状態基準保全移行に向けた取り組み

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カテゴリ: 第14回
と 機器の故障の都度,補修を実施する事後保全 (Breakdown Maintenance 以下「BDM」という) を基本に点検を実施してきたが,
図1 CBM 移行までの状況 平成19年度から 一部の機器について設備診断による状態監視 (Condition Monitoring 以下「CM」という)を導入し,2.設備診断の状況 ここでは,CBM 移行にあたっての対象機器の選定, 移行評価方法等について紹介する。 表1 設備診断適用台数 今年度から,TBM+CM の機器について,機器の状態を基準として実施する状態監視保全(Condition Based Maintenance 以下「CBM」という)振動診断は,発電所内の回転機器に適用し,主に 機器の回転部(ベアリング部)の振動測定を実施し, 回転部に発生する微細な振動を速度,加速度として 測定している。振動診断の測定データからは,主に 軸受の内・外輪傷,転動体傷,保持器傷等や主軸の アンバランス等が故障モードとして検知することが 出来る。 測定結果は ISO や診断メーカー知見をもとに評価 基準を設定し評価を行っており,異常を検知した場 合は,上記で記載した故障モードに対して原因推定 を実施し,対策の推奨案を作成の上,設備担当Gと 協議を実施し,対策を実施している。 連絡先:佐藤 優樹、〒986-2293 宮城県牡鹿郡女川 町塚浜字前田1番、東北電力株式会社 女川原子 力発電所 保全部 保全計画G E-mail: sato.yuki.yc@tohoku-epco.co.jp 設備診断 長期停止中 (通常定検含む) 運転中 振動診断 270台(3Unit) 400台(3Unit) 潤滑油診断 120台(3Unit) 210台(3Unit) 赤外線診断 330台(3Unit) 500台(3Unit) - 451 - 写真1 振動診断実施状況 (2)潤滑油診断 潤滑油診断は,発電所内の回転機器に適用し, 主に機器の回転部(ベアリング部)の潤滑油を採 取し,潤滑油の性状,汚染,?動部の摩耗状態な どを測定している。潤滑油診断の測定データから は,主に?動部の摩耗箇所や潤滑油への水分, 異物の混入等が故障モードとして検知すること が出来る。 測定結果は潤滑油診断導入時の診断メーカーの 知見をもとに評価基準を設定し評価を行っており, 異常を検知した場合は,振動診断同様の原因推定 を行うが,?動部の摩耗については振動データも 考慮し,原因推定および対策の検討を行っている。 写真2 潤滑油診断実施状況 (3)赤外線診断 赤外線診断は,発電所内の回転機器や電気設備に 適用し,主に回転機器は固定子や軸受部,電気設備 は導体部,導体接続部を測定している。赤外線診断 の測定データからは,回転機器であれば軸受損傷, 潤滑油不足による発熱等,電気設備であれば端子部 の接触抵抗増加,過負荷,負荷アンバランス等によ る発熱が故障モードとして検知することが出来る。 測定結果は赤外線診断導入時の診断メーカーの知 見をもとに評価基準を設定し評価を行っており,異 写真3 赤外線診断実施状況 3.CBM 移行の概要 3.1 CBM 移行対象機器の抽出 CBM 移行にあたっては,TBM+CM の機器の中か ら振動診断を適用している機器を抽出し「保全重要 度が低い機器」「異常発見時に予備機に切替可能」な どの選定フローを図2のとおり作成の上,CBM 移行 対象機器の抽出を実施した。 選定フローに従い抽出を実施した結果,CBM 移行 対象機器は1~3号機の各号機約40台抽出され, その中でCBM移行への代表機器として「1号機 純 水移送ポンプ」を選定し,移行評価を実施すること とした。図2 CBM 移行対象機器の選定フロー 3.2 CBM 移行対象機器の移行評価 CBM に移行すると現状の点検頻度を超えて運転 することが想定されることから,現状の保全内容で 問題が発生していないこと,設備診断により想定さ れる劣化モードが検知できるか確認するため,以下 の評価項目を立案し,図3のとおり評価フローを作 - 452 - 常を検知した場合は,振動診断同様の原因推定を行 うが,回転機器については振動診断,潤滑油診断の 測定データを考慮した対策の検討を行っている。 成した。 (1)各部位の経年的な劣化による故障の発生 (2)点検時に各部位で想定を超える劣化の発生 (3)機器に想定される経年劣化事象に対するCBM による保全の妥当性 図3 CBM 移行対象機器の評価フロー (1)各部位の経年的な劣化による故障の発生 過去に機能を喪失するような経年劣化に伴う故障 が確認され,現在の保全内容(点検頻度,点検項目) となっているのであれば,CBM を適用し,現状の点 検頻度を超えて運転することは好ましくない。 過去の故障履歴とその是正内容の確認を行うため, 当該機器の不適合事象を過去10年分抽出し,その 内容について確認を行った。 確認結果として,当該機器の不適合事象について 不適合事象は確認されず,「各部位の経年的な劣化に よる故障の発生」という観点において,CBM 移行は 可能と判断した。 (2)点検時に各部位で想定を超える劣化の発生 前述までは機器故障の発生状況について確認を実 施したが,同様な観点で過去の点検結果から,各部 位で想定を超える劣化が発生していないかについて, 分解点検記録(過去3回 or 過去10年分で点検回数 の多いほうで抽出)および点検手入れ前データ※1の 確認を実施した。 当該機器については,点検頻度「65M」(M⇒ Month)で約1回/5年分解点検を実施しているた め,過去3回分の点検記録を確認した。 当該機器の機能維持が必要となるための補修が必 要な劣化や不具合は発生していないことから,「点検 時に各部位で想定を超える劣化の発生」という観点 において,現状の保全で問題は発生しておらず, CBM 移行は可能と判断した。 ※1:機器の分解点検等において,劣化状態を修復 する前の観察により得られる構成部品に係る 情報をいう。 表2 純水移送ポンプの点検結果 対象機器 分解点検結果 点検手入れ前データ 過去3回全て「良」判定 ・マウスリングの摩耗やインペラキーの腐食, 純水移送ポンプ(A) カップリング嵌め合い部に軽微なかじり傷等が 確認されたが,主要部に想定を超える劣化は見 られていない。 (3) 機器に想定される経年劣化事象に対するCBM による保全の妥当性 上記(1)(2)においては,当該機器の実際の不具合 や点検結果により,CBM 移行可能かを判断したが, CBM 移行にあたっては機器の状態により点検の可否 を判断するため,経年劣化事象に対して劣化事象を 検知できるかの検討が必要となる。 機器の経年劣化事象については,原子力安全推進 協会電力共通保全基盤エキスパート会議事務局発 行「劣化メカニズム整理表」からに当該機器の使用 条件(型式:ターボポンプ横型遠心/流体:純水/ 材質:ステンレス鋼)に該当する劣化事象を抽出し, 各劣化事象に対する検知性の確認を実施した。 確認結果として,振動診断,潤滑油診断および日 常の巡視点検により,想定される経年劣化事象が検 知可能と判断し,CBM 移行は可能と判断した。 表3 経年劣化事象の整理結果(抜粋) 以上より,当該機器は移行評価項目全てに対して, CBM 移行は可能と判断されたことから,CBM 移行 を実施することとした。 過去1回分 カップリング:適合※1 その他評価部位:良好※2 純水移送ポンプ(B) 過去3回全て「良」判定 ・マウスリングの腐食やシャフトベアリング嵌め 合い部の摩耗,スタフィンボックスドレン孔から のリーク等が見られたが,主要部に想定を超え る劣化は見られていない。 過去1回分 全ての評価部位:良好 ※1 良好:通常(想定)より良い状態(継続使用可能) ※2 適合:通常(想定)通りの状態(通常の手入れ,定期取替品の交換, 予防的に行う修理・交換) 劣化メカニズム整理表:B01-05(ターボポンプ横型遠心/純水/ステンレス鋼) No. 機 能達成 に 必 要な項 目 部 位 材料 環境 経年劣 化事 象 劣化 事象に 対する 評価 1 摩耗 2機器 の部位 およ び材質 (設 備図書 :ポ ンプ組 立図 より) 302:シ ャフト ステ ンレス 鋼 (SUS403) - 453 - 純水 移送ポ ンプの シャ フトは 溶接 部 を持 たない ため ,応力 腐食割 れの 可 能性 は低い 。また ,過 去の分 解点 検 疲労 割れ 記録 より, 有意 な疲労 割れは 確認 さ (高 サイク ル疲 れて いない こと から, 摩耗に よる 劣 主軸 ス テン レ ス鋼 純 水 労割 れ) 疲労 割れ 3 (フ レッテ ィン 化が 最も厳 しい と考え られる 。 また ,長期 間停 止して いた場 合, ポン プ容 量と 揚 程の確 保 グ疲 労割れ ) 応力 腐食割 れ 4 (粒 界型応 力腐 食割 れ) シャ フトの 曲がり が発 生する 可能 性 があ る。 摩耗 の進展 や曲 がりは ,ガタ やミ ス アラ イメン トと して現 れるた め, 振 動診 断によ り検知 でき る。 5 軸継手 - 純 水 摩耗 502:カッ プリン グ(モ ーター 側) 501:カッ プリ ング(ポ ンプ 側) 503:ス ペーサ カップ リン グ カッ プリン グの 摩耗が 進展し た場 ねず み鋳 鉄 合, はめ合 い部 のガタ やミス アラ イ (FC20) メン トの発 生が 考えら れる。 これ らは振 動診断 で検 知でき る。 3.3 CBM 移行にあたっての運用方法 CBM 移行にあたっては,機器の劣化事象を検知し た際の対策の提案,機器を補修する際の取替部品確 保の運用方法について,整理を実施した。 (1)劣化事象を検知した際の対策提案 CBM 移行にした際は,状態監視を実施するグルー プと設備の補修を実施するグループとの役割分担を 明確にし,劣化事象を検知した際の対応を円滑に実 施する必要があり,各役割分担は下記のとおり行っ ている。 [状態監視実施グループ] ・診断結果および所見内容の整理 ・予備機への切替の提案 ・対策の推奨案作成 [設備補修グループ] ・予備機切替の対応有無 ・対策実施の判断 ・対策予定時期の作成 図4 劣化事象を検知した際の対策フロー (2) CBM 移行機器に対する取替部品確保 CBM 移行にあたっては,劣化事象を検知してから の補修を実施する際の予備品確保の必要性について 検討を行った。 CBM 移行機器は予備機を有している機器を抽出 しているため,点検等の対策が必要となった場合, 予備機への運転切替えを実施し,その間に取替部品 の手配を実施することから,原則として取替部品の 事前準備は不要と整理した。 4.結言 これまでに女川原子力発電所では,設備診断技術 の蓄積に努めてきたが,今回初めて CBM に移行さ せるにあたり,評価方法を検討し,適用可能か評価 を行った。 1号機 純水移送ポンプを代表機器として,評価 を行った結果,CBM への移行が可能と判断されたこ とから,当該機器の保全方式を TBM から CBM に変 更した。 今後は,CBM 対象機器の抽出および移行評価の手 法を活用し,CBM の適用範囲の拡大を図っていく。 - 454 -“ “状態基準保全移行に向けた取り組み“ “佐藤 優樹,Yuki SATO
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