格納容器用改良 EPDM ゴム(EP-176)の高温・水蒸気環境での 限界シール性

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
原子力発電所において、メルトダウンや冷却システム の破損などの“シビアアクシデント”の場合に格納容器 は放射性物質の放散の防壁として重要な機能を備えてい る。格納容器は“シビアアクシデント”で発生する高温 高圧の水蒸気や水素気体に対して高い気密性と抵抗性が 要求される。従って、格納容器の密封境界部を形成する ドライウェルフランジやハッチフランジなどは十分なシ ール性能を有することが要求される。 格納容器の密封境界部のシール材としては、従来、シ リコーンゴムやEPDMゴムが使われている。しかし、シ リコーンゴムは水蒸気条件での耐久性に不安があり、 EPDMゴムは高温条件での耐久性に不安がある。 BWR原子力発電所の格納容器の密封境界部の“シビア アクシデント”となる温度は200°Cといわれ[1]、各耐久 評価は200°C、168時間で行われている。 花島、山本らは従来のシリコーンゴムや一般のEPDM ゴムや「改良EPDM ゴム」と呼ばれるEP-176に対して、 “シビアアクシデント”を想定した放射線照射と温度 250°Cまでの高温・水蒸気環境の圧縮永久ひずみ試験やシ ール試験を行った[2],[3],[4]。その結果、「改良EPDMゴム」 EP-176は従来のシリコーンゴムや一般のEPDMゴムより も高い耐熱、耐水蒸気性を有することを示した。 しかし、現実には想定している“シビアアクシデント” の条件を超える可能性もあり、「改良EPDMゴム」EP-176 が、さらに厳しい高温・水蒸気環境でどのような特性を 示し、限界の環境はどの程度になるかを評価することは 有意義であると考えられる。 そこで、放射線照射した「改良EPDMゴム」EP-176 の 250°C、300°Cの蒸気シール試験を行い、シール性を評価 したので報告する。
2.ゴムガスケットのシール特性
2.1 ゴムガスケットのシール機構 小林らはゴムガスケットの気体の漏れには、明らかに 挙動が違う 2 種類の漏れがあることを確認した[5]。一つ はゴムガスケットの表面と接触しているフランジ面の隙 間を気体が通る接面漏れになる(Fig.1)。もう一つはゴムガ スケットの内部を気体が透過する浸透漏れになる(Fig.2)。 Fig.1 Contact surface leak
Fig.2 Penetration leak3.試料 接面漏れは石鹸水を塗布すると泡が発生するような比 較的大規模な漏れで、一般的に、10-4 Pa-m3/s 以上の漏洩 量となる[6]。ただし、通常、ゴムガスケットは10~15% 程度圧縮するとこの接面漏れはほとんどなくなる[5]。そ れに対して、浸透漏れは石鹸水を塗布しても泡が発生し ないような微量な漏れになり、気体がゴムガスケットの 内部を通過するもので、液体、固体は通過できず、気体 も分子量が大きくなり通過しづらくなる。従って、“シビ アアクシデント”時、格納容器内の放射性物質の外部へ 試料はニチアスで“シビアアクシデント”対策用に開 発した「改良EPDM ゴム」EP-176に1MGyの放射線を照 射したものとする。一般特性をTable ・放射線照射条件 γ線 :線源 Co60 線量 :1 MGy 線量率:10 kGy/hr 1に示す の漏れを防止するには、大規模漏洩となる接面漏れを防 ぐことが重要になる。 Table 1 Typical properties Rubber Improvement EPDM 2.2 圧縮永久ひずみとシール特性 ゴムガスケットは通常、フランジの溝に設置し、フラ ンジを締め切って圧縮して使用する。高温や水蒸気、放 Sample name EPDM-B NICHIAS Product No. 射線環境で使用するとフランジを開放してもゴムガスケ ットが使用前の厚さまで戻らなくなる。この戻らないひ ずみは圧縮永久ひずみCsといい、下式により求められる。 Cs = (t0-t2) / (t0-t1) × 100 Cs:圧縮永久ひずみ (%) t0:試料厚さ (mm) t1:圧縮時厚さ (mm) t2:取出し後厚さ (mm) Fig.3 Compression set 圧縮永久ひずみが発生するとフランジ開放時の復元量 が小さくなるとともに圧縮中の実質的な圧縮量も小さく なっているので、フランジ接触面の隙間を埋めているゴ ムガスケットの応力が小さくなる。接触面の応力が小さ くなると隙間が発生しやすくなり、大規模漏洩が発生す る。 ここで、加藤らは漏洩が発生しない圧縮永久ひずみの 限界値を 80%として、温度と時間による圧縮永久ひずみ の変化傾向から、ゴムガスケットの使用期間を評価して いる[9]。また、花島、山本らも実際に圧縮永久ひずみの 温度と時間による変化からゴムガスケットの使用期間を 推定している[1],[2]。 NU2670-EP-01 NU2680-EP-01 NICHIAS Compound No. EP-176 Hardness JIS K 6253 A 82 Tensile Strength [MPa] JIS K 6251 13.1 Elongation [%] JIS K 6251 140 Compression set [%] 150°C x 72hr JIS K 6262 1900/01/06t0 t1 t2 4.蒸気シール試験 高温・水蒸気環境で劣化したゴムガスケットのシール 性を評価するため、以下の蒸気シール試験を行う。 ブラインド型の溝フランジにゴムガスケット(Oリン グ)をセットし、フランジ内部に水をOリングに接触しな いように 10~18g 入れてボルトで締め付ける。締付後、 常温でフランジ締結体の重量を測定し、フランジ締結体 を電気炉に入れ、所定温度、所定時間加熱させる。所定 温度、所定時間加熱後、フランジ締結体を電気炉から取 出し、常温まで冷却後フランジ締結体の重量を測定する。 この時、加熱時のフランジ締結体内部では、水が飽和水 蒸気になり、Oリング内周部が飽和水蒸気に暴露される。 内部の圧力が外部よりも高くなるので、水蒸気は外部に 漏れようとする。加熱後のフランジ締結体の重量が加熱 前よりも減少している場合、水蒸気が外部に漏れたこと - 407 - になる。従って、加熱後のフランジ締結体の重量の減少 量から、Oリング(ゴムガスケット)の高温・水蒸気環境で のシール性を評価できる。 また、Oリングの線径を測定し、圧縮永久ひずみを求 める。 下記に試験条件を示す。 ・試料形状:Oリング ・サイズ :AS568-320 線径φ5.33×内径φ27.94 ・フランジ:JIS 10K FF 20A (Fig.4) ・溝深さ :4mm (圧縮率 25.0%) ・ボルト :M12、4本 ・締付荷重:24kN (締付トルク:15 N-m/本) ・加熱温度:250°C (飽和蒸気圧 3.98MPa) 300°C (飽和蒸気圧 8.59MPa) ・加熱時間:通算336時間 (168時間) ・測定時間:0、24、72、168、336時間 Sample(O-ring) Upper Flange Water Lower Flange Fig.4 Test equipment ・漏洩量換算 今回実施した蒸気シール試験は飽和水蒸気で試験 しているが、想定している“シビアアクシデント” の条件ではそこまで高圧にならない。また、実際の 蒸気配管での圧力は 1MPa 程度の水蒸気であること が多い。そこで、流体が1MPa の水蒸気のときの漏 洩量に換算して評価した。 ここで、漏洩量の換算方法を下記に詳述する。 まず、1時間あたりに漏洩した水蒸気の重量(重量 漏洩量)から気体の体積としての漏洩量を算出する。 この時、気体の体積は圧力によって変わるが、理想 気体と考えると圧力Pと体積Vの積PVは一定にな るので、漏洩で取り扱う気体量はPVで取り扱い、 気体の漏洩量は,「気体量/時間」で表す[7]。そこで、 重量漏洩量に蒸気比体積を掛け、重量を気体体積に 換算し、その体積に圧力(蒸気圧)を掛けて気体の漏 BOLT FASTENING Electric furnace - 408 - 洩量として蒸気漏洩量Qsを求める。 