国際標準プロアクティブエキスパート育成

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カテゴリ: 第14回
1.まえがき
これまで補修技術活用推進会議において、既存原子力発電所の安全性確保のためのピラミッドの基盤となるものは、機械系(ハードウェア)と人間系(ソフトウェア) の両面からの保全であるということを前提に、2015 年9 月以来約1.5年間に亘って議論が積み重ねられてきた。ここで本旨の「国際標準プロアクティブエキスパート育成」 を論じる前に、今一度、福島第一原子力発電所の事故(福島第一事故)を受けて、次の4種類の論点について予め述べておきたい。
1.1 福島第一事故と深層防護について [1] 米国 NRC 発行の NUREG-1860 では、深層防護とは 不確かさに対する備えであり、原子力発電所において異常や事故等が発生した場合に被害を防止・緩和するため に安全裕度を含む一連の手段を用いることによって不確かさを取扱うために用いられるNRCの安全思想であるとしている。また、IAEA基本安全原則(SF-1)でも、深層防護は事故の影響と緩和の主要な手段であるとして、「深層防護とは、人或いは環境に対して有害な影響を与えるようなケースにおいて、一つの防護レベル或いは障壁が万一機能し損なった場合でも、次のレベル或いは障壁が機能することをいう。深層防護は、単一の技術的故障、人為的或いは組織上の機能不全だけでは有害な影響につながる可能性がないこと、また、重大な有害影響を引き起こすような機能不全が組合せで発生する確率が非常に低いことを確実にする。異なる防護レベルの独立した有効性が,深層防護の不可欠な要素である。」とされている。端的に謂えば、福島第一事故は、第1層(異常運転や事故防止)、第2層(異常運転の制御及び故障の検知)、第3層(設計基準内での事故の制御)、第4層(事故の進展防止及びSAによる影響緩和を含む過酷プラント状態の制御)及び第5層(放射線物質の大規模放出による放射線影響の緩和)の深層防護の内の第4層と第5層が欠落していて起きたのである。
1.2 定期安全レビュー(PSR)の重要性について 1) IAEA の安全ガイドSSG-25「軽水炉の定期安全レビュ ー」の5項において、PSRとは、現時点での最新知見・基 準に照らしてプラント設計と運転が妥当であるかの評価 手段であり、以下に示す14種類の安全要素(14 Safety Factor;SF)への対応に加えて、全14 SFを含めたシステ ム安全上の包括的な評価(総合評価)を求めている。 1) プラント設計*、2) 安全上重要な機器の過渡条件の把 握、3) EQ、4) 経年劣化、5) 決定論的安全評価、6) 確率 論的安全評価*、7) ハザードに対する安全評価*、8) 安全 パフォーマンス、9) 他プラントの運転経験及び研究成果 の反映*、10) 組織、管理及び安全文化*、11) 要領書、12) ヒューマン・ファクター*、13) 緊急時対策、14) 放射線 の環境影響評価 PSRの視点から福島第一事故が起きた原因を考えてみ るとシステム安全上、十分な対応が為されていなかった SF は上記*印と考える。最も重要な点は、IAEAの根本安 全原理(SF-1)に則り、これら14種類のSFから何が最 も重要な要素であり、即対応が必要な施策は何かについ て優先順位を決定するための包括的な総合評価を行うこ とである。 カーネギー報告書[2]は、「福島第一事故は防ぐことが できた。事業者と規制当局が国際的なベストプラクティ スと基準に従っていれば、プラントが巨大な津波に襲わ れる可能性を予測できたと考えられる。津波に対するリ スクについては、次の3点で国際的な基準に比べて遅れ ていた。」と痛烈に批判した。 ・ 約1000年に1度の頻度で周辺地域を襲う大津波の痕跡 に十分な注意が払われていなかった。 ・ 2008年に計算した津波リスクを大幅に過小評価してい たことをフォローしなかった。 ・ 規制当局は、事業者に対して適切な計算ツールの開発 を促すことをしなかった。 確かに、海外の原子力発電所のシステム安全上の防護 対策は、日本よりも進んでいた。フランスのLa Blayais 原子力発電所(1999年12 月27日の洪水による外部電源 喪失知見の反映)、及びインドのマドラス原子力発電所 (2004年のスマトラ地震によるインド洋津波高さ10.5m の経験に基づく緊急用ディーゼル発電機の+2m高台への 移設等)等の運転経験があったにも拘わらず、我が国の 原子力発電所には反映されなかった。 我が国のPSRは、事業者が10年を超えない期間毎に、 原子力施設における保安活動の実施状況の確認、最新の 技術的知見の反映状況の評価、及び確率論的安全評価(任 意)を行うものであり、IAEAのPSRの要求概念とは似 て非なるものであった。平成4年6 月、PSRを行った結 果をNISA に報告するよう事業者に要請し、NISAは、そ の成果を評価して、原子力安全委員会へ報告するととも に公表した。平成15 年10月の新しい検査制度の導入に より、原子力発電所の安全確保活動を事業者自ら定期的 に評価する仕組みとしてPSRの実施を義務付けると共に、 「保安規定」の要求事項として位置付けた。その上で、 事業者自身によるPSRの実施に係る一連のプロセスが保 安規定の関連部分を適切に遵守して実施されているか否 か、保安検査で確認するに留まっていた。つまり、14 種 類のSF に関する評価ばかりでなく、最も重要なシステム 安全上の包括的評価、総合評価が行われていなかった。 1.3 IRRS ミッションチームからの指摘事項について[3] 2008年と2016年の2回に亘って、我が国の規制当局は、 IAEA 総合原子力規制評価サービス(IRRS)ミッション チームのレビューを受けた。2016年1月22日、IAEA-IRRS ミッションチームと原子力規制委員会の合同記者会見が 開かれ、その場で、当チームは、日本の原子力及び放射 線の安全に係る規制機関として、2012 年、NRA が設置さ れ、以来、独立性及び透明性を体現しつつ規制活動に取 り組んできたと評価しつつ、NRA への課題例として、 ・有能な人材獲得と人材育成 ・検査の実効性担保のための法改正 ・非規制者との情報交換等の安全文化の醸成 を取り上げた。早速、NRAは即応し、2016年3月16 日の原子力規制委員会において、自ら30項目の課題に対 する対応策を発表した。その中の一つに、「定期的な規制 要件及びガイドの見直し」と題し、規制やガイドを定期的 に評価し見直す体系的なプロセスの構築とその文書化を 行うとした。即ち、基準規則、規則の解釈及びガイド等 について、適宜、評価・見直しを行う際の基本方針、ス クリーニング手法、優先順位及び体制を明確化した文書 を作成し、順次、見直しを行うとした。 ・ 旧組織(NISA、NSC)からの指針、内部規定類の見直 し計画の策定及び見直し ・ 学協会規格の活用のあり方、学協会規格の見直し計画 の策定及び見直し ・ IAEA、OECD/NEA等の国際知見を反映するためのプロ セスの策定 この指摘事項は2008 年3月、当時のNISAがIRRS ミ ッションチームから受けた指摘とほぼ同様である。 ・ 科学的・定量的な手法で整理できない情報に基づき的 確に対応するためのソフトウェア面の規制の推進、及 び率直でオープンな産業界との関係醸成 ・ 効果的な安全規制を行うために必要な最小限の人員計 画の作成、人事ローテーション等の工夫 - 555 - ・ 技術基準の代替となる技術的手段の利用、設計基準を 超える事故に対するAM の推進 ・ PSRによるプラント全体把握への一層の取組推奨 ・ 基準整備に要する期間短縮のための合理化及び規則等 の策定と確認 ・ 規制機関のマネジメント これら国際基準との整合性の観点から、性能規定化さ れた我が国の規制基準体系の中、更なる合理的、効果的 な民間規格(維持規格補修章を含む)の活用が求められ るが、現段階において、NRA の性能規定化の動きがNISA 時代よりも迅速かつ前進しているようには見えない。正 に、この点を2016年のIRRS レビューミッションチーム に再び指摘されたのである。 1.4 HOF(Human and Organization Factors)について 福島第一事故に関する各種報告書の中に“IAEA Report on International Experts Meeting Human and Organizational Factors in Nuclear Safety in the Light of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant”がある。本書は、40 ヶ国、4つの国際機関から計160名の専門家が集まり、PSR の内の“10)組織、管理及び安全文化”及び“12)ヒューマ ン・ファクター”、即ち、HOFの観点から、出席者の経験、 教訓を基に、将来に向けた展望についての討論を行い、 下記の議長サマリに取り纏められた。 1 統合的手法によるシステム安全;Human Factor (HF)、 ITO(個人、技術及び組織との相互関係)及び安全文 化の統合的な取組み手法の開発が必要である。 2 安全文化;国家の安全文化の評価が必要である。また、 規制機関及び事業者による安全文化の自己評価を行 うことが規制強化と遵法精神の背景にある安全文化 を相互理解することができる。 3 教育・訓練;事故防止或いは安全性向上に関するプロ アクティブ手法は効果的な訓練である。外部のステー クホールダーと同様に組織内の個々人の信頼と尊厳 を醸成することが個々人の能力向上に繋がる。 4 横断的な組織のあり方;緊急事態時における意思決定 (Decision making)時の指令者の役割と責任の明確化 が必要である。政府最高レベルを含む国家レベルの指 令系統の明確化が最も重要である。福島第一事故は、 安全文化に対して多大な影響を与えた。事業者と規制 当局は、「規制の独立性のために距離を置くこと」よ りも、福島第一事故から何を学ぶことができるかを見 つめなければならない。リスクマネジメントは、安全 文化の重要な要素であり、事業者と規制の両組織は、 自己組織の利便性を確認するためにリスクマネジメ ントを行うべきである。深層防護、安全機能の冗長性、 複雑性及び同時複数損傷時の誤ったセキュリティ上 の感覚は、全て自己満足に起因する。IAEA が考えて いる安全性向上のためアクションアイテムとしての 勧告は次のとおり。 ? HOF、安全文化、組織文化、システム管理及びITOの 開発又はレビュー ? 事業者組織の管理/ヒューマン・組織要因/エンジニ アリングを確認するための規制組織の総合評価 ? 最新研究に基づく組織的なレジリエンスガイド ? HOF のストレステスト ? 規制当局の安全文化 福島第一事故は、国内外の報告書に記載されているよ うに原子炉施設の保守管理が不十分で起きた訳ではない。 前述のようにPSRを通じたプラント全体の安全性確保の 視点(ハザードに対する安全評価など)、科学的・定量的 な手法で整理できない情報に基づき的確に対応するため のソフト面の整備(確率論的安全性評価)及び率直でオ ープンな「産業界」との関係が醸成されていなかったこと に因るものである。その根拠として、2007年6月、当時 の規制機関であるNISAがIAEAのIRRSミッションチー ムのレビューを受けた際の査察結果報告書(2008 年3月) [4]に同様のことが記載されていることを挙げておく。 2.人材育成の必要性について 2.1 俯瞰的な人材の育成について 「まえがき」において、補修技術活用推進会議でも議論 となった原子力安全において何を為すべきかについて言 及できるように、福島第一事故後の国際整合性の観点か ら俯瞰的な経緯等を述べた。ここで「どのような人材育成 が必要か」について述べたい。人材育成の必要性に関する 背景、経緯及び論点は次のとおり。 1 原子力発電所の新設は皆無に等しいものの、現存する 原子力発電所は、廃炉となった原子力発電所も含めて 全国に60基(運転中42基、廃炉措置中もんじゅを含 めて17 基、建設中1基)あり、継続的な安全性確保、 放射性廃棄物管理等のための設計、運転、廃炉等に関 する保全は不可欠である。その責任は第一義的には事 業者に帰属されるものの、各ステークホールダーの自 律・分散・協調をKeyとする自主的安全性向上活動の ための人材育成が必要である。 2 「福島第一事故は何故起きたのか」について十分に理 - 556 - 解する必要がある。適切な教材は、国際機関、我が国 の政府、学会等から発行されている次の福島第一事故 報告書がある。 ・ 原子力安全に関するIAEA 閣僚会議に対する日本国 政府の報告書(2011 年6 月版、9 月版) ・ 福島は防ぐことができたそれは何故か(カーネギー 財団、2012 年3月) ・ 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証 委員会(畑村委員会)2012年7 月 ・ 東京電力福島第一原子力発電所に関する調査委員会 (日本原子力学会)2013年3 月 ・ 福島第一原子力発電所事故(IAEA)2015 年 ・ Five Years after the Fukushima Daiichi Accident (OECD/NEA)2016年 3 これまでは、「2度と同じ失敗は繰り返さない」という 運転経験に学ぶ(失敗学)という事後対策が主流であ った。