改良 EPDM 材料の高温環境特性の評価について

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
BWRの原子炉格納容器(以下、「PCV」という。)上 蓋フランジ部等のシール部については、シール材とし てシリコーンゴムやフッ素ゴムを使用してきたが、こ れらゴム材料は、重大事故(以下、「SA」という。)時 のように、200°Cの高温蒸気、数百キロGyの高放射線 量が重畳するような環境では、高温劣化等によりシー ル機能が低下し、PCV からの漏えいの要因となる可能 性が想定される[1]。 このため、BWRプラントでは、PCV シール部のシ ール材として、EPDM材料の高温蒸気環境下での特性、 高放射線量環境下での特性を高めた、改良EPDM材料 を新たに採用することとし、SA 時にPCV 内で想定さ れる高放射線量、200°C、0.854MPa*の高温、飽和蒸気 環境下における圧縮永久ひずみ試験等の耐性試験によ り十分なシール性能が確保できることを確認してきた [2]。 当社では、更なる安全性向上の観点から、改良EPDM 材料について、200°Cを超える高温環境における圧縮永 久ひずみ試験、実機フランジを模擬した小型フランジ を用いた漏えい試験を実施しており、300°Cまでの試験 が終了したことから、その結果について報告する。 *:PCVの放射性物質の閉じ込め機能を確保で きるとして設定した温度、圧力
2.PCV フランジ部のシール機能 PCVは事故時に原子炉から放出される放射性物質が 発電所外へ放散されるのを抑制するために設けられた 鋼製容器である。PCVにはプラント停止時の燃料交換 や設備の点検等のために開放できるよう、フランジ部 やハッチ等を設けており、その中で最も大きなものは、 燃料交換の際にPCV を開放するために設けられた PCV 上蓋フランジである。(Fig.1) Fig.1 Structure of PCV upper flange PCV 上蓋フランジは、プラント運転中は、内外二重 に配置されたシール溝それぞれにシール材を挟み込み、 ボルトで締付してシールしている。(Fig.2) Fig.2 PCV upper flange(enlarged view) 事故等においてPCV内の圧力が上昇していく場合に は、フランジ部に開口する方向の力が加わり、フラン ジ外周部にてフランジを締結しているボルトが支点と なってフランジが内側から開口していく。 なお、浜岡原子力発電所4号機(以下、「浜岡4号機」 という。)のSA時のPCV上蓋フランジ部の開口量は、 PCV上蓋フランジ部の三次元FEM解析結果から数mm と評価している。(Fig.3) Fig.3 Flange behavior under high pressure condition シール材は、シール溝に圧縮された状態で収められ ている。このため、フランジ部の開口に対してシール 材が追従できる場合には、外部への漏えいを防止する ことができる。 しかし、シール材の劣化(復元力の低下)等により、 フランジ部の開口にシール材が追従できない場合には、 外部への漏えいが生じることとなる。(Fig.4) 浜岡4号機におけるシール材は、SA 時のフランジ部 の開口量(数mm)に対して、十分追従できることか ら、PCVの上蓋フランジ部等シール部のシール性能は、 シール材である改良EPDM 材料の劣化、特に復元力を 確認することによって評価できる。 以下では、PCV 等のシール材として新たに採用した 改良EPDM 材料について、SA 環境を模擬して実施し た下記試験について述べる。 ・圧縮永久ひずみ試験、外観確認 ・実機フランジを模擬した小型フランジを用いた漏え 3.圧縮永久ひずみ試験及び外観確認 3.1 圧縮永久ひずみ試験 シール材は、圧縮状態にてシールしており、シール 材に全く劣化がない場合、圧縮状態から解放すると完 全に元の形に復元(弾性変形)するが、圧縮状態で高 温使用する等により劣化した場合には、圧縮状態から 解放しても完全に復元せずに塑性変形してしまう。 シール材の復元量の評価の一つに、圧縮永久ひずみ があり、「JIS K 6262(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム?常温, 高温及び低温における圧縮永久ひずみの求め方)」にて、 圧縮永久ひずみ率の測定方法等が規定されており、圧 縮永久ひずみ率は完全に元の形に復元した状態を0%、 圧縮状態から解放しても復元せずに塑性変形した状態 を100%として定義されている。(Fig.5) )ODQJH Sealing material Fig.5 Method of calculating compression set ratio ,QQHU IOXLG Fig.4 Leakage mechanism of flange portion い試験 Do not leak Leak 3.2 試験条件 試験条件として、SA時にPCV 内で想定される環境 温度及び放射線照射量を考慮し、改良EPDM 材料をγ 線により照射した後、飽和蒸気にて暴露した試験片を 用いて、圧縮永久ひずみ率を測定した。試験条件を Table 1 に示す。 Table 1 Test condition 3.3 試験装置の概要 圧縮永久ひずみ試験では、一つの試験条件で、試験 片3体を使用し、圧縮永久ひずみ率は3 体の試験片の 圧縮永久ひずみ率の平均値を用いて評価する。 試験片(改良EPDM材料)は、γ線により800kGy 又は1000kGyで照射した後、圧縮治具に挟み込み高さ の25%圧縮した状態(圧縮率25%)で、飽和蒸気環境 下で暴露し、治具から取り外して、圧縮永久ひずみ率 を測定する。 今回の試験で使用した、圧縮永久ひずみ試験片及び 圧縮治具をFig.6 に示す。 Test piece for Compression set Compression jig Fig.6 Test piece and Jig for Compression set 改良EPDM 材料は、高温環境に晒される時間が長く なるにつれて圧縮永久ひずみ率が増加する(復元力が 低下していく)こと、同一時間の場合、高温になるに つれて圧縮永久ひずみ率が大きくなることが判る。 また、各温度における圧縮永久ひずみ率は直線近似 可能であり、傾きもほぼ同じであることが判る。 (Fig.7) 10 1y = 4.135 * x^(0.24761) R= 0.92313 y = 4.3269 * x^(0.28196) R= 0.98892 y = 5.3728 * x^(0.26859) R= 0.98638 y = 7.8873 * x^(0.27514) R= 0.97557 y = 18.279 * x^(0.29958) R= 0.99847 Cs(%) Time(hr) Fig.7 The result of Compression set test 各温度に対して、一般的にシール機能が確保できる 圧縮永久ひずみ率が80%[3]となる時間(t)で整理(ア - 402 - 100200°C 225°C 250°C 265°C 280°C 300°C Steam Steam Steam Steam Steam Steam 800kGy 800kGy 800kGy 1000kGy 1000kGy 1000kGy 10 100 1000 3.4 圧縮永久ひずみ試験結果 改良EPDM 材料の圧縮永久ひずみ試験の結果を Table 2に、グラフ化したものをFig.7に示す。 Table 2 Compression set test result of improved EPDM レニウスプロット)した結果、高い相関を持って直線 近似可能であることが判る。(Fig.8) 図中の直線は、250°Cと265°Cのデータを除き、200°C、 225°C、300°Cのデータを用いた直線近似したものであ るが、この近似直線から、t=168 時間とした場合の温 度を評価した結果、297.9°Cである。 Fig.8 Arrhenius plot data of up to 300°C 次に、改良EPDM 材料の熱重量分析結果を示す。TG 曲線(図中の紫色の曲線)から200°Cまでは重量減少は ほとんど見られず、300°C程度となったところで重量減 少がわずかに確認できる。 このことから、改良EPDM材料は、約300°Cまでは 材料として大きな構造変化は発生していないと考えら れる。(Fig.9) (YDOXDWLRQ WHPSHUDWXUH ?? ? Fig.9 Thermogravimetric analysis test results これらの結果から、改良EPDM 材料は、200°Cから 300°Cの劣化挙動としては同一の機構であり、温度変化 による突発的な異常劣化が発生している可能性は低い と考えられることから、約300°Cまでの蒸気環境下で安 定的に使用可能なシール材料であると評価できる。 3.5 外観確認 劣化が進んでいると考えられる265°C、336時間(Test No.4-3)及び300°C、168 時間(Test No.6-3)の試験片 の外観確認結果を示す。外観確認では、試験片の外面 の確認に加え、試験片中央部で切断し、内面の状態に ついても確認を行った。 試験片(Test No.4-3)の外観は、直接暴露されている 側面の表層には軽微なクラックが確認されたが、シー ル面には異常は確認されなかった。切断した内面につ いては、側面のクラックは表層のみであり、内面に異 常は確認されなかった。また、硬度は、73 度であり、 未照射の製品の硬度(約70度)と同等であった。 Fig.10 Photo of sample after test(Test No.4-3) 試験片(Test No.6-3)の外観は、側面に異常は確認さ れなかったが、シール面の表層中央付近にへこみが確 認された。切断した内面については、内部に亀裂が確 認されたものの、シール面に貫通したものではなかっ た。また、硬度は、42 度と未照射の製品の硬度(約70 度)からの軟化が確認されたが、溶解、粘着や、分解 による粘土状への形態変化等は確認されておらず形状 は維持されていた。(Fig.11) Sealing surface Surface hardness of seal surface:42 degrees Surface hardness of seal surface:42 degrees Sample appearance Sample cross section (Fig.10) Surface hardness of Cut position seal surface:73 degrees - 403 - Sample cross section Sealing surface Sample appearance Dent Sealing surface Cut position Fig.11 Photo of sample after test(Test No.6-3) 4.小型フランジ漏えい試験 4.1 試験概要 圧縮永久ひずみ試験に加え、SA時の温度、圧力にお いてシール機能が確保されることを確認するために、 実機フランジを模擬した小型フランジを用いた漏えい 試験を実施した。小型フランジは、シール材の納まる フランジ溝断面形状は浜岡4号機の実機と同様の形状 (甲丸型)とした。(Fig.12) Fig.12 Comparison of dimensions シール材及びフランジ溝寸法は、Table 3 に示すとお り、幅・高さともに実機と同等であり、フランジ溝の シール材の中心径を縮小したものである。 Table 3 Test condition gd gw gh - 404 - フランジの開口量は、フランジ平坦部に調整シムを 挿入することで調整し、フランジ溝の内側からHe にて 加圧することで、SA時にPCV 内の圧力が上昇した際 のフランジ開口量を模擬した状態における漏えいの有 無を確認できる。 小型フランジ漏えい試験装置の概要を Fig.13 に示す。 Fig.13 Outline of Small Flange Leakage Test その後、漏えいの有無を確認するため、小型フラン ジを電気炉に移して再昇温し、フランジ溝の内側から 圧力1MPa のHe を10分間加圧、フランジ溝の外側か らの漏えいの有無を確認した。試験条件をTable 4 に示 す。 なお、予備試験として300°Cの飽和蒸気環境にて暴露 した際に、シール材が破損する事象が確認された。こ れは300°Cの飽和蒸気環境は高圧(約8.6MPa)であり、 試験体(小型フランジ)の取り出し時に急減圧したた め、シール材内部に浸透していた蒸気ガス成分が減圧 沸騰し、シール材が破損したと考えられた。このため、 本試験においては、試験体(小型フランジ)取り出し 時の減圧速度には細心の注意を図り試験を実施した。 Table 4 Test condition Equipment 4.2 試験条件 試験条件として、SA 時にPCV 内で想定される環境 温度及び放射線照射量を考慮し、シール材(改良EPDM 材料)をγ線により照射後、小型フランジのフランジ 溝に収め、調整シムによりPCV 上蓋フランジの開口量 を模擬した状態で飽和蒸気環境にて暴露した。 4.3 試験結果 小型フランジ漏えい試験を実施した結果、Test No.7-1 及びTest No.8-1共に漏えいは認められなかった。 試験後のシール材の外観確認の結果、300°Cの場合で は、一部に周方向の亀裂が確認されたが、漏えいに影 響するような(シール面を貫通するような)破損は認 められなかった。 このことから、280°C及び300°Cにおいても、168 時 間、フランジ部のシール機能は維持できると評価でき る。 5.結言 放射線照射、200°Cを超える高温蒸気環境下に暴露し た改良EPDM 材料について、以下のことが判った。 ・改良EPDM 材料は、200°Cから300°Cの劣化挙動と しては同一の機構であり、温度変化による突発的 な異常劣化が発生している可能性は低い。 ・約300°Cまでの蒸気環境下で安定的に使用可能な シール材料である。 ・小型フランジを用いた漏えい試験の結果、280°C及 び300°C飽和蒸気、168 時間の条件で漏えいは認め られなかった。 参考文献 [1] 伊藤 浩史,“真空エラストマーの耐放射線性の調 査” 第27 回リニアック技術研究会,7P-19, Aug2002 [2] 鈴木 憲,“耐放射線性エラストマー製品の展開 高機能EPDM H3070 H0880”,バルカーテクノ ロジーニュース No30,P14-19,Winter 2016 [3] 川村 敏夫,“Οリングの寿命と信頼性”,バルカ ーレビューVol26,No6,1982 - 405 -“ “改良 EPDM 材料の高温環境特性の評価について “ “杉村 卓哉,Takuya SUGIMURA,松田 真一,Shinichi MATSUDA,鈴木 憲,Ken SUZUKI,堤 裕介,Yusuke TSUTSUMI
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