マイクロ波を用いた配管広域一括検査技術の開発

公開日:
カテゴリ: 第14回
1.緒言
原子力プラントに限らず大規模構造物において配管は重要な役割を担っており、その破損は当該構造物の主要機能の喪失のみならず重大事故にもつながり得るものである。配管には、内部流体との相互作用などにより種々の劣化が生じうるため、定期的な非破壊検査活動による劣化の早期検出とそれに基づく適切な対応が必要不可欠である。しかしながらその一方、現状主として用いられている非破壊検査技術は得られる情報が局所的であるため、長大な配管の検査には時として多大な費用と労力が必要となるということが、大規模構造物の保全活動のさらなる合理化・高信頼化に向けての課題となっている。このような状況を鑑み、著者の研究グループにおいては約15年前よりマイクロ波を用いた配管の広域一括探傷技術の開発研究を行っている[1-3]。これは管内に伝播するマイクロ波の伝播挙動は管内壁の様相に依存しうることに基づき、管内にパルスとして入射させたマイクロ波の反射及び透過の様相から管壁に存在するきずの検出を行うというものである。マイクロ波は管内をごく低損失かつ高速に伝播するため、原理的には配管の広域一括探傷が可能となる技術と期待され、また同様に配管の広域一括探傷技術であるガイド波と比して検査に用いる機器の取り付けが容易であり、原理的に管支持構造物の影響を受けないという特徴を有する。 本稿においては、著者の研究グループにおける、近年のマイクロ波探傷法に関する研究において得られた成果のいくつかを紹介する。
2.信号処理手法の開発[4]
管内を伝播するマイクロ波の伝播速度は周波数依存性 (分散)を有するため、管内にパルスとしてマイクロ波 を入射させた場合でも伝播距離と共にパルス波の形は 徐々に崩れ不明瞭なものとなってゆくという特徴がある。 そのため、マイクロ波探傷法においては遠方のきずから の反射波ほど信号が不明瞭なものとなってゆき、また反 射波の飛行時間(Time of Flight)を定量的に評価することが 難しくなる。 このような問題の解決のため、マイクロ波の伝播速度 の理論解に基づき、反射波を周波数成分に分解した後、 各成分の位相をマイクロ波の伝播距離に応じてずらした のちに再び時間領域の信号に変換することで、分散を補 償し、もって信号を明瞭化する信号処理手法を開発した。 当該信号処理は信号の明瞭化のみならずその処理過程に おいてきず位置を定量的に推定することも可能ならしめ るものである。
3.効率的なマイクロ波入射法の検討[5]
パルスとしてマイクロ波を管内に入射させるマイクロ波探傷法においては、広帯域にわたってマイクロ波を管内に効率的かつ単一の伝播モードが支配的となるように入射させることが明瞭なきず信号を得るために重要となる。従来これは口径が大であるほど困難であったのだが、 マイクロ波入射部に適切な曲率を施すことで、効率的に 管内にマイクロ波を入射・伝播させることが可能となる ことを明らかとし、対象とする管の口径に応じたマイク ロ波入射部の設計指針を提唱した。 る近年の研究成果を報告した。現状、対象とする配管の 径及び材質にも依存するものの、対象とするのが直管に 発生した減肉であれば、実機に発生する減肉のように端 マイクロ波を用いた配管内壁広域一括探傷技術に関す 4.長尺配管への適用性評価[6,7] 部がなだらかなものであったとしても、20 m程度の直管 マイクロ波探傷法による探傷可能距離評価のため、最 長約30 m の配管等を用いての測定試験を実施し、マイク ロ波入射部から25 mほど離れた箇所に配置した人工全周 減肉からの明瞭な信号を確認することに成功した。加え て、きずによる反射波がマイクロ波の伝播距離と共に減 衰する程度は、対象とする配管の口径と電磁気的特性、 そして管内表面の粗さに主として依存することを明らか とし、管内伝播マイクロ波エネルギーの減衰に基づく、 信号の減衰評価式を提唱した。評価式により得られた値 は、実際の探傷試験結果によるものと良好な一致を見せ るものであった。 を瞬時に検査することが可能[7]なレベルに達している。現 在、割れのようなさらに微細なきずに対しての検討を主 として進めているところである。 参考文献 [1] K. Sugawara, H. Hashizume, S. Kitajima, _Development of NDT method using electromagnetic waves”, JSAEM Studies in Applied Electromagnetics and Mechanics, Vol. 10, 2001, pp. 313-316. [2] H. Hashizume, T. Shibata, K. YuNi, _CracN detection method using electromagnetic waves”, Int. J. Appl. Electromag. Mech., Vol. 20, 2004, pp. 171-178. 5.軸方向割れ検出のためのTE モード伝播技 [3] K. Abbasi et al., _Prove the ability of microwave 術の開発[8] nondestructive method combined with signal processing 割れは減肉と並んで配管の重要な劣化であるが、マイ クロ波探傷法の観点からは、単純にその体積が小である ことによる検出の困難さに加えて、検出感度が割れの向 きに依存するという特徴がある。より具体的には、TMモ ードのマイクロ波に対しては周方向の割れの、TEモード のマイクロ波に対しては軸方向の割れの検出性が高いと いう特徴がある。これは管壁に誘導される電流の分布よ り容易に推察される事柄であるが、従来 TM モードのマ イクロ波は比較的容易に伝播させることが可能であった 一方で、TEモードのマイクロ波を伝播させることは難し く、よってマイクロ波を用いた配管広域一括探傷技術で は配管に発生することが多い軸方向を向いた割れの検出 性は高いとは言い難いものであった。 近年の研究により、管の周方向に等間隔にマイクロ波 の入射部を配置し、各入射部から同一強度・同位相のマ イクロ波を入射することにより、比較的広い周波数帯に わたって管内に TE モードのマイクロ波を伝播させられ ることを見出した。実際に当該形状のマイクロ波入射部 を製作し、約10 mの直管を用いた検証試験を行ったとこ ろ、従来は検出が困難であった軸方向スリットからの明 瞭な反射波を確認することができた。 to determine the position of a circumferential cracN in pipes”, Int. J. Appl. Electromag. Mech., Vol. 28, 2008, pp. 429-439. [4] Y. SaNai et al., _Nondestructive evaluation of wall thinning inside a pipe using the reflection of microwaves with the aid of signal processing”, Nondestr. Test. Eval., Vol. 27, 2012, pp. 171-184. [5] K. SasaNi et al., _Optimized microwave excitation probe for general application in NDT of wall thinning in metal pipes”, NDT&E International, Vol. 70, 2015, pp. 53-59. [6] K. SasaNi et al., _Demonstration of the applicability of nondestructive microwave testing to the long-range inspection of inner-surface cracNs in tubes”, Materials Transactions, Vol. 58, 2017, pp. 692-696. [7] K. SasaNi et al., _Experimental verification of long-range microwave pipe inspection of using straight pipes with lengths of 19?26.5 m”, NDT&E Int. (投稿中) [8] T. Katagiri et al., _Non-destructive testing using microwave in TE mode for detecting axial cracNs in a metal pipe”, Electromagnetic Nondestructive Evaluation (XX), IOS Press (受理済) - 346 - マイクロ波を用いた配管広域一括検査技術の開発 橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,遊佐 訓孝,NoritaNa YUSA,佐々木 幸太,Kota SASAKI,片桐 拓也,TaNuya KATAGIRI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)