原子力発電所の電動バタフライ弁駆動部の耐震性向上確証試験

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
原子力発電所に設置される電動弁の地震時機能維持は、既往の耐震試験実績等により評価してきたが、昨今の基準地震動の見直しに伴い応答加速度が大きくなってきていることを受け、高加速度に対する機能維持評価が必要となっている。また、地震PRAにおける機器フラジリティの観点でも、現実的な機能維持限界を求める必要がある。そこで、これまでにない加速度レベルでの耐震試験が可能な、(一財)電力中央研究所の共振加振台[1]を使用して、電動バタフライ弁駆動部の標準設計で最も耐震上弱いとされる機種について耐震試験を実施し、3方向各加振時の弁動作限界加速度を確認した。2方向については、限界加速度が目標とした20×9.8 m/s2を満足しなかったことから、試験結果を基に3方向20×9.8 m/s2以上に おいても弁動作が可能な耐震ブラケットの設計を代表3機種において実施した。耐震試験を行った機種に設計製作した耐震ブラケットを装着し、3方向20×9.8 m/s2の加振試験を行い、動作機能が維持されることを確認した。この結果と既発表の電動弁駆動部の耐震試験結果[2]を用いて電動弁の動作機能確認済加速度等を見直した耐震評価法(案)をまとめたので、ここに報告する。
2.標準設計の動作限界加速度の確認試験
2.1 標準設計の電動バタフライ弁駆動部の構造 図1に示すように、電動バタフライ弁駆動部は、モー タで駆動された歯車がクラッチギヤを介してウォームギ ヤを回転させ駆動軸についているホイールギヤを回転さ せる。この駆動軸は、スプラインカップリングを介して 減速機側のウォーム・ホイールによりバタフライ弁駆動 軸を回転させる。グリース漏洩防止のためのガスケット は、図示されている6 か所に挿入されている。各部に大 きな加速度が付加すると締結部のガスケットが圧縮変形 によりへたり、ボルト締結荷重が減少したり、回転すべ りが発生し、さらに各部の応答加速度が大きくなる。そ 連絡先:小島 区新杉田町8、(株)東芝 E-mail: nobuo.kojima 信夫、〒235-8523 @toshiba.co.jp 原子力プラント設計部 神奈川県横浜市磯子 の結果、締結部のボルトが疲労破壊し、動作不能に至る 場合がある。 - 53 - Fig.1 Structure of motor-operated butterfly valve 2.2 動作限界加速度確認試験の加振装置 加振装置の仕様を表1に、外観写真を図2に示す。大 型加振テーブルを駆動力として、ばねマス系の共振時の 振動増幅を利用した共振加振テーブルを連結棒で結合し て加振する装置である。搭載質量の上限は、10,000kg で、 基礎反力による周辺地盤振動を抑制するために、2 台の SAMD( Semi-Active mass damper)を設置している。 Table1 Specifications of the test facilities Items Large vibration table Resonance vibration table Seismic table 5 m×5 m 2 m×2 m Seismic direction 1 axis 1 axis Maximum acceleration 2×9.8 m/s2 20×9.8 m/s2 Frequency range 0.5~30 Hz 10 Hz 2.3 試験結果 耐震ブラケットを装備しない標準設計の機種につい て、ガスケットに作用する地震時の慣性力の曲げ荷重に Fig. 2 Bird’s eye view of resonance shaking table - 54 - よる一部のボルト圧縮荷重が、ガスケットの圧縮特性が きわめて柔らかく、ボルト締結荷重と同じとなりゆるむ とした簡易評価を行い、最も小さい限界加速度となった 機種である“SMB-O/HB-3”を試験体に選定した。図3に 共振加振テーブルに試験体を設置した写真と加振方向に ついて示す。図4の試験体の平面図に示すように、駆動部 の重心が図中のガスケット締結面の中心に対して偏心し ているので、Z方向加振時には、回転トルクFz×Lx と曲げ 荷重Fz×Ly が付加する。そのため、ガスケット締結面の 面圧の高い点を中心として回転すべりを発生する加振条 件が、弁動作限界加速度となる。回転すべりが発生する とガスケットがはみ出し、ボルトの締結荷重が減少し、 締結面が一部離反し駆動部の応答が大きくなり、ボルト に付加する荷重が大きくなり疲労破断する。表2に、試験 で確認した動作機能維持可能な限界加速度の結果を示 す。Y方向加振については、ガスケット面に垂直に荷重が 付加するので、回転すべりを起こさず、動作限界加速度 は20×9.8 m/s2以上であった。 Fig.3 Definitions of shaking directions Fig.4 Plane view of motor-operated butterfly valve Table2 Operability limit acceleration Direction Operability limit acceleration X 8.5×9.8 m/s2 Y 20×9.8 m/s2 Z 6.8×9.8 m/s2 3.耐震性向上のための設計 加振結果を基に、出来るだけ設置済みの部品を生かし、 3 方向加振において、20×9.8 m/s2以上において弁動作を 可能とするため、図5に示す耐震ブラケットの追設、マ ウンティングアタプタの形状変更による取替え、締結ボ ルトの材質と締結荷重の変更を行った。図5に示すよう に、評価する締結面に対して、駆動部の重心は、Lx、Ly、 Lzの距離だけ偏心しており、締結面に曲げ荷重も同時に 作用するので、負荷時の締結面圧の減少量を考慮し、最 もすべり易いあるいは強度上弱い回転軸を想定して評価 する必要がある。設計方法は、締結面圧の減少量を締結 ボルトの内外力比からガスケットの圧縮特性を考慮して 算出した。また、ボルトのトルク管理による締結荷重と ガスケットのすべり係数のばらつきを考慮し、実機にて 使用している代表の3機種について設計した。 評価項目は、下記の4つである。 (1) 耐震ブラケットとマウンティングアダプタ間の締結 面上のすべり評価・・・E 軸回りの回転モーメントから Bボルトの材質と締結荷重を決定した。 (2) 耐震ブラケットとハウジング間の締結部の離反評 価・・・K軸回りの回転モーメントからHボルトの材質 と締結荷重を決定した。 (3) マウンティングアダプタと駆動部間の締結面上のす べり評価・・・S 軸回りからS ボルトの締結荷重を求め、 ボルト材質の変更とガスケットをジョイントシートから 液状ガスケットに変更した。 (4) マウンティングアダプタとハウジング間の締結面上 のすべり評価・・・図6に示すU 軸回りとK軸回りのベ クトル合成されたN ボルト位置の最大摩擦荷重をγ×Fz 、 その位置のK軸回りで求められるガスケットの圧縮減少 荷重 Fnc を β×Fz で表し、回転すべりが発生する加速度 を Az とすると Fz=Az×駆動部質量であるので、下式が 成り立つ。 (N ボルトの締結荷重-β×Fz )×すべり係数= γ×Fz ・・・(1) Azが20×9.8 m/s2以上になるように必要締結荷重、Lma、 Lmb を決定した。 Fig.6 Side view of valve with seismic bracket 4.耐震性向上設計の確証試験 加振試験を実施した標準の電動バタフライ弁駆動部に、 前述の耐震向上対策を実施し、加振試験を行った。設計 手法の妥当性確認のために、図5 に示すM10の締結ボル トG、H とM16の締結ボルトB、Cにボルト軸力計 を取付けて試験を行った。図7にZ方向20×9.8 m/s2 加振中のボルト軸力の計測結果を示す。Fvは、ボル トの締結荷重である。計測結果から、回転すべりが 発生する加速度は、G、H ボルトの軸力が低下して いる 17×9.8 m/s2以上の加振時であることが分かる。 ガスケットのすべり係数のばらつき、締結ボルトの 締結荷重のばらつきを考慮し、式(1)で算出すると 16×9.8 m/s2 となることから、上記のボルト位置に荷 重が付加するとした評価式は、妥当であることが確 認できた。