重大事故模擬環境下における 原子力発電所用安全系ケーブルの絶縁性能

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
原子力発電所で使用されているケーブルは、機器へ電力を供給する機能や機器の監視・制御信号を伝達する機能を有する。このうち、安全系低圧ケーブル(以下「安全系ケーブル」)は、供用期間中の設計基準事故(冷却材喪失事故等。以下「DBA」)を含む設計で想定される全ての環境条件下において機能を維持することが必要となる [1, 2]。 2013年に日本において施行された新規制基準においては、重大事故(以下「SA」)対策が要求事項となり[3, 4]、万一、原子力発電所がDBAを超えるSAに至った場合においても、原子炉圧力容器内の温度、圧力等の事故対応に必要となるパラメータが計測可能であることが必要である。安全系ケーブルは、この目的のための重大事故等対処設備として使用されていることから、通常運転時の使用条件による経年劣化を考慮しても、SA 環境下において絶縁性能を維持することが必要である[5]。 本研究では、重大事故等対処設備として使用されているケーブルの SA環境下における絶縁性能を検証することを目的として、主要なケーブル種類に対し、SA環境を模擬する試験を実施するとともに、試験の蒸気暴露試験中に絶縁抵抗を測定した。
2.試験の実施方針
ケーブルの絶縁体には高分子材料が使用されており、主に通常運転時の熱及び放射線により経年劣化が進行するとともに、DBA時には高温水蒸気と高線量率・大線量の放射線に曝される。このため、これらのケーブルについては、米国電気電子学会規格IEEE Std 383-1974 [6]に基づき作成された電気学会推奨案 [7]に基づき、実プラント で使用されているものと同型式の新品未劣化ケーブルを供試体として通常運転時相当の劣化を付与した後、DBA
ーブルと絶縁材料が同等であるシリコーンゴム絶縁シリ コーンゴムシースケーブル(以下「SiR ケーブル」)及び FR-EPDM ケーブルの新品未劣化ケーブルを試料として 用いた。ケーブル試料の構造の概要や長さもTable 1に付 記した。 Table 1 Names, materials, structures, sizes, and length of the tested cables Name Insulation Jacket Nominal diameter external (mm) を模擬する環境条件に曝して要求機能を満たすことを検 証する型式試験により、供用期間中の健全性が評価され る。一方、著者らは、これまでに実施したDBA を想定した 型式試験に関する試験研究[8]に基づき、「原子力発電所の ケーブル経年劣化評価ガイド」(以下「JNES ガイド」)[9] を策定した。このJNESガイドは、原子力発電所の安全系 ケーブルの DBA を考慮した健全性評価で用いられてい る。IEEE Std 383-1974とJNES ガイドの型式試験の主な 試験項目及び試験の流れをFig. 1 に示す。通常運転時相当 の熱及び放射線による劣化の付与を、IEEE 383-1974では 逐次又は同時のいずれかとしているのに対し、JNESガイ SiR cable Silicone Silicone conductor Nominal (mmsize 2) Number of cores insulation thickness Nominal (mm) Length (m) rubber rubber 12 1.25 3 0.76 2.5 ドでは熱・放射線による同時劣化処理で行うこととして いることが両者の主な違いである。 3.2 試験方法 3.2.1 事前劣化処理 ケーブルの通常運転時の熱及び放射線による経年劣化 を模擬するため、新品未劣化ケーブルをガンマ線照射施 設内に設置した恒温槽に入れ、100oCでTable 2に示す期 間加熱しながら、60Coガンマ線100 Gy/h を照射すること により劣化処理ケーブルを製作した。この劣化処理時間 は、先行研究においてJNESガイドと同一の試験方法に基 づく DBA を模擬する型式試験に合格したケーブルの最 長劣化処理時間とした[8]。なお、事前劣化処理前後には JNES ガイドに従い機能試験として絶縁抵抗測定を実施 し、有意な絶縁低下の無いことを確認している。また、 本研究では、比較参照用として、事前劣化処理を行わな い新品未劣化ケーブルについても以降に示す 3.2.2~3.2.4 の試験を実施した。 3.2.2 重大事故環境の模擬試験 SA時の放射線劣化を模擬する照射試験(以下「事故時 照射試験」)及び蒸気暴露試験を実施した。試験条件は、 SA シナリオに対し事故対策が実施された場合に想定 される原子炉格納容器内の温度・圧力条件[11]に基づいた。 SA対策の有効性評価において少なくとも7 日間(168時 間)評価することが要求されていること[4]を踏まえ、よ り長期間 SA が継続した場合における健全性を調査する ため、14 日間(336 時間)の事故時環境を模擬した。な お、過去の研究において、事故時照射試験の後に蒸気暴 露試験を実施する方が事故時照射試験と蒸気暴露試験を 同時に実施するよりも厳しいとの報告[12]があることか らこれに従った。事故時照射試験及び蒸気暴露試験の条 FR-EPDM cable 本研究では、JNES ガイドに準じてSA環境を模擬する 試験を実施することとした。具体的には,Fig. 1(b)に示す 試験の手順において、事故時環境の模擬としてSA環境を 模擬する放射線暴露及び蒸気暴露試験を実施する。