ボルト簡易診断法の開発研究
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カテゴリ: 第14回
1.緒言
2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル天井落下事故は、天井板を固定するために用いられていたケミカルアンカーボルトの施工不良や経年劣化が落下の原因であると推定されている。 一方、原子力発電所においても機器・構造物をコンクリート基礎に固定するため、様々なボルトが用いられている。具体的には、埋め込み基礎ボルトと後打ちアンカに大別され、後打ちアンカには、アンカとコンクリートを樹脂で固めて固定するケミカルアンカとアンカの打ち込みによってアンカ先端をテーパー化して固定するメカニカルアンカがある。
原子力発電所の機器・構造物の安全性・信頼性を確保する観点から、これらのボルトの施工不良や経年劣化を簡易に診断する検査技術のニーズが高まっており、打音検査時のボルトの固有周波数を音響センサでピックアッ プして診断する技術の開発が進められている。 本研究では、音響(AE)センサを用いた打音検査(以下、AE法)によるボルト診断を実機適用するにあたり必要となるボルト診断のデータベースを整備した。まず、ケミカルアンカ(サイズ:M16,M20)についてのデータベースを構築し、次にアンカーボルト全般への適用性を確認した。 また、計測試験では実現が困難なアンカーボルトに対してデータ解析により補間できるよう、FEMを用いた理論解析と計測試験との対応について評価した。
2.AE法の特徴と研究結果の概要 2.1 AE法の特徴 AE法は、図1に示すようにAEセンサをナット側面 部に接触させ、ハンマー等によりナット対面を打撃する 簡単な操作で、ボルトの状態や周囲からの拘束の変化を 検出する方法である。装置が軽量で、周辺環境(騒音等) に影響を受けにくいという特徴を有している。AEセン サで取得した打音信号を周波数解析し、最大強度の30% 強度ラインを超える固有周波数(評価ピーク)を判別し、 ボルト診断に利用する。 本方法は、検査員の熟練度に依存しない客観的な診断 を可能とし、また検査結果のデジタル保存・データベー ス管理ができるため、検査の合理化につながると考えら れる。 図1 測定・解析方法 - 33 - 2.2 ケミカルアンカ模擬試験体の作製 AE法によるボルト診断データ取得の計測試験を行う ため、図2に示すようなケミカルアンカの施工不良模擬 試験体と経年劣化模擬試験体を作製した。 図2 試験体(例) 2.3 ケミカルアンカ計測試験結果 模擬試験体の一例として、図3に施工不良模擬試験体 (M16)のうち、上向き施工時の樹脂量を変化させた周波数 分布を示す。健全な試験体では評価ピークの周波数が 6KHz 程度であるのに対し、樹脂量を減少させた試験体で は評価ピークの周波数が樹脂量に比例し低下した。 図3 上向き樹脂量変化の周波数分布 図4に計測試験結果のまとめ(M16)を示す。健全な ケミカルアンカ試験体の固有周波数が6KHz 程度である のに対し、施工不良および経年劣化を模擬した試験体で は、概ね固有周波数が低下した。 計測試験はM16およびM20の2種類のケミカルアン カで実施した。結果は、どちらも施工不良および経年劣 化を模擬した試験体の固有周波数が健全を模擬した試験 体より低下することがわかり、今後の診断において重要 な役割を果たすことから、劣化と固有周波数の関係をデ ータベース化した。 2.4 メカニカルアンカおよび基礎ボルトへの適用性 AE法がケミカルアンカ以外のメカニカルアンカおよ び基礎ボルトに適用可能かを確認するため、ケミカルア ンカの場合と同様に模擬試験体による計測試験を行った。 その結果メカニカルアンカの締付トルク低下を模擬し た試験体では、締付トルクの低下に伴い固有周波数も低 下した。また、基礎ボルトのボルト腐食を模擬した試験 体では、腐食の程度が大きくなるに従い固有周波数が 徐々に低下した。 以上から、メカニカルアンカおよび基礎ボルトについ てもAE法により腐食および劣化の検知が可能であり、 ボルト全般への診断手法として適用できることを確認し た。 3.まとめ AE法を供用中の原子力発電所のケミカルアンカの劣 化診断に適用するため、過去に経験した、あるいは今後 想定される施工不良状態、経年劣化状態を計測試験およ び理論解析から評価し、今後診断を行う上で必要となる データベースを構築した。 今後は、コンクリートの加水分解を模擬した試験体で、 劣化のデータベースを拡充させるとともに、浜岡原子力 発電所1,2号機で取得した実機ケミカルアンカのAE 法による計測データを解析評価する。将来的には浜岡原 子力発電所3~5号機のボルト管理への適用を目指す。 - 34 - 図4 計測試験結果のまとめ 2.5 解析試験結果 FEMを用いて動的応答解析を行った結果、計測試験と 僅かな数値の違いはあったが、理論解析により計測試験 を概ねシミュレーションできることを確認した。 ボルト簡易診断法の開発研究 松井 計雄,Kazuo MATSUI,藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,小川 良太,Ryouta OGAWA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル天井落下事故は、天井板を固定するために用いられていたケミカルアンカーボルトの施工不良や経年劣化が落下の原因であると推定されている。 一方、原子力発電所においても機器・構造物をコンクリート基礎に固定するため、様々なボルトが用いられている。具体的には、埋め込み基礎ボルトと後打ちアンカに大別され、後打ちアンカには、アンカとコンクリートを樹脂で固めて固定するケミカルアンカとアンカの打ち込みによってアンカ先端をテーパー化して固定するメカニカルアンカがある。
原子力発電所の機器・構造物の安全性・信頼性を確保する観点から、これらのボルトの施工不良や経年劣化を簡易に診断する検査技術のニーズが高まっており、打音検査時のボルトの固有周波数を音響センサでピックアッ プして診断する技術の開発が進められている。 本研究では、音響(AE)センサを用いた打音検査(以下、AE法)によるボルト診断を実機適用するにあたり必要となるボルト診断のデータベースを整備した。まず、ケミカルアンカ(サイズ:M16,M20)についてのデータベースを構築し、次にアンカーボルト全般への適用性を確認した。 また、計測試験では実現が困難なアンカーボルトに対してデータ解析により補間できるよう、FEMを用いた理論解析と計測試験との対応について評価した。
2.AE法の特徴と研究結果の概要 2.1 AE法の特徴 AE法は、図1に示すようにAEセンサをナット側面 部に接触させ、ハンマー等によりナット対面を打撃する 簡単な操作で、ボルトの状態や周囲からの拘束の変化を 検出する方法である。装置が軽量で、周辺環境(騒音等) に影響を受けにくいという特徴を有している。AEセン サで取得した打音信号を周波数解析し、最大強度の30% 強度ラインを超える固有周波数(評価ピーク)を判別し、 ボルト診断に利用する。 本方法は、検査員の熟練度に依存しない客観的な診断 を可能とし、また検査結果のデジタル保存・データベー ス管理ができるため、検査の合理化につながると考えら れる。 図1 測定・解析方法 - 33 - 2.2 ケミカルアンカ模擬試験体の作製 AE法によるボルト診断データ取得の計測試験を行う ため、図2に示すようなケミカルアンカの施工不良模擬 試験体と経年劣化模擬試験体を作製した。 図2 試験体(例) 2.3 ケミカルアンカ計測試験結果 模擬試験体の一例として、図3に施工不良模擬試験体 (M16)のうち、上向き施工時の樹脂量を変化させた周波数 分布を示す。健全な試験体では評価ピークの周波数が 6KHz 程度であるのに対し、樹脂量を減少させた試験体で は評価ピークの周波数が樹脂量に比例し低下した。 図3 上向き樹脂量変化の周波数分布 図4に計測試験結果のまとめ(M16)を示す。健全な ケミカルアンカ試験体の固有周波数が6KHz 程度である のに対し、施工不良および経年劣化を模擬した試験体で は、概ね固有周波数が低下した。 計測試験はM16およびM20の2種類のケミカルアン カで実施した。結果は、どちらも施工不良および経年劣 化を模擬した試験体の固有周波数が健全を模擬した試験 体より低下することがわかり、今後の診断において重要 な役割を果たすことから、劣化と固有周波数の関係をデ ータベース化した。 2.4 メカニカルアンカおよび基礎ボルトへの適用性 AE法がケミカルアンカ以外のメカニカルアンカおよ び基礎ボルトに適用可能かを確認するため、ケミカルア ンカの場合と同様に模擬試験体による計測試験を行った。 その結果メカニカルアンカの締付トルク低下を模擬し た試験体では、締付トルクの低下に伴い固有周波数も低 下した。また、基礎ボルトのボルト腐食を模擬した試験 体では、腐食の程度が大きくなるに従い固有周波数が 徐々に低下した。 以上から、メカニカルアンカおよび基礎ボルトについ てもAE法により腐食および劣化の検知が可能であり、 ボルト全般への診断手法として適用できることを確認し た。 3.まとめ AE法を供用中の原子力発電所のケミカルアンカの劣 化診断に適用するため、過去に経験した、あるいは今後 想定される施工不良状態、経年劣化状態を計測試験およ び理論解析から評価し、今後診断を行う上で必要となる データベースを構築した。 今後は、コンクリートの加水分解を模擬した試験体で、 劣化のデータベースを拡充させるとともに、浜岡原子力 発電所1,2号機で取得した実機ケミカルアンカのAE 法による計測データを解析評価する。将来的には浜岡原 子力発電所3~5号機のボルト管理への適用を目指す。 - 34 - 図4 計測試験結果のまとめ 2.5 解析試験結果 FEMを用いて動的応答解析を行った結果、計測試験と 僅かな数値の違いはあったが、理論解析により計測試験 を概ねシミュレーションできることを確認した。 ボルト簡易診断法の開発研究 松井 計雄,Kazuo MATSUI,藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,小川 良太,Ryouta OGAWA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE