非破壊検査装置への応用を目指した臭化タリウム(TlBr)検出器による ステンレス鋼材を用いた応答特性評価
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カテゴリ: 第14回
1.まえがき
日本原燃(株)が青森県六ヶ所村で事業を進めている再処理施設は、国内初の商業プラントである。再処理施設は、原子力発電所から発生する使用済燃料を 再処理し、再び原子燃料として利用できるようにウランとプルトニウムを取り出すことを主な目的としており、核燃料サイクルを確立するための要となっている。 再処理施設は、2004年に試運転を開始しており、 これまでポンプケーシング部及び弁体などからの漏えい事象や保温材下配管の経年変化による減肉事象を経験している。 再処理施設は操業を目前とし、設備の経年変化による減肉などの問題に対し、未然防止のため、今後、適切な維持管理を行う必要がある。更に、再処理施設の特徴からポンプ、弁及び配管などは狭隘部に設置されている場合が多く、現場で取り扱いが可能な小型・軽量で、且つ、透過力の高い高エネルギーガンマ線による放射線透過試験が可能な装置の必要性が高まってきている。 現在、既に市販されているテルル化カドミウム (CdTe)を用いたエネルギー弁別型放射線ラインセンサは、計測エネルギー範囲の上限など、再処理施設の検査では、適用が難しい場合がある。 現在、我々の研究室で取り扱っている臭化タリウム(TlBr)はガンマ線検出効率が高いため、高エネルギーガンマ線を用いた放射線透過試験装置への適用が期待されている。また、TlBr 結晶は CdTe 結晶と比較して結晶の育成が容易で、低コストでの製作が可能となることや、装置の小型化・軽量化が期待できる。 そこで、我々は、非破壊検査の要となる放射線透過試験装置への応用を目指したTlBr検出器の基礎特性評価を進めている。
2.研究 放射線検出器材料としての半導体結晶には高い電荷収集効率を得る為、大きい担体移動度・寿命時間積(μτ 積)が求められる。そのμτ積の値は半導体中の不純物濃度に大きく左右される。 このことから、公称純度 99%のTlBr粉末を素材として帯域精製法により純化し、TlBr単結晶の育成を行った。育成したTlBr結晶を用いて検出器を製作し、応答特性の評価を行った。
Fig.1 は、研究室で自作した TlBr 検出器である。 TlBr 結晶 TlBr 検出器Fig. 1 TlBr 検出器 TlBr 検出器は厚さ 3 mm であり、1.5 mm × 1.5 mm のピクセル電極を有している。今回の実験では、陰 極に 300V を印加し、1 つのピクセルから信号読み出 しを行なった。被写体は、再処理施設の機器等の材 料に用いられているステンレス鋼に溶接を施工し製 作した試験片(ステンレス鋼板厚さ 8 mm 、TIG 溶 接)であり、より実機に近い条件を模擬した。 はじめに、TlBr 検出器の応答特性確認として、137Cs 密封線源と TlBr 検出器の間に被写体を置いた場合 と置かない場合で、ガンマ線スペクトルの測定を行 った。 次に、被写体を 2 mm 間隔で移動させ、試験片の 溶接部と鋼板部のスペクトル変化を見た。移動距離 範囲は 40 mm とし、溶接線 1 本を通過させ、カウン ト数を室温で計測し、一次元透過像を確認した。Fig.2 は、製作した被写体の写真である。 3. 結果および考察 被写体有り無しでの応答特性結果を Fig.3 に示す。 137Cs の全吸収ピーク(662keV)より低いエネルギ ー側で生じるコンプトン散乱の連続スペクトルが、 被写体を置くことによって、増加していることが確 認できた。これは被写体でコンプトン散乱されたガ ンマ線が検出器に入射したためであると考えられる。 (137Cs:662keV) Fig. 3 被写体有無によるスペクトル変化 Fig. 2 ステンレス鋼板 被写体 次に、溶接部と鋼板部を測定した結果のプロファ イルを Fig.4 に示す。 Fig. 4 被写体計測プロファイル 未施工部分の鋼板部より、溶接部が肉盛りにより 厚肉となっていることから、ガンマ線の吸収が高く なっており、ガンマ線の吸収分布が被写体の形状と ほぼ整合することが確認できた。 溶接施工したステンレス鋼板試験片を用いて、よ り実機に近い条件を模擬し、TlBr 検出器を用いた応 答特性を確認し、溶接部と鋼板部の一次元透過像を 得ることができた。今後は、測定範囲を拡張し、非 破壊検査装置への応用を目指した開発を行う。 参考文献 [1] 日本アイソトープ協会 Isotope News 2013 年 11 月号 No.715(人見啓太朗 他):臭化タリウム半 導体検出器 [2] 映像情報メディア学会 学会誌 Vol.67,No6(2013) (青木徹 他):非可視光領域のセンシング・画像 処理技術-X 線イメージング 4. 結言 - 380 - 非破壊検査装置への応用を目指した臭化タリウム(TlBr)検出器による ステンレス鋼材を用いた応答特性評価 高坂 充,Makoto KOUSAKA,人見 啓太朗,Keitaro HITOMI,長野 宣道,Nobumichi NAGANO,石井 慶造,Keizou ISHII