また、 蒸気暴露試験中にケーブルの絶縁抵抗を継続的に測定す ることとした。 3.試験方法 3.1 試料 国内の加圧水型原子炉(以下「PWR」)においては、 安全系ケーブルのシリコーンゴム絶縁難燃シリコーンゴ ムシースケーブル(以下「FR-SiRケーブル」)及び難燃エ チレンプロピレンジエンゴム絶縁難燃クロロスルホン化 ポリエチレンシースケーブル(以下「FR-EPDMケーブル」) が重大事故等対処設備として事故時計装用に使用されて いる[10]。本研究では、Table 1に示すように、FR-SiRケ Flame-retardant ethylene diene Chlorosulfonated polyethylene rubber propylene 11.5 2 3 0.8 2.5 Thermal ageing Radiation ageing at and (Simultaneous 100 Age radiation oC conditioning and 100 exposure thermal Gy/h) (Radiation Accident simulation exposure) (Radiation Accident simulation exposure) Accident (Steam exposure) simulation Accident (Steam exposure) simulation (Equivalent Voltage withstand to IEEE Std test 383) Voltage (JIS C withstand 3005: 2000) test (a) IEEJ Recommendation [6] (b) JNES Guide [9] Fig. 1 Comparison of cable type test procedures between the IEEJ Recommendation and the JNES Guide. - 396 - Table 2 Conditions of pre-aging and accident test, and results of insulation performance test Cable name period Pre-aging (h) Minimum resistivity the to (Ωm) pass test withstand Voltage result test SiR cable 0 5,549 1,000 155 oC, 0.444 MPaG 336 Applied 1.3x108 Passed 1,000 155 oC, 0.444 MPaG 336 Applied 2.6x108 Passed FR-EPDM cable 0 4,003 1,000 155 oC, 0.444 MPaG 336 Applied 1.9x108 Passed 1,000 155 oC, 0.444 MPaG 336 Applied 1.3x108 Passed Fig. 2 Various temperature profiles; 1) steam exposure of this study, 2) in a pressure containment vessel under the postulated severe accident for a four-loop PWR in Japan (profile is provided only for 0 - 48 h in [11]) (?), 3) type test simulating DBA used in previous studies (・・・・・・). Radiation (kGy) dose (steam simulation Accident exposure) time Test (h) Chemical (0-24 spray h) 件を以下に示す。 (1) 事故時照射試験 事前劣化ケーブル及び未劣化ケーブルを対象として、 室温において60Coガンマ線線量率10 kGy/hで照射試験を 行った。前述のとおり、想定する事故期間は14日間であ る。また、国内PWRの運転期間延長認可申請の劣化状況 評価書では、事故発生後7日間の積算線量は500 kGy と されている[10]。これらを踏まえ、2倍の線量として総線 量を1,000 kGyとした。 (2) 蒸気暴露試験 事故時照射試験を実施後、ケーブルを蒸気暴露試験 装置に両端を引き出して設置し、SA 時の放射線を除 く環境条件を模擬するため、蒸気暴露試験を実施した。 日本国内の4 ループPWR では、SA 時の原子炉格納容 器内の最高温度は144oC、最大圧力は0.444 MPaG であ る[11]。これらの条件を包含する試験として、温度 155oC、圧力0.444 MPaGの飽和蒸気による蒸気暴露試 200 1) Profile of the steam exposure of this study (155oC, 336 h) 2) Postulated severe accident for a four-loop PWR in Japan [11] 3) DBA test profile in previous studies [8] ) C(e rutarepmeT150 100 1) 2) 3) 5000 50 100 150 200 250 300 350 400 Time (h) Fig. 3 SiR and FR-EPDM cables and a steam exposure chamber before the steam exposure of condition 1 (155 oC, 0.444 MPaG, 336 h). - 397 - 験を14日間実施した。蒸気暴露試験の温度プロファイ ル、日本国内の 4 ループ PWR の SA 時の原子炉格納 容器内の温度プロファイル[11]及び先行研究において 実施した DBA を模擬する試験の温度プロファイル[8] を Fig. 2 に示す。試験容器内の温度が設定温度 155oC に到達後の最初の24時間は化学スプレイを噴霧した。 噴霧した化学スプレイ液は、H3BO3を0.3重量%、NaOH を添加してPh 8.5~10.5 となるように調整したもので ある[6]。蒸気暴露試験前にケーブルを試験装置に設置 した状況をFig. 3 に示す。 3.2.3 蒸気暴露試験中の絶縁抵抗測定 日本工業規格「ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法」 (JIS C 3005: 2000、4.7.1項)[13]を参考として、3.2.2(2) の蒸気暴露試験中にケーブルの絶縁抵抗測定を実施した。 蒸気暴露試験装置から引き出して設置したケーブルの絶 縁芯線 3 本のうち2 本を短絡させた上で、他の1 本との 間に直流電圧100 V を継続的に印加し、漏洩電流を2分 ごとに測定した。印加電圧値を漏洩電流値で除すことに よってケーブルの絶縁抵抗を算出した。絶縁抵抗にケー ブル長さを乗じることにより体積抵抗率を算出した。 3.2.4 耐電圧試験 5.考察 蒸気暴露試験終了後、日本工業規格「ゴム・プラスチ ック絶縁電線試験方法」(JIS づき、水中で交流1,500 1分間の耐電圧試験を実施した[13-15]。判定基準は「耐電 圧試験において供試ケーブルに絶縁破壊が生じないこと」 である。 C 3005: 2000、4.6(a)項)に基 V(電圧は実効値。商用周波数)、 JNES ガイドに準じ、155oC、0.444 MPaG、14 日間の SA環境を模擬する試験において、供試した全てのSiRケ ーブル及びFR-EPDMケーブルは、JNES ガイドに規定さ れた健全性判定試験である耐電圧試験に合格した。 また、蒸気暴露試験中の絶縁抵抗測定結果から、いず 4.試験結果 れのケーブルについてもケーブルの体積抵抗率の下限値 4.1 JNESガイドに準じた試験 本研究で供試した全ての SiR ケーブル及び FR-EPDM ケーブルは、JNESガイドに規定された健全性判定試験で ある耐電圧試験に合格した。 4.2蒸気暴露試験中の絶縁抵抗測定 155oC、0.444 MPaG、14 日間におけるケーブルの体積 抵抗率の推移をFig. 4に示す。なお、Fig. 4では、蒸気暴 露試験装置内の温度及び圧力が155 oC、0.444 MPaG 以上 となった時点を試験開始時間(0 h)として図示した。ケ ーブルの体積抵抗率は、蒸気暴露試験開始後に、蒸気注 入による温度上昇とともに低下し、試験容器内の温度が 155oCに到達した時点においては、108~109Ωm 程度とな は108Ωm 程度であった。一般的に、実プラントにおける 安全系ケーブルの原子炉格納容器内での長さは数10 m程 度である。保守的に長さ100 m と仮定した場合、ケーブ ル全体の絶縁抵抗値は106 Ωとなる。このことから、SiR ケーブル及びFR-EPDMケーブルは、155oC、0.444 MPaG、 14 日間の SA 環境において十分な絶縁性能を有している と考えられる。 今後、本研究よりも厳しい試験条件(200 oC、0.43 MPaG、 7 日間)における試験結果についても取りまとめる予定で ある。また、本研究に供試したケーブルについて機械的 特性や固体構造に係る分析等を行い、SA 環境における絶 縁体積抵抗率の変化の要因について検討する予定である。 った。試験開始後30 時間付近において下限値の108 Ωm 6.まとめ 程度となった後、時間の経過とともに緩やかに上昇して 蒸気暴露試験を終了した。Table 抗率の下限値を示す。体積抵抗率はケーブル種類及び事 前劣化の有無にかかわらず、いずれも上記のような挙動 を示した。 2に各ケーブルの体積抵 重大事故等対処設備として使用されているケーブルの SA 環境下における絶縁性能を検証することを目的とし て、SiR ケーブル及び FR-EPDM ケーブルに対し、JNES ガイドに準じて SA 環境を模擬する試験を実施するとと もに、試験の蒸気暴露試験中にケーブルの絶縁抵抗を測 定し、以下の結果を得た。 10141013SiR cable with pre-aging SiR cable without pre-aging Temperature (oC) 10141013FR-EPDM with pre-aging ) m1012 Pressure (MPaG) 20014:24:00) m1012 FR-EPDM without pre-aging Temperature (oC) Pressure (MPaG) 1900/07/180.6(y tivitsisere muloV10101011 10 9150100) Co(e rutarepmeT0.4 50) GaPM(e russerP(y tivitsisere muloV10101011 10 9(a) SiR cable with and without pre-aging (b) FR-EPDM cable with and without pre-aging Fig. 4. Electrical resistivity as a function of time, measured under the steam exposure environment of condition 1 with temperature (-・-・-) and pressure (-・・-・・) profiles shown in each graph (155 oC and 0.444 MPaG for 336 h). 