ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案
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カテゴリ: 第14回
1.緒言
福島第一原子力発電所廃炉の課題を克服するためには、数多くの視点から課題を捉える必要がある [1]。前報告では俯瞰的視点で捉えた、燃料デブリ取り出し、廃棄物管理、及び遠隔技術の3分野の要求機能について概念を示した[2]。本報告ではこのうち燃料デブリ取り出しに絞って、どのような工法が有効であるか議論を行う。なお、工法アイデアを創出するためのブレーンストーミングは、原子力技術専門家の他、化学プラント、再処理技術、土木・建築技術、粉塵技術などに関する学内外の専門家の意見を反映して実施した。 2.燃料デブリ取り出しのための要求機能 放射性物質の閉じ込めの要求機能としては、1放射性 物質を外にださない、2被曝低減、3事故・故障も想定 したリスクマネジメントが重要であり、そのためには (1)多重化し、最終壁で閉じ込める、例えば、PCV で の完全な閉じ込めは高線量作業であり困難なことから、 アクセス容易な原子炉建屋の内面をコーティングする、 あるいは他建屋を壊してから原子炉建屋の外を覆う (2)燃料デブリ取り出し時における放射性物質の閉じ 込め空間は、管理しやすいコンパクトな構造とする (3)空調系は負圧管理とともに、α核種も含めた核種 除去可能な空気浄化系を設置する (4)α核種を含めたモニタリング設備を設置する (5)燃料デブリ取り出し時の核種飛散(含エアロゾル) を事前にシミュレーションする(極力、機械切断を採用) (6)他、作業立入制限やマスク常備などマネジメント などが必要である。 また、PCV 底部のMCCI 生成物取り出しの要求機能と しては、1切断時の粉塵や汚染水を外に出さない、2被 曝低減、3取り出しに長期間を要しない(建屋損傷前に 取出す)、4再臨界防止、5事故・故障も想定したリス クマネジメントが重要である。上記を達成するためには、 ジオポリマー等で先ずは MCCI 生成物等を準安定化して から取り出し作業を行うことが合理的であり、燃料デブ リ経年劣化の防止、放射性物質の飛散防止、廃棄体処理 の合理化等の観点から有効であると判断される(Fig.1)。 Work Platform 3.新たな燃料デブリ取り出し工法 3.1 工法手順 以下に本工法の概略手順を示す。 1 制御棒駆動機構等のPCVペデスタル内機器を切断し、 取り出すかあるいはPCV 底部に据え置く 2 PCV 底部に燃料デブリ崩壊熱を除去する銅チューブ、 ヒートパイプあるいは水冷パイプ等を設置する 3 PCV 底部にジオポリマーを、次に下部アクセス扉高 さ(PCV 底から約2m)まで放射線コンクリートを 流し込み、PCV 内外にある燃料デブリを覆う 4 PCV ペデスタル内外に作業プラットフォームを設置 5 プラットフォーム上に燃料デブリ取出し機器を設置 Fig 1. New method to retrieve the fuel debris
12 6 PCV 底部及びRPV 底部から燃料デブリを取り出す 熱が出ない、溶融しない、圧力が上がらない、化学 3.2 本工法の有効性 反応がないため、バウンダリ簡素化が可能(再処理の概 以下に種々の観点からの本工法の有効性を示す。 念:静的バウンダリのセル+動的バウンダリの空調系) (1)燃料デブリ取り出し準備における潜在的利点 (3)廃棄物管理における潜在的利点 < 止水対策の簡易化(被曝低減、長期リスク対応)> 1 プラットフォーム足場材と同一材を収納容器への注 1 1F1で懸念されるシェルアタックの補修が不要 入することにより、MCCI 生成物の長期保管が可能 2 止水作業(ベント管以外)の簡素化が可能 2 ジオポリマー利用で気中取り出し保管の場合、廃棄物 < PCVとトーラス室の縁切り(リスク対応)> 長期保管の課題である水素・腐食対応の簡素化が可能 3 トーラス室水位ー地下水水位逆転現象の防止 3.3 工法成立のための課題 4 トーラス室壁面貫通部止水不要 本工法実現のためには、 < 耐震性向上(長期リスク対応、被曝低減)> 1 ジオポリマーの流動・固化特性、界面特性の把握、 5 S/C脚部補修工事が不要 埋め戻しの成立性確認、2施工材の耐久性・強度評価、 6 ペデスタル底部補強の検討が可能 3MCCI 生成物及び RPV 底部の除熱技術、4耐環境・放 < 臨界・腐食対応の簡易化(長期リスク対応)> 射線ロボットの開発、5ペデスタル内機器撤去技術、 7 臨界防止対策の簡易化 6デブリ取り出し装置・治具の開発、7 PCV側面アクセ 8 防錆剤添加減に伴う水処理設備への負荷低減 ス技術、8負圧管理システムの構築、9小循環水ライン 9 給水/燃料デブリ接触面積減に伴う汚染水濃度低減 またはグラウト注入ラインの設置と切替手順、10水・放 <燃料デブリ位置によらない冷却対策を検討可能> 射性物質のシール技術、11キャスク保管時の臨界評価、 10 ヒートパイプ、水冷パイプ(IC等)の受動的安全設 12収納缶内ジオポリマーの水素発生量評価、13廃棄物量 備を設置可能 の算定等が必要である。なお、上記個別要素の多くには、 (2)燃料デブリ取り出しにおける潜在的利点 現状IRID が開発中の廃炉技術の適用が望まれる。 < PCV底部MCCI生成物の取り出し > 1 MCCI生成物の準安定化(長期リスク対応) 4.結論 時間に伴う燃料デブリ性状変化への対策 (1)燃料デブリ取り出しにおいては、先ず燃料デブリ 2 燃料デブリ取り出し時におけるα核種等、放射性核 を安定化した後、コンパクトな空間で放射性物質を閉じ 種の飛散防止(安全) 込めながら取り出すことが有効であるとの結論に至った。 3 足場確保に伴う取出し装置設置容易化(作業性向上) (2)今後は得られた要求機能に基づき、他分野も参考 4 遮蔽による線量低減(作業性向上、機器の耐放射線 にしつつ可能な機構を検討し、廃棄物管理を含めたリス 対策の容易化、被曝低減) ク評価を行いながら、工学的成立性を追求する。 5 取出し時に発生するα核種等のトーラス室への移行 防止によるトーラス室負圧管理不要(コスト低減) 謝辞 6 RPV等構造物落下時の衝撃吸収(長期リスク対応) 本内容は、文科省「英知を結集した原子力科学技術・人 < RPV底部(近傍)燃料デブリの取り出し > 材育成推進事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログ 7 ペデスタル内作業プラットフォーム構築による ラム」の東京大学「遠隔操作技術及び核種分析技術を基 RPV・PCV 同時デブリ取り出し作業(工程短縮) 盤とする俯瞰的廃止措置人材育成」における成果である。 8 ペデ内天井設置によるRPV 底部及び下部取り出し 9 上蓋非開放状態での燃料デブリ取り出しの可能性 参考文献 < 安全上の利点(水冷が不必要になった時点) > [1] NDF, 「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉 10 臨界管理が不要となるため時間のかかる臨界検知 のための技術戦略プラン2015」 ガス管理が不要 [2] 鈴木俊一, 田村雄介, 岡本孝司:“俯瞰的アプロ 11 余分な水がないため水素対策が不要となり、上記と ーチによる福島第一廃止措置の新たな工法検討”, 併せて負圧管理のみが管理項目となる 日本保全学会第 13 回学術講演会要旨集,横浜,2016 年7月25-27,pp.482-483(2016) - 418 -“ “ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案“ “鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,岡本 孝司,Koji OKAMOTO
福島第一原子力発電所廃炉の課題を克服するためには、数多くの視点から課題を捉える必要がある [1]。前報告では俯瞰的視点で捉えた、燃料デブリ取り出し、廃棄物管理、及び遠隔技術の3分野の要求機能について概念を示した[2]。本報告ではこのうち燃料デブリ取り出しに絞って、どのような工法が有効であるか議論を行う。なお、工法アイデアを創出するためのブレーンストーミングは、原子力技術専門家の他、化学プラント、再処理技術、土木・建築技術、粉塵技術などに関する学内外の専門家の意見を反映して実施した。 2.燃料デブリ取り出しのための要求機能 放射性物質の閉じ込めの要求機能としては、1放射性 物質を外にださない、2被曝低減、3事故・故障も想定 したリスクマネジメントが重要であり、そのためには (1)多重化し、最終壁で閉じ込める、例えば、PCV で の完全な閉じ込めは高線量作業であり困難なことから、 アクセス容易な原子炉建屋の内面をコーティングする、 あるいは他建屋を壊してから原子炉建屋の外を覆う (2)燃料デブリ取り出し時における放射性物質の閉じ 込め空間は、管理しやすいコンパクトな構造とする (3)空調系は負圧管理とともに、α核種も含めた核種 除去可能な空気浄化系を設置する (4)α核種を含めたモニタリング設備を設置する (5)燃料デブリ取り出し時の核種飛散(含エアロゾル) を事前にシミュレーションする(極力、機械切断を採用) (6)他、作業立入制限やマスク常備などマネジメント などが必要である。 また、PCV 底部のMCCI 生成物取り出しの要求機能と しては、1切断時の粉塵や汚染水を外に出さない、2被 曝低減、3取り出しに長期間を要しない(建屋損傷前に 取出す)、4再臨界防止、5事故・故障も想定したリス クマネジメントが重要である。上記を達成するためには、 ジオポリマー等で先ずは MCCI 生成物等を準安定化して から取り出し作業を行うことが合理的であり、燃料デブ リ経年劣化の防止、放射性物質の飛散防止、廃棄体処理 の合理化等の観点から有効であると判断される(Fig.1)。 Work Platform 3.新たな燃料デブリ取り出し工法 3.1 工法手順 以下に本工法の概略手順を示す。 1 制御棒駆動機構等のPCVペデスタル内機器を切断し、 取り出すかあるいはPCV 底部に据え置く 2 PCV 底部に燃料デブリ崩壊熱を除去する銅チューブ、 ヒートパイプあるいは水冷パイプ等を設置する 3 PCV 底部にジオポリマーを、次に下部アクセス扉高 さ(PCV 底から約2m)まで放射線コンクリートを 流し込み、PCV 内外にある燃料デブリを覆う 4 PCV ペデスタル内外に作業プラットフォームを設置 5 プラットフォーム上に燃料デブリ取出し機器を設置 Fig 1. New method to retrieve the fuel debris
12 6 PCV 底部及びRPV 底部から燃料デブリを取り出す 熱が出ない、溶融しない、圧力が上がらない、化学 3.2 本工法の有効性 反応がないため、バウンダリ簡素化が可能(再処理の概 以下に種々の観点からの本工法の有効性を示す。 