暫定補修工法のニーズと緩和の概念
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カテゴリ: 第14回
1. 緒言
補修や緩和技術に特化して具体的な技術分野についての概念整理の必要性や開発ニーズの提案を行う。ひとつは簡単に施工でき一定期間の効果が見込まれる暫定補修工法の開発ニーズについて述べる。米国における許容漏えい基準や暫定補修工法等の活発な規格化の動向から、我が国における補修技術活用のひとつの有望な方向性について提言する。また、緩和について、いわゆる予防保全との概念的な違いと、緩和実施後の検査等について考察する。
2. 暫定補修工法へのニーズ
クラス1機器等、重要性の高い機器に対する補修工法は恒久補修として対象機器に要求される構造強度やシール性能を担保すべく、然るべき手続きや技術的な準備が求められ、そのような要求を満たす補修工法が開発・適用されてきた[1][2]。 一方、補修の必要が生じたものの恒久補修が困難な場合に、ある一定期間、機器の機能を維持する目的で行う補修のことを暫定補修工法と呼び、例えば以下のような場合に用いられる。 弁のフランジから運転中に漏えいしたが、部品交換のための系統隔離ができない場合重要性の低い機器に定検中に欠陥が見つかったが、恒久補修を行うと重要性が低い割に時間がかかりすぎると判断される場合既往の暫定補修工法として接着材、充填材がある。接着材は、図1のように配管の欠陥が貫通して漏えいした場合に、接着材を被覆し漏えいを止め、次のプラント停止の機会まで適用するものである。 充填材は、図2のように運転を継続しながら欠陥のある部位をクランプで覆った後に充填材を注入・凝固させて漏えいを止め、次の計画的なプラSント停止の機会まで適用するものである。 接着材、充填材ともに、既に日本機械学会(JSME) 維持規格に規定されているが、使い勝手がよくな いという課題があり、規格改訂が期待される [3]。 Fig.1 Concept of Adhesion 1 - 551 - Fig. 2 Concept of Infill また、暫定補修工法へのニーズとしては、上述 の接着材、充填材のような既存の工法の使い勝手 を良くすることの他にも、次のような特徴を有す る原子力分野での新しく使いやすい工法の開発へ の期待が挙げられる。 ? 適用する機器等の区分が低クラスである ? 適用までの手続きが簡単なこと ? 技術的な準備が少なくて済むこと ? 水を張った状態のまま適用できること 3.米国動向と暫定補修活用の方向性 上述した暫定補修工法については、米国 ASME でも Code Case (CC) N-786 でスリーブ工法が、同 じく CC N-789 で当て板工法がそれぞれ規格化さ れているが、これらは適用までの準備に比較的長 時間を要する。 一方、暫定補修工法へのニーズの前提として、 微小漏えいの問題があり、米国では、ASME Sec. XI の非強制の添付、CC N-513 及び CC N-705 におい て、比較的重要度の低いクラスの配管、容器、タ ンクを対象に補修・取替なしで貫通欠陥を暫定許 容するための基準が定められている。我が国では このような漏えい許容基準はまだ規格化されてお らず、暫定補修工法の規格化・適用推進において は、漏えい基準も含めて取り組む必要がある。 なお、恒久補修工法についても、米国では非常 に活発に開発・規格化が進められており、最近の 主な取り組みとしては以下の工法が挙げられる。 ? クラス 1~3 機器の異材継手部に適用し、SCC 感受性の高い溶接金属部を外側から削り取 り、耐 SCC 性の高い高ニッケル合金の溶加材 で肉盛りを行う工法である Excavate & Weld Repair (EWR: Code Case N-847 で規格化)[4] ? Class 1 配管における Alloy600 系溶接金属 (182/82)を使用した口径2インチ以上の分 岐継手(Branch Connection)の検査性を向上 させる目的でハーフノズルをJ開先溶接に て取付ける Branch Connection Weld Metal Buildup (BCWMB: Code Case N-538 で規格 化)[5] これに対して我が国では、福島第一原子力発電 所事故後の停滞があったとはいえ、再稼働する発 電所も少しずつ出てきたところであり、補修工法 へのニーズは今後増えていくと見られ、開発・規 格化に力を注ぐことを忘れてはならない。 貫通欠陥を暫定許容する上述の ASME 規格が、 「運転可能な漏えい基準」を明確した形に発展さ れ、適用範囲が広げられることが期待される。さ らに、暫定補修工法に関する JSME 維持規格も、 前述のとおり、より速やかに施工できる使い勝手 のよいものに改良すべきである。