日本原燃(株)が青森県六ヶ所村で事業を進めている再処理施設は、国内初の商業プラントである。再処理施設は、原子力発電所から発生する使用済燃料を 再処理し、再び原子燃料として利用できるようにウランとプルトニウムを取り出すことを主な目的としており、核燃料サイクルを確立するための要となっている。 再処理施設は、2004年に試運転を開始しており、 これまでポンプケーシング部及び弁体などからの漏えい事象や保温材下配管の経年変化による減肉事象を経験している。 再処理施設は操業を目前とし、設備の経年変化による減肉などの問題に対し、未然防止のため、今後、適切な維持管理を行う必要がある。更に、再処理施設の特徴からポンプ、弁及び配管などは狭隘部に設置されている場合が多く、現場で取り扱いが可能な小型・軽量で、且つ、透過力の高い高エネルギーガンマ線による放射線透過試験が可能な装置の必要性が高まってきている。 現在、既に市販されているテルル化カドミウム (CdTe)を用いたエネルギー弁別型放射線ラインセンサは、計測エネルギー範囲の上限など、再処理施設の検査では、適用が難しい場合がある。 現在、我々の研究室で取り扱っている臭化タリウム(TlBr)はガンマ線検出効率が高いため、高エネルギーガンマ線を用いた放射線透過試験装置への適用が期待されている。また、TlBr 結晶は CdTe 結晶と比較して結晶の育成が容易で、低コストでの製作が可能となることや、装置の小型化・軽量化が期待できる。 そこで、我々は、非破壊検査の要となる放射線透過試験装置への応用を目指したTlBr検出器の基礎特性評価を進めている。
2.研究 放射線検出器材料としての半導体結晶には高い電荷収集効率を得る為、大きい担体移動度・寿命時間積(μτ 積)が求められる。そのμτ積の値は半導体中の不純物濃度に大きく左右される。 このことから、公称純度 99%のTlBr粉末を素材として帯域精製法により純化し、TlBr単結晶の育成を行った。育成したTlBr結晶を用いて検出器を製作し、応答特性の評価を行った。
Fig.1 は、研究室で自作した TlBr 検出器である。 TlBr 結晶 TlBr 検出器Fig. 1 TlBr 検出器 TlBr 検出器は厚さ 3 mm であり、1.5 mm × 1.5 mm のピクセル電極を有している。今回の実験では、陰 極に 300V を印加し、1 つのピクセルから信号読み出 しを行なった。被写体は、再処理施設の機器等の材 料に用いられているステンレス鋼に溶接を施工し製 作した試験片(ステンレス鋼板厚さ 8 mm 、TIG 溶 接)であり、より実機に近い条件を模擬した。 はじめに、TlBr 検出器の応答特性確認として、137Cs 密封線源と TlBr 検出器の間に被写体を置いた場合 と置かない場合で、ガンマ線スペクトルの測定を行 った。 次に、被写体を 2 mm 間隔で移動させ、試験片の 溶接部と鋼板部のスペクトル変化を見た。移動距離 範囲は 40 mm とし、溶接線 1 本を通過させ、カウン ト数を室温で計測し、一次元透過像を確認した。Fig.2 は、製作した被写体の写真である。 3. 結果および考察 被写体有り無しでの応答特性結果を Fig.3 に示す。 137Cs の全吸収ピーク(662keV)より低いエネルギ ー側で生じるコンプトン散乱の連続スペクトルが、 被写体を置くことによって、増加していることが確 認できた。これは被写体でコンプトン散乱されたガ ンマ線が検出器に入射したためであると考えられる。 (137Cs:662keV) Fig. 3 被写体有無によるスペクトル変化 Fig. 2 ステンレス鋼板 被写体 次に、溶接部と鋼板部を測定した結果のプロファ イルを Fig.4 に示す。 Fig. 4 被写体計測プロファイル 未施工部分の鋼板部より、溶接部が肉盛りにより 厚肉となっていることから、ガンマ線の吸収が高く なっており、ガンマ線の吸収分布が被写体の形状と ほぼ整合することが確認できた。 溶接施工したステンレス鋼板試験片を用いて、よ り実機に近い条件を模擬し、TlBr 検出器を用いた応 答特性を確認し、溶接部と鋼板部の一次元透過像を 得ることができた。今後は、測定範囲を拡張し、非 破壊検査装置への応用を目指した開発を行う。 参考文献 [1] 日本アイソトープ協会 Isotope News 2013 年 11 月号 No.715(人見啓太朗 他):臭化タリウム半 導体検出器 [2] 映像情報メディア学会 学会誌 Vol.67,No6(2013) (青木徹 他):非可視光領域のセンシング・画像 処理技術-X 線イメージング 4. 結言 - 380 - 非破壊検査装置への応用を目指した臭化タリウム(TlBr)検出器による ステンレス鋼材を用いた応答特性評価 高坂 充,Makoto KOUSAKA,人見 啓太朗,Keitaro HITOMI,長野 宣道,Nobumichi NAGANO,石井 慶造,Keizou ISHII