建屋新設工事貫通部形成材の検討三菱重工業(株) 伊勢田 昇 Noboru ISEDA Non-Member
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
原子力発電所建設工事に於いて、各部屋間に跨る配管並びに電線管等の敷設に必要な貫通口を設ける場合は、鋼製スリーブ管を設定することが一般的である。 しかしながら、鋼製スリーブ管は材料費が高く、また大口径の場合は重量物となり人力での持ち運びができないため、揚重設備が必要となり、現地作業量が増えるといった課題がある。 ここでは、上記課題に対し、材料費削減、現地作業量の低減といった観点で鋼製スリーブ管の代替製品の検討結果を紹介する。
2.代替製品への要求事項
2.1 対象口径
今回の検討では、貫通孔として設けられるもののうち、過去の建設工事で実績のあるφ75mm~φ1000mmの丸型スリーブを対象とする。
2.2 施工時の要求
施工時の要求事項として、以下が挙げられる。
(1)構造 コンクリート打設後に容易に剥離が可能な構造であること。又、鋼製スリーブ管より軽量であること。(2)強度 コンクリート打設時の衝撃荷重、浮力、コンクリート自重に対する強度を有すること。 (3)保管性 屋外での長期保管を考慮し、耐水性に優れていること。(4)コスト 鋼製スリーブ管より安価であること。
3.代替製品の選定
市場調査及び既存製品の改良検討の結果、2項の要求事項を満足する材質として、以下の2案を選定した。机上検討では、実工事にて想定される最も厳しい条件(コンクリ―ト打設高さ:4m、壁厚:1500mm)にて強度計算を実施。コンクリート打設時の衝撃荷重は約250N、コンクリート自重による外圧は約0.1MPaとなる。 以下の2案については上記に対し、十分な強度を有することを確認した。
(1)人通孔 一般産業では人通孔用の型枠として幅広く適用されている。丸めた亜鉛鋼鈑を内側から補強リングで支持する構造となっており、コンクリート打設後は補強リングを取外すことで亜鉛鋼鈑の剥離が可能となる。 図1 KS人通孔 重量は鋼管の30%程度でハンドリング性に優れ、転用は不可であるが、1本あたりのコストは鋼管の30%で材料費の削減が期待できる。適用口径は構造上製作が可能なφ400mm 以上とする。 (2)塩ビ製転用型枠 規格品の塩ビ管に、 コンクリート打設後の剥離が可能な構造に改良したもの。塩ビ管の長手方向を切欠き、フラットバーを挟み込む。コンクリート打設後は フラットバーを取外す 図2 塩ビ製転用型枠 ことで塩ビ管の収縮する力を利用し、コンクリートから剥離が可能となる。 重量は鋼管の30%程度でハンドリング性に優れ、1本あたりのコストは鋼管の80%で、転用も可能なことから材料費の削減が期待できる。適用口径は人通孔で対応不可なφ350mm以下とする。
4.検証試験
人通孔及び塩ビ製転用型枠に関して、机上検討にて強度上問題ないことを確認したが、施工性(位置決め性、剥離性)や再現性・繰り返し使用など、実工事にて想定される条件で実際にコンクリートを打設し、検証試験を実施した。その結果を以下に述べる。
4.1 試験条件 (1)コンクリート打設高さ 通常、コンクリートの分離を防止する為、コンクリート打設高さはホース先端から2mとすることが一般的である。但し、狭隘な場所等、施工条件によっては4m程度になる場合もあるため、今回の検証試験では供試体中心から4mとした。
(2)壁厚 原子力発電所建設工事で貫通孔が設定される最大壁厚、1500mmを想定し、試験条件とした。
4.2 供試体及び確認項目 検証試験の供試体は表1のとおりとした。 表1 検証試験供試体本数 供試体 口径(mm) 本数 塩ビ製転用型枠 φ100 3 塩ビ製転用型枠 φ350 3 人通孔 φ400 3 人通孔 φ600 1 供試体本数の選定理由は以下のとおり。
(1)塩ビ製転用型枠 強度は口径が小さい程劣ることから、最小口径のφ100mm で強度確認を実施する。 コンクリート打設後の剥離性は、口径が大きい程塩ビ管の収縮力が小さく、大口径の方が小口径よりも劣ることから適用最大口径のφ350mm で剥離性の確認 を実施する。 尚、これまで適用実績がないことから、試験結果の信頼性向上のため、供試体数は3本とする。
(2)人通孔 一般作業で適用実績があるのはφ600mm以上のみであり、φ550mm以下は今回の研究の中で新規に検討したものである。 強度、剥離性共に口径が小さい程劣ることから、適用最小口径のφ400mmにて確認を実施し、φ600mmとの比較を実施する。
4.3 試験体
下図に試験体の概要を示す。 図3-1 検証試験体概要 図3-2 検証試験体概要
4.4 確認項目
各確認項目に関して、判定基準は下記のとおり。
(1)強度 コンクリート打設前後で端面の外径を計測し、 著しい変形・たわみがないこと。 <計測方法> 供試体両端の“a-c(e-g)間”及び“b-d(f-h)間” を計測し、コンクリート打設前後で著しい差の ないことを確認する。 図4 変形・たわみ計測方法
(2)施工性 供試体設定作業及び剥離作業に要する時間を計測し、鋼製スリーブ管との比較を実施する。 又、供試体剥離後のコンクリート表面の状態についても目視にて割れ等の有害な欠陥がないことを確認する。
4.5 試験結果及び考察
(1)強度 コンクリート打設前後の計測結果を表2に示す。全ての供試体で計測結果に著しい差はなく、強度上問題ないことが確認できた。 計測位置
(2)施工性 供試体設定作業及び剥離作業に要した時間を表3 に示す。 全ての供試体で人力での作業が可能且つ短時間での設定・剥離が可能であり、施工性は鋼製スリーブ管よりも優れていることが確認できた。 又、供試体剥離後のコンクリート表面の状態についても割れ等の有害な欠陥はなく、問題ないことが確認できた。
表3 寸法計測結果 供試体 口径(mm) 設定 剥離 塩ビ製 転用型枠 φ100 1人・30 分 2人・5 分 図5 剥離後のコンクリート表面(塩ビ製転用型枠 φ350mm) 表2 寸法計測結果 供試体 口径(mm) 変形量(mm) たわみ(mm) 塩ビ製 転用型枠 φ100 1 0 塩ビ製 転用型枠 φ350 2 0 人通孔 φ400 2 0 人通孔 φ600 3 0 (各口径の供試体で最大変形量・たわみ量のみ記載。) 塩ビ製 転用型枠 φ350 2人・0分 2人・5 分 人通孔 φ400 2人・30 分 2人・5 分 人通孔 φ600 2人・30 分 2人・5 分 (各口径の供試体で最も時間を要した時間を記載。) 図6 剥離後のコンクリート表面(人通孔 φ350mm)
5.結言
本検討では、塩ビ製転用型枠、人通孔共に鋼製スリーブ管から材料費削減が可能であることが確認できた。又、搬入/運搬/設定に掛かる重機等の設備が不要となることから、現地作業量の低減にも期待できる。 今後、実工事の適用に向け、水密/気密等のシール要求の観点から適用可能範囲等の検討を実施する予定である。“ “建屋新設工事貫通部形成材の検討三菱重工業(株) 伊勢田 昇 Noboru ISEDA Non-Member“ “那須 裕樹,Hiroki NASU,衞藤 昌宏,Masahiro ETO
原子力発電所建設工事に於いて、各部屋間に跨る配管並びに電線管等の敷設に必要な貫通口を設ける場合は、鋼製スリーブ管を設定することが一般的である。 しかしながら、鋼製スリーブ管は材料費が高く、また大口径の場合は重量物となり人力での持ち運びができないため、揚重設備が必要となり、現地作業量が増えるといった課題がある。 ここでは、上記課題に対し、材料費削減、現地作業量の低減といった観点で鋼製スリーブ管の代替製品の検討結果を紹介する。
2.代替製品への要求事項
2.1 対象口径
今回の検討では、貫通孔として設けられるもののうち、過去の建設工事で実績のあるφ75mm~φ1000mmの丸型スリーブを対象とする。
2.2 施工時の要求
施工時の要求事項として、以下が挙げられる。
(1)構造 コンクリート打設後に容易に剥離が可能な構造であること。又、鋼製スリーブ管より軽量であること。(2)強度 コンクリート打設時の衝撃荷重、浮力、コンクリート自重に対する強度を有すること。 (3)保管性 屋外での長期保管を考慮し、耐水性に優れていること。(4)コスト 鋼製スリーブ管より安価であること。
3.代替製品の選定
市場調査及び既存製品の改良検討の結果、2項の要求事項を満足する材質として、以下の2案を選定した。机上検討では、実工事にて想定される最も厳しい条件(コンクリ―ト打設高さ:4m、壁厚:1500mm)にて強度計算を実施。コンクリート打設時の衝撃荷重は約250N、コンクリート自重による外圧は約0.1MPaとなる。 以下の2案については上記に対し、十分な強度を有することを確認した。
(1)人通孔 一般産業では人通孔用の型枠として幅広く適用されている。丸めた亜鉛鋼鈑を内側から補強リングで支持する構造となっており、コンクリート打設後は補強リングを取外すことで亜鉛鋼鈑の剥離が可能となる。 図1 KS人通孔 重量は鋼管の30%程度でハンドリング性に優れ、転用は不可であるが、1本あたりのコストは鋼管の30%で材料費の削減が期待できる。適用口径は構造上製作が可能なφ400mm 以上とする。 (2)塩ビ製転用型枠 規格品の塩ビ管に、 コンクリート打設後の剥離が可能な構造に改良したもの。塩ビ管の長手方向を切欠き、フラットバーを挟み込む。コンクリート打設後は フラットバーを取外す 図2 塩ビ製転用型枠 ことで塩ビ管の収縮する力を利用し、コンクリートから剥離が可能となる。 重量は鋼管の30%程度でハンドリング性に優れ、1本あたりのコストは鋼管の80%で、転用も可能なことから材料費の削減が期待できる。適用口径は人通孔で対応不可なφ350mm以下とする。