しかし、この対応策だけでは、福島第一事故の ような大事故は未然防止できないことが明白となっ た。今後は、システム安全上の弱点を見出だすような プロアクティブな対応策を抽出することが重要であ る。現時点での主たる道程は、前述のPSR 14種類の SF に対応策と包括的総合的評価の実施とリスクマネ ジメントによるシステム設計上の弱点抽出、そして、 それをサポートするトップダウンによる意思決定 (HOF)である。 4 原子力発電所の自主的安全性向上に不可欠な論点の 一つは、国際整合性であり、IAEA 等の各種基準類、 運転情報、研究成果等の反映である。 5 人材育成もPSR と同様の考え方の踏襲が必要である。 即ち、ステークホールダー別、及び技術分野(設計~ 製造~運転~廃炉)毎(例えば、補修技術等)の細部 に亘る造詣の深い人材育成も必要であるが、原子力発 電所のシステム安全を俯瞰できる見識ある人材の育 成も極めて重要である。 東京大学は、これらの論点、視点に立脚した人材育成 提案書(4年計画)を原子力規制庁「原子力人材育成等推 進事業費補助金(原子力規制人材育成事業)」に提案(応 募)し、平成28 年度から採択された。これまでの議論で 強調したいことは、例えば、運転状態、維持段階で必要 な補修技術の重要性をいくら声高に訴えても原子力規制 庁等のステークホールダーの耳には届かない。最終的な 意思決定がなされないということである。 ここで一つの結論を述べたい。原子力発電所のシステ ム安全上において、補修技術の活用を考える場合、その 論点は、当該技術の適用によって、どの程度のリスクが 上下するのかということが重要である。システム安全上 どれ程の影響があるか俯瞰的に考えるべきである。つま り、当初設計の性能を維持すると事業者が宣言した場合、 契約社会においては、法に委ねるべきである。 勿論、事業者は、補修技術を実機に適用する場合の健 全性確保等の妥当性検証が必要である。この作業は、原 子力安全に対して一義的な責任ある事業者が自主的に評 価するか或はその分野の専門家による第三者検証に委ね ればよい。福島第一事故以降、原子力規制を白紙に戻し たにも拘わらず旧態以前として、淡々と個別技術(補修 技術ばかりでなく検査評価)の妥当性を評価し続けるだ けでは問題は解決しないし、福島第一事故の反省がなく、 2回に亘るIRRSの指摘を謙虚に受け止めていないことと なる。規制はこのような活動に対してもROPに徹すると 宣言するべきである。この論点は、新たな安全文化の醸 成、人材育成に繋がる。 2.2 補修技術活用推進検討会での議論 今年(平成29 年)3月、日本保全学会が発行した『原 子力発電所の保全における補修等是正措置技術活用のた めの課題と改善提案』の第7項「原子力発電所の保全に 関する課題と改善提案」、及び添付資料2-3「国の技術基 準の性能規定化と民間規格(補修章)の活用」の中で人 材育成の重要性について、次のように記載している。 ・ 電気事業者は自主的安全性向上活動の一環として、社 内の仕組み作り、社内組織の構築、人材育成、等を具 体化することが望まれる。 ・ 現在、規制当局では、米国へ技術者を1年間派遣し、 米国NRCの規制の考え方や実務をじっくり学び、その 成果を国内の具体的な規制行政(検査制度の見直し) へ反映しようとしている。電気事業者も従来のような 短期調査ではなく、米国電気事業者等の産業界の考え 方や実務をじっくり学ぶ機会を持つ必要があるのでは ないか。また、他産業や学協会活動等から人材育成を 兼ねて、じっくり保全を学ぶべきではないか。 ・ 我が国には、廃炉が決定となったプラントも含めて60 基近い原子力発電所が実存しており、これらのプラン トの安全性維持の観点からの人材育成、技術伝承は極 めて重要な課題である。しかしながら、原子力発電所 の建設(創成期)に携わった設計、建設、製造、検査、 評価、補修等の技術者が定年又は高齢化が進む状況下、 人材育成のOJTの場として最適な国内原子力発電所の - 557 - 建設が皆無に近い。このような状況に鑑み、事業者、 原子炉製造メーカ、研究機関、大学等ばかりでなく、 NRA の人材育成、技術伝承の観点からも、若い技術者 とシニア等が一緒になって議論できる維持規格等の技 術評価等の検討会等は、適切な人材育成・技術伝承の 場といえる。 