研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮した保守管理の提案 (3) 配管支持構造物への適用事例

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
原子力発電所の保守管理に関しては、基本要件が日本電気協会で「原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)」 [1]として規格化されており、更に内容の理解促進を図るために「原子力発電所の保守管理指針(JEAG4210)」[2] が発行されている。JAEAC4209およびJEAG4210の対象は、これまでに長年の運転経験を有する軽水炉(現状で唯一の実用発電用原子炉(以下、「実用炉」という。))であり、運転経験が限られる研究開発段階発電用原子炉(以下、「研開炉」という。)に適用する際には十分な配慮が必要である。そこで、保守管理において考慮すべき研開炉の特徴を明確にし、その特徴を考慮して、JEAC4209の研開炉への適用性を分析し、研開炉の特徴を考慮した保守管理を提案した[3]。本報告では提案した研開炉の保守管理の考え方をナトリウム冷却型の高速増殖原型炉「もんじゅ」の1次系主配管支持構造物に適用した検討結果を示す。 2.「もんじゅ」の1次系主配管支持構造物
ナトリウム冷却炉の特徴として運転温度が高く、配管据付時、メンテナンス時の室温状態からの温度差が大きくなり配管の熱膨張による変位が大きいことが挙げられる。 大きな熱変位への対策として配管にはエルボが多く設置され、配管支持は熱膨張による変位の吸収を考慮して行われる。特に、耐震サポートについては、配管系の変形を拘束することによる熱膨張応力の増加を防ぐ必要がある。このため熱膨張の様なゆっくりとした変位は拘束せず、地震等速い振動に対しては、配管を拘束する支持を考慮する必要がある。 上記を考慮して「もんじゅ」の1次系主配管は以下に示す多様な配管支持構造物を適切に配置している。
・ロッドレストレント(図1) ・架講式レストレント(図2) ・コンスタントハンガ(図3) ・メカニカルスナッバ(図4) 熱膨張が小さいまたはある特定方向にのみ大きく他の方向の拘束が可能な場合、熱膨張が大きい方向についてスライドする構造であるレストレントを使用している。熱膨張の変位が大きい個所で自重を支持する場合は、配管の変位に係らず配管の支持反力を一定とするコンスタントハンガを使用している。熱膨張の変位が大きい個所で地震時の荷重を支持する場合は、熱膨張等非常に遅い変位に対しては拘束せず、地震時等の急激な変動荷重のみを拘束するメカニカルスナッバを使用している。 また、1次系主配管とその支持構造物の接合部を図5に示す。1次系主配管については一体溶接された支持部はない。 Fig.1 Rod type restraint Fig.2 Frame type restraint Fig.3 Constant hanger Fig.5 Piping clamp
軽水炉はメカニカルスナッバの潤滑剤としてグリースを採用している。「もんじゅ」の配管設置箇所では、軽水炉と比較して高放射線量下となることから、耐放射線グリースの開発を実施し、放射線量が70MGyまでであれば開発したグリースが使用できることを確認した[4]。しかし、「もんじゅ」の1次主冷却系配管室ではプラント寿命を考慮した累積放射線量が70MGyを超える箇所がある。 一般にグリースは、放射線照射により一度軟化し、さらに照射を続けると硬化する傾向があるが、これは照射によりグリースのゲル構造が損傷して軟化し、さらに照射を続けると油の架橋などによって粘度が増加して硬化すると考えられている[5]。グリースの耐放射線性には限界があると考えられることから、当該箇所に設置するメカニカルスナッバとして、耐放射線性に優れた固体潤滑材を用いたメカニカルスナッバを開発した。なお、他の配管支持構造物の対象については、高速炉特有の課題がないので、軽水炉で実績があるものを採用している。
3.固体潤滑型メカニカルスナッバ耐久試験 固体潤滑型メカニカルスナッバは潤滑材を除けばグリ ース型と同一の構造である。固体潤滑型は耐放射線性に Fig.4 Snubber
優れているが、固体潤滑型の懸念として、長期動作によ る固体潤滑材の剥離が考えられることから、プラント運 転/停止による配管熱膨張を模擬した低速動作耐久試験を 実施した。定格荷重100kgfの固体潤滑型メカニカルスナ ッバの試験結果を図 6 に示す。許容値を定格荷重の 15% である 15kgf とし、動作速度は 1mm/s とした。なお、1 サイクルで60mm動作する。図より、7000サイクル(420m) を超えると抵抗値が明確に増大する傾向を示しており、 累積走行距離が 420m を超えると劣化が生じていると考 えられ、7500サイクル(450m)を超えると許容値を超過 した。「もんじゅ」においてプラント寿命 30 年を考慮し た固体潤滑型メカニカルスナッバの最大走行距離は 135mと評価されており、配管熱膨張による長期動作に対 してプラント寿命中の性能が維持されることを確認でき た。 地震を考慮した定格荷重を負荷した耐久試験を実施し た。負荷周波数を9Hz、サイクル数を17500として試験 を行った。試験後の試験体調査を行い、部品の緩み及び 脱落は発生していないことを確認した。また、試験後に 配管熱膨張による動作を考慮した低速動作試験を行い、 抵抗値は増大しなかった。これより、地震発生後も固体 潤滑型メカニカルスナッバは必要な性能が維持されるこ とを確認した。 事故等を考慮した厳しい環境による耐性確認試験を実 施した。高温試験では、171°Cで3時間、160°Cで3時間、 121°Cで18時間を連続で温度負荷した。高湿度試験では、 湿度95%以上を保ったままで、常温で2時間、71°Cで6 時間、30°Cで16時間を1サイクルとして、10サイクル連 続で実施した。塩水噴霧試験では、JIS Z2371[6]に従い、 塩水噴霧時間を48時間として実施した。砂粉塵試験では、 12時間の砂粉塵環境への耐性を確認した。各試験後に配 管熱膨張による動作を考慮した低速動作試験を行い、抵 抗値は増大しなかった。これより、固体潤滑型メカニカ ルスナッバは厳しい環境条件について耐性を有している ことを確認した。
Fig.6 Resistance force versus cycle number 4.配管支持構造物の保全計画 4.1 保全計画の検討 研開炉における保全計画の策定において、研開炉の特 徴を考慮した変更点及び考慮事項として以下を提案して いる[3]。
・設計的知見や科学的知見等に重点を置いた保全計画 の策定 ・設計・設備の裕度を考慮し、総合的な安全性が確保 されることを確認 ・保全計画の妥当性確認のため、知見の確認用データ を取得 ・安全裕度向上の観点から、健全性維持確認のために 監視等を積極的に実施 ・経年劣化に関する情報の将来的な標準化を目指した 知見の拡充また、1次系主配管支持構造物は窒素環境下に設置されており、酸化による劣化メカニズムはない。ロッドレストレント及び架構レストレントは単純な機構であり、窒素のような不活性ガス雰囲気化では劣化は生じないと予期できる。コンスタントハンガについても基本的にばねにより加重を一定にする機構なため単純な機構となっている。メカニカルスナッバは動的機構を有しており、かじり等の耐久性が懸念されるが前出の耐久試験等で耐久性が十分な裕度をもって確保されているため、寿命期間中の目立った劣化は想定されない。このため代表部位による監視を行うことにより、劣化がないことを確認することが基本的な保全方法となる。ただし、原子炉出力運転開始前については正常な状態を把握する観点からもアクセス可能なすべての支持構造について直接目視検査を行うこととする。
