PIRT手法を用いた研究開発段階発電用原子炉の保守管理における要検証劣化メカニズムの抽出方法に関する検討
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カテゴリ: 第14回
1.諸言
保守管理方法が規格化され、継続的な改訂が行われている商用軽水炉 [1, 2]に対し、研究開発段階発電用原子炉(以下、「研開炉」という)については、どのような保守管理を行うべきかこれまで十分な議論が行われてこなかった。そこで筆者らは、保守管理において考慮すべき研開炉の特徴を整理するとともに、それらの特徴を踏まえた研開炉の保守管理方法を提案した[3]。また、日本原子力学会新型炉部会においても、同様の問題意識から、昨年(2016年)、検討会が組織され、研開炉の保守管理の在り方に関する提案がなされている[4]。
いずれの提案でも、新型炉の実用化に向けて、研開炉の安全性を確保しながら、保全の有効性を高め、炉型に適した保全プログラムを構築していくことの重要性が指摘されている。また、両者に共通するより具体的な提案事項として、保全計画策定の技術的根拠となる劣化メカニズム[1, 2, 5]に関する段階的な知見の拡充がある。運転経験が限られる研開炉では、まず実験炉等の先行炉や海外炉の運転経験、設計的知見及び科学的知見(以下、「R&D 知見等」という)に基づき懸念される劣化メカニズムを抽出し、次に実際のプラント環境でR&D 知見等の妥当性を検証し、最終的に標準等の形で整理するという段階的なアプローチで、炉型特有の劣化メカニズムに関する知見を拡充していくことが提案されている。ただし、どのような劣化メカニズムに対して検証が必要なのかに関する具体的な指針は与えられていない。多岐に渡る保全対象機器に対し、懸念される全ての劣化メカニズムについて同様の検証を行うことは、機器や活動等の重要性に応じて要求レベルを決定すべきとする Graded Approach [6-8]の考え方に適合しておらず、過大な作業負荷により、十分な検証が行えず期待する知見が得られない可能性や、意図に反して研開炉の安全性を低下させる懸念がある。ここで、米国原子力規制委員会において、安全研究における課題の優先順位付けやその他意思決定に活用されている手法として、PIRT (Phenomena Identification and Ranking Table)手法がある[9]。同手法では、注目する問題に関係する現象を複数挙げ、それらを影響レベルや知識レベル等の観点からランク付けした表(PIRT)に基づき、 重要現象を抽出する。その汎用性の高さから様々な分野 に適用されており、非破壊検査の検査精度向上のために 必要な研究課題の抽出や[10]、長寿命プラントで懸念され る材料劣化メカニズムの抽出に適用された例[11]もある。 ランク付け結果に基づき、検証対象とする劣化メカニズムを抽出することは、Graded Approachの考え方に則しており、また、ランク付けの基準を明確にすることにより、数多くある保全対象機器の劣化メカニズムに対して、 統一的な対応が可能になると期待される。そこで本研究では、PIRT手法を用いて、研開炉の保守管理において検証すべき劣化メカニズムを抽出する方法を提案することとする。更に提案方法を、研開炉の例として高速増殖原型炉「もんじゅ」に試適用した結果を紹介する。 2.要検証劣化メカニズムの抽出方法の提案
2.1 PIRT 作成手順 PIRT作成の一般的手順は、Wilson らによって提案され ており、合計15ステップで構成される[9]。一方、米国原 子力規制委員会における次世代原子力プラント(具体的 には、高温ガス炉)の安全上重要な事象の抽出に関する 検討では、同手順を簡易化した合計 9 ステップから成る 手順が採用されている[12]。また、これと類似な簡易化手 順を採用した複数の検討事例がある[10, 11, 13]。 一般的な PIRT 作成手順と次世代原子力プラントの検 討で採用された簡易化手順の比較を表1 に示す。なお表1 には、後述する本検討における PIRT 作成手順も含めた。 一般的な手順では、PIRTを作成すべき機器を選別するた めに、より高位のシステムのプロセスを明確にすること (Step 7)や、問題を時間的及び空間的に細分化すること (Step 8及びStep 9)、結果の評価に階層分析法を適用す ること(Step 12及びStep 13)を要求しているが、簡易化 手順ではこれらのステップが省略されている。なお、一 般的な手順では、Step 14 で、適切な PIRT が得られるま で各ステップを繰り返すことが明記されているのに対し、 簡易化手順では該当するステップが存在しないが、当然 のことながら、簡易化手順でも、適切なPIRTが得られる まで各ステップを繰り返す必要がある。 本研究のPIRT作成の目的は、劣化メカニズムに関する R&D 知見等の検証計画の立案のために、検証対象とすべ き劣化メカニズムを特定することであり、比較的単純な 問題であることから、簡易化手順をベースとしてPIRTを 作成することとした。以下に、作成手順を示す。 Step 1: 課題の明確化 PIRT作成を必要とする課題を明確にする。 本検討における課題は、研開炉の保全計画のうち、劣 化メカニズムに関する R&D 知見等の検証計画の立案で ある。 Step 2: PIRT作成目的の明確化 PIRT作成の目的を明確にする。 本検討における PIRT 作成の目的は、R&D 知見等の検 証計画の対象となる劣化メカニズムの抽出である。 Step 3: PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 まず PIRT 作成の対象となる機器を明確にする。次に、 対象機器に対する要求機能を明確にする。 Step 4: 性能指標の明確化 要求機能を達成しているかどうかの判定に用いる評価 指標(性能指標)を明確にする。 Step 5: 関連情報の収集、整理及び分析 関連情報の収集、整理及び分析を行う。 関連情報の例としては、「原子力発電所の保守管理規程 (JEAC4209)」[1]において、保全計画策定の際に必要に 応じて考慮するとされている運転経験、使用環境及び設 置環境、劣化・故障モード、機器の構造等の設計的知見、 科学的知見等が挙げられる。 Step 6: 懸念のある劣化メカニズムの列挙 対象機器について発生の可能性がある劣化メカニズム を幅広く列挙する。 当該劣化メカニズムの発生防止方法や、Step 4 で定めた 性能指標が合格基準内に収まるようにするための影響制 限方法(以下、「発生防止方法等」という)がある場合も、 それらの有効性について検討する必要があるため、懸念 のある劣化メカニズムに含める。 Step 7: 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 Step 6で挙げた劣化メカニズムについて、Step 4で明確 にした性能指標への影響程度に基づき重要性レベルを判 定する。本検討においては、以下の二段階評価とする。 H (High): 影響がある場合 L (Low): 影響がない、又は無視できる場合 - 356 2 - K Step 8: 劣化メカニズムの発生防止方法等に関する知識 (Known): 発生防止方法が、学協会規格や社内規程等 レベルの判定 でルール化されているが、実際のプラントでの運用 Step 6 で挙げた劣化メカニズムについて、発生防止方法 実績がない。 等に関する知識レベルを判定する。R&D 知見等には、発 P/U (Partially known or Unknown): 発生防止方法等がル 生防止方法等以外にも、トラブル事例等有益な情報があ ール化されていない。 るが、検証すべきは対策の有効性であると考え、本項目 なお、評価の確信度を追加で判定する例もあるが[10, を採用した。本検討では、以下の三段階評価とする。 11]、本検討では簡単のため考慮しない。 W (Well-known): 発生防止方法等が学協会規格や社内 規程等でルール化され、かつ実際のプラント(同一 Step 9: PIRT作成結果の文書化 環境の他炉型プラント等)での運用実績がある。 作成したPIRTについて、技術的根拠を含め文書化する。 Table 1 Comparison of PIRT processes Generic PIRT [9] Next Generation Nuclear Plant’s PIRT [12] 本検討のPIRT手順 Step 1 Define problem or issue Step 1 課題の明確化 Step 2 Define PIRT objectives Step 1 Define the issue that is driving the need Step 2 PIRT作成目的の明確化 Step 3 Define potential plant designs Step 2 Define the specific objectives for the PIRT Step 3 PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 Step 4 Define potential scenarios Step 5 Define parameter(s) of interest Step 3 Define the hardware and the scenario for the PIRT Step 4 性能指標の明確化 Step 6 Identify, obtain and review all available experimental and analytical data Step 4 Define the evaluation criterion Step 5 関連情報の収集、整理及び分析 Step 7 Define high level basic system processes Step 5 Identify, compile, and review the current knowledge base - - Step 8 Partition scenario into convenient time phases - - Step 9 Partition plant design into components - - Step 10 Identify plausible phenomena by phase and component Step 6 懸念のある劣化メカニズムの列挙 Step 11 Develop pair-wise ranking of component and phenomena importance Step 6 Identify plausible phenomena, that is, PIRT elements Step 7 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 Step 8 劣化メカニズムの発生防止方法等に関す る知識レベルの判定 Step 12 Apply the analytical hierarchy process (AHP) to determine phenomena relative importance Step 7 Develop importance ranking for phenomena Step 8 Assess knowledge level for phenomena - - Step 13 Review AHP results; modify if required - - Step 14 Perform selected PIRT confirmation sensitivity studies - - Step 15 Finalize and document PIRT for subject scenarios and plant designs Step 9 Step 9 Document PIRT results PIRT作成結果の文書化 - 357 3 - 2.2 PIRT に基づく要検証劣化メカニズムの抽出 PIRT 作成の結果、懸念される各劣化メカニズムは図 1 に示すカテゴリ1~6に分類される。まず、要求機能への 影響がないカテゴリ4~6に分類される劣化メカニズムは、 検証の対象外とすることができる。次に、要求機能への 影響がある劣化メカニズムのうち、発生防止方法等に関 する知識レベルが乏しいカテゴリ 3 に分類されるものに ついては、検証すべき十分なR&D知見等がないと判断さ れる。また、実際のプラントでの運用実績があるカテゴ リ 1 に分類される劣化メカニズムについては既に検証が 行われている。最後に、重要性が高く、発生防止方法等 がルール化されているものの実際のプラントでの運用実 績が限られるカテゴリ 2 に分類される劣化メカニズムに ついては、研開炉において、発生防止方法等の有効性を 検証することが重要である。以上より、研開炉の保全計 画において R&D 知見等の検証を行うべき劣化メカニズ ムとしては、カテゴリ 2 に分類されるものを選択すれば よい。 Fig.1 Classification based on PIRT results 2.3 JEAC4209 に基づく保全計画策定時の実施項目 との比較 2.1 で示した本検討における PIRT 作成手順と、 JEAC4209[1]に基づく保全計画策定時の実施項目との比 較を表 2 に示す。表中の MC-7 等は JEAC4209 の規定番 号である。また、保全計画策定の技術根拠として利用さ れる日本原子力学会「原子力発電所の高経年化対策実施 基準(以下、「原学会標準」という)」[5]の内容も関連部 分に追記した。なお、PIRT作成の目的等に関連するStep 1及びStep 2については比較を省略した。 表より、Step 7及びStep 8 のレベル判定を除き、PIRT 手順で実施するほぼ全ての内容が JEAC4209 に基づく保 全計画策定でも要求されていることがわかる。これより、 提案手法を用いて研開炉の保守管理において R&D 知見 等の検証を行うべき劣化メカニズムを抽出するためには、 通常の JEAC4209 に従った保全計画の立案手順に、これ らのレベル判定だけ追加すればよく、本検討の実施によ - 358 4 - る作業負荷の過大な増加はないと考えられる。なお、本 来の PIRT 手法ではエキスパートパネルが設置されるが、 JEAC4209 に基づき保全計画の策定においては設置され ない。しかしながら、保全計画の作成、承認の過程にお いて相応のレビューが実施されることから、これにより エキスパートパネルの代替とできると考えられる。 Table 2 Comparison between the proposed PIRT processes and action items for making maintenance plans based on JEAC4209本研究の PIRT手順 JEAC4209に基づく 保全計画策定時の実施項目 Step 3 PIRT 作成対象機 器及び要求機能 の明確化 MC-7 で保全対象範囲を策定するとと もに、MC-11 で対象機器毎に保全計画 を策定することを要求している。 また、MC-8 で、系統機能の明確化を 行うとともに、適宜、機器の故障が系 統機能に与える影響を評価する。 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表では、具体的に機能達成に必要な 項目が挙げられている。 Step 4 性能指標の明確 化 MC-11-1-2 で、所定の機能を発揮しう る状態にあることの評価方法及び管理 基準を定めることを要求している。 Step 5 関連情報の収 集、整理及び分 析 MC-11 で、保全計画策定の際、必要に 応じて、運転経験、使用環境及び設置 環境、劣化、故障モード、設計的知見、 科学的知見を考慮することとしてい る。 Step 6 懸念のある劣化 メカニズムの列 挙 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表に、発生が懸念される劣化メカニ ズムが列挙されている。 Step 7 劣化メカニズム の重要性レベル の判定 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表では、機能達成に必要な項目毎に 関連する劣化メカニズムが整理されて いるが、重要性レベルの判定は行って いない。 Step 8 劣化メカニズム の発生防止方法 等に関する知識 レベルの判定 MC-11 の保全計画策定時の評価や、 MC-15 の保全の有効性評価に含まれ ると考えられるが、明記はされていな い。また、知識レベル判定の要求はな い。 Step 9 PIRT 作成結果の 文書化 QMS に従った記録が要求される。 3.「もんじゅ」一次主冷却系配管への試適用 2.1で示した提案手法を、研開炉の例として、高速増殖 原型炉「もんじゅ」に試適用する。ここでは、「もんじゅ」 一次主冷却系配管の保全計画策定に関するKotakeらの検 討例[14]を参考にして、提案手法を用いて研開炉で検証対 象となる劣化メカニズムを抽出することとした。各ステ ップの検討結果を以下に示す。なお、Step 9については割 愛した。 Step 1: 課題の明確化 研開炉の保全計画のうち、劣化メカニズムに関する R&D等知見の検証計画の立案 Step 2: PIRT作成目的の明確化 R&D 知見等の検証計画の対象となる劣化メカニズム の抽出 Step 3: PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 本事例のPIRT作成対象機器は、一次主冷却系配管であ る。同機器の要求機能としては、原子炉冷却材バウンダ リ機能(PS-1)がある。 Step 4: 性能指標の明確化 原子炉冷却材バウンダリ機能を達成しているかどうか の判定に用いる指標には、欠陥寸法(亀裂、減肉等)を 用いる。 Step 5: 関連情報の収集、整理及び分析 一次主冷却系配管の使用環境や設置環境等に関する情 報を表4に示す。その他のR&D知見等については、Kotake らの文献[14]にまとめられている。 Table 4 Specifications of primary piping 材質 SUS304 冷却材 ナトリウム 使用温度 約400~530°C 圧力 約0.7 MPa 設置雰囲気 窒素ガス Step 6: 懸念のある劣化メカニズムの列挙 Kotakeらの文献[14]では、懸念のある劣化メカニズムと して、クリープ温度域での使用と過渡時の熱応力に起因 するクリープ疲労と、Ni、Cr 等の合金元素がナトリウム 中に溶出するナトリウム腐食(質量移行)の二つが挙げ - 359 5 - られている。 Step 7: 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 まずクリープ疲労について、クリープ疲労により亀裂 が発生し進展すれば、当然、性能指標に定めた欠陥寸法 に影響する。 またナトリウム腐食(質量移行)についても、合金元 素が溶出した領域は、SUS304本来の機械強度を有してい るとは考えられないことから、安全側に減肉したものと 考えると、欠陥寸法に影響する。 以上より、いずれの劣化メカニズムについても性能指 標への影響があると判断し、重要性レベルは、H と判定 した。 Step 8: 劣化メカニズムの発生防止方法等に関する知識 レベルの判定 クリープ疲労については、もんじゅの設計に際して、 評価法が開発され[15]、旧科学技術庁内規を経て、日本機 械学会高速炉規格で規格化されている[16]。しかしながら、 実際のプラントでの運用実績はない。 ナトリウム腐食(質量移行)についても、酸素濃度と 腐食量(くされ代)の関係が日本機械学会高速炉規格で 規格化されているが、実際のプラントでの運用実績は同 じく無い。 したがって、いずれの劣化メカニズムも、発生防止方 法等が学協会規格としてルール化されているが、実際の プラントでの運用実績がないことから、Kと判定した。 以上の検討結果に基づき、「もんじゅ」一次主冷却系配 管で懸念される劣化メカニズムの分類結果を図2に示す。 クリープ疲労、ナトリウム腐食(質量移行)とも、カテ ゴリ2に分類された。従って、同機器に関するR&D知見 等の検証対象として、これら二つの劣化メカニズムが抽 出された。 Fig.2 Classification of potential degradation mechanisms for primary piping of MONJU 4.結言 研開炉の保守管理においては、実際のプラント環境で R&D 知見等の検証を行うことが重要であり、本研究では、 PIRT手法を用いて、検証対象とすべき劣化メカニズムの 抽出方法を提案するとともに、研開炉のひとつである「も んじゅ」の一次主冷却系配管に試適用した例を紹介した。 提案手法は、JEAC4209に基づく保全計画策定における 実施項目に、重要性レベル及び知識レベルの判定を追加 したものであり、新たに大きな作業負荷を要求するもの ではない。一方、提案手法の実施により、多岐に渡る保 全対象機器の劣化メカニズムの中から、研開炉で検証す べき劣化メカニズムを、明確な基準で統一的に漏れなく 抽出することが可能になる。また分類結果を可視化する ことにより、優先して対応すべき劣化メカニズムの把握 が容易になる。研開炉において、Graded Approachを適用 した合理的な保守管理を行う上で、提案手法は有力なツ ールに成り得るものと期待される。 参考文献 [1] 日本電気協会: “原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2014 (2014). [2] 日本電気協会: “原子力発電所の保守管理指針”, JEAG4210-2014 (2014). [3] 高屋ら: “研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮し た保守管理の提案”, 保全学, Vol. 15, No. 4, pp. 71-78 (2017). [4] 日本原子力学会 新型炉部会 研究開発段階炉の保 守管理の在り方に関する検討会: “研究開発段階発電 用原子炉の保守管理の在り方(解説)”, 日本原子力学 会誌, Vol. 58, No. 12, pp. 73-75 (2016). [5] 日本原子力学会: “原子力発電所の高経年化対策実施 基準:2008”, AESJ-SC-P005 (2008). [6] International Atomic Energy Agency (IAEA): “IAEA Safety Glossary: Terminology Used in Nuclear Safety and Radiation Protection” (2007). [7] IAEA: “IAEA Safety Standard, The Management System for Facilities and Activities”, GS-R-3 (2006). [8] The American Society of Mechanical Engineers: “Quality Assurance Requirements for Nuclear Facility Applications”, NQA-1 (2012). [9] G.E. Wilson and B.E. Boyack: “The Role of the PIRT Process in Experiments, Code Development and Code Applications Associated with Reactor Safety Analysis”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 186, pp. 23-37 (1998). [10] 青木ら: “PIRT 手法を用いた研究課題抽出手法の検 討”, 日本原子力学会和文論文誌, Vol. 12, pp.231-241 (2013). [11] Brookhaven National Laboratory: “Expert Panel Report on Proactive Materials Degradation Assessment”, US. NRC, NUREG/CR-6923 (2007). [12] S.J. Ball and S.E. Fisher: “Next Generation Nuclear Plant Phenomena Identification and Ranking Tables”, US. NRC, NUREG/CR-6944, US. NRC (2008). [13] M. Tanaka, S. Ohno and H. Ohshima: “Development of V2UP Procedure for High Cycle Thermal Fatigue in Fast Reactor ?Framework for V&V and Numerical Prediction”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 299, pp. 174-183 (2016). [14] S. Kotake et al.: “Development of Prototype Reactor Maintenance (1) Application to Piping System of Sodium-Cooled Reactor Prototype”, Proceedings of ICAPP 2017, Paper ID 17645 (2017). [15] K. Iida et al.: “Construction Codes Developed for Prototype FBR MONJU”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 98, pp. 283-288 (1987). [16] 日本機械学会: “発電用原子力設備規格 設計・建設 規格<第 II 編 高速炉規格>”, JSME S NC2-2005 (2007). - 360 6 - PIRT手法を用いた研究開発段階発電用原子炉の保守管理における要検証劣化メカニズムの抽出方法に関する検討 髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,近澤 佳隆,Yoshitaka CHIKAZAWA,田中 正暁,Masaaki TANAKA
保守管理方法が規格化され、継続的な改訂が行われている商用軽水炉 [1, 2]に対し、研究開発段階発電用原子炉(以下、「研開炉」という)については、どのような保守管理を行うべきかこれまで十分な議論が行われてこなかった。そこで筆者らは、保守管理において考慮すべき研開炉の特徴を整理するとともに、それらの特徴を踏まえた研開炉の保守管理方法を提案した[3]。また、日本原子力学会新型炉部会においても、同様の問題意識から、昨年(2016年)、検討会が組織され、研開炉の保守管理の在り方に関する提案がなされている[4]。
いずれの提案でも、新型炉の実用化に向けて、研開炉の安全性を確保しながら、保全の有効性を高め、炉型に適した保全プログラムを構築していくことの重要性が指摘されている。また、両者に共通するより具体的な提案事項として、保全計画策定の技術的根拠となる劣化メカニズム[1, 2, 5]に関する段階的な知見の拡充がある。運転経験が限られる研開炉では、まず実験炉等の先行炉や海外炉の運転経験、設計的知見及び科学的知見(以下、「R&D 知見等」という)に基づき懸念される劣化メカニズムを抽出し、次に実際のプラント環境でR&D 知見等の妥当性を検証し、最終的に標準等の形で整理するという段階的なアプローチで、炉型特有の劣化メカニズムに関する知見を拡充していくことが提案されている。ただし、どのような劣化メカニズムに対して検証が必要なのかに関する具体的な指針は与えられていない。多岐に渡る保全対象機器に対し、懸念される全ての劣化メカニズムについて同様の検証を行うことは、機器や活動等の重要性に応じて要求レベルを決定すべきとする Graded Approach [6-8]の考え方に適合しておらず、過大な作業負荷により、十分な検証が行えず期待する知見が得られない可能性や、意図に反して研開炉の安全性を低下させる懸念がある。ここで、米国原子力規制委員会において、安全研究における課題の優先順位付けやその他意思決定に活用されている手法として、PIRT (Phenomena Identification and Ranking Table)手法がある[9]。同手法では、注目する問題に関係する現象を複数挙げ、それらを影響レベルや知識レベル等の観点からランク付けした表(PIRT)に基づき、 重要現象を抽出する。その汎用性の高さから様々な分野 に適用されており、非破壊検査の検査精度向上のために 必要な研究課題の抽出や[10]、長寿命プラントで懸念され る材料劣化メカニズムの抽出に適用された例[11]もある。 ランク付け結果に基づき、検証対象とする劣化メカニズムを抽出することは、Graded Approachの考え方に則しており、また、ランク付けの基準を明確にすることにより、数多くある保全対象機器の劣化メカニズムに対して、 統一的な対応が可能になると期待される。そこで本研究では、PIRT手法を用いて、研開炉の保守管理において検証すべき劣化メカニズムを抽出する方法を提案することとする。更に提案方法を、研開炉の例として高速増殖原型炉「もんじゅ」に試適用した結果を紹介する。 2.要検証劣化メカニズムの抽出方法の提案
2.1 PIRT 作成手順 PIRT作成の一般的手順は、Wilson らによって提案され ており、合計15ステップで構成される[9]。一方、米国原 子力規制委員会における次世代原子力プラント(具体的 には、高温ガス炉)の安全上重要な事象の抽出に関する 検討では、同手順を簡易化した合計 9 ステップから成る 手順が採用されている[12]。また、これと類似な簡易化手 順を採用した複数の検討事例がある[10, 11, 13]。 一般的な PIRT 作成手順と次世代原子力プラントの検 討で採用された簡易化手順の比較を表1 に示す。なお表1 には、後述する本検討における PIRT 作成手順も含めた。 一般的な手順では、PIRTを作成すべき機器を選別するた めに、より高位のシステムのプロセスを明確にすること (Step 7)や、問題を時間的及び空間的に細分化すること (Step 8及びStep 9)、結果の評価に階層分析法を適用す ること(Step 12及びStep 13)を要求しているが、簡易化 手順ではこれらのステップが省略されている。なお、一 般的な手順では、Step 14 で、適切な PIRT が得られるま で各ステップを繰り返すことが明記されているのに対し、 簡易化手順では該当するステップが存在しないが、当然 のことながら、簡易化手順でも、適切なPIRTが得られる まで各ステップを繰り返す必要がある。 本研究のPIRT作成の目的は、劣化メカニズムに関する R&D 知見等の検証計画の立案のために、検証対象とすべ き劣化メカニズムを特定することであり、比較的単純な 問題であることから、簡易化手順をベースとしてPIRTを 作成することとした。以下に、作成手順を示す。 Step 1: 課題の明確化 PIRT作成を必要とする課題を明確にする。 本検討における課題は、研開炉の保全計画のうち、劣 化メカニズムに関する R&D 知見等の検証計画の立案で ある。 Step 2: PIRT作成目的の明確化 PIRT作成の目的を明確にする。 本検討における PIRT 作成の目的は、R&D 知見等の検 証計画の対象となる劣化メカニズムの抽出である。 Step 3: PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 まず PIRT 作成の対象となる機器を明確にする。次に、 対象機器に対する要求機能を明確にする。 Step 4: 性能指標の明確化 要求機能を達成しているかどうかの判定に用いる評価 指標(性能指標)を明確にする。 Step 5: 関連情報の収集、整理及び分析 関連情報の収集、整理及び分析を行う。 関連情報の例としては、「原子力発電所の保守管理規程 (JEAC4209)」[1]において、保全計画策定の際に必要に 応じて考慮するとされている運転経験、使用環境及び設 置環境、劣化・故障モード、機器の構造等の設計的知見、 科学的知見等が挙げられる。 Step 6: 懸念のある劣化メカニズムの列挙 対象機器について発生の可能性がある劣化メカニズム を幅広く列挙する。 当該劣化メカニズムの発生防止方法や、Step 4 で定めた 性能指標が合格基準内に収まるようにするための影響制 限方法(以下、「発生防止方法等」という)がある場合も、 それらの有効性について検討する必要があるため、懸念 のある劣化メカニズムに含める。 Step 7: 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 Step 6で挙げた劣化メカニズムについて、Step 4で明確 にした性能指標への影響程度に基づき重要性レベルを判 定する。本検討においては、以下の二段階評価とする。 H (High): 影響がある場合 L (Low): 影響がない、又は無視できる場合 - 356 2 - K Step 8: 劣化メカニズムの発生防止方法等に関する知識 (Known): 発生防止方法が、学協会規格や社内規程等 レベルの判定 でルール化されているが、実際のプラントでの運用 Step 6 で挙げた劣化メカニズムについて、発生防止方法 実績がない。 等に関する知識レベルを判定する。R&D 知見等には、発 P/U (Partially known or Unknown): 発生防止方法等がル 生防止方法等以外にも、トラブル事例等有益な情報があ ール化されていない。 るが、検証すべきは対策の有効性であると考え、本項目 なお、評価の確信度を追加で判定する例もあるが[10, を採用した。本検討では、以下の三段階評価とする。 11]、本検討では簡単のため考慮しない。 W (Well-known): 発生防止方法等が学協会規格や社内 規程等でルール化され、かつ実際のプラント(同一 Step 9: PIRT作成結果の文書化 環境の他炉型プラント等)での運用実績がある。 作成したPIRTについて、技術的根拠を含め文書化する。 Table 1 Comparison of PIRT processes Generic PIRT [9] Next Generation Nuclear Plant’s PIRT [12] 本検討のPIRT手順 Step 1 Define problem or issue Step 1 課題の明確化 Step 2 Define PIRT objectives Step 1 Define the issue that is driving the need Step 2 PIRT作成目的の明確化 Step 3 Define potential plant designs Step 2 Define the specific objectives for the PIRT Step 3 PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 Step 4 Define potential scenarios Step 5 Define parameter(s) of interest Step 3 Define the hardware and the scenario for the PIRT Step 4 性能指標の明確化 Step 6 Identify, obtain and review all available experimental and analytical data Step 4 Define the evaluation criterion Step 5 関連情報の収集、整理及び分析 Step 7 Define high level basic system processes Step 5 Identify, compile, and review the current knowledge base - - Step 8 Partition scenario into convenient time phases - - Step 9 Partition plant design into components - - Step 10 Identify plausible phenomena by phase and component Step 6 懸念のある劣化メカニズムの列挙 Step 11 Develop pair-wise ranking of component and phenomena importance Step 6 Identify plausible phenomena, that is, PIRT elements Step 7 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 Step 8 劣化メカニズムの発生防止方法等に関す る知識レベルの判定 Step 12 Apply the analytical hierarchy process (AHP) to determine phenomena relative importance Step 7 Develop importance ranking for phenomena Step 8 Assess knowledge level for phenomena - - Step 13 Review AHP results; modify if required - - Step 14 Perform selected PIRT confirmation sensitivity studies - - Step 15 Finalize and document PIRT for subject scenarios and plant designs Step 9 Step 9 Document PIRT results PIRT作成結果の文書化 - 357 3 - 2.2 PIRT に基づく要検証劣化メカニズムの抽出 PIRT 作成の結果、懸念される各劣化メカニズムは図 1 に示すカテゴリ1~6に分類される。まず、要求機能への 影響がないカテゴリ4~6に分類される劣化メカニズムは、 検証の対象外とすることができる。次に、要求機能への 影響がある劣化メカニズムのうち、発生防止方法等に関 する知識レベルが乏しいカテゴリ 3 に分類されるものに ついては、検証すべき十分なR&D知見等がないと判断さ れる。また、実際のプラントでの運用実績があるカテゴ リ 1 に分類される劣化メカニズムについては既に検証が 行われている。最後に、重要性が高く、発生防止方法等 がルール化されているものの実際のプラントでの運用実 績が限られるカテゴリ 2 に分類される劣化メカニズムに ついては、研開炉において、発生防止方法等の有効性を 検証することが重要である。以上より、研開炉の保全計 画において R&D 知見等の検証を行うべき劣化メカニズ ムとしては、カテゴリ 2 に分類されるものを選択すれば よい。 