しかしながら、本報告書の添付資料2-3 に詳述している ように、2004年版のJSME維持規格に初めて補修章が組 み入れられて以来、十数年経過した今日に至るまで、1 度も評価対象となっていない。 3.国際標準プロアクティブエキスパート育成 3.1 事業概要と平成28年度事業成果 本事業の目的と位置づけに関する規制庁からの説明は 概ね次のとおりであった。 「できるだけ、多くの人材育成事業を展開することにより、 原子力規制について、量的、質的に、ご理解頂ける母集 団を増やすことが主目的である。学生が第一のターゲッ トであるが、社会人、調査研究部門、公共輸送等の様々 な分野の方々にも是非参加して頂きたい。本事業の遂行 により、原子力規制の重要性を痛感し、やる気のある人 材が少しでも増えればよい。規制ばかりでなく、安全確 保のための活動、安全研究が行なえる人材を育成したい。 理学、工学、システムエンジニアリング等幅広い人材育 成が本意であり、原子力規制にご理解頂ける方々を増や したい。具体的には、原子力安全について、きちんと社 会人、国民に説明できる人材(防災、量子物理学、建物 の強度など幅広い領域)の確保、即ち、原子力特有の深 さ×幅(学問)の大きな広がりのある領域において、ど のような人材育成の提案を行って頂けるか大いに期待し たい。」 これに対して、東京大学からの提案は、前述の論点を ベースに「福島第一事故の充実した知識や教訓を基に、自 らの専門分野にとらわれずに総合的視野で物事が判断で きる人材の育成、利害相反のある相手と相違点を踏まえ ながら議論ができ、かつ、相手の立場を認めながら自ら の視座で判断でき、国際標準における最新知見を我が国 の原子力規制にプロアクティブに反映するためのリーダ シップを取ることができる国際標準プロアクティブエキ スパートの育成」を行うとした。 本事業は、東京大学大学院工学系研究科(原子力専攻 専門職大学院を含む)における教育実績、工学教程シリ ーズなどの教育基盤構築をベースとして、次の内容を、 基礎、応用、展開の3 ステップで推進する。 Fig.1事業のステップ概要 <基礎> 1 福島第一事故の実験演習及び報告書分析演習 福島第一事故に関する基礎的な知識を、実験や演習を 活用して理解する。 1) 超高温材料挙動実験を行うための予備実験、及び、シ ミュレーション演習(RELAP/ SCDAPSIM 等)として シビアアクシデント時の炉心挙動を解析するシミュ レータを導入・整備して予備解析を実施するとともに、 これらを用いた演習を行う。(Fig.2及びFig.3参照) 2) マネジメントシステムの観点からIAEA等の福島第一 事故報告書を学生等に分析させる演習を行う。 (Fig.4 参照) 2 原子力プラントの現場視察と対話 福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所等の国 内発電所の視察を行い、東日本大震災の経験やその後の 教訓を学ぶ。また、欧米などの海外の原子力発電所の現 場を視察し、国際的な視野を涵養し、海外の発電所の現 場で進められている安全確保対策について対話を通じて 経験を積ませる。(Fig.5~11 参照) 3 外部からの講師招聘による講義と対話 福島第一事故後の国際的な動向等について招聘講師に よる講義を実施し、講義後には学生との対話を中心とす る討論会を実施する。具体的には、原子力マネジメント に関する国内外の専門家を、国内の大学等から、また、 外国からはIAEA、OECD/NEA、米国NRC 等の国際機関 等から招聘し、本事業の課題に関する分野の講義と討論 会を行う。(Fig.12 参照) - 558 - <応用> 4 各種のIAEA 基準を対象とした Project Based Learning(PBL)(Fig.13参照) PBLにより、規格基準等の制定プロセスや根底にある 考え方を理解させることで、具体的な規格等の意義を深 く考察する。平成28年度は、特に、IAEA の国際標準等 の制定プロセス、経緯、具体的な内容等を受講生に調査 させることで、国際的な合意形成プロセスを学ぶ。 <展開> 5 インターンシップ IAEAなどの国際機関等で安全規制に関係する実務あ るいは福島第一原子力発電所事故に関連する課題解決型 研究などをインターンシップとして経験させるための短 期インターンシップを実施する。(Fig.14 参照) Fig.2 福島第一事故の解析と実験による可視化(実験) Fig.3 福島事故の解析と実験による可視化(解析) - 559 - Fig.4 福島第一事故の基礎的知識獲得のための分析演習 Fig.5 日本製鋼所(JSW)視察 Fig.6 北海道電力 泊発電所視察 Fig.7 東京電力 福島第一原子力発電所視察 Fig.8 東京電力 福島第二原子力発電所視察 Fig.9 デービスベッセ原子力発電所視察 - 560 - Fig.10 NRC Region III Office 視察 Fig.11 フィンランド オルキオト原子力発電所現場視察 Fig.12 海外からの専門家講師招聘 Fig.13 Project Based Learning(PBL) Fig.14 国際インターンシップ 4.あとがき 福島第一事故発生以降、規制行政全てが白紙に戻され た。その是非はともかく、原子力安全に係る全ての行為 の妥当性が今一度問われていると考えることができる。 我が国には、国内外で認められ、かつ実機に適用され てきた数多くのピーニング技術、レーザ表面改質技術等 の予防保全技術、テンパービード溶接等の補修技術、炉 心シュラウド等の取替技術がある。しかしながら、維持 規格の補修章が発行されて以来十数年が経過しているに もかかわらず、未だ一度も規制当局による技術評価が行 われていない。補修技術活用という課題について、原子 力発電所のシステム安全の観点から考えてみると、その 当該技術が実機に適用された場合、どの程度システム安 全上のリスク(例えば炉心損傷確率)が上下するのかと いう点に論点を絞るべきである。現在の性能規定化され た規制基準の下では、当該補修技術等を適用しても当初 設計の性能レベルを維持できるのであれば、適用を許容 してよい筈である。事業者の行為を監視する新しい規制 (ROP 型)制度に変わろうとしている現在、規制当局が 今回のシリーズ発表は、保全(特に補修技術活用)の 重要性について論じられているが、逆転の発想、即ち、 原子力発電所のシステム安全上の視点から、このような 課題解決が行なえる人材育成、安全文化の醸成という観 点を主眼において当大学が原子力規制庁から受託した 「国際標準プロアクティブエキスパート育成」の取組み を紹介することにより、補修技術の適用性という課題解 決への道を探ってみた。 原子力規制庁は、約3年後のIAEA のIRRSミッション からの勧告等のフォローアップミッションを受けるが、 是非、本事業の狙い目である国際標準プロアクティブエ キスパート育成が紹介され、維持規格補修章に対する技 術評価についても、何らかのフォローアップアクション が包含されていることを期待したい。 参考文献 [1] 「原子力安全の基本的考え方について(第I編 別冊 深層防護の考え方)」, 2014 年5月, 日本原子力学会, 標準委員会 技術レポートAESJ-SC-TR005 (ANX):2013 [2]「福島は防ぐことができたそれは何故か」、CARNEGIE 報告書、 原子力政策、James M. Acton、 Mark Hibbs、 2012年12月 [3]「総合規制評価サービス(IRRS)において明らかにな った課題への対応について」(原子力規制庁) https://www.nsr.go.jp/data/000144711.pdf、2016年3月、 pp.5 [4] IRRS 指摘事項のポイントと取組状況 http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles /g90507a12j.pdf - 561 - 個別技術の妥当性を微に入り細に入り議論するのではな く、その技術を適用した場合システム安全上の影響度を きちんと評価しているかを監視する制度に移管するもの とみている。つまり、第一義的な責任を有する事業者が その補修技術を適用する際に、当初設計の性能を維持で きると宣言した場合には、規制当局は許諾してよい筈で ある。当然、事業者は適用する補修技術の実機への適用 性、妥当性等を検証する必要があるが、それは事業者が 自主的に評価するか或はその分野の専門家による第三者 検証に委ねればよい。“ “国際標準プロアクティブエキスパート育成“ “菅野 眞紀,Masanori KANNO,関村 直人,Naoto SEKIMURA,岡本 孝司,Koji OKAMOTO,糸井 達哉,Tatsuya ITOI,エルカン ネジェット,Nejdet ERKAN,蛇川 季嗣,Suetsugu JAGAWA
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