パンケーキコイルを用いた高性能アレイ ECT 技術の開発
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カテゴリ: 第14回
1.緒言
現在,原子炉補機冷却水系統などの一次系関連系統設備における各種熱交換器(以下,補機と称す)では,チューブに対しボビンプローブを用いた ECT[1]が実施されている。検査手法をさらに高度化(例として,ボビンプローブでは原理的に困難である周方向欠陥の検出性向上)しつつ, 必要十分の機能を実装することを目的として,熱交換器向けにパンケーキコイルを用いて独自に工夫したコイル 配置にすることで、比較的低コストで良好な検出性を持つアレイECTプローブを開発した。 本論文では,アレイECTプローブの基幹技術であるコイル配置及びその周辺技術の特徴,アプリケーションとしてのアレイECTプローブの特徴,アレイECTプローブの検証試験の内容及びその結果について紹介する。
2.本技術の特徴 本技術は,パンケーキコイルの配置を工夫することで, クロスコイルと同じ特性を実現している。クロスコイル1 個に相当する励磁・検出チャンネルは,2つの励磁用コイル,及び 2 つの検出用コイルを互いに斜め配置することにより構成されており,これらを 1 チャンネルとして扱う。斜めに配置された 2 つの励磁コイルにより,斜め方向の渦電流が励起されるため,クロスコイルと同様に周 方向及び軸方向双方の欠陥検出及び識別が可能となる。 このチャンネルを構成するコイル配置及び励起される渦電流のイメージをFig.1 に示す。
Fig.1 Images of coil configurations and diagonal eddy current
欠陥検出時には2つの検出用コイルで検出される信号を逆変換して引き去ること により,クロスコイルと同様に周軸に一様なノイズ信号 (例:リフトオフ信号)の影響を低減することに成功している。このため,方向性を有する割れ等の微小欠陥の検出に強い特徴を持つ。このチャンネルは一般的なパンケーキコイルを平面配置することで構成されているため,高さ方向の制約がありクロスコイルの適用が難しい狭隘部に対しても,クロスコイルの代替として適用できる。 また,アレイプローブを構成するためのチャンネル多数配置に対応することを目的として,チャンネル切り替え用の電子基板(16ch まで対応可能)と,アドレス基板を開発した。これらの基板は,チャンネル多数配置時のワ イヤリング平易化のため,省線化が図られている。
3.アレイECTの応用例 (補機向けアレイECTプローブ) 補機チューブ向けに開発済みであるアレイECTプローブについて紹介する。16ch まで対応可能である利点を生 かし,アレイECT プローブは対象チューブの内径に応じ て合理的なチャンネル数を選択できる。また,補機チュ ーブの主要材料である SUS304,純チタン/耐食チタン合 金(TTH340,TTH340Pd等),銅(C7060,C6871等)に対し, 材質ごとの浸透深さと肉厚の関係から適正な周波数を設 定することにより適用可能である。さらに,使用探傷器 や検査条件が種々異なる場合にも対応できるよう,必要 な励磁電圧を一般的なデジタル探傷器で出力可能なレベ ル(多周波同時励磁時には,全周波総計で 20V 以下)とし ている。なお,過去のボビンデータとの連続性確保のた めに,ボビンコイルを搭載することも可能である。代表 例として,内径19mmのチューブに適用できる12chプロ ーブ全体の外観及びコイルホルダ部の外観をFig.2に示す。 Fig.2 Pictures of 12ch probe and coil region 4.補機向けアレイプローブの性能検証 4.1 シミュレーションによる製作前確認 補機向けアレイECT プローブを試作するに当たり,事 前にシミュレーションによりコイル形状や配置条件につ いて検討している。その後,周軸内外面の深さ20%t,長 さ5mm,幅0.3mmのスリットを検出できるかの目途付を するためシミュレーションを実施した。渦電流分布イメ ージをFig.3 に示す。なお試験片モデルはチューブの曲率 を考慮し,内径13.4mmから26mm の範囲で作成した。 Fig.3 Image of eddy current distribution シミュレーションの結果,内径によらず対象欠陥を 検出できる目途が得られたことから,この結果をもと に,コイルホルダ部の外径が12.2mm,15.4mm,18.5mm の3 種類のプローブを試作した。 4.2 モックアップによる検証 試作したプローブ及びモックアップを用いて,検出性 の確認試験を実施した。対象欠陥は深さ20%~100% の周軸内外面のスリット,外面減肉やピッティングと した。