コンクリート構造物の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
コンクリート構造物の施工時の問題点としてあげられるひび割れであるが、ひび割れの発生しにくい配合をしても施工時の打設を考慮した際、扱いにくさから採用されないケースが多い。一方、扱いにくいコンクリートで打設を行う場合、空洞が出来やすく、空洞が大きい場合は重大な強度低下を招くことが懸念されている。1) コンクリート構造物の検査手法として一般的に行われている打音検査はその検出能を検査員の経験や熟練度に依存しているため、検出性のばらつきが課題であった。このような背景があり、筆者らは、コンクリート内部に生じる劣化を非破壊的に検出可能、且つ検査員の経験や熟練度に依存しない客観性、記録性のある検査を提供するシステムとして、AE(Acoustic Emission)センサを用いた打音検査システムを開発し、コンクリート構造物の内部欠陥や劣化診断の実用化を目指している。2) 本報では、コンクリートモックアップに対する実験的計測と、FEM解析による理論解析の両面から検証を行った結果およびコンクリート橋脚、床版における現場計測結果についても報告する。
2.AE センサを用いた打音検査システム
本検査システムは、AE センサを検査対象に設置した上でハンマーにより打撃し、得られた信号から周波数分布を得る。コンクリート内部に空洞が存在す ると、対象の拘束条件の変化に伴い固有振動数が変 化するため、得られた周波数分布より固有振動のピ ークを評価することで劣化を検出する。本検査シス テムは現場に適用するために軽量かつハンディタイ プであり、検査に必要な情報の記録、外観写真撮影、 検査データ採取、検査基準に基づく判定等を現場で 実施可能である。 3.検証試験 3.1 コンクリートモックアップへの AE 計測 モックアップは図 1 に示す通り上下3か所ずつに 空洞を有する構造となっており、図 1 の青色の面に おいて等間隔の格子状に計測した。各計測点におけ る固有周波数分布を図 2 に示す。図中の○印は計測 位置を示す。 図 2 に示す通り空洞以外の個所の周波数は 4000~5000Hz 程度であるのに対し、空洞位置の固有 周波数は 3000~3500Hz 程度と低い値となり、固有周 波数計測による空洞の検出が可能であることを確認 した。 図 1 コンクリートモックアップ構造図 図 2 モックアップにおける周波数分布 3.2 FEM による理論値解析 コンクリートモックアップにおいて、周波数計測 より得られた空洞部の周波数である 3000Hz 近傍に おける FEM を用いた固有値解析結果を図 3 に示す。 空洞部(特に空洞2の位置)において大きな変位が 確認された。今後詳細な解析を行う。 図 3 FEM による固有値解析結果 4.橋脚および床版への現場適用 本システムを用いた橋脚および床版の現場検査を 行い、非破壊検査の適用性について確認した。 図 4 に橋脚、図 5 に床版における周波数計測結果 をそれぞれ示す。青枠が計測範囲、赤丸が事前の打 音検査において劣化が認められた箇所である。計測 結果から劣化部では周波数の低下が見られ、コンク リート表面の劣化状況の把握が可能であることを確 認した。 - 520 - 図 5 床版の剥離部における周波数分布 ● 周波数計測により、コンクリート内部空洞の 検出が可能であることを確認した。 ● 空洞部で計測された周波数における FEM 解 析を行い、空洞部が大きく振動するモードで あることを確認した。 ● 橋脚、床版における現場検査において劣化が 確認された位置における周波数低下を検出 し、本システムを用いた劣化診断が可能であ る見通しを得た。 参考文献 [1] “鉄筋コンクリートについて考える(ひびわ 図 4 橋脚の剥離部における周波数分布 ピーク周波数(kHz) 5.結論 AE センサを用いたコンクリートの内部欠陥、劣化 診断手法としての検討を行った。 れ・配合・強度)”松岡浩一 [2] “コンクリート橋に対する劣化診断システム の開発”土木学会大会(東北)2016 年 匂坂他。 1 2 3 4 5 6 ピーク周波数(kHz) 1 2 3 4 5 6“ “コンクリート構造物の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発“ “藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE
コンクリート構造物の施工時の問題点としてあげられるひび割れであるが、ひび割れの発生しにくい配合をしても施工時の打設を考慮した際、扱いにくさから採用されないケースが多い。一方、扱いにくいコンクリートで打設を行う場合、空洞が出来やすく、空洞が大きい場合は重大な強度低下を招くことが懸念されている。1) コンクリート構造物の検査手法として一般的に行われている打音検査はその検出能を検査員の経験や熟練度に依存しているため、検出性のばらつきが課題であった。このような背景があり、筆者らは、コンクリート内部に生じる劣化を非破壊的に検出可能、且つ検査員の経験や熟練度に依存しない客観性、記録性のある検査を提供するシステムとして、AE(Acoustic Emission)センサを用いた打音検査システムを開発し、コンクリート構造物の内部欠陥や劣化診断の実用化を目指している。2) 本報では、コンクリートモックアップに対する実験的計測と、FEM解析による理論解析の両面から検証を行った結果およびコンクリート橋脚、床版における現場計測結果についても報告する。
2.AE センサを用いた打音検査システム
本検査システムは、AE センサを検査対象に設置した上でハンマーにより打撃し、得られた信号から周波数分布を得る。コンクリート内部に空洞が存在す ると、対象の拘束条件の変化に伴い固有振動数が変 化するため、得られた周波数分布より固有振動のピ ークを評価することで劣化を検出する。本検査シス テムは現場に適用するために軽量かつハンディタイ プであり、検査に必要な情報の記録、外観写真撮影、 検査データ採取、検査基準に基づく判定等を現場で 実施可能である。 3.検証試験 3.1 コンクリートモックアップへの AE 計測 モックアップは図 1 に示す通り上下3か所ずつに 空洞を有する構造となっており、図 1 の青色の面に おいて等間隔の格子状に計測した。各計測点におけ る固有周波数分布を図 2 に示す。図中の○印は計測 位置を示す。 図 2 に示す通り空洞以外の個所の周波数は 4000~5000Hz 程度であるのに対し、空洞位置の固有 周波数は 3000~3500Hz 程度と低い値となり、固有周 波数計測による空洞の検出が可能であることを確認 した。 図 1 コンクリートモックアップ構造図 図 2 モックアップにおける周波数分布 3.2 FEM による理論値解析 コンクリートモックアップにおいて、周波数計測 より得られた空洞部の周波数である 3000Hz 近傍に おける FEM を用いた固有値解析結果を図 3 に示す。 空洞部(特に空洞2の位置)において大きな変位が 確認された。今後詳細な解析を行う。 図 3 FEM による固有値解析結果 4.橋脚および床版への現場適用 本システムを用いた橋脚および床版の現場検査を 行い、非破壊検査の適用性について確認した。 図 4 に橋脚、図 5 に床版における周波数計測結果 をそれぞれ示す。青枠が計測範囲、赤丸が事前の打 音検査において劣化が認められた箇所である。計測 結果から劣化部では周波数の低下が見られ、コンク リート表面の劣化状況の把握が可能であることを確 認した。 - 520 - 図 5 床版の剥離部における周波数分布 ● 周波数計測により、コンクリート内部空洞の 検出が可能であることを確認した。 ● 空洞部で計測された周波数における FEM 解 析を行い、空洞部が大きく振動するモードで あることを確認した。 ● 橋脚、床版における現場検査において劣化が 確認された位置における周波数低下を検出 し、本システムを用いた劣化診断が可能であ る見通しを得た。 参考文献 [1] “鉄筋コンクリートについて考える(ひびわ 図 4 橋脚の剥離部における周波数分布 ピーク周波数(kHz) 5.結論 AE センサを用いたコンクリートの内部欠陥、劣化 診断手法としての検討を行った。 れ・配合・強度)”松岡浩一 [2] “コンクリート橋に対する劣化診断システム の開発”土木学会大会(東北)2016 年 匂坂他。 1 2 3 4 5 6 ピーク周波数(kHz) 1 2 3 4 5 6“ “コンクリート構造物の健全性診断に向けた非破壊検査システム開発“ “藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE