応力改善工法で付与した圧縮残留応力の持続性評価-理想 化陽解法 FEM を用いたショットピーニング解析手法の開発 (第 1 報)

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
日本において原子力発電は重要なベースロード電源であり、安全確保のために必要な技術を早急に構築することが求められている。全ての構造物は使用開始に伴い経年劣化が進行し、応力腐食割れ(SCC)や疲労割れ等の損傷に至る場合がある。SCCは原子力発電プラントの炉容器等の重要機器で検出されており、SCC が検出された場合補修が行われ、補修後はSCCの再発生を防止するため、応力改善工法の一つであるレーザー[1]やショット[2]、 ウォータージェット[3]などを用いたピーニング法により表面に圧縮残留応力を付与している。 これらの手法は、対象の部材表面に衝撃的な荷重を加えることで圧縮の残留応力を導入し、応力状態を改質するものである。ピーニングの効果については、実験的、解析的な検討が数多くなされている。しかしながら、疲労き裂[4]やSCCの防止を考える場合、ピーニングにより改質された残留応力分布の運用中の変化について検討することが重要であると考えられる。改質後の残留応力分布の運用時の変化について議論する際、試験による評価では多大な時間及びコストがかかる。そこで数値解析による評価が考えられるが、その場合ピーニングにより改質された溶接継手の残留応力分布を求める必要があり、無数の衝撃荷重が作用する現象のモデル化を行う必要があると考えられる[4,5,6,7,8]。ショットピーニングによる応力状態の予測に関する検討例として、数十回程作用することから、動的効果は少なからずあるものと考えられる。そこで、本研究では、理想化陽解法FEMに対して動的効果を考慮するための拡張を行う。 動的効果を有する問題の非線形有限要素解析においては、式(1)で表される運動方程式が基礎式として用いられる。
[M]?U?t+Δt + [C] ?U?t+Δt + ?Q?t+Δt = ?F?t+Δt (1) ここで、[M]、[C]はそれぞれ、質量マトリックス、減衰マトリックスであり、?U?t+Δt、?U?t+Δt、?Q?t+Δt、?F?t+Δtはそれぞれ、時刻t+Δtにおける加速度ベクトル、速度ベク トル、内力ベクトル、荷重ベクトルを表す。通常の陰解法の場合、式(1)に対してNewmarkのβ法を適用し、内力ベクトルの線形化を行うことで得られる次式を用いてNewton-Raphson法の反復計算を行う。 ?Kεff?(k){ΔU} = (k) {Fεff} (2) ?Kεff?(k) = ? βΔt1 2 ?M?+ γ βΔt?C?+[K]? (3) ( ){ } = { } ?+ - [ ] ( - 1 ){ xx } - [ ] ( 1 ){ x } - ( 1 ){ } tt 1899/12/26{ U } tt ?+ = { U } t + { ? }U (5) { U x } tt ?+ = βγ ? t { ? U } + ? ││?1 - 2 γ β? ││?{ tU x } t ?+ ? ││?1 - 2 γ β度の衝撃荷重を考慮した解析事例[9]や、DEMとFEM を 組み合わせてショット衝突時の荷重分布をモデル化した 解析を行った事例[10]は存在するものの、無数のショット の衝突を考慮した事例は少ない。また、溶接時の残留応 力までを考慮した事例は著者らの知る限り存在しない。 これはピーニングが非常に微細な現象であるため解析規 模が増大するためであり、さらに、溶接残留応力の改質 効果について議論するためには、溶接時に生じる残留応 力についても考慮する必要があり、解析の実施が一層困 難になることが想定される。 一方、溶接時の残留応力を高精度かつ実用的な計算時 間で予測することができる手法として、著者らは理想化 陽解法FEM[11,12,13]を提案している。同手法は動的陽解 法 FEM[14,15]を基にした解析手法であり、静的平衡状態 への収束を考慮することで、高速かつ高精度な解析を実 現している。加えて、本手法は動的陽解法FEM を基にし ていることから、並列化に対する適用性が非常に高く、 画像処理装置(GPU)を用いた並列化を導入することで、従 来手法と比べて大幅に高速な解析が可能であることが報 告されている。 k F eff F tt M k U tt ?+ C k - U tt ?+ k - Q ?+ そこで、本研究ではピーニング時の応力分布変化の運 用時における効果について検討するために、ピーニング による残留応力分布の改質効果、および長期間稼働後の 圧縮残留応力の持続性を評価できる手法を構築する。本 ? ││?{ U xx } tt ?+ (6) 報では、解析手法を構築するために、理想化陽解法FEM に対して衝撃荷重の付与に伴う動的効果を考慮するため { U xx } tt ?+ = 1 β ? t 2 { ? U } - 1 β ? t { U x } t - ? ││?21 β - 1 ? ││?{ U xx }t (7) の拡張を行う。また、ショットの衝突によるピーニング ここで、[Kεff]、[Fεff]はそれぞれ有効剛性マトリックス、 時の衝撃的な荷重をモデル化した等価荷重モデルを作成 有効荷重ベクトルを表す。また、各変数の左肩の(k)は反 し、理想化陽解法FEMに統合することで、ピーニングに 復回数を表す。 よる残留応力分布の改質を予測できる手法を構築する。 理想化陽解法の手順を適用するため、式(2)に対して新た 構築した手法をビードオンプレートを模擬したモデルの に仮想的な時刻τ における慣性項、減衰項を加えた次式 ショットピーニングによる残留応力分布の改質に対して を考える。 適用することで、ショットの衝突量と残留応力分布の変 化について議論する。 [ UM dum ]{ xx dum } τ + [ UC dum ]{ x dum } τ + [ UK eff ]{ dum } τ = { F eff } (8) ここで、[Mdum]、[Cdum]はそれぞれ、仮想的な質量マトリ 2.ショットピーニング時の力学挙動解析 システム ックスおよび減衰マトリックスであり、?Udum?τ、?Udum?τ、 ?Udum?τはそれぞれ、仮想的な時刻τにおける加速度ベク トル、速度ベクトルおよび変位ベクトルである。 2.1 動的効果を考慮した理想化陽解法FEM 式(8)に対して、動的陽解法と同様に中心差分を適用し次 理想化陽解法FEM は動的陽解法FEM を基に、溶接時 式を得る。 の準静的な弾塑性挙動を高速に解析するために開発され [ ] [ ] { } { } た手法であり、慣性力の影響は考慮されていない。一方、 ピーニング時においては、対象に対して衝撃的な荷重が [ ] { } τ { } τ τ [ ]{ } τ τ [ ]{ }τ ? ││?? 1 τ 2 M dum + 21 ? τ UC dum = (9) - 500 - ? ││?dum τ ?+ τ F eff τ + M dum ? │?? 2τ 2U dum - ? 1 τ 2 U dum ?- ? │?+ 2? 1 τ UC dum dum ?- - UK eff dum 式(9)用いて、仮想的な慣性項、および減衰項の影響が無 視できる程度に小さくなるまで仮想的な時間ステップを 進め、その時点の{Udum}を{ΔU}に代入することで、式(2) を用いて収束計算を行ったものと同等の解が得られる。 また、式(9)を用いて収束が得られるまで仮想的な時間ス テップを進める計算を行う際に、仮想的な質量マトリッ クス[Mdum]および仮想的な減衰マトリックス[Cdum]に通常 の物理的に導出されるものを用いた場合、仮想的な時間 増分にきわめて小さい値を用いる必要があり、収束に要 する計算回数が増大することが予想される。ここで、式(9) を用いた収束計算は収束解である{Udum}を得るための仮 想的なものであることから、収束性を高めるために、文 献[13]と同様に、1次元の振動問題における臨界減衰の考 え方を基に、[Mdum]と[Cdum]を決定する。 以上の定式化を用いることで、理想化陽解法の手順に基 づき、動的解析を行うことができる。 2.2 等価荷重モデル ショットピーニング時の荷重はごく短時間にごく小さ い領域に集中して作用する。本研究では、この荷重分布 の履歴をモデル化し、荷重ベクトルとして与えることで、 ショットピーニングによる残留応力分布の変化を解析す る。 本研究では Fig. 1 のようなショット衝突時の現象を仮 定する。同図(a)で、最初にショットが初速 1v で衝突し、 反力が生じ始める。その後、弾性変形が進行し反力が大 きくなる(Fig. 1 (b))。衝突が進行し、衝突の中心が降伏応 力に達した時点で、衝突の中心から塑性変形が始まる(c)。 塑性変形が始まると、その開始点である衝突の中心から (a) Start of collision (b) Elastic deformation (c) Start of plastic deformation (d) Plastic deformation (e) End of plastic deformation (f)End of collision - 501 - Reaction force: Distance from collision: r P Fig.1 Schematic illustration of reactive force for each stage of shot collision v1 r P r 荷重の増加が緩やかとなり、塑性変形が進行すると、衝 突の中心より周囲の反力が大きくなる(d)。そして、ある 段階で塑性変形が終了し(e)、その後、ショットが速度 2v で跳ね返ることで衝突が終了する(f)。この衝突時の 荷重分布の履歴を次式で示す衝突時の荷重の分布形状 を決定する関数 f と荷重の総量の履歴を決定する関数 g の積でモデル化する。 P(ρ,τ)=f (ρ,τ)・g(τ) (1) ここでP(ρ,τ)、f (ρ,τ)、g(τ)、をそれぞれ、荷重分布履歴 関数、荷重分布関数、荷重履歴関数と定義する。また、ρ、 τ はそれぞれ、次式で定義する衝突点からの正規化距離、 正規化衝突時間である。 ρ = r ?? , τ = t t0 (2) ここでr、r0はそれぞれ衝突点からの距離、ショットの半 径であり、t、t0 はそれぞれショットの衝突開始からの時 刻、ショットの衝突期間である。 荷重分布関数の一例として、Fig. 1で模式的に示した荷重 分布の傾向を再現するため、式(3)および式(5)の6 次の多 項式で定義する。式(2)の荷重分布関数に次式で表される 係数を採用した場合、荷重分布関数はFig. 2 のように定義 され、Fig. 1 で仮定したショット衝突時の荷重分布の傾向 を再現できる。 f (ρ , τ) = a(ρ,τ) ? a(ρ,τ)2πρdρ 10 (3) a(ρ , τ)=a6(ρ , τ)ρ6 + a4(ρ , τ)ρ4 + a2(ρ , τ)ρ2 + a0 a0 = 0.655 , a2 = 4 (4) r No force Plastic deformation v2 r r a4 = 10000? 1 + exp (-5( τ + 0.75))1 -1? a6 = 10 -5また、荷重履歴関数として、式(6)、(7)のような関数形を 仮定すると、その履歴は Fig. 3 に示すようになる。式(6) の荷重履歴関数の係数 b は、衝突前後のショットの運動 量の差 m(v2-v1)、すなわち、ショットの衝突が対象に与 える力積を用いて定義する。 g(τ) = bsin?τ7+2τ 3 π? (6) b = a(ρ,τ) t0 ? 0 1sin?τ7+2τ 3 π?dτ (7) 以降、上述の荷重分布履歴の関数を等価荷重モデルと定 義する。 ショットピーニングにおいては、無数のショットが対象 に対して吹き付けられることから、時間的、空間的にラ ンダムな無数の回数作用する荷重分布を想定する必要が ある。そこで、本研究では、時間的、空間的にランダム に荷重分布を作用させる解析システムを作成した。本シ ステムではランダムなタイミングでランダムな節点を選 択し、その節点を衝突の中心として等価荷重モデルを使 用し弾塑性解析のための荷重ベクトルを算出し、動的弾 塑性解析を実施する。弾塑性解析においては、GPU 並列 ) r τ = 0.30 τ = 0.60 τ = 0.90Normalized radius ρ= r/r0 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01 1.01.01.01.01 1.01.01.01.01 1 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 0 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0.80.80.80.80 80.8 0808 0808 0.80 0.80 0.80 0.80 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 0.60.60.60.60.60.6 060606 060606 0.60.60.6 0.60.60.6 0.60.60.6 0.60.60.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0.40.40 40.40.4 0 0 0. 0. 0. 0. 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4 4 4 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0.20.20 20.20.20.2 0 20 0202 0. 0. 0. 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0.00 00.00.00.0 0000000000000.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 .0 .0 .0 .0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0.00.00.00.00.0 0000000.00 00 0.0 0.0 0.0 0.0 0 Fig.2 Function of load distribution? Fig.3 Load history function? r0 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0.20.20.20.2 0 20 0.20 20 20 0. 0. 0. 0. Normalized collision time τ= t/t0 00000.40 40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.40.40.40 40.40 0.614:24:0014:24:0014:24:000.60 60 60 3559/05/020.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.60.60.60 60.6 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80 0.80.80.80 80.80.8 080808 0.80 80 0.8 0.8 0.8 0.8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1.01.0 1 1.01 1.01 1.01 1.01 1.01 0 0 0.8mm Node : 204,015 Element : 196,824 x y z - 502 - 化を考慮した理想化陽解法を使用する[10]。以上の手順を 指定された時刻に達するまで繰り返すことでショットピ ーニングによる応力の変化を解析する。 3.力学モデルの検証 3.1 解析システム 等価荷重モデルの妥当性を示すために、Fig. 4 に示す単 一のショットが衝突する問題の解析を汎用非線形有限要 素解析ソフトウェアであるABAQUSを用いて実施し、そ の結果を等価荷重モデルを用いた解析の結果と比較する。 本解析モデルの総節点数は 204,015、総要素数は 196,824 で六面体要素を使用した。衝突点を中心とした20 mmの 正方形の領域に関しては、一辺が0.04 mmの立方体で要 素分割を行った。ABAQUSを用いた解析において、Penalty 法に基づく接触モデルを使用し、解析手法として動的陽 解法を用いた。等価荷重モデルを用いた解析において、 式(1)から(7)に示す関数を用い、衝突後のショットの速度 および衝突期間は、それぞれABAQUS の解析結果より、 -10.5 m/s、 2.0 μsとした。Fig. 4 の解析モデルにおいて、 ショットの材料に SUS304 を仮定し、衝突対象の材料と してSUS316 を仮定した。SUS304 とSUS316の材料定数 はTable 1 に示す通りとした。また、ショットの初速は60 m/sと仮定した[14]。 Table 1 Material constant of SUS304 and SUS316L Material constant Shot (SUS304) Plate (SUS316L) Density (kg/m3) 7.90×103 7.92×103 Young’s modules(GPa) 198.5 194.7 Poisson’s ratio 0.294 0.285 Initial yield stress (MPa) 288.0 231.0 Work hardening (MPa) 1474.0 2427.0 Fig.4 Analysis model? 3.2mm (MPa) 3.2 解析結果 Fig. 5にx 方向応力σxの分布を示す。Fig. 5(a)、(b)はそ れぞれ、衝突から1.0 μsにおける、ABAQUSおよび等価 荷重モデルを用いた理想化陽解法 FEM による応力分布 を示す。Fig. 6 より、衝突に伴い、衝突点内部に大きい圧 縮の応力を生じ、衝突点では引張の応力が生じているこ とが分かる。また、Fig. 7 に同図中に示す表面の A-A ?線 に沿った応力のx 方向成分σxの分布を示す。同様に、Fig. 8に板厚方向に向かうB-B ?線に沿った応力の分布を示す。 Fig. 7 およびFig. 8において、三角は等価力学モデルを用 いた理想化陽解法の応力分布を示し、四角は接触モデル を用いたABAQUSの応力分布を示す。Fig. 7 および8よ り、提案した等価荷重モデルは、接触を考慮した解析に より得られた応力分布を定性的、定量的に再現できてい ることが確認できる。 3.3 実験との比較 提案手法によるショット一球の衝突後の衝突痕と実験 結果の比較を行う。解析条件に3.1節に示すものと同様の ものを用いた。Fig. 8に解析によるショット1発の打痕を 示す。打痕の直径は320μmであった。Table 2にショット 四個の衝突痕の大きさを示す。縦方向の平均が 293μm、 225 180 135 90450.0 -45 -90 -135 -180 -225 Fig.5 Distribution of residual stress σy z x x (a) ABAQUS z (b) Proposal method - 503 - 横方向の平均が316μmであった。以上のことから単一シ ョット衝突時の打痕に関して、実験と解析の打痕の大き さが解析と良好に一致することを確認した。 Table 2 Size of shot mark from experiment Vertical dimension (μm) Lateral dimension (μm) Shot mark No.1 273 293 Shot mark No.2 271 345 Shot mark No.3 624 330 Shot mark No.4 305 297 Average 293 316 4.アルメンストリップ 4.1 解析モデルおよび条件 開発したショットピーニング時の残留応力分布予測シ ステムにおける衝突面積率とカバレッジの関係性につい て整理するために、アルメンストリップ片のアークハイ トを解析と実験で比較する。Fig. 8 に解析モデルを示す。 本モデルは長さ 76.0mm、幅 19.0mm、厚さ 2.6mm で、 0.2mm で要素分割を行った。材質は SUS316L を仮定し、 Fig.7 Distribution of residual stress σx in depth direction? Fig.6 Fig Distribution of residual stress σx at the surface? 6Distribution of residual stress σ at the surface ヤング率を 190.4GPa、ポアソン比を 0.256 初期降伏応力 を 297.0MPa、加工硬化係数を 1807.0MPa、密度を 7940.0kg/m3とした。また、ショットの投射条件は3章で 用いたものと同じとし、解析では衝突面積率Rc が900に 達するまでショットを投射するものとした。 アークハイトはFig. 9に示すA、B、C、D点がなす平面 とO点の距離より算出するものとした。 4.2 解析結果 Fig. 10 に衝突面積率 Rc=10、25、50、90、150、300、 600、900における面外方向の変位分布を示す。同図より、 衝突面積率が大きくなるとともに面外方向の変位が大き くなっていくことが確認できる。これは、ショットの衝 撃力が表面に付与されると、表面に法線方向の強い圧縮 力が作用し、法線方向、すなわち板厚方向に圧縮の塑性 変形が発生するとともに、塑性変形の非圧縮性により、 Node : 438,912 Element : 397,100 19mm 1.3mm z y x (mm) 32.72.42.11.81.51.20.90.60.30Fig.10 Distribution of out-of-plane deformation? Rc10 Rc25 Rc50 Rc90 Fig.9 Measurement position of arc height? A DB C O 15.8mm 32.8mm Fig.8 Analysis model? 76mm Rc150 Rc300 Rc600 Rc900 Rc150 Rc300 Rc600 Rc900 - 504 - 面内方向にも引張りの塑性変形が発生することから、中 立軸より上側に引張りの塑性変形が発生するため、全体 としては面外上方向に凸形状の変形が発生するためであ ると考えられる。 Fig. 11 にアークハイトの解析結果を示す。同図より、 衝突面積率が小さい段階では、アークハイトの増加量が 大きいが、衝突面積率が大きくなるに従いアークハイト の増加量が小さくなっていることが分かる。これは、本 解析では加工硬化を考慮しているため、衝突面積率が小 さいとき、すなわち、ショットの投射量が少ない状態で は、塑性変形量が小さいため加工硬化の影響が小さく、 降伏応力も小さいため塑性変形が起きやすいが、衝突面 積率が大きくなるに従い、表面の塑性変形が大きくなる ため加工硬化の影響が大きくなり降伏応力が大きくなる ため、塑性変形の発生量が小さくなるためであると考え られる。 0.030.0260.0220.0180.0140.010.0060.002-0.002-0.006-0.010.80.70.60.50.40.30.20.100 100 200 300 400 500 600 700 800 Coverage(%) Fig.12 Distribution of plastic strain in x direction? Rc10 Rc25 Rc50 Rc90 Fig.11 Coverage history of arc height? Fig. 12に塑性ひずみの長手方向成分の分布を示す。同図 からも衝突面積率が大きくなるに従い、塑性ひずみが大 きくなっていることが確認できる。 5.ビードオンプレートモデルのショットピー ニング時の応力分布の予測 5.1 解析モデルおよび条件 Fig. 13 に溶接残留応力分布のショットピーニングによ る変化を解析するために用いる解析モデルを示す。板長 200mm、板幅 200mm、板厚 20mm であり、材料を SUS316L[16]とした。溶接条件は電流 200A、電圧 10V、 溶接速度 3.33mm/sec、熱効率は 0.7 とした。またモデル 中央部の 20mm×20mm の部分をショットの衝突領域と し、衝突領域は0.1mm間隔でメッシュ分割を行った。ピ ーニングの条件としては、ショットの材料を SUS304 と し、衝突領域にショットが3000 回衝突するまで解析を実 施した。ピーニングによる衝突荷重が与えられた面積の 総和のピーニング対象領域の面積に対する比(以降、衝突 面積率 Rc と定義)が十分に大きくなると考えられる Rc=50.0まで解析を行うものとした。 5.2 解析結果 Fig. 14 およびFig. 15に溶接後、ショットピーニングを 行った場合の残留応力の変化を示す。同図より、特に表 面において溶接線方向応力 σxx、溶接線垂直方向応力 σyy ともに引張応力が圧縮応力に変化していることが確認で きる。 6.結言 1) 等価荷重モデルを単一のショットが衝突する問題に 対して適用し、ABAQUS によるショットと衝突対象部 材の接触を考慮した動的陽解法 FEM の解析結果と比 z y x Fig.13 Analysis model? - 505 - Peening area Node : 2,451,645 Element : 2,374,544 20 mm 較した結果、良好に一致することを確認した。 2) 等価荷重モデルにより得られたショットの打痕径が実 験で得られたショット打痕径と良好に一致することを 確認した。 3) 熱弾塑性解析により得られたビードオンプレートの残 留応力分布に対し、提案システムを適用した結果、シ ョットの衝突回数増加に伴い、引張残留応力が圧縮残 留応力に転化していることが確認できた。これより本 手法を用いてショットピーニング時の応力挙動を解析 可能であることを確認した。 4) 開発したショットピーニング時の残留応力分布予測シ ステムにおける衝突面積率とカバレッジの関係性につ いて整理するために、アルメンストリップ片のアーク ハイトを解析と実験で比較した結果、本解析は良好な 定性的傾向を有していると言える。 謝辞 本研究は、「文部科学省英知を結集した原子力科学技術・ Stress A’ Stress A’ Fig.14 Distribution of residual stress σx in depth direction? Fig.15 Distribution of residual stress σy ? in depth direction? AA’ AA’ Depth from surface (mm) Depth from surface (mm) velocity 人材育成推進事業」により実施された「原子力発電機器 and diameter), Journal of the Japan Society of における応力改善工法の長期安全性評価のための基盤技 Mechanical Engineers, Vol.71, No.706 術開発」の成果である。 [9] X. Sheng, Q. Xia, X. Cheng and L. Lin: Residual stress field induced by shot peening based on random-shots for 参考文献 7075 aluminum alloy, Transactions of Nonferrous Metals [1] S. Bagherifard, R. Ghelichi and M. Guagliano: On the Society of China, Vol.22 (2012), pp.s261-s267. shot peening surface coverage and its assessment by [10] M. Jebahi, A. Gakwaya, J. Levesque, O. Mechri and K. means of finite element simulation: A critical review and Ba: Robust methodology to simulate real shot peening some original developments, Applied Surface Science, process using discrete-continuum coupling method, Vol.259 (2012), pp.186-194. International Journal of Mechanical Science, Vol.107 [2] Y. Sano, N. Mukai, K. Okazaki and M. Obata: Residual (2016), pp.21-33. stress improvement in metal surface by underwater laser [11] K. Ikushima and M. Shibahara: Prediction of residual irradiation, Nuclear Instruments and Methods in Physics stresses in multi-pass welded joint using Idealized Explicit Research B, Vol.121 (1997), pp.432-436. FEM accelerated by a GPU, Computational Materials [3] H. Soyama and O. Takakuwa: Enhancing the aggressive Science, Vol.93 (2014), pp.62-67. strength of a cavitating jet and its practical application, [12] K. Ikushima and M. Shibahara: Large-scale non-linear Journal of Fluid Science and Technology, Vol.6, No.4 analysis of residual stresses in multi-pass welded pipe (2011), pp.510-521. welds by idealized explicit FEM, Welding in the World, [4] M. Benedetti, V. Fontanari, M. Bandini and D. Taylor: Vol.59 (2015), pp.839-850. Multiaxial fatigue resistance of shot peened high-strength [13] M. Shibahara, H. Serizawa and H. Murakawa: Finite aluminium alloys, International Journal of Fatigue, Vol.61 element method for hot cracking using interface element (2014), pp.271-282. (3rd report) - development of static-dynamic hybrid [5] M. Klemenz, V. Schulze, I. Rohr and D. Lohe: method, Journal of Kansai Society of naval Architects Application of the FEM for the prediction of the surface Japan, No.235 (2001), pp.161-169. layer characteristics after shot peening, Journal of [14] P. Wriggers: Nonlinear Finite Element Methods, Springer Materials Processing Technology, Vol.209 (2009), (2008). pp.4093-4102. [15] A. Maekawa, A. Kawahara, H. Serizawa and H. [6] S. Bagherifard, R. Ghelichi and M. Guagliano: Mesh Murakawa: Fast three-dimensional multipass welding sensitivity assessment of shot peening finite element simulation using an iterative substructure method, Journal simulation aimed at surface grain refinement, Surface & of Materials Processing Technology, Vol.215 (2015), Coating Technology, Vol.243 (2014). Pp.58-64. pp.30-41. [7] B. Bhuvaraghan, S. M. Srinivasan, B. Maffeo, R. D. [16] Japan nuclear energy safety organization: Project of McCLain, Y. Potdar and O. Prakash: Shot peening Integrity Assessment of Flawed Components with simulation using discrete and finite element method, Structual Discontimuity (IAF) Material Properties Data Advances in Engineering Software, Vol.41 (2010), Book at High Temperature for dissimilar metal welding in pp.1266-1276. Reactor pressure Vessel (2013) pp.1-34-1-42 [8] M. Seki, A. Yoshida, Y. Ohue, T. Hongo, T. Kawamura and I. Shimoyama: Influence of shot peening on surface durability of case-hardened steel gears (influence of shot - 506 -“ “応力改善工法で付与した圧縮残留応力の持続性評価-理想 化陽解法 FEM を用いたショットピーニング解析手法の開発 (第 1 報) “ “山田 祐介,Yusuke YAMADA,柴原 正和,Masakazu SHIBAHARA,生島 一樹,Kazuki IKUSHIMA,木谷 悠二,Yuji KITANI,西川 聡,Satoru NISHIKAWA,古川 敬,Takashi FURUKAWA,秋田 貢一,Koichi AKITA,鈴木 裕士,Hiroshi SUZUKI,諸岡 聡,Satoshi MOROOKA
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