念:静的バウンダリのセル+動的バウンダリの空調系) (1)燃料デブリ取り出し準備における潜在的利点 (3)廃棄物管理における潜在的利点 < 止水対策の簡易化(被曝低減、長期リスク対応)> 1 プラットフォーム足場材と同一材を収納容器への注 1 1F1で懸念されるシェルアタックの補修が不要 入することにより、MCCI 生成物の長期保管が可能 2 止水作業(ベント管以外)の簡素化が可能 2 ジオポリマー利用で気中取り出し保管の場合、廃棄物 < PCVとトーラス室の縁切り(リスク対応)> 長期保管の課題である水素・腐食対応の簡素化が可能 3 トーラス室水位ー地下水水位逆転現象の防止 3.3 工法成立のための課題 4 トーラス室壁面貫通部止水不要 本工法実現のためには、 < 耐震性向上(長期リスク対応、被曝低減)> 1 ジオポリマーの流動・固化特性、界面特性の把握、 5 S/C脚部補修工事が不要 埋め戻しの成立性確認、2施工材の耐久性・強度評価、 6 ペデスタル底部補強の検討が可能 3MCCI 生成物及び RPV 底部の除熱技術、4耐環境・放 < 臨界・腐食対応の簡易化(長期リスク対応)> 射線ロボットの開発、5ペデスタル内機器撤去技術、 7 臨界防止対策の簡易化 6デブリ取り出し装置・治具の開発、7 PCV側面アクセ 8 防錆剤添加減に伴う水処理設備への負荷低減 ス技術、8負圧管理システムの構築、9小循環水ライン 9 給水/燃料デブリ接触面積減に伴う汚染水濃度低減 またはグラウト注入ラインの設置と切替手順、10水・放 <燃料デブリ位置によらない冷却対策を検討可能> 射性物質のシール技術、11キャスク保管時の臨界評価、 10 ヒートパイプ、水冷パイプ(IC等)の受動的安全設 12収納缶内ジオポリマーの水素発生量評価、13廃棄物量 備を設置可能 の算定等が必要である。なお、上記個別要素の多くには、 (2)燃料デブリ取り出しにおける潜在的利点 現状IRID が開発中の廃炉技術の適用が望まれる。 < PCV底部MCCI生成物の取り出し > 1 MCCI生成物の準安定化(長期リスク対応) 4.結論 時間に伴う燃料デブリ性状変化への対策 (1)燃料デブリ取り出しにおいては、先ず燃料デブリ 2 燃料デブリ取り出し時におけるα核種等、放射性核 を安定化した後、コンパクトな空間で放射性物質を閉じ 種の飛散防止(安全) 込めながら取り出すことが有効であるとの結論に至った。 3 足場確保に伴う取出し装置設置容易化(作業性向上) (2)今後は得られた要求機能に基づき、他分野も参考 4 遮蔽による線量低減(作業性向上、機器の耐放射線 にしつつ可能な機構を検討し、廃棄物管理を含めたリス 対策の容易化、被曝低減) ク評価を行いながら、工学的成立性を追求する。 5 取出し時に発生するα核種等のトーラス室への移行 防止によるトーラス室負圧管理不要(コスト低減) 謝辞 6 RPV等構造物落下時の衝撃吸収(長期リスク対応) 本内容は、文科省「英知を結集した原子力科学技術・人 < RPV底部(近傍)燃料デブリの取り出し > 材育成推進事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログ 7 ペデスタル内作業プラットフォーム構築による ラム」の東京大学「遠隔操作技術及び核種分析技術を基 RPV・PCV 同時デブリ取り出し作業(工程短縮) 盤とする俯瞰的廃止措置人材育成」における成果である。 8 ペデ内天井設置によるRPV 底部及び下部取り出し 9 上蓋非開放状態での燃料デブリ取り出しの可能性 参考文献 < 安全上の利点(水冷が不必要になった時点) > [1] NDF, 「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉 10 臨界管理が不要となるため時間のかかる臨界検知 のための技術戦略プラン2015」 ガス管理が不要 [2] 鈴木俊一, 田村雄介, 岡本孝司:“俯瞰的アプロ 11 余分な水がないため水素対策が不要となり、上記と ーチによる福島第一廃止措置の新たな工法検討”, 併せて負圧管理のみが管理項目となる 日本保全学会第 13 回学術講演会要旨集,横浜,2016 年7月25-27,pp.482-483(2016) - 418 -“ “ジオポリマーを活用した燃料デブリ取り出し工法の提案“ “鈴木 俊一,Shunichi SUZUKI,岡本 孝司,Koji OKAMOTO