ステンレス溶接金属内張り材への非破壊検査手法の適用性
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カテゴリ: 第14回
1.背景
浜岡原子力発電所5号機(以下、「5号機」という。) (定格電気出力 138 万 kW)は、経済産業大臣から の運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する 防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止 について」を受け、平成 23 年 5 月 14 日 10 時 15 分 に発電を停止し、原子炉減圧操作中のところ(平成 23 年 5 月 14 日 12 時 59 分に原子炉未臨界に到達し た後)、復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。 原子炉圧力容器の点検の結果、内張り材(強度部材となる原子炉圧力容器母材に溶着されたステンレス溶接金属であり、内張り材は強度部材ではない。) に孔食を確認した。孔食は喫水線およびアニュラス部近傍に分布しており、周方向には様相が概ね同じであることを確認した。原子炉圧力容器内張り材の点検結果を Fig.1 に示す。
Fig.1 Distribution of pitting corrosion at RPV inner surface
機器レベルの健全性評価結果から、確認された孔食は内張り材に留まっており、原子炉圧力容器の機能に対して海水混入による影響はなく、今後原子炉水の浄化を継続することにより腐食環境を抑制していくことで、原子炉圧力容器は継続使用可能であると評価している[1]。 今後、原子炉圧力容器の内張り材に確認された孔食について、継続的に監視する非破壊検査手法が望まれるため、超音波探傷試験および渦流探傷試験の適用性について報告する。 2.孔食検出技術の適用方案 2.1 観察された孔食の特徴 実機で確認された孔食について目視点検および表面研磨により確認した結果をFig.2に示す。確認された孔食は周方向には様相が概ね同じであり、孔食の直径は数 mm 程度であった。また、原子炉圧力容器下部において、内張り材と母材の境界の溶接溶け込み部までの約4mmが最も深い孔食であった。
Fig.2 Inspection result of RPV inner surface
2.2 内張り材内部の孔食に対する試験手法 原子炉圧力容器の内張り材の孔食は広範に分布することから、サイジング・マッピングとして、渦電流探傷試験(ECT)により原子炉圧力容器の内張り材内表面をスキャンして異常を迅速にスクリーニングし、異常が見つかった場合、UTによりサイジングすることの適用性を検討する。(1)渦電流探傷試験 (ECT)においては、孔食の表層の状況やおおよその深さ情報を比較的高速に1次スクリーニングすることを主眼とし、(2) 焦点型超音波探傷試験(UT) では孔食深さおよび大きさの正確な値の取得を目的とする。なお、母材部(低合金鋼)まで進展した孔食に対しては、原子炉圧力容器外表面からの超音波探傷試験技術の適用実績があり、本稿では扱わない。 3.試験片 非破壊検査技術の適用性の確認にあたり、実機原 子炉圧力容器の内張り材溶接金属部を模擬した 2 つ の試験片を異なるメーカにより準備した。模擬欠陥 は、クラッド厚さよりも浅いものと、母材部内まで 伸びている模擬孔を加工した。試験体1の模擬孔の 径は 0.5mm~6.0mm であり、溶接シームの境界及び 中間に等間隔に 40 種類の模擬孔を加工した(Fig.3)。 また、試験体2の模擬孔の径は 0.6mm~3.2mm であ り、比較的小さな範囲(約 40mm×40mm)にランダ ムに様々な模擬孔を 35 個配置した。 Fig.4 Test block 2 4.非破壊検査技術の適用性確認結果 4.1 渦電流探傷試験 渦電流探傷試験においては、大別して低周波プロ ーブと高周波プローブによる試験を行った。 一般にオーステナイトステンレス鋼内に2.5mmの 渦電流の浸透深さを得るには、約 30kHz の低周波プ ローブが適している。そのため、原子炉圧力容器ノ ズル部の異材継手に対し利用実績のある大きな低周 波プローブ(30kHz~80kHz)を用いて、模擬孔の深 さ検出能力を確認した。その結果、直径 1mm~2mm Fig.3 Test block 1 の模擬孔を検出することは出来るが、内張り材表面 粗さの影響を受け、当初期待したほど模擬孔に対す る深さ精度は得られなかった。ピーク信号対雑音比 (S/N 比)を低減するクラッドの表面粗さと、小さ な径の模擬孔の組み合わせの結果と考えられる。 一方、様々な様相を有す内張り材の溶接金属表面 にて 1mm 未満の表面積の欠陥を検出するには、高周 波プローブ(500kHz~2MHz)が適している。高周 波プローブによる試験の結果、試験体1と試験体2 の表面孔食分布がすべて検出可能であった。表面の 孔食分布の取得については、試験体2は試験体1に 比べて表面粗さにばらつきがあるにも関わらず、試 験結果はほぼ同じであった。高周波プローブによる 試験結果の一例を Fig.5 に示す。 探傷に要す時間は、UT の 1/4 程度であり、アレイ 探触子を用いることでさらに短縮が可能であり、目 視点検の代替手段として利用可能と考えられるが、 深さ精度に関しては検証が必要である。 