4.検証試験
人通孔及び塩ビ製転用型枠に関して、机上検討にて強度上問題ないことを確認したが、施工性(位置決め性、剥離性)や再現性・繰り返し使用など、実工事にて想定される条件で実際にコンクリートを打設し、検証試験を実施した。その結果を以下に述べる。
4.1 試験条件 (1)コンクリート打設高さ 通常、コンクリートの分離を防止する為、コンクリート打設高さはホース先端から2mとすることが一般的である。但し、狭隘な場所等、施工条件によっては4m程度になる場合もあるため、今回の検証試験では供試体中心から4mとした。
(2)壁厚 原子力発電所建設工事で貫通孔が設定される最大壁厚、1500mmを想定し、試験条件とした。
4.2 供試体及び確認項目 検証試験の供試体は表1のとおりとした。 表1 検証試験供試体本数 供試体 口径(mm) 本数 塩ビ製転用型枠 φ100 3 塩ビ製転用型枠 φ350 3 人通孔 φ400 3 人通孔 φ600 1 供試体本数の選定理由は以下のとおり。
(1)塩ビ製転用型枠 強度は口径が小さい程劣ることから、最小口径のφ100mm で強度確認を実施する。 コンクリート打設後の剥離性は、口径が大きい程塩ビ管の収縮力が小さく、大口径の方が小口径よりも劣ることから適用最大口径のφ350mm で剥離性の確認 を実施する。 尚、これまで適用実績がないことから、試験結果の信頼性向上のため、供試体数は3本とする。
(2)人通孔 一般作業で適用実績があるのはφ600mm以上のみであり、φ550mm以下は今回の研究の中で新規に検討したものである。 強度、剥離性共に口径が小さい程劣ることから、適用最小口径のφ400mmにて確認を実施し、φ600mmとの比較を実施する。
4.3 試験体
下図に試験体の概要を示す。 図3-1 検証試験体概要 図3-2 検証試験体概要
4.4 確認項目
各確認項目に関して、判定基準は下記のとおり。
(1)強度 コンクリート打設前後で端面の外径を計測し、 著しい変形・たわみがないこと。 <計測方法> 供試体両端の“a-c(e-g)間”及び“b-d(f-h)間” を計測し、コンクリート打設前後で著しい差の ないことを確認する。 図4 変形・たわみ計測方法
(2)施工性 供試体設定作業及び剥離作業に要する時間を計測し、鋼製スリーブ管との比較を実施する。 又、供試体剥離後のコンクリート表面の状態についても目視にて割れ等の有害な欠陥がないことを確認する。
4.5 試験結果及び考察
(1)強度 コンクリート打設前後の計測結果を表2に示す。全ての供試体で計測結果に著しい差はなく、強度上問題ないことが確認できた。 計測位置
(2)施工性 供試体設定作業及び剥離作業に要した時間を表3 に示す。 全ての供試体で人力での作業が可能且つ短時間での設定・剥離が可能であり、施工性は鋼製スリーブ管よりも優れていることが確認できた。 又、供試体剥離後のコンクリート表面の状態についても割れ等の有害な欠陥はなく、問題ないことが確認できた。
表3 寸法計測結果 供試体 口径(mm) 設定 剥離 塩ビ製 転用型枠 φ100 1人・30 分 2人・5 分 図5 剥離後のコンクリート表面(塩ビ製転用型枠 φ350mm) 表2 寸法計測結果 供試体 口径(mm) 変形量(mm) たわみ(mm) 塩ビ製 転用型枠 φ100 1 0 塩ビ製 転用型枠 φ350 2 0 人通孔 φ400 2 0 人通孔 φ600 3 0 (各口径の供試体で最大変形量・たわみ量のみ記載。) 塩ビ製 転用型枠 φ350 2人・0分 2人・5 分 人通孔 φ400 2人・30 分 2人・5 分 人通孔 φ600 2人・30 分 2人・5 分 (各口径の供試体で最も時間を要した時間を記載。) 図6 剥離後のコンクリート表面(人通孔 φ350mm)
5.結言
本検討では、塩ビ製転用型枠、人通孔共に鋼製スリーブ管から材料費削減が可能であることが確認できた。又、搬入/運搬/設定に掛かる重機等の設備が不要となることから、現地作業量の低減にも期待できる。 今後、実工事の適用に向け、水密/気密等のシール要求の観点から適用可能範囲等の検討を実施する予定である。“ “建屋新設工事貫通部形成材の検討三菱重工業(株) 伊勢田 昇 Noboru ISEDA Non-Member“ “那須 裕樹,Hiroki NASU,衞藤 昌宏,Masahiro ETO