地震観測記録を用いた原子力発電所の耐震設計に関する考察
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
近年、地震観測データが多く得られており1000ガルを超える大加速度が観測されている。これらの最大加速度は、震源や地盤条件等に大きく影響されるため原子力発電所の耐震設計に用いられる基準地震動とは一律に比較できないものの議論の契機になっている。 一方で、地震による構造物の被害には、最大加速度のみならず地震動の周期特性、継続時間などが大きく影響し、最大加速度と被害の相関性は必ずしも高くない。 これらの状況を背景に、ここでは設備への影響という観点から最大加速度以外の指標を用いて地震動の比較を行うとともに、浜岡原子力発電所で適用されている基準地震動の保守性について考察した。
2.最大加速度以外の指標による地震動比較
2.1 地震指標
地震動の強さは、最大加速度値により一般的によく示される。一方、地震時の体感や施設への影響という観点からは気象庁の計測震度が国内で広く使われている。地震時の施設への影響を図る指標として、計測震度以外にハウスナーが提唱したSI値,米国原子力発電所での地震指標として提唱されたCAV 等がある。ここでは、国内で観測された各種地震動に対し、これらの地震指標による値を算出し最大加速度値と比較した。 [計測震度] 計測震度は、地震動の強さを示す指標として地震計から自動的に計算できる手法として気象庁が平成8年以降導入したものである[1]。計測震度は、加速度の高周波成分と低周波成分をカットして建物への周期の影響を考慮するとともに、継続時間の極端に短いパルス状の波の影響を除いた加速度値が用いられている。なお、計測震度は地震時の建物全壊率との相関が比較的良いこと等が気象庁により確認されている[2]。 計測震度は、この加速度値を常用対数等により震度7程度までの値に換算しているため、指標としてみやすくする観点から、ここでは加速値度自体(ここでは有効加速度と称する。)も指標として用いた。 I = 2 log a + 0.94 I:計測震度 a:フィルター特性等に基づく最大加速度(有効加速度)
[SI値] SI値は米国のハウスナーにより提唱された指標で、地 震により一般的な建物にどの程度被害が生じるかを数値化したものである。構造物の振動エネルギーに関連する物理量として、構造物の地震時の揺れ速度の最大値を、 固有周期0.1秒から2.5秒で減衰定数が20%の構造物に対 して平均化した値をSI値(Spectral Intensity)と定義して おり、揺れ速度の平均値を表している。 国内では、都市ガスの地震時の供給停止基準や新幹線 の地震後運転規制の判断指標として既に使われている。 [CAV]( Cumulative Absolute Velocity) CAV は、米国EPRIが原子力発電所での地震発生時に 運転継続可否の判断基準として提唱した指標であり、地 震加速度の絶対値の時間積分により、地震動が被害をも たらすポテンシャルを有しているか否かを評価する手法 である。CAVは地震加速度の絶対値の時間積分値であり、 加速度時刻歴波形の面積を表している。計算にあたって は、損傷に影響を与えない低い加速度の影響を考慮し、 波形を1秒毎に分割し0.025gを超える加速度が存在する 場合のみCAVとして積分している[3]。 CAV は、継続時間の長い波に対しては大きくなるとと もに、振動数の低い波に対して大きく、振動数の高い波 に対しては小さくなる傾向にある。 2.2 比較した地震動 (1)KiK-net観測データ 国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した KiK-netの観測施設は全国約700 箇所に配置され、地表と 地中の強震記録が得られている[4]。この観測データから 表1に示す大加速度(地表で1000ガル以上)の地中デー タを抽出し、各指標による比較を行った。原子力発電所 は岩盤上に建設され地表面の揺れの影響が抑えられてい るため、比較するデータは地中データを用いた。 (2)原子力発電所での観測データ 近年の原子力発電所近傍で発生した大規模な地震にお いて原子力発電所内の地中(各発電所の解放基盤に近い 地中)で観測されたデータを活用した。観測データを表2 Sv:速度応答スペクトル(cm/s) T:固有周期(s) h:減衰定数(=20%) に示す。 (3)浜岡原子力発電所基準地震動 浜岡原子力発電所において新規制基準を踏まえて策定 した基準地震動Ss1(1200ガル(応答スペクトル手法に 基づく))を比較対象として用いた。基準地震動Ss1 は水 平,鉛直の各1方向で定義されるため、3成分の合成値と して算出される計測震度については、水平と鉛直方向の2 成分の合成値とした。 2.3 最大加速度と各指標の比較 前項に示す各地震動について最大加速度と各指標値の 比較を行った。計測震度及び有効加速度のグラフを図1 及び図2に示す。SI 値のグラフを図3~5に、CAV のグ ラフを図6~8に示す。 前項に示す各地震動について最大加速度と各指標値の 比較を行った。計測震度及び有効加速度のグラフを図1 及び図2に示す。SI 値のグラフを図3~5に、CAV のグ ラフを図6~8に示す。 表1 KiK-net観測データ (地表1000ガル以上:2017年4月1 日時点) 発生日 地震名 地名 規模 デ ー タ数 2000/10/6 鳥取県西部 日野 Mw6.6 1 2003/5/26 宮城県沖 住田他 Mw7.0 2 2008/6/14 岩手・宮城内陸 一関西 他 Mw6.9 4 Mw6.9 4 2008/7/24 岩手県沿岸北部 玉山 M6.8 1 2011/3/11 東北地方太平洋 沖 芳賀 Mw9.0 5 芳賀 Mw9.0 5 他 他 2011/3/19 茨城県北部 高萩 Mw5.8 1 2016/4/14,16 熊本 益城 Mw7.0 2 表2 原子力発電所観測データ 発生日 地震名 原子力発電所名 2007/7/16 新潟県中越沖 柏崎刈羽 2009/8/11 駿河湾 浜岡 2011/3/11 東北地方太平洋沖 女川 2011/3/11 同上 福島第一 2011/3/11 同上 東海第二 a(t) :加速度時刻歴 2011/4/7 宮城県沖 陸前高 Mw7.1 1 tmax :地震継続時間 2011/7/5 和歌山県北部 広川 Mw5.0 1 2013/2/25 栃木県北部 栗山西 Mw5.8 1 - 58 - 図1 最大加速度(合成値)と計測震度の関係? 図3 最大加速度(NS成分)とSI値の関係? 図5 最大加速度(UD成分)とSI値の関係? 図2 最大加速度(合成値)と有効加速度の関係? 図7 最大加速度(EW成分)とCAVの関係? 図8 最大加速度(UD成分)とCAVの関係? - 59 - 図6 最大加速度(NS成分)とCAVの関係? 図4 最大加速度(EW成分)とSI値の関係? 2.4 比較結果 KiK-netの観測データ(地中波)及び原子力発電所観測 波を用いて、最大加速度値と各指標の比較を行った。 計測震度及びSI値は、バラツキはあるものの最大加速 度値が大きくなるに従い徐々に大きくなり、相関のある ことが確認された。ただし増加傾向は顕著なものではな く基準地震動より小さいレベルであった。 CAV は、最大加速度値が大きくなっても特段の増加傾 向は確認できず、基準地震動に比べ非常に小さいレベル にあった。東北地方太平洋沖地震のデータが比較的上位 にあり継続時間の影響が大きいと考えられる。 観測データの各指標値は、最大加速度値が非常に大き な値であっても顕著に大きな値になるわけではなく、周 期特性や継続時間などの特性に影響されることを確認し た。なお、基準地震動は周期特性や継続時間においても 厳しい設定になっていることを確認した。 3.原子力発電所における地震影響調査 3.1 調査プラント及び影響状況 2.1 地震指標 原子力発電所では、発電所のスクラム設定値を超える 大規模な地震を経験したプラントにおいて公開情報(HP 等)に基づき被害状況が調査されている[5]。 調査は、6つの大きな地震に対して計20プラントを対 象として実施されている。 表3 原子力発電所観測データ[5] 発生日 地震 影響プラント 水平加速度 (gal:マット) 2003/5/26 宮城県沖 の地震 図9 最大加速度(合成値)と計測震度の関係 図10 最大加速度(NS成分)とSI値の関係 女川1~3号 218 2005/8/16 宮城県沖 女川1~3号 263 の地震 2007/3/25 能登半島 志賀1,2号 264 地震 図11 最大加速度(NS成分)とCAV値の関係 2007/7/16 新潟県 中越沖 - 60 - 柏崎刈羽1~7号 680 3.2 調査結果 調査報告[5]では、以下の状況が報告されている。 