電磁超音波探触子を用いた多重センシング
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
発電プラントにおける配管減肉管理は定期点検を基本としているが、点検箇所が広範囲に及ぶこと、また点検時の前処理・後処理に多くの時間を費やするため、計測システムの常時設置や運転期間中でのオンライン監視により、安全性を高めることが期待される。しかしながら 運転中の常時監視を実現するにはセンサの環境耐用性に加え、内部流体の温度変化から、超音波による厚み計測 時には温度補正を行う必要がある。超音波計測計に合わせて、温度計測センサを併設することも考えられるが、常時監視での多種のセンサ配置は運用上望ましいとはいえない。 電磁超音波探触子(EMAT)は、デバイス技術と信号処 理技術の発展により、高温環境下での計測が可能になったことや、操作者を介さない遠隔監視技術との親和性が高いなどの利点から、再び注目されるようになってきて いる 1)2)。本研究では配管減肉の寸法計測に関するオンラインモニタリングの環境下で、温度計測センサを配置することなく、EMATの計測結果のみから直接音速補正が可能かについて、数値シミュレーションを通じてその適用可能性を検討する。 2.シミュレーションモデル
本研究では配管表面に常時設置された単一のデバイスで送受信を行うものとする。Fig.1 にEMATの送受信機構の概要を示したものである。送信時にコイルに交流電圧を印加すると永久磁石によるバイアス磁場のもとで配管表面にローレンツ力および磁歪力が発生する。配管内面からの反射波は、材料表面での振動とバイアス磁場との相互作用による反作用磁場からコイル内に誘起電圧が生じる。 (a) Pulser EMAT (b) Receiver EMAT
Fig. 1 Basic strategies of EMAT
2.1 EMAT送受信機構のモデル
解析モデルでは、簡単のため空間2次元の配管断面を 考察の対象とする。この場合EMAT の送受信機構のモデ ルは以下の磁気ベクトルポテンシャルに関する方程式で 記述できる 3)。
???\? ????????????? ? ? ???? ????????????? ? ? ? ? ? -1EMAT の永久磁石によるバイアス磁場は磁化強度と固有 の磁気抵抗率によって ? ? ????? (2) で与えられる。また送信機構はコイル内に印加する交流 電圧Vにより駆動され ? ? ????? ? ? ????? ? ? ?????? (3) で与えられる。また受信機構は反射波の粒子速度により 駆動され ? ? ????? ? ? ????? ? ? ?????? (4) で与えられる。シミュレーションにおいては、離散時間 有限要素法をもちいて時間領域において計算を実行し た。 2.2 配管内の超音波伝搬モデル 配管厚さ方向に関する材料内部の超音波伝搬は弾性の 法則にしたがう。材料内部の応力をτ, 変位をuとすると Cauchyの平衡式より ? ? ? ? ?? ? ????? ? ? (5) が成立する。ここでρは配管材料の密度、? ? ????? は 送信機構で発生する励起力である。(5)式の応力と変位 は歪εの関係式を介して、以下の構成式から求めること ができる。 ?????? ? ?? ?????? ? ? ????? ?? (6) ??? ? ??????? (7) 上式でE は配管材料のヤング率である。 3.配管温度の推定手法 EMAT 受信機構の検出信号は、コイル内の磁気ベクト ルポテンシャルから、ビオサバールの公式により ????? ? ? ? ? ??? ?????? で計算できる。Acはコイル内の磁気ベクトルポテンシャ ルで式(1-7)の解から評価できる。またdlnはn番目のコ イル線素を表す。(8)式は決定すべき未知パラメータであ るヤング率Eの関数であるので、これに対応する非破壊 検査データVd(t)が与えられれば、以下の最小誤差二乗問 題 ???? ? ???? ???????? ? ???? (9) を解くことで、材料定数の推定値E*を求めることができ る 4)。この推定値を利用することで、配管材料のヤング 率の温度依存が先験的にG(T)で与えられたとすると、配 管温度は ?? ? ??????? (10) によって評価することが可能となる。 4.おわりに 本研究では、シミュレーションと逆問題解析を併用す ることにより、電磁超音波探触子を用いた非破壊検査に より配管温度を同定することで、オンラインで配管寸法 のモニタリングを行う計算手法を提案した。シミュレー ション結果については当日報告する。 謝辞 本研究は、独立行政法人日本学術振興会の研究拠点形成 事業(A.先端拠点形成型)「省エネルギーのための知的 層材料・層構造国際研究拠点」の助成を得た。 参考文献 [1] D. KosaNa, F. Kojima, H. Yamaguchi, and K. Umetani, “Quantitative evaluation of wall thinning in pipe wall using electromagnetic acoustic transducer”, E-Journal of Advanced Maintenance, Vol. 2, No. 1, 2010, pp.34-42. [2] A. Furusawa, F. Kojima, and A. MoriNawa, “Mode control of guided wave in magnetic hollow cylinder using electromagnetic acoustic transducer”, Nuclear Engineering and Technology, Vol. 47, No. 2, 2015, pp. 196-203. [3] 坪井始、内藤督、“数値電磁解析法の基礎”、養賢 堂、 1994 [4] 小島史男、“シミュレーションと計測技術を融合し -8た逆問題解析統合解法”, 計測と制御, 計測自動制 御学会, Vol. 51, No. 9 (2012), pp. 821-827 - 527 -“ “電磁超音波探触子を用いた多重センシング“ “小島 史男,Fumio KOJIMA
発電プラントにおける配管減肉管理は定期点検を基本としているが、点検箇所が広範囲に及ぶこと、また点検時の前処理・後処理に多くの時間を費やするため、計測システムの常時設置や運転期間中でのオンライン監視により、安全性を高めることが期待される。しかしながら 運転中の常時監視を実現するにはセンサの環境耐用性に加え、内部流体の温度変化から、超音波による厚み計測 時には温度補正を行う必要がある。超音波計測計に合わせて、温度計測センサを併設することも考えられるが、常時監視での多種のセンサ配置は運用上望ましいとはいえない。 電磁超音波探触子(EMAT)は、デバイス技術と信号処 理技術の発展により、高温環境下での計測が可能になったことや、操作者を介さない遠隔監視技術との親和性が高いなどの利点から、再び注目されるようになってきて いる 1)2)。本研究では配管減肉の寸法計測に関するオンラインモニタリングの環境下で、温度計測センサを配置することなく、EMATの計測結果のみから直接音速補正が可能かについて、数値シミュレーションを通じてその適用可能性を検討する。 2.シミュレーションモデル
本研究では配管表面に常時設置された単一のデバイスで送受信を行うものとする。Fig.1 にEMATの送受信機構の概要を示したものである。送信時にコイルに交流電圧を印加すると永久磁石によるバイアス磁場のもとで配管表面にローレンツ力および磁歪力が発生する。配管内面からの反射波は、材料表面での振動とバイアス磁場との相互作用による反作用磁場からコイル内に誘起電圧が生じる。 (a) Pulser EMAT (b) Receiver EMAT
Fig. 1 Basic strategies of EMAT
2.1 EMAT送受信機構のモデル
解析モデルでは、簡単のため空間2次元の配管断面を 考察の対象とする。この場合EMAT の送受信機構のモデ ルは以下の磁気ベクトルポテンシャルに関する方程式で 記述できる 3)。
???\? ????????????? ? ? ???? ????????????? ? ? ? ? ? -1EMAT の永久磁石によるバイアス磁場は磁化強度と固有 の磁気抵抗率によって ? ? ????? (2) で与えられる。また送信機構はコイル内に印加する交流 電圧Vにより駆動され ? ? ????? ? ? ????? ? ? ?????? (3) で与えられる。また受信機構は反射波の粒子速度により 駆動され ? ? ????? ? ? ????? ? ? ?????? (4) で与えられる。シミュレーションにおいては、離散時間 有限要素法をもちいて時間領域において計算を実行し た。 2.2 配管内の超音波伝搬モデル 配管厚さ方向に関する材料内部の超音波伝搬は弾性の 法則にしたがう。材料内部の応力をτ, 変位をuとすると Cauchyの平衡式より ? ? ? ? ?? ? ????? ? ? (5) が成立する。ここでρは配管材料の密度、? ? ????? は 送信機構で発生する励起力である。(5)式の応力と変位 は歪εの関係式を介して、以下の構成式から求めること ができる。 ?????? ? ?? ?????? ? ? ????? ?? (6) ??? ? ??????? (7) 上式でE は配管材料のヤング率である。 3.配管温度の推定手法 EMAT 受信機構の検出信号は、コイル内の磁気ベクト ルポテンシャルから、ビオサバールの公式により ????? ? ? ? ? ??? ?????? で計算できる。Acはコイル内の磁気ベクトルポテンシャ ルで式(1-7)の解から評価できる。またdlnはn番目のコ イル線素を表す。(8)式は決定すべき未知パラメータであ るヤング率Eの関数であるので、これに対応する非破壊 検査データVd(t)が与えられれば、以下の最小誤差二乗問 題 ???? ? ???? ???????? ? ???? (9) を解くことで、材料定数の推定値E*を求めることができ る 4)。この推定値を利用することで、配管材料のヤング 率の温度依存が先験的にG(T)で与えられたとすると、配 管温度は ?? ? ??????? (10) によって評価することが可能となる。 4.おわりに 本研究では、シミュレーションと逆問題解析を併用す ることにより、電磁超音波探触子を用いた非破壊検査に より配管温度を同定することで、オンラインで配管寸法 のモニタリングを行う計算手法を提案した。シミュレー ション結果については当日報告する。 謝辞 本研究は、独立行政法人日本学術振興会の研究拠点形成 事業(A.先端拠点形成型)「省エネルギーのための知的 層材料・層構造国際研究拠点」の助成を得た。 参考文献 [1] D. KosaNa, F. Kojima, H. Yamaguchi, and K. Umetani, “Quantitative evaluation of wall thinning in pipe wall using electromagnetic acoustic transducer”, E-Journal of Advanced Maintenance, Vol. 2, No. 1, 2010, pp.34-42. [2] A. Furusawa, F. Kojima, and A. MoriNawa, “Mode control of guided wave in magnetic hollow cylinder using electromagnetic acoustic transducer”, Nuclear Engineering and Technology, Vol. 47, No. 2, 2015, pp. 196-203. [3] 坪井始、内藤督、“数値電磁解析法の基礎”、養賢 堂、 1994 [4] 小島史男、“シミュレーションと計測技術を融合し -8た逆問題解析統合解法”, 計測と制御, 計測自動制 御学会, Vol. 51, No. 9 (2012), pp. 821-827 - 527 -“ “電磁超音波探触子を用いた多重センシング“ “小島 史男,Fumio KOJIMA