マーカーによるドローンの屋内自律飛行
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
ドローンは屋外に置いて主として撮影、運搬、測量などの用途に広く使われるようになってきている。これらの用途においては使用者の目視による手動での操作とGPSを用いた測位による半自律的な飛行が組み合わせて用いられることが多い。すなわち観測可能性と測位可能性がドローンの屋外における重要な要素である。特に今後本格的な運用が開始される準天頂衛星を用いることで屋外においては数センチ―メートル級の精度での測位が可能となるため、ドローンの屋外における測位問題の多くは解決したと考えられる。 一方、屋内でのドローンの利用は、建物内の巡視やトンネル内の点検作業などへの応用が試みられてはいるものの、それほど進んでいるとは言えない。これは屋内ではGPSや準天頂衛星を用いた測位が難しいことと、障害物を避けるために複雑な飛行経路が求められることに起因する。これらの問題を解決する技術として標識や物体の持つ特徴を認識することによる目標の特定や、三次元空間地図を作成することによる自己位置推定(3D-SLAM,Simultaneous Localization and Mapping)などが試みられており、成果を上げている。物体認識については事前学習した識別器を組み込むことも可能ではあるが、多くの場合には認識システムとの間で継続的な映像伝送が必要である。3D-SLAMからは未知の空間での飛行制御において極めて有効な情報を豊富に得ることができるが、深度センサーと点群データをリアルタイムに処理するための高速な計算機が必要であり、それゆえ姿勢制御などに必要なリアルタイム性について改善の余地が大きい。 本稿では標識としてARマーカーを用いることで屋内における測位と制御を実現した実装例について紹介する。標識の撮影に使用した可視光カメラは一般的なスマートフォンに搭載されているものと同程度の性能のものであり、認識および制御に用いたマイコンも数千円で市販されているものである。多くのドローンには可視光カメラが標準で搭載されているため、本システムを既存システムに追加するにあたって必要となる費用とペイロードは軽微なものである。
2.全体構成
本システムの全体構成を図1に示す。フライトコントローラーにはDJI社のA2を用い、これに対してmbedマイコンよりAli,Elevator,Throttle.Rudder,フェイルセーフの各信号を与えた。ARマーカーの撮影および認識には軽量化のためスマートフォンGalaxy Nexusのロジックボードのみを取り出して使用した。
3.ARマーカーによる飛行経路の表示 本システムでは床面に設置した複数のARマーカーにより飛行経路を表示する。これらをドローンに搭載したカメラで撮影および認識することによりARマーカー対するドローンの相対的な位置および姿勢を推定し、そこから算出した制御信号をフライトコントローラ―に与えることで、予定した飛行経路を自律的に巡回させる。それぞれのARマーカーは次に訪れるべきマーカーがどの方向にあるかを示している。ARマーカーは「ガイドマーカー」と「ターゲットマーカー」の2種類を用意した(図2)。マーカーの外枠は幅3cm,一辺30cmの正方形である。ガイドマーカーは次に訪れるべきマーカーの方向を示す目的で設置される。ターゲットマーカーはドローンがその鉛直上方でマーカーからの高さを4mに保って一定時間ホバリングする。飛行エリア外にはエリア内に向けたガイドマーカーを設置することで、エリアを外れて飛行し続けることを防止した。
4.ナビゲーション動作 本システムでは複数のARマーカーを同時に認識するが、ナビゲーションには撮影した映像の進行方向で最初に認識されるマーカーのみである。マーカーに近づくに従ってまずマーカーの外枠が、次にマーカーの内部の形状が認識される。マーカーの外枠のみが認識されている間はマーカーに接近する方向にナビゲーションし、マーカーの内部が認識されるとマーカーの種類によって異なる動作をとる。認識したマーカーがガイドマーカーの場合は、マーカーの示す方向にナビゲーション先を変更する。認識したマーカーがターゲットマーカーの場合は、マーカーの鉛直上方まで移動しつつマーカーの示す進行方向にYaw(水平回転)する。この状態でしばらくホバリングした後、前進を開始する。一定時間マーカーが認識できなかった場合は最後のナビゲーション動作を逆にした制御信号を出すが、慣性航法によらないため、必ずしも正しく後戻りできるとは限らない。そのため予定したルートの外にはガイドマーカーを一定間隔で設置することで、ルートから逸脱した場合に備える。本システムは屋内での利用を前提としているため、外部からの風に流される影響は少ないと思われるが、今後は慣性航法と組み合わせることによる対策を取り入れたい。
5.今後の取り組み 本システムの開発期間中に3D-SLAMに必要な深度センサーを搭載したスマートフォンが複数発売され、同基板を容易に入手することができるようになった。深度センサ―は3次元空間地図の作成だけでなく、物体の形状を追跡することで慣性航法に代わって速度や加速度を高精度に得ることができるため、これを利用してルートから逸脱した場合の復帰動作を実装したいと考えている。“ “マーカーによるドローンの屋内自律飛行“ “佐々木 隆志,Takashi SASAKI,松井 隆,Takashi MATSUI