2009/8/11 駿河湾 浜岡1~5号 439 原子炉建屋内の機器・配管には機能低下、喪失レベル 2011/3/11 東北地方 は見られず、機能低下,喪失レベルの事例は、大半が非 太平洋沖 岩着の基礎・建物に設置された機器・配管系で生じてお り、岩着した建物の損傷事例は、タービン建屋内でのタ ービン等の支持部や小口径配管の損傷等の一部の事例で あった。また、岩着された建屋内の機器・配管系は一般 に想定される状況よりも高い耐震性を有していると考え 女川1~3号 東海第二 福島第一1~6号 福島第二1~4号 607225550277られることが報告されている。 表3に示されるマット上で最大加速度を記録したプラ ントの各指標の計算結果を図9~11に示す。指標による 整理の結果、屋外の低耐震クラスの機能損傷事例が多く 報告されている柏崎刈羽原子力発電所において、計測震 度、SI値が大きな値になっており、指標との相関がみら れることを確認した。 4.地震動の設備への影響検討例 4.1 4脚タンクによる試解析 地震動の継続時間や繰り返しによる機器への影響をみ るために、大荷重により比較的変位の発生しやすい4脚 タンクを仮定し、以下の地震動を用いた試解析を行った。 a)浜岡原子力発電所 基準地震動Ss1-D 1200ガル b) KiK-net地中波の中で最大加速度データを正規化 (一関西の地中波1036ガル(NS 成分)を1200ガルに 正規化) 4脚タンクの解析は、図12に示す3次元FEMモデル を用い、解析コードはABAQUSを使用した。タンクの一 次固有周期は6Hz であり、材料の降伏応力は231MPa、2 次剛性比は1/1000を使用した。浜岡の基準地震動及び一 関西の地中波を正規化した地震動の時刻歴波形を図13及 び14に示す。 図12 タンクモデル図及び諸元 図13 浜岡基準地震Ss1-D(1200ガル) 図14 一関西観測波(地中波:NS成分)1200ガル正規化 1次固有周期 6Hz 高さ 6.8m 直径 4m 厚さ 18mm 図15 タンク解析結果(脚部取り付け部変位:mm) 図16 タンク荷重-変位曲線(浜岡基準地震動3倍入力) 図17 タンク荷重-変位曲線(一関西波正規化3倍入力) - 61 - 表4 入力条件 入力波 入力レベル 最大加速度値(ガル) 浜岡基 準地震 動 基準地震動1倍 1200 基準地震動1倍 1200 基準地震動3倍 3600 基準地震動3倍 3600 基準地震動1倍×2回 1200×2回 基準地震動1倍×2回 1200×2回 観測デ ータ 一関西正規化1倍 1200 一関西正規化1倍 1200 一関西正規化3倍 3600 一関西正規化3倍 3600 一関西正規化1倍×2回 1200×2回 4.2 4脚タンクの解析結果 4脚タンクへの各地震動の入力は、表4に示す条件で行 った。また、本4脚タンクは事前解析により、基準地震 動の半分以下の入力で最弱部が弾性限界に達し、基準地 震動の3倍程度の入力で2倍勾配法による限界耐力に達 することを確認した。 各入力条件における4脚タンク脚部に生じる最大変位 を図15に示す。1倍波入力では浜岡基準地震動は一関西 波の2倍の変位であり、3倍波入力では浜岡基準地震動が 限界耐力に近づくのに対し、一関西波はその1/3以下であ った。時刻歴波形を図13及び14に、タンクの荷重変位 曲線を図16及び17示す。一関西波がピーク的波である のに対し、浜岡基準地震動は継続時間が長く繰り返し載 荷が多いことから、3倍波では浜岡基準地震動の変位が図 16に示すように非常に大きくなっていると推察される。 また、繰り返しの(2回)入力では、両者とも変位の増 加はほとんどなかった。浜岡基準地震動と一関西波の2 回入力時のタンクの荷重変位曲線を図18及び19に示す。 本4脚タンクは、弾性限界を超えるような荷重で繰り返 し入力を受けても、限界耐力まで余裕があるため直ちに 崩壊に至るのではなく弾性的な挙動を示すことを確認し た。 4脚タンクを用いた地震動の影響検討の結果、浜岡の 基準地震動は一関西の正規化した波に比べ大きな影響を 有する地震動であることを確認した。 