漏えい許容基準 に基づく規格と、使い勝手のよい暫定補修工法を 含む規格の両者を合わせれば、我が国においてよ り効果的に適用できる規格になると考えられる[6]。 4.緩和の概念整理と施工後の検査等 4.1 緩和の概念について 事 後 保 全 に 対 し て 予 防 保 全 ( Preventive maintenance)の概念があり、例えばピーニング等 の未損傷箇所の表面応力の緩和技術等を予防保全 技術と位置づけ、ピーニングを施工すれば、特定 の損傷モードがなくなったと見なし、標準的な検 査プログラムに戻すという考え方がある。 米国では、このような技術は緩和(Mitigation) と呼ばれることが多く、特定の損傷モードを想定 した個別的な検査を維持したまま、緩和措置を施 さない場合に比べて検査頻度をより合理的に設定 できるようにしている。 4.2 緩和施工後の検査等について 上記のような緩和の概念に基づけば、緩和施工 後の検査においては(検査だけでなく評価におい ても同様)、緩和の種類・程度に応じた効果を評価 して、回復の程度に対応する検査(及び評価)と することが適切であると考えられる。このような 検査(評価)の設定に当っては先行する米国の取 り組みが参考になるものと考えられる。 5.まとめ 暫定補修工法には既存工法の改良と新たなニー ズとがあり、前提となる微小漏えいも考慮した規 格化の検討が望まれる。予防保全について、緩和 の概念に基づく施工後の検査等の検討が必要であ る。 参考文献 [1] 原子力発電所の保全における補修等是正措置技術 活用のための課題と改善提案, JSM RAP001 (2017) [2] 堂﨑浩二: “補修の規格―ニーズと活用―”, 第 12 回学術講演会予稿集, pp.228-231, 2015 [3] K. Dozaki, H. Kobayashi, et al., PVP2015-45903 - 552 2 - [4] McCracken, S., et al, PVP2016-63769 [5] Waskey, D., et al, PVP2016-63902 [6] H. Kobayashi, et al., PVP2015- 45483 - 553 3 -“ “暫定補修工法のニーズと緩和の概念“ “堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI
補修や緩和技術に特化して具体的な技術分野についての概念整理の必要性や開発ニーズの提案を行う。ひとつは簡単に施工でき一定期間の効果が見込まれる暫定補修工法の開発ニーズについて述べる。米国における許容漏えい基準や暫定補修工法等の活発な規格化の動向から、我が国における補修技術活用のひとつの有望な方向性について提言する。また、緩和について、いわゆる予防保全との概念的な違いと、緩和実施後の検査等について考察する。
2. 暫定補修工法へのニーズ
クラス1機器等、重要性の高い機器に対する補修工法は恒久補修として対象機器に要求される構造強度やシール性能を担保すべく、然るべき手続きや技術的な準備が求められ、そのような要求を満たす補修工法が開発・適用されてきた[1][2]。 一方、補修の必要が生じたものの恒久補修が困難な場合に、ある一定期間、機器の機能を維持する目的で行う補修のことを暫定補修工法と呼び、例えば以下のような場合に用いられる。 弁のフランジから運転中に漏えいしたが、部品交換のための系統隔離ができない場合重要性の低い機器に定検中に欠陥が見つかったが、恒久補修を行うと重要性が低い割に時間がかかりすぎると判断される場合既往の暫定補修工法として接着材、充填材がある。接着材は、図1のように配管の欠陥が貫通して漏えいした場合に、接着材を被覆し漏えいを止め、次のプラント停止の機会まで適用するものである。 充填材は、図2のように運転を継続しながら欠陥のある部位をクランプで覆った後に充填材を注入・凝固させて漏えいを止め、次の計画的なプラSント停止の機会まで適用するものである。 接着材、充填材ともに、既に日本機械学会(JSME) 維持規格に規定されているが、使い勝手がよくな いという課題があり、規格改訂が期待される [3]。 Fig.1 Concept of Adhesion 1 - 551 - Fig. 2 Concept of Infill また、暫定補修工法へのニーズとしては、上述 の接着材、充填材のような既存の工法の使い勝手 を良くすることの他にも、次のような特徴を有す る原子力分野での新しく使いやすい工法の開発へ の期待が挙げられる。 ? 適用する機器等の区分が低クラスである ? 適用までの手続きが簡単なこと ? 技術的な準備が少なくて済むこと ? 水を張った状態のまま適用できること 3.米国動向と暫定補修活用の方向性 上述した暫定補修工法については、米国 ASME でも Code Case (CC) N-786 でスリーブ工法が、同 じく CC N-789 で当て板工法がそれぞれ規格化さ れているが、これらは適用までの準備に比較的長 時間を要する。 一方、暫定補修工法へのニーズの前提として、 微小漏えいの問題があり、米国では、ASME Sec. XI の非強制の添付、CC N-513 及び CC N-705 におい て、比較的重要度の低いクラスの配管、容器、タ ンクを対象に補修・取替なしで貫通欠陥を暫定許 容するための基準が定められている。我が国では このような漏えい許容基準はまだ規格化されてお らず、暫定補修工法の規格化・適用推進において は、漏えい基準も含めて取り組む必要がある。 なお、恒久補修工法についても、米国では非常 に活発に開発・規格化が進められており、最近の 主な取り組みとしては以下の工法が挙げられる。 ? クラス 1~3 機器の異材継手部に適用し、SCC 感受性の高い溶接金属部を外側から削り取 り、耐 SCC 性の高い高ニッケル合金の溶加材 で肉盛りを行う工法である Excavate & Weld Repair (EWR: Code Case N-847 で規格化)[4] ? Class 1 配管における Alloy600 系溶接金属 (182/82)を使用した口径2インチ以上の分 岐継手(Branch Connection)の検査性を向上 させる目的でハーフノズルをJ開先溶接に て取付ける Branch Connection Weld Metal Buildup (BCWMB: Code Case N-538 で規格 化)[5] これに対して我が国では、福島第一原子力発電 所事故後の停滞があったとはいえ、再稼働する発 電所も少しずつ出てきたところであり、補修工法 へのニーズは今後増えていくと見られ、開発・規 格化に力を注ぐことを忘れてはならない。 貫通欠陥を暫定許容する上述の ASME 規格が、 「運転可能な漏えい基準」を明確した形に発展さ れ、適用範囲が広げられることが期待される。さ らに、暫定補修工法に関する JSME 維持規格も、 前述のとおり、より速やかに施工できる使い勝手 のよいものに改良すべきである。漏えい許容基準 に基づく規格と、使い勝手のよい暫定補修工法を 含む規格の両者を合わせれば、我が国においてよ り効果的に適用できる規格になると考えられる[6]。 4.緩和の概念整理と施工後の検査等 4.1 緩和の概念について 事 後 保 全 に 対 し て 予 防 保 全 ( Preventive maintenance)の概念があり、例えばピーニング等 の未損傷箇所の表面応力の緩和技術等を予防保全 技術と位置づけ、ピーニングを施工すれば、特定 の損傷モードがなくなったと見なし、標準的な検 査プログラムに戻すという考え方がある。 米国では、このような技術は緩和(Mitigation) と呼ばれることが多く、特定の損傷モードを想定 した個別的な検査を維持したまま、緩和措置を施 さない場合に比べて検査頻度をより合理的に設定 できるようにしている。 4.2 緩和施工後の検査等について 上記のような緩和の概念に基づけば、緩和施工 後の検査においては(検査だけでなく評価におい ても同様)、緩和の種類・程度に応じた効果を評価 して、回復の程度に対応する検査(及び評価)と することが適切であると考えられる。このような 検査(評価)の設定に当っては先行する米国の取 り組みが参考になるものと考えられる。 5.まとめ 暫定補修工法には既存工法の改良と新たなニー ズとがあり、前提となる微小漏えいも考慮した規 格化の検討が望まれる。予防保全について、緩和 の概念に基づく施工後の検査等の検討が必要であ る。 参考文献 [1] 原子力発電所の保全における補修等是正措置技術 活用のための課題と改善提案, JSM RAP001 (2017) [2] 堂﨑浩二: “補修の規格―ニーズと活用―”, 第 12 回学術講演会予稿集, pp.228-231, 2015 [3] K. Dozaki, H. Kobayashi, et al., PVP2015-45903 - 552 2 - [4] McCracken, S., et al, PVP2016-63769 [5] Waskey, D., et al, PVP2016-63902 [6] H. Kobayashi, et al., PVP2015- 45483 - 553 3 -“ “暫定補修工法のニーズと緩和の概念“ “堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI