layer Buttering layer Buttering layer x Fixed x,y,z (d) BMI mounting angle is 45° (d) BMI mounting angle is 45° Fig.1 Finite element model of BMI nozzle 100Fig. 2 Configuration of J-groove welds - 290 - 21.2101900/01/15J J-weld layer 6.5本解析対象を構成する各材料の熱伝導解析に用いる物 性値(比熱・密度・熱伝導率)および熱弾塑性解析に用 いる物性値(ヤング率・ポアソン比・降伏応力・加工硬 化特性)は全て温度依存性を考慮して設定した[4]。また、 取付角度に関わらず積層順序はFig. 3 に示すように設定 しており、各層の肉盛溶接はFig. 4 に示すように半周ずつ 2 パスで行うものとした。なお、各パスにおける溶接入熱 条件は、単位溶接長当りの入熱量が700J/mm、溶接速度 が2mm/sとなるように設定し、これらはいずれのパスで も同一として解析を行った。 Fig. 3 Built-up sequence Fig. 4 Welding direction 2.2 J 溶接部における残留応力分布特性 まず、取付角度0°を対象として実測値との比較を行い、 残留応力解析の精度を確認する。残留応力の実測位置は Fig. 5 に示す通りである。7つの評価線上の周方向・軸方 向応力の分布を比較した結果をFig. 6 に示す。これらの図 より、実測値(プロット)とシミュレーション結果(ラ イン)は良好に一致した傾向を示しており、本残留応力 z x = 90° = 180° = 270° y 5150J-weld layer 4948 47 43 44 45 46 231139 40 41 42 22 10 35 36 37 38 21 9 32 33 34 19 20 8 30 31 29 18 27 28 175 24 25 26 164 14 13 15 3 1 12 2 - 291 - = 0° Odd number passes welding direction Even number passes welding direction Buttering layer 6 7 = 0° 解析の精度が良好であることがうかがえる。 Fig. 5 Stress measurement points of mock-up test by JNES (a) Line 1 (b) Line 2 (c) Line 3 Fig. 6 Comparison of residual stress distribution in J-welds r 留応力分布に及ぼす影響はそれほど顕著ではなかった。 また、ここで見られた違いは円周多層溶接パスに伴う炉 内計装筒の倒れ変形に関連して生じていることが示唆さ れた。取付角度の影響に関する検討結果の代表例として、 最大主応力分布を比較したものをFig. 7およびFig. 8に示 す。Fig. 7 は溶接線方向中央部を含む断面、Fig. 8は溶接 始終端を含む断面、でそれぞれ比較したものである。こ れら最大主応力分布は取付角度によらずほぼ似通った分 (d) Line 4 布となっており、原子炉容器炉内計装筒と下部鏡の取付 角度がJ溶接部残留応力分布に及ぼす影響はそれほど顕 著でないことが示された。 z =180° =0° (e) Line 5 r (a) BMI mounting angle is 0° (b) BMI mounting angle is 15° (f) Line 6 z (c) BMI mounting angle is 30° (g) Line 7 Fig. 6 Continued 各取付角度におけるJ 溶接部残留応力分布特性を詳細 =180° =0° r r に比較した結果、取付角度が大きくなるにつれて、周方 (d) BMI mounting angle is 45° 向残留応力は全体的にやや小さくなり、溶接金属部と炉 Fig. 7 Effect of BMI mounting angle on distribution of 内計装筒の境界近傍で軸方向残留応力が大きくなるなど maximum principal stress in J-welds (weld の傾向が見られたが、全体として取付角度がJ 溶接部残 center part) - 292 - z =180° =0° =180° =0° z r r (a) BMI mounting angle is 0° (b) BMI mounting angle is 15° (c) BMI mounting angle is 30° (d) BMI mounting angle is 45° Fig. 8 Effect of BMI mounting angle on distribution of maximum principal stress in J-welds (weld start/end part) :.原子炉容器炉内計装筒補修溶接部の残 留応力解析 3.1 数値解析モデル 基本的には先と同様のモデルに対して、炉内計装筒の 周辺の一部を直線状の溶接ビードによって部分補修を行 う場合を想定する(Fig. 9)。なお、補修溶接時の肉盛溶接 はニッケル基合金用溶接材料を用いて行う。