上記の保守計画に加えて、メカニカルスナッバのサー ベランス供試体を高照射線量箇所に設置し、照射による 解析結果を表2に示す。表中のx、y、z 潤滑剤の劣化を確認する。潤滑剤の劣化については、配 は、管軸方向、 管熱膨張による動作を考慮した低速動作試験時のトルク 管軸に対して直行する水平方向、管軸に対して直行する 変化により検出できる。サーベランス供試体の低速動作 鉛直方向である。配管変位の測定値と解析値の最大のず 試験は、低照射線量箇所に移動させて実施し、試験後は れは9SのZ 方向における11.5mmである。ナトリウム冷 元の場所に再設置し、更なるデータ蓄積に資する。 却炉では、運転温度が高く配管の熱膨張が大きく、かつ 「もんじゅ」1次系配管の特徴の一つは、メンテナンス 熱膨張による影響を緩和させるため複雑な配管体系であ 時と運転時の温度差による大きな熱膨張である。この大 り、軽水炉と比較して配管変位の不確定性が大きくなる。 きな熱膨張により、配管変位をモニタすることで配管支 配管変位の許容値の検討に資するため、図8における 持構造物の健全性を判断できる可能性がある。一つの配 15S 箇所において、管軸方向(Case1)及び鉛直方向(Case2) 管支持構造物が脱着または固着した場合、境界条件の変 に40mmの強制変位を与えた条件で配管応力を解析によ 化により配管変位が変化するためである。第一段階とし り評価した。評価結果を図9に示す。図には熱応力も示 て、配管支持構造物に異常がない通常時の配管変位デー す。図より、配管熱膨張による変位の荷重と比較すると タを蓄積し、異常があった際の配管変位の変化をモニタ 強制変位の荷重は小さく、評価位置においては40mm程 リングする。 度の変位のずれは許容可能であることがわかる。 100%出力運転条件(炉心出口ナトリウム温度529°C) 4.2 保全計画の提案 における配管変位の解析結果を表3に示す。表に示すと 以上を踏まえて、「もんじゅ」の1次系主配管支持構造 おり、配管の最大変位は100mmを超えており、ナトリウ 物の保全計画を以下のとおり提案する。 ム冷却炉の配管系では変位が大きくことがわかる。「もん 原子炉出力運転前においては、アクセス可能な全ての じゅ」においては、40%出力運転時及び100%出力運転時 配管支持構造物について直接目視検査を行う。直接目視 に配管変位の測定が予定されていた。これらの条件にお 検査では、取付状態の異常、き裂・変形による損傷を確 ける配管変位の測定値を蓄積し、各条件における解析結 認する。 果も踏まえて各部位の配管変位の許容値を設定する予定 原子炉出力運転後においては、1次系ナトリウムは放射 であった。適切な許容値を設定することで、配管変位モ 化されており、1次系配管エリアの照射線量は高い。した ニタにより配管支持構造物の健全性を確認することが可 がって、保守作業による被ばく線量を低下させる保守計 能となる。 画をとして基本的に代表部位の目視検査とする。代表部 位の目視の場合でも高照射線量箇所では目視検査はITV Table 1 Inspection methods for supports カメラにより行う。ITVカメラによる目視検査では、取付 Items Methods 状態の異常及びインジケータの指示値を確認する。代表 SNM-002A Local ITV 的な支持構造物は固着が生じた場合に与える影響が大き SNM-010C Self-traveling ITV い観点から図7に示すとおり選定した。代表的な支持構 SNM-020C Direct visual inspection 造物の目視検査方法を表1に示す。 CH-005A Self-traveling ITV また、配管支持に異常がある場合は配管変位に異常が CH-010A Self-traveling ITV あるため配管変位を測定し配管支持構造物が「健全であ PHTS-003-17 Direct visual inspection ることの確認」を行う。
4.3配管変位モニタ技術の現状 「もんじゅ」では配管変位モニタ技術が検討されてき た。原子炉起動前の「もんじゅ」総合機能試験[7]の一環 として、配管変位計測が実施された。計測箇所は図8に おける6S、9S、13S及び15Sである。総合機能試験では、 室温かつ配管にナトリウムがない条件からの200°Cナト リウム内包条件による配管変位を計測した。計測結果と
