小径開口から挿入するたわみ調整型 CFRP 製ロッド調査点検機構の開発

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
人が立ち入れない場所の調査、例えば小径の開口を経 由する必要がある調査、狭隘あるいは過酷な環境(例え ば高湿度、低酸素、放射線)の調査の場合、カメラ等の 計測器を調査地点まで投入できるアクセス機構が必要となる。走行経路がない、あるいは走行経路上に障害物がある場合には、空間をアクセスする必要がある。また、人の立ち入ることはできないので、調査後にアクセス機構を確実に撤去することが必要な場合、原理的に故障しないシンプルな構造であれば、調査装置としての信頼性は向上する。本研究では、上記のようなアクセスが困難な場所へ計測器を搬送するためのアクセス機構を開発した。同機構 は、炭素繊維強化プラスティック(CFRP)の屈折部のないロッドであり、貫通部と調査対象部の既知の位置関係に合わせ、自重によるたわみ量をコントロールすることで、複雑な可動機構を用いずに調査地点へアクセスするものである。CFRP の軽量で高強度である特性、配置する炭素繊維の種類・量・方向により剛性を自由に設計可能である特性を利用することで、ペイロードの自由度が高く、カメラに加え様々な計測器の搭載が可能となる。 また、ロッドを用いて計測器が空中を通っていくことで、走行路上にある障害物を回避して目的地へのアクセスが期待できる。
2.たわみを利用したアクセス機構の設計
2.1幾何学的制約条件 小口径の開口部を通過させるためのロッドの寸法制約 条件、先端に搭載する荷重の条件(調査用の計測器の重 量を想定)を設定した。また、目的地へ至るまでのルー ト上に干渉物を想定し、これを回避するための所定位置 でのたわみの条件を設定した。(表1、図1,2) 表1 ロッドの設計制約条件 寸法条件 ロッド外径:10cm以下 先端荷重 2kg以上(先端に計測器としてカメラの 搭載を想定) たわみ量 (図1,2参照) 片持ち8mの状態で0.8m以上、片持ち 片持ち8mの状態で0.8m以上、片持ち 12mで2.2m以下 12mで2.2m以下 図1 ロッド 片持ち8mのたわみ - 411 - 図2 ロッド 片持ち12mのたわみ 2.2材料選定 使用する材料として、CFRP およびチタン合金(Ti-6Al- 4V)を検討した。CFRP は、金属材料と比較して比強度及 び比弾性率(比剛性)(図3)で優れる。また、疲労強度 の保持率は、他の構造材料と比べても優れた特性をもっ ている[1]。この特性を活かして、宇宙・航空、エネルギ ー分野などの産業利用からスポーツ・リクリエーション など生活利用にわたり幅広い分野で利用されている。 図3主な構造材料の比強度と比弾性率[2] ロッドの外形、板厚、ヤング率、先端荷重をパラメー タとして設定し、片持ち梁の計算式で、所定位置でのた わみ量を算出した結果、表2に示す条件で目標位置まで 到達でできる評価となった。なお、本検討でのロッド外 形については、今回はたわみ易さとロッド全体の重量 を考慮してΦ70mm、 板厚5mm、全長15mで検討を 実施した。 CFRP については、全体を同じヤング率で設計した場 合、たわみ量の設計条件を満足することが困難であった ため、先端から8mまではヤング率55GPa、先端8mよ り手前は90GPaと設定した(表2 CFRP1)。 2.2m CFRP の場合、炭素繊維方向の調整のみで剛性を約 30GPa~160GPaの範囲で自由に設計できことから、高剛 性化により、重量の大きい調査機器の搭載が可能とな る。高剛性化の例についても検討した(表2 CFRP2)。 金属材料の中で比較的、高強度かつ軽いチタン合金で 同じ寸法のロッドを試作した場合、ロッド自体の自重が CFRP と比較して3倍以上となり、作業上のハンドリン グが難しくなる。また、自重によるたわみ量が多い分、 搭載できるペイロードが少なくなる(表3 チタン合金: Ti-6Al-4V)。 以上の結果から、本研究では、CFRP を採用し、実物 大モックアップ試験を実施した。今回はハンドリン グ性を優先して表2のCFRP1を試作した。 表2 CFRP材とチタン合金の仕様比較検討 CFRP1 CFRP2 チタン合金 :Ti-6Al-4V 先端荷重 5kg 15kg 2kg そこで、本研究では長尺ロッド内で錘を移動させるこ とでロッドにかかるモーメントを変化させ、先端のたわ み量を調整する機能を持たせた(図4)。 図4 ロッドにかかるモーメントを変化させる機構 錘を固定したワイヤーをロッド先端配置した滑車にか け、ワイヤーで錘を移動させることで、ロッド先端のた - 412 - ロッド自重 22kg 22kg 68kg ヤング率 55GPa以上の ハイブリッド型 90GPa以上の ハイブリッド型 113.2GPa 113.2GPa 2.3 たわみの調整機構 片持ちのロッドは自重と先端荷重によりたわむ。単純 なロッドの場合、断面の形状、荷重、素材のヤング率が 決まると一意的にたわみの大きさが決まる。図1のよう な手前に高さ上限の制約となる障害物がある場合、その 奥にある高さ下限の条件を満たさない可能性もある。 (図2でロッド先端が床面と干渉する場合) わみ量を変化させることができる。 2.4 放射線による影響評価 CFRP を強い放射線環境下で使用する場合には、材料 の劣化が懸念される。CFRP に対する放射線影響を評価 するため、試作体の材料として選定したCFRP1と同じ 素材を用いた直径30mm、板厚5mmの単管にガンマ線 を照射して、破壊試験を行った。ガンマ線照射は照射な し、10kGy、100kGyの3 水準とし、同一条件での繰り返 し数を3とした。福島第一原子力発電所の原子炉格納容 器内の雰囲気線量として30~70Gy/hの値が計測されて いるが[3]、仮に70Gy/hとして累積で100kGyに達する には約1400時間の曝露に相当することから、福島第一 原子力発電所の原子炉格納容器内のような強い放射線環 境での長時間の照射と見なすことができる。 強度評価は、図5に示すような4点曲げ試験により実 施した。負荷中にひずみゲージによるひずみを測定し、 破断時のひずみを測定した。ひずみの測定は、せん断応 力のかからない単管の中心で行った。 試験結果を図6に示す。なお、いずれの試験において も、内側の荷重点(図5の下向き矢印)で破壊が発生し た。つまり、今回の破壊ひずみ評価値は、荷重点近傍に 作用した局所ひずみ分だけ、真の限界ひずみより低いと 考えられる。また、各照射線量の条件下での破壊ひずみ は幅があるが、その幅については未照射から100kGyま で顕著な変化が認められないことから、100kGyまでの ガンマ線照射により破壊ひずみが顕著に低下することは ないと判断される。仮に今回選定した材料の破壊限界の ひずみを9回の破壊試験の最低値0.7%(100kGy照射 体)とすると、片持ち12m/先端荷重5kg時のひずみ 0.19%に対して3.7倍の裕度を持っている。 さらに、図7に示すように、3 点曲げの変位固定状態 (中心部のひずみ0.19%)で100kGyまでガンマ線を照 射した後、拘束を取り除いても、残留変形が生じないこ とも確認した。 図5 CFRP単管の破壊試験 図6 照射線量と破壊ひずみの関係 平均±誤差 1.09±0.29※ 誤差は観測値の分散の0.5乗 図7 照射による残留変形の有無の確認試験 - 413 - 3.実物大モックアップ試験結果 3.1 たわみ量の評価 CFRP 用いたロッドを試作し、実物大モックアップ試験 を実施した(図8)。 先端荷重は2kgとし、ロッド内に設 置した錘3kg(Φ45mm×L300mm、真鍮製)を移動させ ることで、先端のたわみを調整した。 上記により、図1,2に示した既設干渉物を適切に回避 し、12m先の調査地点を模した場所にアクセス可能であ ることが実験的に確認された。 図8 水平方向に支持した長尺ロッド・張り出し長さ12m たわみ調整機構により、錘を先端から6m手前に戻すと 先端が42cm、12m戻すと59cm 上昇した。(図9、10) このたわみ調整機能により、想定外の障害物が確認され た場合にも、回避できる可能性がある。 図9 錘の位置を移動させた時のたわみの変化 図10 錘の位置とたわみ量 3.2 挿入・引き抜き時の摩擦力の評価 小径の開口部を模擬した挿入部は長さ1.2m、Φ 73.9mmのステンレス管とし、その両端および中央付近 に、摩擦力を緩和するためのフッ素樹脂製の軸受け(軸 受内径:Φ71.9mm)を装着した。 そこで、最大の先端荷重を加えた状態で長尺ロッドの 挿入、引き抜き試験を行い、必要な荷重を実測した。 引き抜き時に要した力は880N (90kgf)で、挿入時590N (60kgf)より大きかったが、作業者2名で挿入および引き 抜きができる程度であった。 4.まとめ - 414 - これに加え、本機構は自重と先端荷重によりたわんで いるため、引き抜き時にロッドが挿入部を通過する際に は、たわみを解消するための荷重が引抜き抵抗として作 用し、引き抜きが困難となる可能性がある。 ・CFRP の調査用ロッドを開発し、実物大モックアッ プにより基礎的有効性を確認した。 ・剛性を自在に設計できるCFRP の特性を生かし、ロ ッドのたわみを活用することで、複雑な動作機構を 排除したシンプルな構成を実現した。 ・たわみ調整機構により、ペイロードの調整や、想定 外の障害物回避が可能となる。 ・放射線照射試験により累積100kGyの使用環境下で は、照射の影響がないことを確認した。 参考文献 [1] 炭素繊維協会、”炭素繊維の特長とその性質”、 http://www.carbonfiber.gr.jp/material/feature.html [2] “航空機用等の炭素繊維強化プラスチック(CFR P)の加工技術の開発に関するフィージビリティス タディ” 、pp.1, 平成23年3月、財団法人 機械 システム振興協会、委託先 財団法人 金属系材料研 究開発センター [3] 東京電力株式会社, “2号機原子炉格納容器内部調 査(2回目)について”, pp.11, 2014年3月28日, 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第4回会 合)“ “小径開口から挿入するたわみ調整型 CFRP 製ロッド調査点検機構の開発“ “吉川 慶一,Keiichi YOSHIKAWA,桜木 洋一,Youichi SAKURAGI,熊谷 克彦,Katsuhiko KUMAGAI
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