600 合金部 SCC に対する予防保全工事(WJP 工事)
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
原子力発電所の設備損傷に伴うトラブルの未然防止は重要なテーマであり、プラントの高経年化に伴う圧力容器や配管などの構成部位の余寿命診断、劣化緩和、補修は重要な課題となっている。 運転時間に伴い損傷が顕在化する原因の一つとして応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking: SCC)があり、環境、材料、応力の3因子の重畳によるものと考えられているが、加圧水型原子炉(PWR)においては、高ニッケル合金である600合金の応力腐食割れによる損傷事例が国内外において顕在化してきており、その防止が従来PWRプラントの保全の重要なテーマの一つとなっている。 1次系耐圧バウンダリにおける600合金使用部位を図1に示す。PWRの1次系水環境条件下での応力腐食割れはPWSCCと言われ、PWSCC感受性を有している600合金が加工や溶接などによる高引張残留応力の状態で使用される場合に、損傷に至るものと考えられている。 応力腐食割れの対策は、図2に示す通り環境改善(温度低減)、材料改善(他材料への取替)、応力改善(引張応力改善) が挙げられるが、ここでは図13~6の部位の応力改善技術であるウォータージェットピーニング(WJP)についての保全技術を説明する。 図2 応力腐食割れの3因子と対策 図1 PWRプラント1次系耐圧バウンダリでの 高ニッケル合金(600 合金)使用部位
2.ウォータージェットピーニング PWSCC発生因子の一つである高引張残留応力の対策の一つであるWJPは、対象機器が水中環境の場合に 適用しており、材料の1次系水接液部(表面)の引張残留 応力を圧縮応力に改善して、PWSCCを予防する技術 である。 図3に示すように、水中に高速のウォータージェット を噴射するとキャビテーションが発生するが、その崩壊 時の衝撃圧によって、材料の表層面に塑性ひずみを起こ し、表面層を圧縮応力に改善する。(図4) 図4 応力改善の原理 3.WJP工事 PWRプラントにおけるWJPの対象部位は原子炉容 器の内部であるが、定期検査における燃料取り出し後も 常に冷却水で満たされており、34原子炉容器出口/入口 図3 ピーニングによる施工状態 管台は水深約10m、56原子炉容器炉内計装筒/管台継手 は水深約18mとなっている。そのため、専用の遠隔装置 を準備し、クレーンで施工位置まで装置を吊り降ろして WJPの施工を実施している。(図5、図6) WJPは事前の試験において、ノズルの移動速度、噴 射距離、流量等のパラメータの有効範囲を確認しており、 実機施工においては、これらを厳密に管理することによ って、所定の応力改善効果がえられることを確認する。 図5(左) 原子炉容器管台へのWJP適用 図6(右) 原子炉容器炉内計装筒へのWJP適用 4.おわりに ここまで国内PWRプラントでは21基に対してWJ P工事を適用済みである。本年10月に計画している四 国電力(株)伊方発電所3号機のWJP工事が国内PW Rプラントとして最後のWJP工事となる。前回工事よ り約5年の期間があいているが、これまでの経験を活か して問題なく施工できるように現在、所内トレーニング を実施し鋭意準備中である。また、米国においては昨年 PWR1基にWJPを適用しており、本年10月にも次 の工事を計画している。 今後も、これまでの国内外の経験を活かして原子力プ ラントへのWJP技術の適用を検討していくと共に、原 子力プラントの保全全般についても引き続き取り組んで いく。 - 576 -“ “600 合金部 SCC に対する予防保全工事(WJP 工事)“ “岸 真之,Masayuki KISHI
原子力発電所の設備損傷に伴うトラブルの未然防止は重要なテーマであり、プラントの高経年化に伴う圧力容器や配管などの構成部位の余寿命診断、劣化緩和、補修は重要な課題となっている。 運転時間に伴い損傷が顕在化する原因の一つとして応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking: SCC)があり、環境、材料、応力の3因子の重畳によるものと考えられているが、加圧水型原子炉(PWR)においては、高ニッケル合金である600合金の応力腐食割れによる損傷事例が国内外において顕在化してきており、その防止が従来PWRプラントの保全の重要なテーマの一つとなっている。 1次系耐圧バウンダリにおける600合金使用部位を図1に示す。PWRの1次系水環境条件下での応力腐食割れはPWSCCと言われ、PWSCC感受性を有している600合金が加工や溶接などによる高引張残留応力の状態で使用される場合に、損傷に至るものと考えられている。 応力腐食割れの対策は、図2に示す通り環境改善(温度低減)、材料改善(他材料への取替)、応力改善(引張応力改善) が挙げられるが、ここでは図13~6の部位の応力改善技術であるウォータージェットピーニング(WJP)についての保全技術を説明する。 図2 応力腐食割れの3因子と対策 図1 PWRプラント1次系耐圧バウンダリでの 高ニッケル合金(600 合金)使用部位
2.ウォータージェットピーニング PWSCC発生因子の一つである高引張残留応力の対策の一つであるWJPは、対象機器が水中環境の場合に 適用しており、材料の1次系水接液部(表面)の引張残留 応力を圧縮応力に改善して、PWSCCを予防する技術 である。 図3に示すように、水中に高速のウォータージェット を噴射するとキャビテーションが発生するが、その崩壊 時の衝撃圧によって、材料の表層面に塑性ひずみを起こ し、表面層を圧縮応力に改善する。(図4) 図4 応力改善の原理 3.WJP工事 PWRプラントにおけるWJPの対象部位は原子炉容 器の内部であるが、定期検査における燃料取り出し後も 常に冷却水で満たされており、34原子炉容器出口/入口 図3 ピーニングによる施工状態 管台は水深約10m、56原子炉容器炉内計装筒/管台継手 は水深約18mとなっている。そのため、専用の遠隔装置 を準備し、クレーンで施工位置まで装置を吊り降ろして WJPの施工を実施している。(図5、図6) WJPは事前の試験において、ノズルの移動速度、噴 射距離、流量等のパラメータの有効範囲を確認しており、 実機施工においては、これらを厳密に管理することによ って、所定の応力改善効果がえられることを確認する。 図5(左) 原子炉容器管台へのWJP適用 図6(右) 原子炉容器炉内計装筒へのWJP適用 4.おわりに ここまで国内PWRプラントでは21基に対してWJ P工事を適用済みである。本年10月に計画している四 国電力(株)伊方発電所3号機のWJP工事が国内PW Rプラントとして最後のWJP工事となる。前回工事よ り約5年の期間があいているが、これまでの経験を活か して問題なく施工できるように現在、所内トレーニング を実施し鋭意準備中である。また、米国においては昨年 PWR1基にWJPを適用しており、本年10月にも次 の工事を計画している。 今後も、これまでの国内外の経験を活かして原子力プ ラントへのWJP技術の適用を検討していくと共に、原 子力プラントの保全全般についても引き続き取り組んで いく。 - 576 -“ “600 合金部 SCC に対する予防保全工事(WJP 工事)“ “岸 真之,Masayuki KISHI