比較のため、 低合金鋼側に先にバタリングした後で肉盛溶接を行うテ z =180° =0° z =180° =0° z =180° =0° z =180° =0° r- 293 - r r r ンパービード溶接を想定した条件(Fig. 10(a))と下側か ら順次肉盛溶接を行う条件(Fig. 10(b))の2 条件を設定 した。どちらも各パスでの溶接入熱条件は等しく溶接電 流140A、溶接速度2mm/sとしている。 (a) Dissimilar welded structure (Unit : mm) (b) Configuration of groove geometry for repair welding Fig. 9 Finite element model of repair welding (a) With buttering (temper bead welding) (b) Without buttering Fig. 10 Weld pass sequence conditions 3363233 31 21 129 8 7 6 35 30 29 34 18 28 17 27 26 25 14 24 13 23 22 11 363233 31 23 1613 12 6 7 35 30 29 34 28 20 19 15 27 26 25 8 24 9 10 11 101 45 3 5 21 314 1226.31615 16 19 20 217 18 21 22 463.2 部分補修溶接部の残留応力分布特性 これら2 つの積層条件で最終パスまで肉盛溶接を行っ た後の残留応力分布をFig. 11およびFig. 12に比較して示 す。Fig. 11 には溶接線方向残留応力を、Fig. 12 には板幅 方向残留応力を示しており、いずれも(a)テンパービード 溶接を想定した場合、(b)テンパービード溶接を想定して いない場合、である。これらの結果を見ると、最終パス まで積層した後の残留応力分布は積層順序によって大き な違いは見られない。これは、溶接による残留応力は最 終パスの影響をより顕著に受けるためであると考えられ る。実際、積層過程での残留応力分布を比較した結果、 残留応力分布の発生過程は異なっていた。しかしながら、 最終層近傍の積層順序がおよそ等しいために、最終的な 残留応力分布に積層順序の影響が顕著に現れなかったと 考えられる。 以上のように、テンパービード溶接を想定した場合と そうでない場合で残留応力分布に関しては大きな違いは 見られなかった。テンパービード溶接法では熱影響部の 組織改善、硬さ軽減の観点から適正な積層順序を選定す ると考えられるため、その結果として材料の降伏応力に 起因した高い引張応力の軽減には有効となっていると考 えられるが、積層順序の変化によってさらに効果的な残 留応力の軽減は期待できないことが示唆された。すなわ ち、テンパービード補修溶接工法を適用する際には、組 織改善・硬さ軽減の観点から適正な施工条件を選定する ことが重要であるといえる。 (b) Without buttering Fig. 11 Distribution of residual longitudinal stress (a) With buttering (temper bead welding) (b) Without buttering Fig. 12 Distribution of residual transverse stress 4.結言 本検討では、原子炉容器炉内計装筒と下部鏡との部分 差込溶接(J 溶接)部の残留応力分布に及ぼす炉内計装筒 の取付角度の影響や今後の発生が懸念される応力腐食割 れに対する補修時のテンパービード溶接部の残留応力分 布について数値解析によって検討した。本残留応力解析 の精度は実測値との比較によって十分に検証されており、 本検討で得られた知見は高い信頼性を有していると考え られる。コンピュータを援用した数値シミュレーション 技術の今後のますますの活用が期待される。 参考文献 [1] 日本原子力技術協会;_PWR 炉内構造物点検評価ガ イドライン[原子炉容器炉内計装筒]”、JANTI-VIP-09 圧力容器鋼(SQV2A)のテンパービード溶接法に関 する研究”、溶接・非破壊検査技術センター技術レビ [4] 岡野成威、川口明敬、伊藤真介、望月正人、_テンパ ービード工法による異材管継手内面補修溶接部の残 留応力解析”、圧力技術、Vol. 53(2015)、pp. 179-186. (a) With buttering (temper bead welding) (2009). [2] 水野亮二、B. Peter、L. Miroslaw、松田福久;_原子炉 ュー、Vol. 1(2005)、pp. 3-7. [3] 原子力安全基盤機構;_複雑形状機器配管健全性実証 (IAF)事業溶接残留応力解析評価データ集容器貫通 部溶接部(差込み継手)”,JNES-RE-2012-0008,(2012). - 294 - 炉内計装筒管台溶接部およびその補修溶接時を 想定した残留応力解析 望月 正人,Masahito MOCHIZUKI,岡野 成威,Shigetaka OKANO,柏山 忠義,Tadayoshi KASHIYAMA,丹羽 悠介,Yusuke NIWA,亀山 雅司,Masashi KAMEYAMA,中野 守人,Morihito NAKANO
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