Fig.1 Classification based on PIRT results 2.3 JEAC4209 に基づく保全計画策定時の実施項目 との比較 2.1 で示した本検討における PIRT 作成手順と、 JEAC4209[1]に基づく保全計画策定時の実施項目との比 較を表 2 に示す。表中の MC-7 等は JEAC4209 の規定番 号である。また、保全計画策定の技術根拠として利用さ れる日本原子力学会「原子力発電所の高経年化対策実施 基準(以下、「原学会標準」という)」[5]の内容も関連部 分に追記した。なお、PIRT作成の目的等に関連するStep 1及びStep 2については比較を省略した。 表より、Step 7及びStep 8 のレベル判定を除き、PIRT 手順で実施するほぼ全ての内容が JEAC4209 に基づく保 全計画策定でも要求されていることがわかる。これより、 提案手法を用いて研開炉の保守管理において R&D 知見 等の検証を行うべき劣化メカニズムを抽出するためには、 通常の JEAC4209 に従った保全計画の立案手順に、これ らのレベル判定だけ追加すればよく、本検討の実施によ - 358 4 - る作業負荷の過大な増加はないと考えられる。なお、本 来の PIRT 手法ではエキスパートパネルが設置されるが、 JEAC4209 に基づき保全計画の策定においては設置され ない。しかしながら、保全計画の作成、承認の過程にお いて相応のレビューが実施されることから、これにより エキスパートパネルの代替とできると考えられる。 Table 2 Comparison between the proposed PIRT processes and action items for making maintenance plans based on JEAC4209本研究の PIRT手順 JEAC4209に基づく 保全計画策定時の実施項目 Step 3 PIRT 作成対象機 器及び要求機能 の明確化 MC-7 で保全対象範囲を策定するとと もに、MC-11 で対象機器毎に保全計画 を策定することを要求している。 また、MC-8 で、系統機能の明確化を 行うとともに、適宜、機器の故障が系 統機能に与える影響を評価する。 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表では、具体的に機能達成に必要な 項目が挙げられている。 Step 4 性能指標の明確 化 MC-11-1-2 で、所定の機能を発揮しう る状態にあることの評価方法及び管理 基準を定めることを要求している。 Step 5 関連情報の収 集、整理及び分 析 MC-11 で、保全計画策定の際、必要に 応じて、運転経験、使用環境及び設置 環境、劣化、故障モード、設計的知見、 科学的知見を考慮することとしてい る。 Step 6 懸念のある劣化 メカニズムの列 挙 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表に、発生が懸念される劣化メカニ ズムが列挙されている。 Step 7 劣化メカニズム の重要性レベル の判定 原学会標準の経年劣化メカニズムまと め表では、機能達成に必要な項目毎に 関連する劣化メカニズムが整理されて いるが、重要性レベルの判定は行って いない。 Step 8 劣化メカニズム の発生防止方法 等に関する知識 レベルの判定 MC-11 の保全計画策定時の評価や、 MC-15 の保全の有効性評価に含まれ ると考えられるが、明記はされていな い。また、知識レベル判定の要求はな い。 Step 9 PIRT 作成結果の 文書化 QMS に従った記録が要求される。 3.「もんじゅ」一次主冷却系配管への試適用 2.1で示した提案手法を、研開炉の例として、高速増殖 原型炉「もんじゅ」に試適用する。ここでは、「もんじゅ」 一次主冷却系配管の保全計画策定に関するKotakeらの検 討例[14]を参考にして、提案手法を用いて研開炉で検証対 象となる劣化メカニズムを抽出することとした。各ステ ップの検討結果を以下に示す。なお、Step 9については割 愛した。 Step 1: 課題の明確化 研開炉の保全計画のうち、劣化メカニズムに関する R&D等知見の検証計画の立案 Step 2: PIRT作成目的の明確化 R&D 知見等の検証計画の対象となる劣化メカニズム の抽出 Step 3: PIRT作成対象機器及び要求機能の明確化 本事例のPIRT作成対象機器は、一次主冷却系配管であ る。同機器の要求機能としては、原子炉冷却材バウンダ リ機能(PS-1)がある。 Step 4: 性能指標の明確化 原子炉冷却材バウンダリ機能を達成しているかどうか の判定に用いる指標には、欠陥寸法(亀裂、減肉等)を 用いる。 Step 5: 関連情報の収集、整理及び分析 一次主冷却系配管の使用環境や設置環境等に関する情 報を表4に示す。その他のR&D知見等については、Kotake らの文献[14]にまとめられている。 Table 4 Specifications of primary piping 材質 SUS304 冷却材 ナトリウム 使用温度 約400~530°C 圧力 約0.7 MPa 設置雰囲気 窒素ガス Step 6: 懸念のある劣化メカニズムの列挙 Kotakeらの文献[14]では、懸念のある劣化メカニズムと して、クリープ温度域での使用と過渡時の熱応力に起因 するクリープ疲労と、Ni、Cr 等の合金元素がナトリウム 中に溶出するナトリウム腐食(質量移行)の二つが挙げ - 359 5 - られている。 Step 7: 劣化メカニズムの重要性レベルの判定 まずクリープ疲労について、クリープ疲労により亀裂 が発生し進展すれば、当然、性能指標に定めた欠陥寸法 に影響する。 またナトリウム腐食(質量移行)についても、合金元 素が溶出した領域は、SUS304本来の機械強度を有してい るとは考えられないことから、安全側に減肉したものと 考えると、欠陥寸法に影響する。 以上より、いずれの劣化メカニズムについても性能指 標への影響があると判断し、重要性レベルは、H と判定 した。 Step 8: 劣化メカニズムの発生防止方法等に関する知識 レベルの判定 クリープ疲労については、もんじゅの設計に際して、 評価法が開発され[15]、旧科学技術庁内規を経て、日本機 械学会高速炉規格で規格化されている[16]。しかしながら、 実際のプラントでの運用実績はない。 ナトリウム腐食(質量移行)についても、酸素濃度と 腐食量(くされ代)の関係が日本機械学会高速炉規格で 規格化されているが、実際のプラントでの運用実績は同 じく無い。 したがって、いずれの劣化メカニズムも、発生防止方 法等が学協会規格としてルール化されているが、実際の プラントでの運用実績がないことから、Kと判定した。 