感度校正は打痕信号にて位相を0度に,深さ50% の周方向外面全周スリットにて感度を2.0Vに調整し た。試験環境をFig.4 に示す。 周軸内外面スリットに対する検出性確認のうち,最 も検出が難しい外面軸方向スリットの試験結果を Fig.5に示す。本結果より,すべての外面軸方向スリッ トについて,検出が可能であることが分かった。その 他のスリットの試験結果をFig.6に示す。これらもす べて,検出が可能であることが分かった。 その他の欠陥に対する検出性確認結果の代表例を Fig.7及びFig.8 に示す。いずれの欠陥も検出されてい ることが確認できる。これらの結果より,本プローブ は目標通りの検出性を有していることが確認された。 Fig.5 Test result of OD axial slits (100 to 400 kHz) - 338 - Fig.4 Testing situation Fig.6 Test result of OD circ., ID axial, ID circ. slits (400 kHz as the representative) Fig.7 Test result of 20% to 100% depth ID round bottom pits (200 kHz as the representative) Fig.8 Test result of 40% depth OD TSP wear (200 kHz as the representative) 5.結論 パンケーキコイルの配置を工夫することで,クロスコ イルと同等の特徴を持ちながら狭隘部にも適用可能な チャンネル構成を実現した。このチャンネルを活用し, 補機チューブに対して適用可能なアレイECT プロー - 339 - ブを開発した。開発したアレイECT プローブにて検出 性を確認する検証試験を実施し,深さ20%~100%の周 軸内外面のスリット,外面減肉やピッティングを検出 できることを確認した。今後,当社の持つ自動分析技 術を組み合わせることにより,より効果的なアプリケ ーションとすることを目指す。 参考文献 [1] 渦流探傷試験II,日本非破壊検査協会 パンケーキコイルを用いた高性能アレイ ECT 技術の開発 難波 一成,Kazushige NAMBA,長谷部 貴士,Takashi HASEBE,神納 健太郎,Kentaro JINNO,黒川 政秋,Masaaki KUROKAWA
現在,原子炉補機冷却水系統などの一次系関連系統設備における各種熱交換器(以下,補機と称す)では,チューブに対しボビンプローブを用いた ECT[1]が実施されている。検査手法をさらに高度化(例として,ボビンプローブでは原理的に困難である周方向欠陥の検出性向上)しつつ, 必要十分の機能を実装することを目的として,熱交換器向けにパンケーキコイルを用いて独自に工夫したコイル 配置にすることで、比較的低コストで良好な検出性を持つアレイECTプローブを開発した。 本論文では,アレイECTプローブの基幹技術であるコイル配置及びその周辺技術の特徴,アプリケーションとしてのアレイECTプローブの特徴,アレイECTプローブの検証試験の内容及びその結果について紹介する。
2.本技術の特徴 本技術は,パンケーキコイルの配置を工夫することで, クロスコイルと同じ特性を実現している。クロスコイル1 個に相当する励磁・検出チャンネルは,2つの励磁用コイル,及び 2 つの検出用コイルを互いに斜め配置することにより構成されており,これらを 1 チャンネルとして扱う。斜めに配置された 2 つの励磁コイルにより,斜め方向の渦電流が励起されるため,クロスコイルと同様に周 方向及び軸方向双方の欠陥検出及び識別が可能となる。 このチャンネルを構成するコイル配置及び励起される渦電流のイメージをFig.1 に示す。
Fig.1 Images of coil configurations and diagonal eddy current
欠陥検出時には2つの検出用コイルで検出される信号を逆変換して引き去ること により,クロスコイルと同様に周軸に一様なノイズ信号 (例:リフトオフ信号)の影響を低減することに成功している。このため,方向性を有する割れ等の微小欠陥の検出に強い特徴を持つ。このチャンネルは一般的なパンケーキコイルを平面配置することで構成されているため,高さ方向の制約がありクロスコイルの適用が難しい狭隘部に対しても,クロスコイルの代替として適用できる。 また,アレイプローブを構成するためのチャンネル多数配置に対応することを目的として,チャンネル切り替え用の電子基板(16ch まで対応可能)と,アドレス基板を開発した。これらの基板は,チャンネル多数配置時のワ イヤリング平易化のため,省線化が図られている。
