高耐久ライニングによる海水系信頼性向上
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カテゴリ: 第14回
1.緒言
最終ヒートシンクの機能を有する海水冷却系は、福島原子力発電所の事故を受けた新規制基準によりシビアアクシデント対策としての主要機能を担うなど、その重要性は従来よりも一層増している状況にある。 その中で、海水管の腐食対策として管内面に施工している防食用ライニング材は、使用条件や環境に応じて使い分け、適切な点検周期で維持管理が実施されているが、使用材料は高分子材料であるため、弁やオリフィス等の絞り部などの高流速部におけるキャビテーション壊食や、スラリー摩耗、物性低下によるき裂発生などの経年劣化事例が発生しており(表1)、保守管理が電力会社の課題となっていた。 特に、弁やオリフィスなどの絞り部はライニング材の耐久性の観点では厳しい環境にあり、表1に示す通り損傷事例も多く報告されている事から電力会社は点検頻度を高めて維持管理されているものの(表2)、点検方法は目視検査が中心で物量も多く負担が大きい為、耐久性の優れた海水用ライニング鋼管の開発は喫緊の課題、ニーズであった。 表1 ライニング材別の主な適用部位と主要劣化事象
(*)原子力公開ライブラリ(NUCIA)にて抽出した内面ライニングに係る不具合件数 表2 海水管の主な点検内容
2.高耐久性ライニング鋼管の目標性能
(1)過去に経験した損傷事例から、各ライニング材の劣化損傷要因を分析し、耐久性向上方法を検討した。優れた海水遮蔽性、炭素鋼母材との接着強さ及び生産効率等を鑑みて、ポリエチレンをベースとし分子構造及び高次構造の最適化により、ポリエチレンの長所を維持し、且つゴムの優れた耐キャビテーション壊食性、耐スラリー磨耗性をも兼ね備えるライニング材とするコンセプトで開発した。(2)これまで使用環境に応じて使い分けていた各種ライニング材の長所を具備し、国内原子力発電プラントにおける海水管の全使用条件をほぼカバーし、使用条件に応じて使い分けていたライニング材の統一及び海水管の保守・点検の負担軽減を可能にする。(3)既存のポリエチレンライニング鋼管と同一製法、同等コストで製造できることを条件とする。
3.高耐久性ライニング鋼管の性能 高耐久性ライニング材の基本物性を、一例として日本水道協会規格JWWA132記載の水道管内面用ポリエチレンライニング材の比較を表3に示す。高耐久性ライニング材の引張破断強さ、母材との接着強さが、水道管用ポリエチレンを大きく上回っていることが判る。
3.1 き裂に対する耐性 高分子材料であるライニング材は、経年劣化等により機械的特性の低下が生じ、き裂発生リスクが高まるため、初期の機械的特性の向上が重要となる。 今回開発した高耐久性ライニング材は、実機供用60年相当の劣化加速試験後でも初期の抗張積(引張破断 強さ[MPa]×引張破断伸び[%])からの低下は小さく、新品の従来ポリエチレンの約 1.4 倍の高い抗張積を保持しており(図1)、経年劣化によるき裂発生リスクの大幅軽減を達成している。ここで、抗張積(MPa・%) 損傷が著しく、ゴムの劣化加速60年相当の測定不可。 表3 高耐久性ライニング材の基本物性(*:代表値を示す)
は、ゴムやプラスチックの引張破断エネルギーの指標 として使用され、値が大きい方が破断しにくい。 図1 き裂に対する耐性(抗張積)の比較[2]
3.2 キャビテーション壊食に対する耐性 流量調整弁やオリフィス等の絞り部周辺のライニングは、キャビテーション壊食によるライニング損傷対策重要である。そこで、物性値の異なるポリエチレンライニング材を複数種試作し、従来ポリエチレンやクロロプレンゴムと共に、ASTM G134-95に準拠したキャビジェット試験でキャビテーション壊食速度を測定した。キャビジェット試験装置の概要を図2に示す。 結果、抗張積とキャビテーション壊食速度に強い相関関係があることを見出し、分子構造及び高次構造の最適化により抗張積を向上することで、クロロプレンゴムの約1/100、従来ポリエチレンの約1/10まで、高耐久性ライニング材のキャビテーション壊食速度を低減させる ことに成功した[3]。キャビテーション壊食速度と抗張積の関係を図3に、 キャビジェット試験によるライニング材の壊食状態を 図4に示す。図3には、実機供用60年相当の劣化加速 試験後に測定した高耐久性ライニング材の壊食速度を 示しているが、新品の従来ポリエチレン(LLDPE)と比較 しても壊食速度は1桁近く小さく、高耐久性ライニング 材は長期間にわたってキャビテーション壊食の抑制が 可能である。 図2 キャビジェット試験装置概要 (装置図はASTM-G134より引用) クロロプレンゴム(新品) 従来ポリエチレン(LDPE)(新品) 従来ポリエチレン(LLDPE)(新品) 高耐久性ポリエチレン (劣化60年相当) 高耐久性ポリエチレン(新品) 図3.抗張積と壊食速度の関係[2] LDPE:低密度ポリエチレン LLDPE:直鎖低密度ポリエチレン - 579 - 3.3 海水遮蔽性 高耐久性ライニング材の透湿度は初期値~劣化加速 60年相当まで、従来ポリエチレンの約2/3であり、長期 間の使用においても高い海水遮蔽性を示す。 次に、高耐久性ライニング材の吸水率を従来ポリエチ レンおよびクロロプレンゴムと比較したグラフを図6 に示す。高耐久性ライニング材の吸水率は最も小さく、 特にクロロプレンゴムと比較すると約1/10である(浸 漬日数28日で比較)。 ライニング材は炭素鋼配管の海水による腐食防止が 主目的であるため、海水の浸透を可能な限り低減するこ とが望まれる。図5にJIS K 7129に従って測定した透湿 度を示す。 高耐久性ポリエチレン 従来ポリエチレン 表面状態深さ方向 壊食部 壊食深さ 0.3mm壊食部 0.3mm壊食部 0.3mm 0.3mm 図4 キャビジェット試験でのライニング材の壊食状態[2] 図5.透湿度の比較[2]“ “高耐久ライニングによる海水系信頼性向上“ “竹内 遼太,近藤 祐司,岩田 知和,田中 峻介,加福 秀考,須田 康晴
最終ヒートシンクの機能を有する海水冷却系は、福島原子力発電所の事故を受けた新規制基準によりシビアアクシデント対策としての主要機能を担うなど、その重要性は従来よりも一層増している状況にある。 その中で、海水管の腐食対策として管内面に施工している防食用ライニング材は、使用条件や環境に応じて使い分け、適切な点検周期で維持管理が実施されているが、使用材料は高分子材料であるため、弁やオリフィス等の絞り部などの高流速部におけるキャビテーション壊食や、スラリー摩耗、物性低下によるき裂発生などの経年劣化事例が発生しており(表1)、保守管理が電力会社の課題となっていた。 特に、弁やオリフィスなどの絞り部はライニング材の耐久性の観点では厳しい環境にあり、表1に示す通り損傷事例も多く報告されている事から電力会社は点検頻度を高めて維持管理されているものの(表2)、点検方法は目視検査が中心で物量も多く負担が大きい為、耐久性の優れた海水用ライニング鋼管の開発は喫緊の課題、ニーズであった。 表1 ライニング材別の主な適用部位と主要劣化事象
(*)原子力公開ライブラリ(NUCIA)にて抽出した内面ライニングに係る不具合件数 表2 海水管の主な点検内容
2.高耐久性ライニング鋼管の目標性能
(1)過去に経験した損傷事例から、各ライニング材の劣化損傷要因を分析し、耐久性向上方法を検討した。優れた海水遮蔽性、炭素鋼母材との接着強さ及び生産効率等を鑑みて、ポリエチレンをベースとし分子構造及び高次構造の最適化により、ポリエチレンの長所を維持し、且つゴムの優れた耐キャビテーション壊食性、耐スラリー磨耗性をも兼ね備えるライニング材とするコンセプトで開発した。(2)これまで使用環境に応じて使い分けていた各種ライニング材の長所を具備し、国内原子力発電プラントにおける海水管の全使用条件をほぼカバーし、使用条件に応じて使い分けていたライニング材の統一及び海水管の保守・点検の負担軽減を可能にする。(3)既存のポリエチレンライニング鋼管と同一製法、同等コストで製造できることを条件とする。
3.高耐久性ライニング鋼管の性能 高耐久性ライニング材の基本物性を、一例として日本水道協会規格JWWA132記載の水道管内面用ポリエチレンライニング材の比較を表3に示す。高耐久性ライニング材の引張破断強さ、母材との接着強さが、水道管用ポリエチレンを大きく上回っていることが判る。
3.1 き裂に対する耐性 高分子材料であるライニング材は、経年劣化等により機械的特性の低下が生じ、き裂発生リスクが高まるため、初期の機械的特性の向上が重要となる。 今回開発した高耐久性ライニング材は、実機供用60年相当の劣化加速試験後でも初期の抗張積(引張破断 強さ[MPa]×引張破断伸び[%])からの低下は小さく、新品の従来ポリエチレンの約 1.4 倍の高い抗張積を保持しており(図1)、経年劣化によるき裂発生リスクの大幅軽減を達成している。ここで、抗張積(MPa・%) 損傷が著しく、ゴムの劣化加速60年相当の測定不可。 表3 高耐久性ライニング材の基本物性(*:代表値を示す)
は、ゴムやプラスチックの引張破断エネルギーの指標 として使用され、値が大きい方が破断しにくい。 図1 き裂に対する耐性(抗張積)の比較[2]
3.2 キャビテーション壊食に対する耐性 流量調整弁やオリフィス等の絞り部周辺のライニングは、キャビテーション壊食によるライニング損傷対策重要である。そこで、物性値の異なるポリエチレンライニング材を複数種試作し、従来ポリエチレンやクロロプレンゴムと共に、ASTM G134-95に準拠したキャビジェット試験でキャビテーション壊食速度を測定した。キャビジェット試験装置の概要を図2に示す。 結果、抗張積とキャビテーション壊食速度に強い相関関係があることを見出し、分子構造及び高次構造の最適化により抗張積を向上することで、クロロプレンゴムの約1/100、従来ポリエチレンの約1/10まで、高耐久性ライニング材のキャビテーション壊食速度を低減させる ことに成功した[3]。キャビテーション壊食速度と抗張積の関係を図3に、 キャビジェット試験によるライニング材の壊食状態を 図4に示す。図3には、実機供用60年相当の劣化加速 試験後に測定した高耐久性ライニング材の壊食速度を 示しているが、新品の従来ポリエチレン(LLDPE)と比較 しても壊食速度は1桁近く小さく、高耐久性ライニング 材は長期間にわたってキャビテーション壊食の抑制が 可能である。 図2 キャビジェット試験装置概要 (装置図はASTM-G134より引用) クロロプレンゴム(新品) 従来ポリエチレン(LDPE)(新品) 従来ポリエチレン(LLDPE)(新品) 高耐久性ポリエチレン (劣化60年相当) 高耐久性ポリエチレン(新品) 図3.抗張積と壊食速度の関係[2] LDPE:低密度ポリエチレン LLDPE:直鎖低密度ポリエチレン - 579 - 3.3 海水遮蔽性 高耐久性ライニング材の透湿度は初期値~劣化加速 60年相当まで、従来ポリエチレンの約2/3であり、長期 間の使用においても高い海水遮蔽性を示す。 次に、高耐久性ライニング材の吸水率を従来ポリエチ レンおよびクロロプレンゴムと比較したグラフを図6 に示す。高耐久性ライニング材の吸水率は最も小さく、 特にクロロプレンゴムと比較すると約1/10である(浸 漬日数28日で比較)。 ライニング材は炭素鋼配管の海水による腐食防止が 主目的であるため、海水の浸透を可能な限り低減するこ とが望まれる。図5にJIS K 7129に従って測定した透湿 度を示す。 高耐久性ポリエチレン 従来ポリエチレン 表面状態深さ方向 壊食部 壊食深さ 0.3mm壊食部 0.3mm壊食部 0.3mm 0.3mm 図4 キャビジェット試験でのライニング材の壊食状態[2] 図5.透湿度の比較[2]“ “高耐久ライニングによる海水系信頼性向上“ “竹内 遼太,近藤 祐司,岩田 知和,田中 峻介,加福 秀考,須田 康晴