ドローンは屋外に置いて主として撮影、運搬、測量などの用途に広く使われるようになってきている。これらの用途においては使用者の目視による手動での操作とGPSを用いた測位による半自律的な飛行が組み合わせて用いられることが多い。すなわち観測可能性と測位可能性がドローンの屋外における重要な要素である。特に今後本格的な運用が開始される準天頂衛星を用いることで屋外においては数センチ―メートル級の精度での測位が可能となるため、ドローンの屋外における測位問題の多くは解決したと考えられる。 一方、屋内でのドローンの利用は、建物内の巡視やトンネル内の点検作業などへの応用が試みられてはいるものの、それほど進んでいるとは言えない。これは屋内ではGPSや準天頂衛星を用いた測位が難しいことと、障害物を避けるために複雑な飛行経路が求められることに起因する。これらの問題を解決する技術として標識や物体の持つ特徴を認識することによる目標の特定や、三次元空間地図を作成することによる自己位置推定(3D-SLAM,Simultaneous Localization and Mapping)などが試みられており、成果を上げている。物体認識については事前学習した識別器を組み込むことも可能ではあるが、多くの場合には認識システムとの間で継続的な映像伝送が必要である。3D-SLAMからは未知の空間での飛行制御において極めて有効な情報を豊富に得ることができるが、深度センサーと点群データをリアルタイムに処理するための高速な計算機が必要であり、それゆえ姿勢制御などに必要なリアルタイム性について改善の余地が大きい。 本稿では標識としてARマーカーを用いることで屋内における測位と制御を実現した実装例について紹介する。標識の撮影に使用した可視光カメラは一般的なスマートフォンに搭載されているものと同程度の性能のものであり、認識および制御に用いたマイコンも数千円で市販されているものである。多くのドローンには可視光カメラが標準で搭載されているため、本システムを既存システムに追加するにあたって必要となる費用とペイロードは軽微なものである。
2.全体構成
本システムの全体構成を図1に示す。フライトコントローラーにはDJI社のA2を用い、これに対してmbedマイコンよりAli,Elevator,Throttle.Rudder,フェイルセーフの各信号を与えた。ARマーカーの撮影および認識には軽量化のためスマートフォンGalaxy Nexusのロジックボードのみを取り出して使用した。
3.ARマーカーによる飛行経路の表示 本システムでは床面に設置した複数のARマーカーにより飛行経路を表示する。これらをドローンに搭載したカメラで撮影および認識することによりARマーカー対するドローンの相対的な位置および姿勢を推定し、そこから算出した制御信号をフライトコントローラ―に与えることで、予定した飛行経路を自律的に巡回させる。それぞれのARマーカーは次に訪れるべきマーカーがどの方向にあるかを示している。ARマーカーは「ガイドマーカー」と「ターゲットマーカー」の2種類を用意した(図2)。マーカーの外枠は幅3cm,一辺30cmの正方形である。ガイドマーカーは次に訪れるべきマーカーの方向を示す目的で設置される。ターゲットマーカーはドローンがその鉛直上方でマーカーからの高さを4mに保って一定時間ホバリングする。飛行エリア外にはエリア内に向けたガイドマーカーを設置することで、エリアを外れて飛行し続けることを防止した。
4.ナビゲーション動作 本システムでは複数のARマーカーを同時に認識するが、ナビゲーションには撮影した映像の進行方向で最初に認識されるマーカーのみである。マーカーに近づくに従ってまずマーカーの外枠が、次にマーカーの内部の形状が認識される。マーカーの外枠のみが認識されている間はマーカーに接近する方向にナビゲーションし、マーカーの内部が認識されるとマーカーの種類によって異なる動作をとる。認識したマーカーがガイドマーカーの場合は、マーカーの示す方向にナビゲーション先を変更する。認識したマーカーがターゲットマーカーの場合は、マーカーの鉛直上方まで移動しつつマーカーの示す進行方向にYaw(水平回転)する。この状態でしばらくホバリングした後、前進を開始する。一定時間マーカーが認識できなかった場合は最後のナビゲーション動作を逆にした制御信号を出すが、慣性航法によらないため、必ずしも正しく後戻りできるとは限らない。そのため予定したルートの外にはガイドマーカーを一定間隔で設置することで、ルートから逸脱した場合に備える。本システムは屋内での利用を前提としているため、外部からの風に流される影響は少ないと思われるが、今後は慣性航法と組み合わせることによる対策を取り入れたい。
5.今後の取り組み 本システムの開発期間中に3D-SLAMに必要な深度センサーを搭載したスマートフォンが複数発売され、同基板を容易に入手することができるようになった。深度センサ―は3次元空間地図の作成だけでなく、物体の形状を追跡することで慣性航法に代わって速度や加速度を高精度に得ることができるため、これを利用してルートから逸脱した場合の復帰動作を実装したいと考えている。“ “マーカーによるドローンの屋内自律飛行“ “佐々木 隆志,Takashi SASAKI,松井 隆,Takashi MATSUI