配管減肉検査における非接触超音波センサの 適用性に関する基礎的検討
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カテゴリ: 第14回
1.緒 言
原子力・火力プラント等のプラントにおいて流速条件や溶存酸素量などの化学的条件により、時間の経過と共に配管の肉厚が徐々に減少する配管減肉現象が生じることがある。そのためプラントでは、定期検査毎に超音波厚さ計等を用いた配管減肉検査を実施し、配管健全性を担保している。一方、プラントの効率的な運用のためには、定期検査期間を短縮しプラント稼働率を向上させることが必要である。上述の配管減肉検査は検査物量が大きいため、配管減肉検査を短時間で実施できればプラントの効率的運用の観点から有効である。プラント配管の大部分は保温材で覆われているため、 通常の超音波厚さ計を用いた配管減肉検査では計測前後で保温材の着脱が必要であり、検査時間増加の要因のひとつとなっている。そこで本研究では英国ブリストル大学が提案する非接触超音波センサ[1]に着目した。本センサでは、コイル間の電磁誘導現象を活用することで、従来の超音波厚さ計で必要であった圧電素子とパルサ/レシーバ間のケーブルが不要となるため、非接触状態での超音波計測が可能となる。したがって、保温材を着脱することなく配管肉厚を計測することが可能となり、配管減肉検査時間が短縮される。本報では、非接触超音波センサの配管減肉検査への適用性について、試験による基礎的検討を行った結果を報告する。
2.検討結果
2.1 非接触超音波センサ・試験方法
非接触超音波センサの原理をFig.1 に示す。本センサは 圧電素子とトランスデューサーコイルを含むセンサ部、 送受信コイルを含む検査プローブで構成される。送受信 コイルはそれぞれパルサ/レシーバに接続されており、パルサから電気信号が送信されると電磁誘導現象により検査プローブとトランスデューサーコイルの間で磁場が形成され、非接触で情報が伝達される。本センサでは、超音波発生に必要なエネルギーが電磁誘導現象を介して検査プローブから伝達されるため、センサ部側にバッテリーが不要で、センサ部をコンパクトかつメンテナンスフリーとすることが出来る。
Pulser Transmitter coil Receiver coil ReceiverInspection target Inspection probe Transducer coil Inductive coupling Piezoelectric element Sensor Fig.1 Concept of the non-contact ultrasonic sensor. 本センサの配管減肉検査への適用性を検討するため、 肉厚計測精度、配管保温材が計測精度に及ぼす影響、配 管曲面への適用性について試験で確認する。 これらを確認するため、非接触計測距離(検査プロー ブとトランスデューサーコイル間の距離)を調整可能で、 検査プローブとトランスデューサーコイルの間に配管保 温材を模擬したケイ酸カルシウム板を設置できる試験装 置を用いた。本装置では平板および配管を計測対象とし て用いることが可能である。 2.2 従来の超音波厚さ計との比較 非接触超音波センサの肉厚計測精度を確認するため、 厚みの異なる5種類(4~50mm)の炭素鋼平板を対象に 肉厚を計測し、計測値を従来の超音波厚さ計による計測 値と比較した。用いた超音波の周波数は2MHz とした。 計測値の比較をFig.2に示す。本比較より、平板形状では 非接触超音波センサにより従来の超音波厚さ計と同程度 の精度で肉厚計測が可能であることが確認できた。 (Gap between probe and sensor: 30mm) Fig.2 Comparison with a conventional ultrasonic sensor. 2.3 配管保温材が計測精度に及ぼす影響 配管保温材が計測精度に及ぼす影響を調べるため、配 管保温材の材質であるケイ酸カルシウム製の平板を模擬 保温材として検査プローブとセンサコイルの間に設置し、 模擬保温材の厚みを変えた試験を行った。Fig.3に模擬保 温材有無での計測波形の比較を示す。模擬保温材の厚み Fig.4 Received signal in the pipe thickness measurement. 3.結 言 原子力・火力プラント等において配管減肉検査の計測 時間増加の要因のひとつとなっている配管保温材の着脱 を不要とする配管減肉計測手法を開発している。本報で はベースとなる非接触超音波センサの適用性に関して、 試験による基礎的検討を行った。今後、更なる検討を進 める予定である。 参考文献 [1] C.H.Zhong, A.J.Croxford and P.D.Wilcox, “Investigation of Inductively-Coupled Ultrasonic Transducer System for NDE”, IEEE Trans. Ultrason,, Vol. 60(6), 2013, pp.1115-1125. - 492 - は50mmである。本比較から明らかなように、模擬保温 材が非接触超音波センサによる計測に及ぼす影響は見ら れず保温材を通した計測が可能であることが確認できた。 模擬保温材厚みの範囲(20~90mm)内でも同様の結果が 得られた。 Fig.3 Comparison of the received signal w/o the insulator. 2.4 曲面への適用性検討 非接触超音波センサを配管等の曲率のある対象物に適 用する際、センサと対象物間の均一な接着性が必要とな る。円形センサでは曲率方向の接着性の問題が懸念され ることから、圧電素子の形状を長辺が長手方向になるよ うな矩形にすることにより、接着性の改善を試みた。Fig.4 に同一材を円形センサ、矩形センサで測定した結果を示 す。その結果、矩形センサでも円形センサと同じ精度で 肉厚測定が可能であることを確認した。“ “配管減肉検査における非接触超音波センサの 適用性に関する基礎的検討 “ “田村 明紀,Akinori TAMURA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,大城戸 忍,Shinobu OKIDO,Chenghuan ZHONG,Erik FABRE,AnthonyJ. CROXFORD,D. WILCOX
原子力・火力プラント等のプラントにおいて流速条件や溶存酸素量などの化学的条件により、時間の経過と共に配管の肉厚が徐々に減少する配管減肉現象が生じることがある。そのためプラントでは、定期検査毎に超音波厚さ計等を用いた配管減肉検査を実施し、配管健全性を担保している。一方、プラントの効率的な運用のためには、定期検査期間を短縮しプラント稼働率を向上させることが必要である。上述の配管減肉検査は検査物量が大きいため、配管減肉検査を短時間で実施できればプラントの効率的運用の観点から有効である。プラント配管の大部分は保温材で覆われているため、 通常の超音波厚さ計を用いた配管減肉検査では計測前後で保温材の着脱が必要であり、検査時間増加の要因のひとつとなっている。そこで本研究では英国ブリストル大学が提案する非接触超音波センサ[1]に着目した。本センサでは、コイル間の電磁誘導現象を活用することで、従来の超音波厚さ計で必要であった圧電素子とパルサ/レシーバ間のケーブルが不要となるため、非接触状態での超音波計測が可能となる。したがって、保温材を着脱することなく配管肉厚を計測することが可能となり、配管減肉検査時間が短縮される。本報では、非接触超音波センサの配管減肉検査への適用性について、試験による基礎的検討を行った結果を報告する。
2.検討結果
2.1 非接触超音波センサ・試験方法
非接触超音波センサの原理をFig.1 に示す。本センサは 圧電素子とトランスデューサーコイルを含むセンサ部、 送受信コイルを含む検査プローブで構成される。送受信 コイルはそれぞれパルサ/レシーバに接続されており、パルサから電気信号が送信されると電磁誘導現象により検査プローブとトランスデューサーコイルの間で磁場が形成され、非接触で情報が伝達される。本センサでは、超音波発生に必要なエネルギーが電磁誘導現象を介して検査プローブから伝達されるため、センサ部側にバッテリーが不要で、センサ部をコンパクトかつメンテナンスフリーとすることが出来る。
Pulser Transmitter coil Receiver coil ReceiverInspection target Inspection probe Transducer coil Inductive coupling Piezoelectric element Sensor Fig.1 Concept of the non-contact ultrasonic sensor. 本センサの配管減肉検査への適用性を検討するため、 肉厚計測精度、配管保温材が計測精度に及ぼす影響、配 管曲面への適用性について試験で確認する。 これらを確認するため、非接触計測距離(検査プロー ブとトランスデューサーコイル間の距離)を調整可能で、 検査プローブとトランスデューサーコイルの間に配管保 温材を模擬したケイ酸カルシウム板を設置できる試験装 置を用いた。本装置では平板および配管を計測対象とし て用いることが可能である。 2.2 従来の超音波厚さ計との比較 非接触超音波センサの肉厚計測精度を確認するため、 厚みの異なる5種類(4~50mm)の炭素鋼平板を対象に 肉厚を計測し、計測値を従来の超音波厚さ計による計測 値と比較した。用いた超音波の周波数は2MHz とした。 計測値の比較をFig.2に示す。本比較より、平板形状では 非接触超音波センサにより従来の超音波厚さ計と同程度 の精度で肉厚計測が可能であることが確認できた。 (Gap between probe and sensor: 30mm) Fig.2 Comparison with a conventional ultrasonic sensor. 2.3 配管保温材が計測精度に及ぼす影響 配管保温材が計測精度に及ぼす影響を調べるため、配 管保温材の材質であるケイ酸カルシウム製の平板を模擬 保温材として検査プローブとセンサコイルの間に設置し、 模擬保温材の厚みを変えた試験を行った。Fig.3に模擬保 温材有無での計測波形の比較を示す。模擬保温材の厚み Fig.4 Received signal in the pipe thickness measurement. 3.結 言 原子力・火力プラント等において配管減肉検査の計測 時間増加の要因のひとつとなっている配管保温材の着脱 を不要とする配管減肉計測手法を開発している。本報で はベースとなる非接触超音波センサの適用性に関して、 試験による基礎的検討を行った。今後、更なる検討を進 める予定である。 参考文献 [1] C.H.Zhong, A.J.Croxford and P.D.Wilcox, “Investigation of Inductively-Coupled Ultrasonic Transducer System for NDE”, IEEE Trans. Ultrason,, Vol. 60(6), 2013, pp.1115-1125. - 492 - は50mmである。本比較から明らかなように、模擬保温 材が非接触超音波センサによる計測に及ぼす影響は見ら れず保温材を通した計測が可能であることが確認できた。 模擬保温材厚みの範囲(20~90mm)内でも同様の結果が 得られた。 Fig.3 Comparison of the received signal w/o the insulator. 2.4 曲面への適用性検討 非接触超音波センサを配管等の曲率のある対象物に適 用する際、センサと対象物間の均一な接着性が必要とな る。円形センサでは曲率方向の接着性の問題が懸念され ることから、圧電素子の形状を長辺が長手方向になるよ うな矩形にすることにより、接着性の改善を試みた。Fig.4 に同一材を円形センサ、矩形センサで測定した結果を示 す。その結果、矩形センサでも円形センサと同じ精度で 肉厚測定が可能であることを確認した。“ “配管減肉検査における非接触超音波センサの 適用性に関する基礎的検討 “ “田村 明紀,Akinori TAMURA,河野 尚幸,Naoyuki KONO,大城戸 忍,Shinobu OKIDO,Chenghuan ZHONG,Erik FABRE,AnthonyJ. CROXFORD,D. WILCOX