5.まとめ 謝辞 本報告で用いた各地の観測記録は防災科学技術研究所 KiK-netによるものであり、各発電所の観測データは日本 地震工学会での強震データによるものです。ここに謝意 を申し上げます。 参考文献 [1] 気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/c alc_sindo.htm [2] 国土交通省気象庁,総務省消防庁“震度に関する検討 会報告書”, 平成21年3月、pp.1-28. [3] Lee Jong-Rim, Lee Sang-Hoon, An Experimental Study on Seismic Damage Indicator Considering CAV Concept, Transactions of SMiRT 16, (2001) [4] 防災科研HP http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/docs/kyoshin.sht ml [5] 森田,稲田,大鳥ほか,原子力発電所の被災事例に基 づく低耐震クラス機器の耐震信頼性に関する研究, JSME D&D2013 観測記録を用いた最大加速度と各指標との比較では、 最大加速度値が非常に大きな値であっても各指標が顕著 に大きな値になるわけではなく、周期特性や継続時間な どの特性に影響されることを確認した。なお、基準地震 動は周期特性や継続時間においても厳しい設定になって 図18 タンク荷重-変位曲線(浜岡基準地震動2回入力) いることを確認した。 原子力発電所の被害例調査では、屋外の低耐震クラス の機能損傷事例が多く報告されている柏崎刈羽原子力発 電所において、計測震度、SI 値が大きな値になっており、 指標との相関がみられることを確認した。 基準地震動と観測波(地中波)の中で最大加速度を記 録した一関西波を用いて4脚タンクについて試解析を行 った結果、基準地震動は一関西波に比べ影響の大きな波 図19 タンク荷重-変位曲線(一関西波正規化2回入力) であることを確認した。 - 62 -“ “地震観測記録を用いた原子力発電所の耐震設計に関する考察“ “鈴木 純也,Junya SUZUKI,永坂 英明,Hideaki NAGASAKA
近年、地震観測データが多く得られており1000ガルを超える大加速度が観測されている。これらの最大加速度は、震源や地盤条件等に大きく影響されるため原子力発電所の耐震設計に用いられる基準地震動とは一律に比較できないものの議論の契機になっている。 一方で、地震による構造物の被害には、最大加速度のみならず地震動の周期特性、継続時間などが大きく影響し、最大加速度と被害の相関性は必ずしも高くない。 これらの状況を背景に、ここでは設備への影響という観点から最大加速度以外の指標を用いて地震動の比較を行うとともに、浜岡原子力発電所で適用されている基準地震動の保守性について考察した。
2.最大加速度以外の指標による地震動比較
2.1 地震指標
地震動の強さは、最大加速度値により一般的によく示される。一方、地震時の体感や施設への影響という観点からは気象庁の計測震度が国内で広く使われている。地震時の施設への影響を図る指標として、計測震度以外にハウスナーが提唱したSI値,米国原子力発電所での地震指標として提唱されたCAV 等がある。ここでは、国内で観測された各種地震動に対し、これらの地震指標による値を算出し最大加速度値と比較した。 [計測震度] 計測震度は、地震動の強さを示す指標として地震計から自動的に計算できる手法として気象庁が平成8年以降導入したものである[1]。計測震度は、加速度の高周波成分と低周波成分をカットして建物への周期の影響を考慮するとともに、継続時間の極端に短いパルス状の波の影響を除いた加速度値が用いられている。なお、計測震度は地震時の建物全壊率との相関が比較的良いこと等が気象庁により確認されている[2]。 計測震度は、この加速度値を常用対数等により震度7程度までの値に換算しているため、指標としてみやすくする観点から、ここでは加速値度自体(ここでは有効加速度と称する。)も指標として用いた。 I = 2 log a + 0.94 I:計測震度 a:フィルター特性等に基づく最大加速度(有効加速度)
[SI値] SI値は米国のハウスナーにより提唱された指標で、地 震により一般的な建物にどの程度被害が生じるかを数値化したものである。構造物の振動エネルギーに関連する物理量として、構造物の地震時の揺れ速度の最大値を、 固有周期0.1秒から2.5秒で減衰定数が20%の構造物に対 して平均化した値をSI値(Spectral Intensity)と定義して おり、揺れ速度の平均値を表している。 国内では、都市ガスの地震時の供給停止基準や新幹線 の地震後運転規制の判断指標として既に使われている。 [CAV]( Cumulative Absolute Velocity) CAV は、米国EPRIが原子力発電所での地震発生時に 運転継続可否の判断基準として提唱した指標であり、地 震加速度の絶対値の時間積分により、地震動が被害をも たらすポテンシャルを有しているか否かを評価する手法 である。CAVは地震加速度の絶対値の時間積分値であり、 加速度時刻歴波形の面積を表している。計算にあたって は、損傷に影響を与えない低い加速度の影響を考慮し、 波形を1秒毎に分割し0.025gを超える加速度が存在する 場合のみCAVとして積分している[3]。 CAV は、継続時間の長い波に対しては大きくなるとと もに、振動数の低い波に対して大きく、振動数の高い波 に対しては小さくなる傾向にある。 2.2 比較した地震動 (1)KiK-net観測データ 国立研究開発法人防災科学技術研究所が設置した KiK-netの観測施設は全国約700 箇所に配置され、地表と 地中の強震記録が得られている[4]。この観測データから 表1に示す大加速度(地表で1000ガル以上)の地中デー タを抽出し、各指標による比較を行った。原子力発電所 は岩盤上に建設され地表面の揺れの影響が抑えられてい るため、比較するデータは地中データを用いた。 (2)原子力発電所での観測データ 近年の原子力発電所近傍で発生した大規模な地震にお いて原子力発電所内の地中(各発電所の解放基盤に近い 地中)で観測されたデータを活用した。観測データを表2 Sv:速度応答スペクトル(cm/s) T:固有周期(s) h:減衰定数(=20%) に示す。 (3)浜岡原子力発電所基準地震動 浜岡原子力発電所において新規制基準を踏まえて策定 した基準地震動Ss1(1200ガル(応答スペクトル手法に 基づく))を比較対象として用いた。基準地震動Ss1 は水 平,鉛直の各1方向で定義されるため、3成分の合成値と して算出される計測震度については、水平と鉛直方向の2 成分の合成値とした。 2.3 最大加速度と各指標の比較 前項に示す各地震動について最大加速度と各指標値の 比較を行った。計測震度及び有効加速度のグラフを図1 及び図2に示す。SI 値のグラフを図3~5に、CAV のグ ラフを図6~8に示す。 前項に示す各地震動について最大加速度と各指標値の 比較を行った。計測震度及び有効加速度のグラフを図1 及び図2に示す。SI 値のグラフを図3~5に、CAV のグ ラフを図6~8に示す。 表1 KiK-net観測データ (地表1000ガル以上:2017年4月1 日時点) 発生日 地震名 地名 規模 デ ー タ数 2000/10/6 鳥取県西部 日野 Mw6.6 1 2003/5/26 宮城県沖 住田他 Mw7.0 2 2008/6/14 岩手・宮城内陸 一関西 他 Mw6.9 4 Mw6.9 4 2008/7/24 岩手県沿岸北部 玉山 M6.8 1 2011/3/11 東北地方太平洋 沖 芳賀 Mw9.0 5 芳賀 Mw9.0 5 他 他 2011/3/19 茨城県北部 高萩 Mw5.8 1 2016/4/14,16 熊本 益城 Mw7.0 2 表2 原子力発電所観測データ 発生日 地震名 原子力発電所名 2007/7/16 新潟県中越沖 柏崎刈羽 2009/8/11 駿河湾 浜岡 2011/3/11 東北地方太平洋沖 女川 2011/3/11 同上 福島第一 2011/3/11 同上 東海第二 a(t) :加速度時刻歴 2011/4/7 宮城県沖 陸前高 Mw7.1 1 tmax :地震継続時間 2011/7/5 和歌山県北部 広川 Mw5.0 1 2013/2/25 栃木県北部 栗山西 Mw5.8 1 - 58 - 図1 最大加速度(合成値)と計測震度の関係? 図3 最大加速度(NS成分)とSI値の関係? 