150100) Co(e rutarepmeT5000Time (h) Time (h) 0.41081071080.21070.2) GaPM(e russerP106 1061051051040 50 100 150 200 250 300 350 400 0.0 1040 50 100 150 200 250 300 350 400 0.0 - 398 - (1) JNESガイドに準じて、155oC、0.444 MPaG、14 日 間の SA 環境を模擬した試験では、SiR ケーブル及び FR-EPDM ケーブルは、JNES ガイドに規定された健全性 判定試験である耐電圧試験に合格した。 (2) SiR ケーブル及び FE-EPDM ケーブルにおいて、 JNES ガイドに準じた試験の蒸気暴露試験中の絶縁抵抗 測定における体積抵抗率の下限値は、108Ωm 程度となる ことが確かめられた。 (3) 以上から、SiR ケーブル及びFR-EPDMケーブルは、 155oC、0.444 MPaG、14 日間のSA 環境においては十分な 絶縁性能を有していると考えられる。 参考文献 [1] 原子力規制委員会“実用発電用原子炉及びその附属 施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(第十 二条第三項) ”、平成25年原子力規制委員会規則第5 号、2013. [2] United States Nuclear Regulatory Commission, “General Design Criteria for Nuclear Power Plants - Criterion 4”, 10 CFR Part 50 Appendix A , 2015. [3] 原子力規制委員会“実用発電用原子炉及びその附属 施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(第三 十七条第二項) ”、平成25年原子力規制委員会規則 第5号、2013. [4] 原子力規制委員会“実用発電用原子炉に係る炉心損 傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価 に関する審査ガイド(2.2.1項(4)及び3.2.1項(4))”、平 成25年6月19日原規技発第13061915 号、2013、pp. 3、14. [5] 原子力規制委員会“実用発電用原子炉及びその附属 施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(第四 十三条) ”、平成25年原子力規制委員会規則第5号、 2013. [6] Institute of Electrical and Electronics Engineers “IEEE Standard for Type Test of Class 1E Electric Cables, Field Splices, and Connections for Nuclear Power Generating Stations”, IEEE Std 383-1974, 1974, pp. 10-12. [7] 電気学会“原子力発電所用電線・ケーブルの環境試 験方法ならびに耐延焼性試験方法に関する推奨案”、 電気学会技術報告(II部)第139号、 1982. [8] 原子力安全基盤機構“原子力プラントのケーブル経 年変化評価技術調査研究に関する最終報告書”、 JNES-SS-0903、2009、pp. 39-124、 179-245. [9] 原子力安全基盤機構“原子力発電所のケーブル経年 劣化評価ガイド”、JNES-RE-2013-2049 、2014. [10] 関西電力“高浜発電所運転期間延長認可申請書(2 号発電用原子炉施設の運転の期間の延長)の一部補 正について(添付書類二:高浜発電所2号炉劣化状 況評価書)”、関原発第111号、2016. [11] 九州電力“玄海原子力発電所の発電用原子炉設置変 更許可申請書(3号及び4号発電用原子炉施設の変 更)添付書類十”、平成25 年7月12日、2013、pp. 10(3)-5-44、 47、111. [12] Brookhaven Natinoal Laboratory, “Literature Review of Environmental Qualification of Safety-Related Electric Cables”, NUREG/CR-6384, 1996, p. 2-17. [13] 日本工業規格“ゴム・プラスチック絶縁電線試験方 法”、JIS C 3005: 2000 、2000. [14] 日本工業規格“600V けい素ゴム絶縁電線”、JIS C 3323: 2012、2012. [15] 日本工業規格“600VEPゴム絶縁ケーブル”、JIS C 3621: 2000、2000. - 399 -“ “重大事故模擬環境下における 原子力発電所用安全系ケーブルの絶縁性能“ “皆川 武史,Takefumi MINAKAWA,池田 雅昭,Masaaki IKEDA,平井 直志,Naoshi HIRAI,大木 義路,Yoshimichi OHKI
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