SUS配管溶接部における柱状晶組織からのUT信号シミュレーション

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
超音波探傷試験(UT)によるオーステナイト系ステンレス鋼溶接部での欠陥の検出やサイジングにおいては、溶接金属部が柱状晶組織であるため、音響異方性等による超音波ビームの屈曲、減衰、ノイズ(散乱)等や、母材と溶接部との界面からのエコーなどの欠陥以外の信号が発生することにより、UT測定結果の評価が困難になる場合がある。超音波の伝搬方向や散乱、減衰等をシミュレーションによりそれらの現象を再現し、挙動を把握することができれば、UT測定条件の最適化やUT測定結果の評価方法の検討に有効である。また、疲労き裂や応力腐食割れ(SCC)に対する欠陥エコーの再現が可能となれば、溶接金属部(無欠陥部)とあわせることにより、UT技術習得のためのシミュレーターへの適応も可能となる。 著者らは、これまでに溶接部の断面を後方散乱電子回折(EBSP)などで実測することなく、溶接部(3次元)の断面 (2次元)を凝固シミュレーションによって溶接金属部の柱状晶組織のモデル化を行い、柱状晶伝搬エコーや裏波部エコーなどのUT波形の再現を行った[1]。また、欠陥に起 因するUT波形のシミュレーションに対しては、牧野らによって提案されている「音響インピーダンス調整モデ ル」[2]を参考にして、さまざまな欠陥深さの疲労き裂やSCCに対するUTシミュレーションを行い、欠陥深さを徐々に変化させながら、データを合成させることにより、 再現に見通しを得ている[3]。 本研究では、3次元での溶接金属部(無欠陥部)における 探傷データをUTシミュレーションで再現するアプローチの一つとして、2 次元でのシミュレーション得られた UTデータを用い、実際のUT探傷データを模擬した3次元UTデータを構成する方法について検討を行った。
2.無欠陥部からのエコーのばらつきの再現方法について Fig. 1に実探傷データと現状でのUTシミュレーション によるC、D スコープ画像の比較を示す。実探傷データは、板厚35mmのSUS(オーステナイト系ステンレス)配管溶接部において、2MHz横波45r斜角探傷子を用いたによって得られたデータである。実際の探傷データでは、 無欠陥部における裏波部エコーは、溶接線方向にほぼ連続して発生しているが、ゆるやかな強弱の変化や位置の変化等が確認できる(以下、この様な無欠陥部の信号の変化を「バラツキ」と呼ぶ)。一方、UTシミュレーション で得られた2次元のUT波形(1ライン)を連続的に溶接線と直交方向にならべ作成したC、Dスコープ画像では実探傷データでみられたような裏波部エコーのバラツキを 再現することができていない。これは、UTシミュレーションに用いた溶接部の柱状晶組織が同一のものであることに起因している。無欠陥部の超音波探傷信号のバラツキを定量化することは困難であるが、溶接線方向に探触子を走査した際に超音波探傷信号が大幅には変化せず、 基本的には「連続した信号であるが全く同じ信号ではない」程度のバラツキと言える。
(a) C,D-scope image of weld part measured for stainless steel piping. (b) C,D-scope image composed by UT data obtained by UT simulation for one type of columnar structure. Fig.1 Comparison between (a) UT data of weld part measured for stainless steel piping and composed by UT data obtained by UT simulation. シミュレーションによって無欠陥部の信号のバラツキ を再現するためには、理想的には溶接金属部の柱状晶組 織を3次元でモデル化し、実際のUT探傷と同様に、探 触子の位置を変えながらUTシミュレーション解析する ことが望ましいが、計算機資源や計算時間の関係で、柱 状晶組織の3次元モデルの計算は現状では困難である。 また、2次元断面の柱状晶組織モデルを複数使用する方 法も考えられるが、溶接時の入熱のパラメータや開先角 度等の設定を変えて作成したモデルでは、溶融境界の形 状や柱状晶組織モデルの状況が異なるため、超音波探傷 信号は大きく変化し、連続的な信号が再現できないこと が予想される。 一方、同一の柱状晶組織モデルであっても、各柱状晶 D-Scope このうち、θは柱状晶組織予測で計算された値をそのま ま設定し、ψは0rから45rの範囲に一様な乱数を発生 させて設定している。ψは、ある一定の値を加算してオ フセットを与えることで異なる方位を設定した。 3.シミュレーション解析結果 凝固シミュレーションにより計算した柱状晶組織[1]を 用いて溶接部に対するUTシミュレーションを行った(Fig. 3)。UTシミュレーションは市販のComWAVE(伊藤忠テ クノソリューションズ社製)を用い、板厚15mmのオース テナイト系ステンレス鋼板の溶接部に対してUTシミュ レーションを行った。探触子は周波数4MHz振動子高さ 10mmの横波45度斜角探触子とし、探触子の設置位置は、 溶接線から軸方向に1mm 刻みで移動させた。 Table 1に示す、オフセットを1から8に設定した8 種類 の柱状晶組織モデルにおける方位の乱数設定パターンを 用い、溶接金属部のUTシミュレーションをおこなった。 Fig. 4およびFig. 5 はY=7mm(柱状晶伝搬エコー等)及 びY=13mm(裏波部エコー、溶融境界からのエコー等) でのA およびBスコープ波形を示す。Fig. 3において、 C-Scope 組織モデルに設定する方位を変えることで、柱状晶伝搬 エコーや裏波部エコー、溶融境界に起因するエコーを変 化させることで、信号のバラツキを再現できると考えら root echo れるため、柱状晶組織モデルの方位データを適切に設定 することにより、実データに近いバラツキの信号が得ら れることが期待できる。本研究では、無欠陥部の信号の バラツキの再現するために、柱状晶組織モデルにおいて 設定する方位を変動させた。柱状晶組織モデルに設定す る方位は、Fig. 2に示すようにθ、Φ及びねじりψである。 C-Scope root echo Fig.2 The setting of azimuth direction for columnar structure. D-Scope - 537 - 柱状晶伝搬エコー(図中の矢印)では、ピーク数やピークの 位置はほぼ同様であるが、振幅は若干変化している。ま た、Fig. 5 では、裏波部エコー(図中の矢印)が、オフセッ トの値が大きくなるとともに、振幅が減少していること がわかる。この結果より、オフセットを与える設定によ り、柱状晶および裏波部からのUT信号のバラツキを再 現できると考えられる。 Fig.3 Setting condition of UT simulation. Table 1.The pattern of twisting angle(ψ) and offset value for columnar structure model. パターンの略称 ねじり角(ψ) オフセット値 Ofs1 0° ~ 45° (一様乱数を 発生させて 設定) +1r Ofs2 +2r Ofs3 +3r Ofs4 +4r Ofs5 +5r Ofs6 +6r Ofs7 +7r Ofs8 +8r オフセットを変化させた柱状晶組織モデルを用いたUT シミュレーションにより得られたBスコープを溶接線に 直交方向にデータを重ね合わせて作成したCおよびDス コープ画像をFig. 6 に示す。Fig. 6 中に見られる裏波部エ コーは、振幅や位置が徐々に変化しながら続いているこ とがわかる。この結果により、UTシミュレーションによ り得られた波形を適切に配列することにより、溶接金属 部に対する「連続した信号であるが全く同じ信号ではな いUT波形」を再現できることが確認された。 50mm / 1mm step Y=0 Y=50 - 538 - (a) Ofs:1 (b) Ofs:4 (c) Ofs:8 Fig. 4 Results of UT simulation (A and B-scope, Y=7mm) B-scope B-scope B-scope (a) Ofs:1 (b) Ofs:4 (c) Ofs:8 Fig. 5 Results of UT simulation (A and B-scope,Y=11mm) B-scope B-scope B-scope C-Scope (a) pattern : Ofs1~Ofs6~Ofs1~Ofs6~Ofs1 Fig. 6 C- and D-scope images reproduced by arranging 4.まとめ 参考文献 [1] 水野他、第21回超音波による非破壊評価シンポジウ ム講演論文集、2017、p.185. [2] K. Makino et al., AIP Conf. Proc. 1433, 475 (2012). [3] 水野他、日本保全学会 第13 回学術講演会 予稿集、 C-Scope D-Scope root echo D-Scope (b) pattern : Ofs3~Ofs8~Ofs3~Ofs8~Ofs3 B-scope obtained by UT-simulation. 実探傷で得られるUT信号と同等のものをUTシミュレ ーションによって再現するための手法を検討した。凝固 シミュレーションにより得られた柱状晶組織モデルのね じり角(ψ)を変化させることで再現できることが確認で きた。今後は、凝固シミュレーションの高度化を図り、 現実の柱状晶組織に近い柱状晶モデルの構築等を行い、 実試験体での探傷結果により近いUT波形の再現方法の 検討を行う 2016、p.413. - 539 - root echo“ “SUS配管溶接部における柱状晶組織からのUT信号シミュレーション“ “直本 保,Tamotsu JIKIMOTO,上山 芳教,Yoshinori KAMIYAMA,古川 敬,Takashi FURUKAWA
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