マルチコプタの屋内飛行システムに関する一提案
公開日:
カテゴリ: 第14回
1.緒言
近年、 空撮や農薬散布などの分野だけでなく、 作業が容易で安全、費用が安価、時間が短い、信頼性の高いデータを取得可能、目視困難な場所で可能(1)などの理由で、 インフラの点検や災害救助などの分野でも無人航空機が 広く利用されている。 特に災害救助の分野では、 災害現場に危険物が存在し人による活動が難しい場合や、交通経路の寸断により現地に人が近づけない場合などに無人機が使用されつつある(2)。また、UAVは屋外だけでなく、屋内や閉鎖空間内での観測・調査への運用が期待されている。その一例として、トンネル内部の壁面の打音検査(3)や建物内の警備への利用が提案されている。 室内で運用される無人航空機としては、ヘリコプタの一種であるマルチコプタ(マルチロータヘリコプタ)がある。屋外でマルチコプタを運用する場合、GPSによる位置制御が利用でき、自動操縦も可能である。しかしながらマルチコプタを屋内で運用する場合、GPS衛星から の電波が遮断されるため、GPSによる位置制御が使用できない。また、屋外環境とはちがい、屋内では壁面や什器など、マルチコプタの飛行にとって障害物となる物品 が非常に多い。屋内でのマルチコプタの自動操縦を実現するためには、位置情報の収得と障害物の検出・回避が必須である。我々はこれまでに、レーザ光を照射し、対象物からの反射光を利用して距離を検知するLIDAR (Light Detection And Ranging : ライダ)をマルチコプタに搭載し、障害物の検出と回避を行う装置を開発した。 本研究では、実験機体での障害物回避実験の結果を報告し、LIDARとLRF (Laser Range Finder)及びAR Markerを用いた屋内飛行システムを提案する。
2.実験装置および実験
試作した実験装置を図1に示す。実験機体にはenRoute社製のZION-PG560を使用した。実験機体には二台の3D Robotics社のAPM2.6が搭載されており、飛行制御プログラム Arducopter3.2.1を入れたAPM2.6をFC (Flight Controller)、衝突回避プログラムを入れた APM2.6をOAS(Obstacle Avoidance System)と呼ぶ。機体上面にGarmin社のLIDARを前,右,左の三方向に向けて設置しており、それぞれで距離を計測しOASにI2C方式で送信している。 図 2 に示すように,ホバリング状態の実験機に板を近づけたところ、LIDARが板を検出した。その結果をもとにOAS が回避命令をFCに伝え、FCが機体姿勢を制御することで、板を避ける方向に移動した。同様の動作は、取り付けた3つのLIDARすべてで確認できた。 Fig. 2 Experimental Scene
3.LIDAR/LRFとAR Makerの連携による屋内飛行システム
今回使用したLIDARは、センサ正面50mまでの間にある障害物までの距離を計測できるセンサである。そのため、早期に障害物を検出することはできるが、センサ正面以外にある障害物は検出できない。一方、同様の原理で広い範囲の障害物を一度に検出するセンサとしてLRFがある。図3にその検出例を示す。図3ではセンサの死角である後方の90度を除いた周囲270rにおけるセンサからトンネル壁面までの距離が表示されている。
Fig. 1 Experimental setup Fig. 3 Example Data of LRF
LIDARやLRFでは、センサを中心とした障害物までの距離が測定でき、その結果をもとに地図情報を製作することができる。しかしトンネルのような長大な屋内空間であれば、センサの測定範囲しか情報が取れない。LRF の場合は、5mから30mが測定範囲である場合が多く、それより先の情報は得られない。長いトンネルを移動する場合、得られた地図情報はセンサから相対的な位置情報であり、移動につれて入り口からの位置(距離)はわからなくなる。既知の屋内空間を自動操縦で移動するには、あらかじめ地図情報を用意し、それとセンサでの計測結果を照合する必要がある。 地図情報を簡易に収得する方法として、AR Makerの利用が挙げられる。事前に屋内空間の要所にAR Makerを配置しておき、その座標データをFCに持たせることで、LIDAR/LRFによる障害物や壁面からの距離情報と、AR Makerによる位置情報から、GPSに頼らない位置制御が可能となる。これらのセンサ情報の融合におり、屋内空間でも障害物回避を含めたマルチコプタの自動航行が実現できる。 4.結言
マルチコプタを屋内で運用するための障害物検出・回避システムとしてLIDARの使用を提案した。LIDARの出力を用いてFCに回避命令を与えることで、障害物の回避に成功した。 障害物や壁面を検出するLIDARおよびLRFに加えて、AR Makerを付加することで、位置情報の収得を実現し、屋内空間での自動航行を実現する屋内飛行システムを提案した。 今後、提案方式を実装し、性能評価を行う。 参考文献 [1] 出水享,_無人飛行機を利用したダム堤体の安全点検 システムの開発”,一般社団法人九州地方計画協会平 成24年度公益支援事業報告書(調査・研究活動) [2] 北野幸宏,_UAVを用いた空撮とその利用について”, 中国地方建設技術開発交流会2015(島根県会場) [3] https://www.c-robotech.info/平成27年度現場検証技術 db-1/平成27年度トンネル維持管理部会db/ マルチコプタの屋内飛行システムに関する一提案 三輪 昌史,Masafumi MIWA,佐々木 隆志,Takashi SASAKI,松井 隆,Takashi MATSUI