図5 最大加速度(UD成分)とSI値の関係? 図2 最大加速度(合成値)と有効加速度の関係? 図7 最大加速度(EW成分)とCAVの関係? 図8 最大加速度(UD成分)とCAVの関係? - 59 - 図6 最大加速度(NS成分)とCAVの関係? 図4 最大加速度(EW成分)とSI値の関係? 2.4 比較結果 KiK-netの観測データ(地中波)及び原子力発電所観測 波を用いて、最大加速度値と各指標の比較を行った。 計測震度及びSI値は、バラツキはあるものの最大加速 度値が大きくなるに従い徐々に大きくなり、相関のある ことが確認された。ただし増加傾向は顕著なものではな く基準地震動より小さいレベルであった。 CAV は、最大加速度値が大きくなっても特段の増加傾 向は確認できず、基準地震動に比べ非常に小さいレベル にあった。東北地方太平洋沖地震のデータが比較的上位 にあり継続時間の影響が大きいと考えられる。 観測データの各指標値は、最大加速度値が非常に大き な値であっても顕著に大きな値になるわけではなく、周 期特性や継続時間などの特性に影響されることを確認し た。なお、基準地震動は周期特性や継続時間においても 厳しい設定になっていることを確認した。 3.原子力発電所における地震影響調査 3.1 調査プラント及び影響状況 2.1 地震指標 原子力発電所では、発電所のスクラム設定値を超える 大規模な地震を経験したプラントにおいて公開情報(HP 等)に基づき被害状況が調査されている[5]。 調査は、6つの大きな地震に対して計20プラントを対 象として実施されている。 表3 原子力発電所観測データ[5] 発生日 地震 影響プラント 水平加速度 (gal:マット) 2003/5/26 宮城県沖 の地震 図9 最大加速度(合成値)と計測震度の関係 図10 最大加速度(NS成分)とSI値の関係 女川1~3号 218 2005/8/16 宮城県沖 女川1~3号 263 の地震 2007/3/25 能登半島 志賀1,2号 264 地震 図11 最大加速度(NS成分)とCAV値の関係 2007/7/16 新潟県 中越沖 - 60 - 柏崎刈羽1~7号 680 3.2 調査結果 調査報告[5]では、以下の状況が報告されている。 2009/8/11 駿河湾 浜岡1~5号 439 原子炉建屋内の機器・配管には機能低下、喪失レベル 2011/3/11 東北地方 は見られず、機能低下,喪失レベルの事例は、大半が非 太平洋沖 岩着の基礎・建物に設置された機器・配管系で生じてお り、岩着した建物の損傷事例は、タービン建屋内でのタ ービン等の支持部や小口径配管の損傷等の一部の事例で あった。また、岩着された建屋内の機器・配管系は一般 に想定される状況よりも高い耐震性を有していると考え 女川1~3号 東海第二 福島第一1~6号 福島第二1~4号 607225550277られることが報告されている。 表3に示されるマット上で最大加速度を記録したプラ ントの各指標の計算結果を図9~11に示す。指標による 整理の結果、屋外の低耐震クラスの機能損傷事例が多く 報告されている柏崎刈羽原子力発電所において、計測震 度、SI値が大きな値になっており、指標との相関がみら れることを確認した。 4.地震動の設備への影響検討例 4.1 4脚タンクによる試解析 地震動の継続時間や繰り返しによる機器への影響をみ るために、大荷重により比較的変位の発生しやすい4脚 タンクを仮定し、以下の地震動を用いた試解析を行った。 a)浜岡原子力発電所 基準地震動Ss1-D 1200ガル b) KiK-net地中波の中で最大加速度データを正規化 (一関西の地中波1036ガル(NS 成分)を1200ガルに 正規化) 4脚タンクの解析は、図12に示す3次元FEMモデル を用い、解析コードはABAQUSを使用した。タンクの一 次固有周期は6Hz であり、材料の降伏応力は231MPa、2 次剛性比は1/1000を使用した。浜岡の基準地震動及び一 関西の地中波を正規化した地震動の時刻歴波形を図13及 び14に示す。 