Fig.5 Example of flaws with the probe at 2 MHz 4.2 超音波探傷試験 超音波探傷試験では、超音波ビームを小さな試験 対象に集束させるため、15MHz, 20MHz, 25MHz の焦 点型超音波探触子を準備した(Table.1)。 Table 1 UT transducer Parameters Center Frequency (MHz) Element Diameter (mm) Beam Focal Diameter at Focus (mm) Focal Distance (mm) Zone Length (mm) 15 9.53 31.75 0.34 8.26 20 6.35 25.40 0.30 8.72 25 6.35 31.75 0.30 10.90 Fig.6 Example of B-scan data また、溶接シーム境界の凹み部を含み、内張り材 表面の1.5mm程度の粗さは試験結果に大きな影響を 与えないことが確認され、条件の異なる試験体1と 試験体2の模擬孔がすべて検出された。なお、試験 体2において、浅い模擬孔に対し、溶接シーム境界 近傍の様な内張り材の表面に生ずる段差が底部から の反射波と干渉する可能性がある。 Table 2 UT probe depth measurement accuracy Probe Frequency (MHz) Test Standard block No. Average Error (mm) Deviation of error (mm) Maximum Underestimate (mm) 15 1 0.12 0.09 2 0.11 0.13 0.37 0.62 25 1 0.11 0.11 2 0.12 0.15 0.57 0.82 5.今後の課題 超音波探傷試験では、内張り材溶接金属の表面粗 さに係らず良好な深さ検出精度が得られた。一方、 渦電流探傷試験は、プローブ設計等による深さ検出 精度の向上について検討を進める必要がある。 参考文献 [1] 中部電力株式会社、 _「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第 4 回中間報告)”、 平成 27 年 12 月 - 344 - 初期の探触子の性能確認にて 15MHz と 20MHz の 探触子の性能はほぼ同じであったことから、詳細な 評価は 15MHz と 25MHz の探触子に対して実施した。 試験の結果、実機の圧力容器内張り材に確認され るような特に深く細い模擬孔に対しては、25MHz 探 触子が最も良い結果となった。25MHz 探触子からの B スキャン画像の一例を Fig.6 に示す。 ステンレス溶接金属内張り材への非破壊検査手法の適用性 今井 富康,Tomiyasu IMAI,黒野 晃平,Kouhei KURONO,丹羽 勇太,Yuuta NIWA,Jay L. Fisher,Adam C. Cobb,Alan R. Puchot
浜岡原子力発電所5号機(以下、「5号機」という。) (定格電気出力 138 万 kW)は、経済産業大臣から の運転停止要請「浜岡原子力発電所の津波に対する 防護対策の確実な実施とそれまでの間の運転の停止 について」を受け、平成 23 年 5 月 14 日 10 時 15 分 に発電を停止し、原子炉減圧操作中のところ(平成 23 年 5 月 14 日 12 時 59 分に原子炉未臨界に到達し た後)、復水器の細管損傷により原子炉施設内に海水が混入する事象が発生した。 原子炉圧力容器の点検の結果、内張り材(強度部材となる原子炉圧力容器母材に溶着されたステンレス溶接金属であり、内張り材は強度部材ではない。) に孔食を確認した。孔食は喫水線およびアニュラス部近傍に分布しており、周方向には様相が概ね同じであることを確認した。原子炉圧力容器内張り材の点検結果を Fig.1 に示す。
Fig.1 Distribution of pitting corrosion at RPV inner surface
機器レベルの健全性評価結果から、確認された孔食は内張り材に留まっており、原子炉圧力容器の機能に対して海水混入による影響はなく、今後原子炉水の浄化を継続することにより腐食環境を抑制していくことで、原子炉圧力容器は継続使用可能であると評価している[1]。 今後、原子炉圧力容器の内張り材に確認された孔食について、継続的に監視する非破壊検査手法が望まれるため、超音波探傷試験および渦流探傷試験の適用性について報告する。 2.孔食検出技術の適用方案 2.1 観察された孔食の特徴 実機で確認された孔食について目視点検および表面研磨により確認した結果をFig.2に示す。確認された孔食は周方向には様相が概ね同じであり、孔食の直径は数 mm 程度であった。また、原子炉圧力容器下部において、内張り材と母材の境界の溶接溶け込み部までの約4mmが最も深い孔食であった。
Fig.2 Inspection result of RPV inner surface
2.2 内張り材内部の孔食に対する試験手法 原子炉圧力容器の内張り材の孔食は広範に分布することから、サイジング・マッピングとして、渦電流探傷試験(ECT)により原子炉圧力容器の内張り材内表面をスキャンして異常を迅速にスクリーニングし、異常が見つかった場合、UTによりサイジングすることの適用性を検討する。(1)渦電流探傷試験 (ECT)においては、孔食の表層の状況やおおよその深さ情報を比較的高速に1次スクリーニングすることを主眼とし、(2) 焦点型超音波探傷試験(UT) では孔食深さおよび大きさの正確な値の取得を目的とする。なお、母材部(低合金鋼)まで進展した孔食に対しては、原子炉圧力容器外表面からの超音波探傷試験技術の適用実績があり、本稿では扱わない。 3.試験片 非破壊検査技術の適用性の確認にあたり、実機原 子炉圧力容器の内張り材溶接金属部を模擬した 2 つ の試験片を異なるメーカにより準備した。模擬欠陥 は、クラッド厚さよりも浅いものと、母材部内まで 伸びている模擬孔を加工した。試験体1の模擬孔の 径は 0.5mm~6.0mm であり、溶接シームの境界及び 中間に等間隔に 40 種類の模擬孔を加工した(Fig.3)。 また、試験体2の模擬孔の径は 0.6mm~3.2mm であ り、比較的小さな範囲(約 40mm×40mm)にランダ ムに様々な模擬孔を 35 個配置した。 Fig.4 Test block 2 4.非破壊検査技術の適用性確認結果 4.1 渦電流探傷試験 渦電流探傷試験においては、大別して低周波プロ ーブと高周波プローブによる試験を行った。 一般にオーステナイトステンレス鋼内に2.5mmの 渦電流の浸透深さを得るには、約 30kHz の低周波プ ローブが適している。そのため、原子炉圧力容器ノ ズル部の異材継手に対し利用実績のある大きな低周 波プローブ(30kHz~80kHz)を用いて、模擬孔の深 さ検出能力を確認した。その結果、直径 1mm~2mm Fig.3 Test block 1 の模擬孔を検出することは出来るが、内張り材表面 粗さの影響を受け、当初期待したほど模擬孔に対す る深さ精度は得られなかった。ピーク信号対雑音比 (S/N 比)を低減するクラッドの表面粗さと、小さ な径の模擬孔の組み合わせの結果と考えられる。 一方、様々な様相を有す内張り材の溶接金属表面 にて 1mm 未満の表面積の欠陥を検出するには、高周 波プローブ(500kHz~2MHz)が適している。高周 波プローブによる試験の結果、試験体1と試験体2 の表面孔食分布がすべて検出可能であった。表面の 孔食分布の取得については、試験体2は試験体1に 比べて表面粗さにばらつきがあるにも関わらず、試 験結果はほぼ同じであった。高周波プローブによる 試験結果の一例を Fig.5 に示す。 探傷に要す時間は、UT の 1/4 程度であり、アレイ 探触子を用いることでさらに短縮が可能であり、目 視点検の代替手段として利用可能と考えられるが、 深さ精度に関しては検証が必要である。 Fig.5 Example of flaws with the probe at 2 MHz 4.2 超音波探傷試験 超音波探傷試験では、超音波ビームを小さな試験 対象に集束させるため、15MHz, 20MHz, 25MHz の焦 点型超音波探触子を準備した(Table.1)。 Table 1 UT transducer Parameters Center Frequency (MHz) Element Diameter (mm) Beam Focal Diameter at Focus (mm) Focal Distance (mm) Zone Length (mm) 15 9.53 31.75 0.34 8.26 20 6.35 25.40 0.30 8.72 25 6.35 31.75 0.30 10.90 Fig.6 Example of B-scan data また、溶接シーム境界の凹み部を含み、内張り材 表面の1.5mm程度の粗さは試験結果に大きな影響を 与えないことが確認され、条件の異なる試験体1と 試験体2の模擬孔がすべて検出された。なお、試験 体2において、浅い模擬孔に対し、溶接シーム境界 近傍の様な内張り材の表面に生ずる段差が底部から の反射波と干渉する可能性がある。 Table 2 UT probe depth measurement accuracy Probe Frequency (MHz) Test Standard block No. Average Error (mm) Deviation of error (mm) Maximum Underestimate (mm) 15 1 0.12 0.09 2 0.11 0.13 0.37 0.62 25 1 0.11 0.11 2 0.12 0.15 0.57 0.82 5.今後の課題 超音波探傷試験では、内張り材溶接金属の表面粗 さに係らず良好な深さ検出精度が得られた。一方、 渦電流探傷試験は、プローブ設計等による深さ検出 精度の向上について検討を進める必要がある。 参考文献 [1] 中部電力株式会社、 _「中部電力株式会社浜岡原子 力発電所第5号機における復水器細管損傷の影響の 調査について(指示)」に対する報告について(第 4 回中間報告)”、 平成 27 年 12 月 - 344 - 初期の探触子の性能確認にて 15MHz と 20MHz の 探触子の性能はほぼ同じであったことから、詳細な 評価は 15MHz と 25MHz の探触子に対して実施した。 試験の結果、実機の圧力容器内張り材に確認され るような特に深く細い模擬孔に対しては、25MHz 探 触子が最も良い結果となった。25MHz 探触子からの B スキャン画像の一例を Fig.6 に示す。 ステンレス溶接金属内張り材への非破壊検査手法の適用性 今井 富康,Tomiyasu IMAI,黒野 晃平,Kouhei KURONO,丹羽 勇太,Yuuta NIWA,Jay L. Fisher,Adam C. Cobb,Alan R. Puchot