Table 2 Comparison of analysis and measured piping displacement Analysis [mm] Measured [mm] Deviation [mm] 6S-X -31.7 -30.1 -1.6 6S-Y -3.5 -11.4 7.9 6S-X 14.8 13.5 1.3 9S-X -24.9 -26.2 1.3 9S-Y -6.0 -12.3 6.3 9S-Z 22.9 11.4 11.5 13S-X -22.7 -24.3 1.6 13S-Y -9.2 -16.9 7.7 13S-X 29.6 19.2 10.4 15S-X -26.4 -26.3 -0.1 15S-Y -10.2 -19.3 9.1 15S-X 38.3 30.3 8 Table 3 Estimated piping displacement (529deg-C under operation) Analysis result [mm] 6S-X -89.5 6S-Y -10.0 6S-X 41.8 9S-X -70.4 9S-Y -17.1 9S-Z 64.8 13S-X -64.2 13S-Y -26.0 13S-X 83.8 15S-X -74.7 15S-Y -28.8 15S-X 108.2
Fig. 7 Representatives for visual inspection Fig. 8 Positions for monitoring of piping displacement Fig. 9 Evaluated stress due to forced displacement
5.まとめ 提案した研開炉の保守管理の考え方に基づき、「もんじ ゅ」の1次系主配管支持構造物の保全計画を検討した。 検討結果を以下に示す。 参考文献 原子炉出力運転前においては、アクセス可能な全ての 配管支持構造物について直接目視検査を行う。原子炉出
[1] 日本電気協会:_原子力発電所の保守管理規程”, 力運転後においては、保守作業による被ばく線量を低下 JEAC4209-2014 (2014). させる保守計画を指向し、高照射線量箇所では目視検査 [2] 日本電気協会:_原子力発電所の保守管理指針”, はITVカメラにより行う。 JEAG4210-2014(2014). 上記の保守計画に加えて、メカニカルスナッバのサー [3 ]高屋茂ら、_研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮 ベランス供試体を高照射線量箇所に設置し、照射による した保守管理の提案(1)基本要件”、日本保全学会 潤滑剤の劣化について低速動作試験時のトルク変化によ 第13回学術講演会、横浜、2016、pp. 321-326 り確認する。 [4] 荒川和夫ら、_グリースの動特性に及ぼす放射線照射 「もんじゅ」1次系配管の特徴の一つは、メンテナンス 効 果 の 研 究 ”、 JAERI-M レ ポ ー ト 、 時と運転時の温度差による大きな熱膨張である。この大 JAERI-M-86-042(1986) きな熱膨張により、配管変位をモニタすることで配管支 [5] 荒川和夫ら、_グリースの高温下における放射線劣化 持構造物の健全性を判断できる可能性がある。第一段階 の研究 III. 耐熱・耐放射線性グリースの開発”、 として、配管支持構造物に異常がない通常時の配管変位 JAERI-M レポート、JAERI-M-92-176(1992) データを蓄積し、蓄積したデータを用いて配管支持構造 [6] 日本工業規格、_塩水噴霧試験方法”、JIS 物の故障検出の許容値を設定する。配管変位モニタ技術 Z2371-1998(1988) が成熟した後、配管支持構造物の保全作業は基本的には [7] 広井博ら、_高速増殖原型炉「もんじゅ」の試運転に 目視検査から配管変位モニタに変更し、代表的な支持構 ついて”、動燃技報、PNC TN1340 96-004、1996、pp. 造物のみ目視検査を実施することとする。 49-68 - 366 - 研究開発段階発電用原子炉の特徴を考慮した保守管理の提案 (3) 配管支持構造物への適用事例 相澤 康介,Kosuke AIZAWA,髙屋 茂,Shigeru TAKAYA,近澤 佳隆,Yoshitaka CHIKAZAWA,田川 明広,Akihiro TAGAWA,久保 重信,Shigenobu KUBO
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