図12 タンクモデル図及び諸元 図13 浜岡基準地震Ss1-D(1200ガル) 図14 一関西観測波(地中波:NS成分)1200ガル正規化 1次固有周期 6Hz 高さ 6.8m 直径 4m 厚さ 18mm 図15 タンク解析結果(脚部取り付け部変位:mm) 図16 タンク荷重-変位曲線(浜岡基準地震動3倍入力) 図17 タンク荷重-変位曲線(一関西波正規化3倍入力) - 61 - 表4 入力条件 入力波 入力レベル 最大加速度値(ガル) 浜岡基 準地震 動 基準地震動1倍 1200 基準地震動1倍 1200 基準地震動3倍 3600 基準地震動3倍 3600 基準地震動1倍×2回 1200×2回 基準地震動1倍×2回 1200×2回 観測デ ータ 一関西正規化1倍 1200 一関西正規化1倍 1200 一関西正規化3倍 3600 一関西正規化3倍 3600 一関西正規化1倍×2回 1200×2回 4.2 4脚タンクの解析結果 4脚タンクへの各地震動の入力は、表4に示す条件で行 った。また、本4脚タンクは事前解析により、基準地震 動の半分以下の入力で最弱部が弾性限界に達し、基準地 震動の3倍程度の入力で2倍勾配法による限界耐力に達 することを確認した。 各入力条件における4脚タンク脚部に生じる最大変位 を図15に示す。1倍波入力では浜岡基準地震動は一関西 波の2倍の変位であり、3倍波入力では浜岡基準地震動が 限界耐力に近づくのに対し、一関西波はその1/3以下であ った。時刻歴波形を図13及び14に、タンクの荷重変位 曲線を図16及び17示す。一関西波がピーク的波である のに対し、浜岡基準地震動は継続時間が長く繰り返し載 荷が多いことから、3倍波では浜岡基準地震動の変位が図 16に示すように非常に大きくなっていると推察される。 また、繰り返しの(2回)入力では、両者とも変位の増 加はほとんどなかった。浜岡基準地震動と一関西波の2 回入力時のタンクの荷重変位曲線を図18及び19に示す。 本4脚タンクは、弾性限界を超えるような荷重で繰り返 し入力を受けても、限界耐力まで余裕があるため直ちに 崩壊に至るのではなく弾性的な挙動を示すことを確認し た。 4脚タンクを用いた地震動の影響検討の結果、浜岡の 基準地震動は一関西の正規化した波に比べ大きな影響を 有する地震動であることを確認した。 5.まとめ 謝辞 本報告で用いた各地の観測記録は防災科学技術研究所 KiK-netによるものであり、各発電所の観測データは日本 地震工学会での強震データによるものです。ここに謝意 を申し上げます。 参考文献 [1] 気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/c alc_sindo.htm [2] 国土交通省気象庁,総務省消防庁“震度に関する検討 会報告書”, 平成21年3月、pp.1-28. [3] Lee Jong-Rim, Lee Sang-Hoon, An Experimental Study on Seismic Damage Indicator Considering CAV Concept, Transactions of SMiRT 16, (2001) [4] 防災科研HP http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/docs/kyoshin.sht ml [5] 森田,稲田,大鳥ほか,原子力発電所の被災事例に基 づく低耐震クラス機器の耐震信頼性に関する研究, JSME D&D2013 観測記録を用いた最大加速度と各指標との比較では、 最大加速度値が非常に大きな値であっても各指標が顕著 に大きな値になるわけではなく、周期特性や継続時間な どの特性に影響されることを確認した。なお、基準地震 動は周期特性や継続時間においても厳しい設定になって 図18 タンク荷重-変位曲線(浜岡基準地震動2回入力) いることを確認した。 原子力発電所の被害例調査では、屋外の低耐震クラス の機能損傷事例が多く報告されている柏崎刈羽原子力発 電所において、計測震度、SI 値が大きな値になっており、 指標との相関がみられることを確認した。 基準地震動と観測波(地中波)の中で最大加速度を記 録した一関西波を用いて4脚タンクについて試解析を行 った結果、基準地震動は一関西波に比べ影響の大きな波 図19 タンク荷重-変位曲線(一関西波正規化2回入力) であることを確認した。 - 62 -“ “地震観測記録を用いた原子力発電所の耐震設計に関する考察“ “鈴木 純也,Junya SUZUKI,永坂 英明,Hideaki NAGASAKA