振動を伴う環境下における渦電流を用いためっき厚測定
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カテゴリ: 第14回
1.緒言
亜鉛めっきは鋼板を腐食から守るためによく使われている。その厚さはめっきのコストと腐食の防止効果に影響を与える。したがって、鋼板のめっき厚は管理されていなければならない。現在、非破壊的なめっき厚の測定には蛍光X線や渦電流試験が適用されている。特にめっき製造ラインでは、高リフトオフに対応可能な蛍光X線が用いられている。このめっき工程においてめっき厚を管理にするにはめっき厚の測定結果をめっき厚制御装置へフィードバックする必要があり、めっき厚測定装置を制御装置の近くにおきたい欲求がある。しっかしながら、蛍光X線は装置が比較的大型であるため、制御装置から数十m下流に設置されている。一方で、渦電流試験は絶対値測定に劣るがセンサの小ささから測定の自由度が高い。しかしながら、ほぼセンサを試験体に接触して測定する必要がある[1-4]。めっき工程では鋼板が振動を伴って移動しているため、センサはめっき面から数十mm離す必要があり、既存の渦電流試験法の適用は困難である。本研究では高リフトオフ環境下で振動を伴うめっき工程においてめっき厚の測定が可能な渦電流試験の適用方法について検討を行う。まず、めっき厚とリフトオフの変動が測定結果に与える影響について数値解析を用いて考察する。次に、数値解析により得られた知見を実験で確認する。これにより、めっき工程への渦電流試験の提要可能性を示す。 2.数値解析 数値解析を用いてめっき厚とリフトオフの変動による位相特性の評価を試みた。試験体は厚さ1mmの鋼板表面に数μmの亜鉛層を持つ。センサは相互誘導差動型を用いた。使用したパラメータと値をTable1に示す。解析は周波数応答解析jω法を軸対象で行った。解析モデルの詳細については発表で述べる。Fig. 1 は励磁周波数10kHzの時の解析結果をまとめたものである。リフトオフが50mmのとき、めっき厚の信号変化は小さく、リフトオフが小さくなるにつれ、めっき厚の信号変化が大きくなっていることが確認できる。一方で、リフトオフが変化するときの位相の方向と、めっき厚が変化するときの位相の方向が異なっている。これらの位相の差は周波数によって異なることを数値解析で確認した。このことは、適切な周波数を選択することで、リフトオフ信号とめっき厚信号を分離して測定できる可能性を示している。
3.測定結果 実験に用いた装置を Fig. 2 に示す。実際のラインでは 製品が振動するが、本稿においてはセンサ側をリフトオフ 10±1mm、約 2Hz で振動させた。渦電流試験器は周波数を 10kHz に設定し、リフトオフ信号が渦電流試験器の X 成分に現れるよう移相器の位相を設定した。めっき厚が0, 6, 23μmの試験体を交換しながら測定を行った。測定結果をFig.3に示す。めっき厚に応じてY成分の信号が変化していることが確認できる。
4.結言 高リフトオフかつ振動を伴うめっき工程を想定した環境で、渦電流試験によるめっき厚の測定を試みた。渦電流試験の測定結果に与えるめっき厚とリフトオフの変動の影響を数値解析により評価した。これらの影響は周波数によって位相が変化し、その位相差が90度に近い値になる周波数範囲を求めた。実験において、その周波数範囲にある周波数を用いてめっき厚の異なる試験体を測定した。結果、めっき厚とリフトオフの変化に相関がある
Table 1 A list of the simulation conditions Plating thickness 0, 10, 30μm Liftoff 10, 20, 50mm Excitation frequency 1, 10, 100Hz Fig.1 Normalized simulation results at 10 kHz 50mm 20mm 10mm 0μm 10μm 30μm Fig.3 Measured waveforms with ±1mm vibration at 10 kHz Fig.2 A Photograph of experimental setup
信号を分離して測定できることを確認した。これにより、めっき工程で渦電流試験を用いためっき厚測定の可能性を示すことができた。 今後は、センサ形状の最適化について検討を行い、より高リフトオフ環境下における適用可能性について検討を行う。
参考文献 [1] John C. Moulder, Erol Uzal, and James H. Rose, Thickness and conductivity of metallic layers from eddy current measurements, Review of Scientific Instruments 63, 6 (1992), 3455-3465. [2] L. B Pedersen, K-A. Magnusson, and Y. Zhengsheng, Eddy current testing of thin layers using co-planar coils, Research in nondestructive evaluation 12, 1 (2000), 53-64. [3] Cheng-Chi. Tai, Characterization of coatings on magnetic metal using the swept-frequency eddy current method, Review of Scientific Instruments 71, 8 (2000), 3161-3167. [4] Bruchwald, Oliver, et al. Applications of High Frequency Eddy Current Technology for Material Characterization of Thin Coatings, Journal of Materials Science and Engineering A 6, 7-8 (2016), 185-191 6μm 0μm 23μm 振動を伴う環境下における渦電流を用いためっき厚測定 小坂 大吾,Daigo KOSAKA,守安 奎裕,Keisuke MORIYASU,柿下 和彦,Kazuhiko KAKISHITA,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,小山 文雄,Fumio KOYAMA