Qs=Ps×v×Qw / 106 / (60×60) Qw:重量漏洩量 (mg/hr) Qs:蒸気換算漏洩量 (Pa-m3/s) Ps:蒸気圧 (Pa) v:蒸気比体積(m3/kg) 次に、流体圧力が1MPa になった場合の換算漏洩量 を算出する。 漏洩は内部の圧力と外部の圧力の差から発生し、 漏洩量Qは下式のように表せる[7]。 Q=C(Pi-Po) Q:漏洩量 (Pa-m3/s) Pi:内圧 (Pa)、Po:外圧(Pa) C:コンダクタンス コンダクタンスCは漏洩時の流体の流れの抵抗で、 水蒸気は圧縮性流体の粘性流にあたり、漏洩の流路 を簡単に円導管の流れとすると下式のようになる [7],[8]。 C=πa4(Pi+Po)/(16ηL) a:漏洩流路(円導管)半径(m) L:漏洩流路(円導管)長さ(m) η:粘性係数 ここで、粘性係数η、漏洩流路半径 a、長さ L は 圧力が変わっても一定と考えられるので、それらを まとめ、比例定数Aとすると漏洩量Qと内圧Pi、外 圧Poとの関係は下式となる。 Q=C(Pi-Po) ==A(Pi2-Po2) 上式の関係から、内圧を1MPa としたときの換算漏 洩量(1MPa 蒸気換算漏洩量と呼ぶ)Q1 は下式から求 められる。 Q1=Qs(Pi12-Po2)/(Pis2-Po2) Q1:1MPa蒸気換算漏洩量(Pa-m3/s) Qs:蒸気漏洩量 (Pa-m3/s) Po:外圧(大気圧=1.013x105 Pa) Pis:内圧(加熱温度での飽和蒸気圧 Pa) Pi1:内圧(1MPa=1x106 Pa) 5.結果と考察 蒸気シール試験の漏洩量の結果をTable 2,3,Fig.5、圧縮 永久ひずみの結果をTable 4、試験前後の試料の外観を Table 5,6 に示す。なお、加熱温度300°Cの試験Non4は加 熱を168時間で終了した。 Table 2 Results of Leak rate at 250°C 試料 TOMBO NoNU2670-EP-01 (EP-176) 線量 1MGy 環境 飽和水蒸気 加熱温度 250°C 飽和蒸気圧 3.98MPa 試験No n1 n2 加熱時間 漏洩量 重量 蒸気換算 漏洩量 1MPa 1MPa 蒸気換算 漏洩量 hr mg/hr Pa-m3/s mg/hr Pa-m3/s 24 12.6 4.4E-05 13.1 4.5E-05 72 12.3 4.3E-05 12.2 4.2E-05 168 12.2 4.2E-05 12.2 4.2E-05 336 11.9 4.1E-05 11.6 4.0E-05 Table 3 Results of Leak rate at 300°C 試料 TOMBO NoNU2670-EP-01 (EP-176) 線量 1MGy 環境 飽和水蒸気 加熱温度 300°C 飽和蒸気圧 8.59MPa 試験No n3 n4 加熱時間 漏洩量 重量 重量 漏洩量 蒸気換算 漏洩量 1MPa 漏洩量 重量 蒸気換算 漏洩量 1MPa hr mg/hr Pa-m3/s mg/hr Pa-m3/s 24 4.2 2.9E-06 26.3 1.8E-05 72 2.6 1.8E-06 20.2 1.4E-05 168 2.6 1.8E-06 16.9 1.2E-05 336 1.6 1.1E-06 - - ※-:未測定 Fig.5 Leak rate for heating time - 409 - Table 4 Results of Compression set 試料 TOMBO NoNU2670-EP-01 (EP-176) 線量 1MGy 環境 飽和水蒸気 加熱温度 250°C 300°C 飽和蒸気圧 3.98MPa 8.59MPa 試験No n1 n2 n3 n4 加熱時間 336hr 336hr 336hr 168hr 圧縮永久 n?? 32% 29% 100% 81% Table 5 Sample before test and after test at 250°C 試料 TOMBO NoNU2670-EP-01 (EP-176) 線量 1MGy 環境 飽和水蒸気 加熱温度 250°C 飽和蒸気圧 3.98MPa 試験No n1 n2 試験前 加熱時間 336hr 336hr 試験後 Table 6 Sample before test and after test at 300°C 試料 TOMBO NoNU2670-EP-01 (EP-176) 線量 1MGy 環境 飽和水蒸気 加熱温度 300°C 飽和蒸気圧 8.59MPa 試験No n3 n4 試験前 加熱時間 336hr 168hr 試験後 った。 加熱温度250°C、300°C いずれの試験も1MPa蒸気換 算漏洩量が大規模漏洩の判断基準である 10-4 Pa-m3/s 以 下であり、大規模漏洩は発生していない。 また、試験後の試料の線径から求めた圧縮永久ひずみ 参考文献 は250°Cでは30%程度であり、使用限界の指標[9]とする [1] “第202回 原子力発電所の新規制基準適合性に係る 80%よりも十分低い値であった。しかし、300°Cでは圧縮 審査会合 議事録 (平成27年3月3日)”,原子力規 永久ひずみは80%を超えていた。 制委員会 (2015) 300°Cで試験した試料の外観をみると、Oリング外周部 [2] R. Yamamoto, K. Watanabe, K. Hanashima: “Endurance のフランジ面にOリングの配合物と思われる付着物があ test report of rubber sealing materials for the containment り、劣化が進んでいるように見える。また、フランジ面 vessel”, ICONE23-1610, JSME (2015) へ強固に固着しており、フランジからOリングをはずす [3] 花島, “格納容器用改良EPDMゴム(EP-176)の高温・ のも困難な状況であった。 水蒸気シール性”, 日本保全学会第12回学術講演会 なお、250°Cでは試験前後で試料に大きな違いはみられ 要旨集, pp.121-128 (2015) ていない。 [4] 花島, “格納容器用改良EPDMゴム(EP-176)の温度 以上のことから、「改良EPDMゴム」EP-176は250°C、 変化による圧縮永久ひずみの挙動”, 日本保全学会 336時間での状況下でも圧縮永久ひずみが十分小さく、シ 第13回学術講演会要旨集, pp.447-453 (2016) ール機能を発揮した。 [5] 小林重雄, 谷田和雄: “ゴムガスケットのリーク試 また、さらに厳しい300°C、336時間では劣化は見られ、 験”, 真空技術, Vol.7, No.2, pp.101-112, ISSN1883-7182 圧縮永久ひずみも80%を超えていたが、シール性能は維 (1956) 持されていた。 [6] “管フランジ用ガスケットの密封特性試験方法”, JIS B 2490-2008, 解説7 (2008) 6.結言 [7] 中川洋, “漏洩防止の理論と実際” ,オーム社, 3章 漏 洩とは何か (1978) 1.0MGy の放射線照射を行った「改良 EPDM ゴム」 [8] “機器フランジ漏れ防止対策資料”, JPI-7B-88-2000, 9. EP-176は、シビアアクシデントの想定である200°C、168 漏洩理論と測定方法 (2000) 時間よりも厳しい250°C、336時間でも大規模漏洩は発生 [9] 加藤治, 三枝利有: “輸送キャスク密封装置の耐熱限 していない。 界の評価”, 電力中央研究所報告 U97101, 電力中央 また、さらに厳しい300°C、336 時間では、Oリングの 研究所 (1998). 劣化は見られるものの大規模漏洩は発生していないこと から、「改良 EPDM ゴム」EP-176 のOリングとしてのシ ール性能の限界は300°C、336時間以上であることがわか - 410 -“ “格納容器用改良 EPDM ゴム(EP-176)の高温・水蒸気環境での 限界シール性“ “花島 完治,Kanji HANASHIMA
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