3.アレイECTの応用例 (補機向けアレイECTプローブ) 補機チューブ向けに開発済みであるアレイECTプローブについて紹介する。16ch まで対応可能である利点を生 かし,アレイECT プローブは対象チューブの内径に応じ て合理的なチャンネル数を選択できる。また,補機チュ ーブの主要材料である SUS304,純チタン/耐食チタン合 金(TTH340,TTH340Pd等),銅(C7060,C6871等)に対し, 材質ごとの浸透深さと肉厚の関係から適正な周波数を設 定することにより適用可能である。さらに,使用探傷器 や検査条件が種々異なる場合にも対応できるよう,必要 な励磁電圧を一般的なデジタル探傷器で出力可能なレベ ル(多周波同時励磁時には,全周波総計で 20V 以下)とし ている。なお,過去のボビンデータとの連続性確保のた めに,ボビンコイルを搭載することも可能である。代表 例として,内径19mmのチューブに適用できる12chプロ ーブ全体の外観及びコイルホルダ部の外観をFig.2に示す。 Fig.2 Pictures of 12ch probe and coil region 4.補機向けアレイプローブの性能検証 4.1 シミュレーションによる製作前確認 補機向けアレイECT プローブを試作するに当たり,事 前にシミュレーションによりコイル形状や配置条件につ いて検討している。その後,周軸内外面の深さ20%t,長 さ5mm,幅0.3mmのスリットを検出できるかの目途付を するためシミュレーションを実施した。渦電流分布イメ ージをFig.3 に示す。なお試験片モデルはチューブの曲率 を考慮し,内径13.4mmから26mm の範囲で作成した。 Fig.3 Image of eddy current distribution シミュレーションの結果,内径によらず対象欠陥を 検出できる目途が得られたことから,この結果をもと に,コイルホルダ部の外径が12.2mm,15.4mm,18.5mm の3 種類のプローブを試作した。 4.2 モックアップによる検証 試作したプローブ及びモックアップを用いて,検出性 の確認試験を実施した。対象欠陥は深さ20%~100% の周軸内外面のスリット,外面減肉やピッティングと した。感度校正は打痕信号にて位相を0度に,深さ50% の周方向外面全周スリットにて感度を2.0Vに調整し た。試験環境をFig.4 に示す。 周軸内外面スリットに対する検出性確認のうち,最 も検出が難しい外面軸方向スリットの試験結果を Fig.5に示す。本結果より,すべての外面軸方向スリッ トについて,検出が可能であることが分かった。その 他のスリットの試験結果をFig.6に示す。これらもす べて,検出が可能であることが分かった。 その他の欠陥に対する検出性確認結果の代表例を Fig.7及びFig.8 に示す。いずれの欠陥も検出されてい ることが確認できる。これらの結果より,本プローブ は目標通りの検出性を有していることが確認された。 Fig.5 Test result of OD axial slits (100 to 400 kHz) - 338 - Fig.4 Testing situation Fig.6 Test result of OD circ., ID axial, ID circ. slits (400 kHz as the representative) Fig.7 Test result of 20% to 100% depth ID round bottom pits (200 kHz as the representative) Fig.8 Test result of 40% depth OD TSP wear (200 kHz as the representative) 5.結論 パンケーキコイルの配置を工夫することで,クロスコ イルと同等の特徴を持ちながら狭隘部にも適用可能な チャンネル構成を実現した。このチャンネルを活用し, 補機チューブに対して適用可能なアレイECT プロー - 339 - ブを開発した。開発したアレイECT プローブにて検出 性を確認する検証試験を実施し,深さ20%~100%の周 軸内外面のスリット,外面減肉やピッティングを検出 できることを確認した。今後,当社の持つ自動分析技 術を組み合わせることにより,より効果的なアプリケ ーションとすることを目指す。 参考文献 [1] 渦流探傷試験II,日本非破壊検査協会 パンケーキコイルを用いた高性能アレイ ECT 技術の開発 難波 一成,Kazushige NAMBA,長谷部 貴士,Takashi HASEBE,神納 健太郎,Kentaro JINNO,黒川 政秋,Masaaki KUROKAWA