近年、 空撮や農薬散布などの分野だけでなく、 作業が容易で安全、費用が安価、時間が短い、信頼性の高いデータを取得可能、目視困難な場所で可能(1)などの理由で、 インフラの点検や災害救助などの分野でも無人航空機が 広く利用されている。 特に災害救助の分野では、 災害現場に危険物が存在し人による活動が難しい場合や、交通経路の寸断により現地に人が近づけない場合などに無人機が使用されつつある(2)。また、UAVは屋外だけでなく、屋内や閉鎖空間内での観測・調査への運用が期待されている。その一例として、トンネル内部の壁面の打音検査(3)や建物内の警備への利用が提案されている。 室内で運用される無人航空機としては、ヘリコプタの一種であるマルチコプタ(マルチロータヘリコプタ)がある。屋外でマルチコプタを運用する場合、GPSによる位置制御が利用でき、自動操縦も可能である。しかしながらマルチコプタを屋内で運用する場合、GPS衛星から の電波が遮断されるため、GPSによる位置制御が使用できない。また、屋外環境とはちがい、屋内では壁面や什器など、マルチコプタの飛行にとって障害物となる物品 が非常に多い。屋内でのマルチコプタの自動操縦を実現するためには、位置情報の収得と障害物の検出・回避が必須である。我々はこれまでに、レーザ光を照射し、対象物からの反射光を利用して距離を検知するLIDAR (Light Detection And Ranging : ライダ)をマルチコプタに搭載し、障害物の検出と回避を行う装置を開発した。 本研究では、実験機体での障害物回避実験の結果を報告し、LIDARとLRF (Laser Range Finder)及びAR Markerを用いた屋内飛行システムを提案する。
2.実験装置および実験
試作した実験装置を図1に示す。実験機体にはenRoute社製のZION-PG560を使用した。実験機体には二台の3D Robotics社のAPM2.6が搭載されており、飛行制御プログラム Arducopter3.2.1を入れたAPM2.6をFC (Flight Controller)、衝突回避プログラムを入れた APM2.6をOAS(Obstacle Avoidance System)と呼ぶ。機体上面にGarmin社のLIDARを前,右,左の三方向に向けて設置しており、それぞれで距離を計測しOASにI2C方式で送信している。 図 2 に示すように,ホバリング状態の実験機に板を近づけたところ、LIDARが板を検出した。その結果をもとにOAS が回避命令をFCに伝え、FCが機体姿勢を制御することで、板を避ける方向に移動した。同様の動作は、取り付けた3つのLIDARすべてで確認できた。 Fig. 2 Experimental Scene
3.LIDAR/LRFとAR Makerの連携による屋内飛行システム
今回使用したLIDARは、センサ正面50mまでの間にある障害物までの距離を計測できるセンサである。そのため、早期に障害物を検出することはできるが、センサ正面以外にある障害物は検出できない。一方、同様の原理で広い範囲の障害物を一度に検出するセンサとしてLRFがある。図3にその検出例を示す。図3ではセンサの死角である後方の90度を除いた周囲270rにおけるセンサからトンネル壁面までの距離が表示されている。
Fig. 1 Experimental setup Fig. 3 Example Data of LRF
LIDARやLRFでは、センサを中心とした障害物までの距離が測定でき、その結果をもとに地図情報を製作することができる。しかしトンネルのような長大な屋内空間であれば、センサの測定範囲しか情報が取れない。LRF の場合は、5mから30mが測定範囲である場合が多く、それより先の情報は得られない。長いトンネルを移動する場合、得られた地図情報はセンサから相対的な位置情報であり、移動につれて入り口からの位置(距離)はわからなくなる。既知の屋内空間を自動操縦で移動するには、あらかじめ地図情報を用意し、それとセンサでの計測結果を照合する必要がある。 地図情報を簡易に収得する方法として、AR Makerの利用が挙げられる。事前に屋内空間の要所にAR Makerを配置しておき、その座標データをFCに持たせることで、LIDAR/LRFによる障害物や壁面からの距離情報と、AR Makerによる位置情報から、GPSに頼らない位置制御が可能となる。これらのセンサ情報の融合におり、屋内空間でも障害物回避を含めたマルチコプタの自動航行が実現できる。 4.結言
マルチコプタを屋内で運用するための障害物検出・回避システムとしてLIDARの使用を提案した。LIDARの出力を用いてFCに回避命令を与えることで、障害物の回避に成功した。 障害物や壁面を検出するLIDARおよびLRFに加えて、AR Makerを付加することで、位置情報の収得を実現し、屋内空間での自動航行を実現する屋内飛行システムを提案した。 今後、提案方式を実装し、性能評価を行う。 参考文献 [1] 出水享,_無人飛行機を利用したダム堤体の安全点検 システムの開発”,一般社団法人九州地方計画協会平 成24年度公益支援事業報告書(調査・研究活動) [2] 北野幸宏,_UAVを用いた空撮とその利用について”, 中国地方建設技術開発交流会2015(島根県会場) [3] https://www.c-robotech.info/平成27年度現場検証技術 db-1/平成27年度トンネル維持管理部会db/ マルチコプタの屋内飛行システムに関する一提案 三輪 昌史,Masafumi MIWA,佐々木 隆志,Takashi SASAKI,松井 隆,Takashi MATSUI