以上の検討結果に基づき、「もんじゅ」一次主冷却系配 管で懸念される劣化メカニズムの分類結果を図2に示す。 クリープ疲労、ナトリウム腐食(質量移行)とも、カテ ゴリ2に分類された。従って、同機器に関するR&D知見 等の検証対象として、これら二つの劣化メカニズムが抽 出された。 Fig.2 Classification of potential degradation mechanisms for primary piping of MONJU 4.結言 研開炉の保守管理においては、実際のプラント環境で R&D 知見等の検証を行うことが重要であり、本研究では、 PIRT手法を用いて、検証対象とすべき劣化メカニズムの 抽出方法を提案するとともに、研開炉のひとつである「も んじゅ」の一次主冷却系配管に試適用した例を紹介した。 提案手法は、JEAC4209に基づく保全計画策定における 実施項目に、重要性レベル及び知識レベルの判定を追加 したものであり、新たに大きな作業負荷を要求するもの ではない。一方、提案手法の実施により、多岐に渡る保 全対象機器の劣化メカニズムの中から、研開炉で検証す べき劣化メカニズムを、明確な基準で統一的に漏れなく 抽出することが可能になる。また分類結果を可視化する ことにより、優先して対応すべき劣化メカニズムの把握 が容易になる。研開炉において、Graded Approachを適用 した合理的な保守管理を行う上で、提案手法は有力なツ ールに成り得るものと期待される。 参考文献 [1] 日本電気協会: “原子力発電所の保守管理規程”, JEAC4209-2014 (2014). [2] 日本電気協会: “原子力発電所の保守管理指針”, JEAG4210-2014 (2014). [3] 高屋ら: “研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮し た保守管理の提案”, 保全学, Vol. 15, No. 4, pp. 71-78 (2017). [4] 日本原子力学会 新型炉部会 研究開発段階炉の保 守管理の在り方に関する検討会: “研究開発段階発電 用原子炉の保守管理の在り方(解説)”, 日本原子力学 会誌, Vol. 58, No. 12, pp. 73-75 (2016). [5] 日本原子力学会: “原子力発電所の高経年化対策実施 基準:2008”, AESJ-SC-P005 (2008). [6] International Atomic Energy Agency (IAEA): “IAEA Safety Glossary: Terminology Used in Nuclear Safety and Radiation Protection” (2007). [7] IAEA: “IAEA Safety Standard, The Management System for Facilities and Activities”, GS-R-3 (2006). [8] The American Society of Mechanical Engineers: “Quality Assurance Requirements for Nuclear Facility Applications”, NQA-1 (2012). [9] G.E. Wilson and B.E. Boyack: “The Role of the PIRT Process in Experiments, Code Development and Code Applications Associated with Reactor Safety Analysis”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 186, pp. 23-37 (1998). [10] 青木ら: “PIRT 手法を用いた研究課題抽出手法の検 討”, 日本原子力学会和文論文誌, Vol. 12, pp.231-241 (2013). [11] Brookhaven National Laboratory: “Expert Panel Report on Proactive Materials Degradation Assessment”, US. NRC, NUREG/CR-6923 (2007). [12] S.J. Ball and S.E. Fisher: “Next Generation Nuclear Plant Phenomena Identification and Ranking Tables”, US. NRC, NUREG/CR-6944, US. NRC (2008). [13] M. Tanaka, S. Ohno and H. Ohshima: “Development of V2UP Procedure for High Cycle Thermal Fatigue in Fast Reactor ?Framework for V&V and Numerical Prediction”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 299, pp. 174-183 (2016). [14] S. Kotake et al.: “Development of Prototype Reactor Maintenance (1) Application to Piping System of Sodium-Cooled Reactor Prototype”, Proceedings of ICAPP 2017, Paper ID 17645 (2017). [15] K. Iida et al.: “Construction Codes Developed for Prototype FBR MONJU”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 98, pp. 283-288 (1987). [16] 日本機械学会: “発電用原子力設備規格 設計・建設 規格<第 II 編 高速炉規格>”, JSME S NC2-2005 (2007). - 360 6 - PIRT手法を用いた研究開発段階発電用原子炉の保守管理における要検証劣化メカニズムの抽出方法に関する検討 髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,近澤 佳隆,Yoshitaka CHIKAZAWA,田中 正暁,Masaaki TANAKA