亜鉛めっきは鋼板を腐食から守るためによく使われている。その厚さはめっきのコストと腐食の防止効果に影響を与える。したがって、鋼板のめっき厚は管理されていなければならない。現在、非破壊的なめっき厚の測定には蛍光X線や渦電流試験が適用されている。特にめっき製造ラインでは、高リフトオフに対応可能な蛍光X線が用いられている。このめっき工程においてめっき厚を管理にするにはめっき厚の測定結果をめっき厚制御装置へフィードバックする必要があり、めっき厚測定装置を制御装置の近くにおきたい欲求がある。しっかしながら、蛍光X線は装置が比較的大型であるため、制御装置から数十m下流に設置されている。一方で、渦電流試験は絶対値測定に劣るがセンサの小ささから測定の自由度が高い。しかしながら、ほぼセンサを試験体に接触して測定する必要がある[1-4]。めっき工程では鋼板が振動を伴って移動しているため、センサはめっき面から数十mm離す必要があり、既存の渦電流試験法の適用は困難である。本研究では高リフトオフ環境下で振動を伴うめっき工程においてめっき厚の測定が可能な渦電流試験の適用方法について検討を行う。まず、めっき厚とリフトオフの変動が測定結果に与える影響について数値解析を用いて考察する。次に、数値解析により得られた知見を実験で確認する。これにより、めっき工程への渦電流試験の提要可能性を示す。 2.数値解析 数値解析を用いてめっき厚とリフトオフの変動による位相特性の評価を試みた。試験体は厚さ1mmの鋼板表面に数μmの亜鉛層を持つ。センサは相互誘導差動型を用いた。使用したパラメータと値をTable1に示す。解析は周波数応答解析jω法を軸対象で行った。解析モデルの詳細については発表で述べる。Fig. 1 は励磁周波数10kHzの時の解析結果をまとめたものである。リフトオフが50mmのとき、めっき厚の信号変化は小さく、リフトオフが小さくなるにつれ、めっき厚の信号変化が大きくなっていることが確認できる。一方で、リフトオフが変化するときの位相の方向と、めっき厚が変化するときの位相の方向が異なっている。これらの位相の差は周波数によって異なることを数値解析で確認した。このことは、適切な周波数を選択することで、リフトオフ信号とめっき厚信号を分離して測定できる可能性を示している。
3.測定結果 実験に用いた装置を Fig. 2 に示す。実際のラインでは 製品が振動するが、本稿においてはセンサ側をリフトオフ 10±1mm、約 2Hz で振動させた。渦電流試験器は周波数を 10kHz に設定し、リフトオフ信号が渦電流試験器の X 成分に現れるよう移相器の位相を設定した。めっき厚が0, 6, 23μmの試験体を交換しながら測定を行った。測定結果をFig.3に示す。めっき厚に応じてY成分の信号が変化していることが確認できる。
4.結言 高リフトオフかつ振動を伴うめっき工程を想定した環境で、渦電流試験によるめっき厚の測定を試みた。渦電流試験の測定結果に与えるめっき厚とリフトオフの変動の影響を数値解析により評価した。これらの影響は周波数によって位相が変化し、その位相差が90度に近い値になる周波数範囲を求めた。実験において、その周波数範囲にある周波数を用いてめっき厚の異なる試験体を測定した。結果、めっき厚とリフトオフの変化に相関がある
Table 1 A list of the simulation conditions Plating thickness 0, 10, 30μm Liftoff 10, 20, 50mm Excitation frequency 1, 10, 100Hz Fig.1 Normalized simulation results at 10 kHz 50mm 20mm 10mm 0μm 10μm 30μm Fig.3 Measured waveforms with ±1mm vibration at 10 kHz Fig.2 A Photograph of experimental setup
信号を分離して測定できることを確認した。これにより、めっき工程で渦電流試験を用いためっき厚測定の可能性を示すことができた。 今後は、センサ形状の最適化について検討を行い、より高リフトオフ環境下における適用可能性について検討を行う。
参考文献 [1] John C. Moulder, Erol Uzal, and James H. Rose, Thickness and conductivity of metallic layers from eddy current measurements, Review of Scientific Instruments 63, 6 (1992), 3455-3465. [2] L. B Pedersen, K-A. Magnusson, and Y. Zhengsheng, Eddy current testing of thin layers using co-planar coils, Research in nondestructive evaluation 12, 1 (2000), 53-64. [3] Cheng-Chi. Tai, Characterization of coatings on magnetic metal using the swept-frequency eddy current method, Review of Scientific Instruments 71, 8 (2000), 3161-3167. [4] Bruchwald, Oliver, et al. Applications of High Frequency Eddy Current Technology for Material Characterization of Thin Coatings, Journal of Materials Science and Engineering A 6, 7-8 (2016), 185-191 6μm 0μm 23μm 振動を伴う環境下における渦電流を用いためっき厚測定 小坂 大吾,Daigo KOSAKA,守安 奎裕,Keisuke MORIYASU,柿下 和彦,Kazuhiko KAKISHITA,橋本 光男,Mitsuo HASHIMOTO,小山 文雄,Fumio KOYAMA