弁の動作機能については、3 方向の20×9.8 m/s2 以上の加振中、加振後のいずれも良好であり、 作動時間も安定していたことから、弁駆動部の動作 機能維持を確認できた。 実機への適用については、より安全とするために、 図6 に示すLma の長さを57mm から 82mm に、耐 Fig. 5 Drawing of valve with seismic bracket 震ブラケットとケーシング間の締結ボルトを M10 - 55 - からM12変更し、有限要素法により回転すべりが発生し ないことを確認している。 Fig.7 Measurement value of Z direction excitation 5.電動弁の耐震評価法(案)の作成 既発表の電動弁耐震試験結果[2]と本試験結果を用い て、動的機器の機能維持評価法「10.弁」について、一般 弁の評価手順を電動駆動と空気作動に分け、電動駆動の 評価手順を図8のように改定する案をまとめた。朱色部 分を追加した。図中の AT は、機能維持確認済加速度で ある。AT1 は、電動弁駆動部の動作機能維持確認済加速 度であり、試験結果から20×9.8 m/s2となる。ただし、電 動バタフライ弁駆動部については、耐震ブラケットを装 着したものに限るとした但し書きを付ける。下線部分が 追加した文章部分である。電動弁においては、駆動部最 大応答加速度AがAT1以下の場合、弁のヨーク下部、ボ ンネット上部及びボンネット下部のいずれかの構造上の 最弱部に注目して強度検討を行う。駆動部最大応答加速 度AがAT1を超える場合は、駆動部の構造上の弱部(ク ラッチハウジング、モータ・フレーム、端子台ブラケッ ト)に注目して強度検討を行い健全性を確認した上で、 - 56 - 弁のヨーク下部等の強度検討を行う。 Fig.8 Revision of evaluation flow for motor-operated valves 標準設計の最も耐震上弱いとされる機種の電動バタ フライ弁駆動部の耐震試験を実施し、3 方向の加振時の 動作限界加速度を確認した。その試験結果を基に3方向 20×9.8 m/s2以上においても弁動作が可能な耐震ブラケッ トの設計を代表3 機種について行った。耐震試験を実施 した機種において耐震ブラッケットを装着し、3 方向の 20×9.8 m/s2の加振試験を行い、弁動作機能が維持される ことを確認した。この結果と既発表の電動弁耐震試験結 果を用いて、動作機能確認済加速度等を見直した電動弁 の耐震評価法(案)をまとめた。本件は「電動弁駆動部の 動作機能確認済加速度向上に関する研究」の一環として、 中部電力、北海道電力、東北電力、東京電力ホールディ ングス、北陸電力、日本原子力発電、関西電力、中国電 力、四国電力、九州電力、電源開発、委託先の東芝、日 立GEニュークリア・エナジー、三菱重工業が実施した 委託研究の成果の一部である。本論文に掲載のある商品 の名称は、それぞれ各社が商標として使用している場合 があります。 参考文献 [1] M. Sakai, et al. : “Development of High Acceleration Shaking Table System Using Resonance Vibration”, ASME PVP2016-63752(2016) [2] 小島信夫他:“原子力発電所に使用される電動弁駆動 部の耐震試験結果”, 日本原子力学会,2016 秋,1G13(2016) (draft) 6.おわりに“ “原子力発電所の電動バタフライ弁駆動部の耐震性向上確証試験“ “堤 喜隆,Yoshitaka TSUTSUMI,芝 小島,小島 信夫,Nobuo KOJIMA,芝 渡部,渡部 幸夫,Yukio WATANABE,芝 西野,西野 浩二,Koji NISHINO,芝 米倉,米倉 和義,Kazuyoshi YONEKURA,熊谷 真,Shin KUMAGAI,神農 弘行,Hiroyuki KAMINO
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