耐震設計に対する深層防護の適用について
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カテゴリ: 第14回
1.緒 言
2007年に発生した新潟県中越沖地震(以下,「the NCO EarthquaNe」という。)[1]後の東京電力(株)によるプラント の調査,観測記録を用いた地震応答解析や大型加振台を 用いた健全性評価のための試験などにより,耐震安全上 重要な設備には地震による被害は無く,また,低耐震クラスの設備においても被害は限定的であるなどの貴重な経験が得られている。 まず,2011年東北地方太平洋沖地震(以下,「the GEJE」 という。)にて被災した福島第一原子力発電所(以下,「1F NPS」という。)における機器の地震応答を塑性率の他, エネルギー等の観点から分析し,1FNPS における地震の影響を考察した。 これまでの地震経験に基づき,耐震設計と深層防護に関わる課題を明らかにし,自然現象である地震の不確かさを考慮した耐震設計拡張状態(Seismic Design Extension Condition(SDEC))を定義した上で耐震設計体系の多様化という目標を設定し,耐震設計の高度化,多様化を志向するための手法として用いる「塑性率」による耐震設計の高度化を図る。
2.背 景
2.1 最近の国内原子力発電所における地震経験
2.国内原子力発電所における地震経験
2.1 最近の原子力発電所における地震経験
国内の原子力発電所(以下「NPS」という。)設備の耐 震設計は,敷地周辺で発生する可能性のある最大の揺れ を想定した基準地震動(以下,「DBE」という。)と,建築 基準法に基づく地震層せん断力係数に施設の重要度分類 に応じた係数を乗じて得られる震度を用いて行われるが, 近年では,国内のNPS において,DBE を超過する地震動 が観測されている。 この例としてTable 1に示す地震が挙げられる。 ※1 The values of magnitudes indicate the Japan Meteorological Agency’s Magnitude, Mj. In the 2011 off the Pacific coast of TohoNu EarthquaNe, its moment magnitude is also described as Mw. このうち,柏崎刈羽原子力発電所(以下,「KK NPS」と いう。)で観測されたthe NCO EarthquaNeでは,最大でDBE の約 2.5 倍の地震動が観測された(1 号炉)。この地震に よる安全上重要な設備への影響は確認されなかったが, 新たなDBEの策定や耐震強化対策等の実施により1,5, 6 及び 7 号炉の 4 プラントの再稼働に約 3 年半を要した (他のプラントは 2011 年東北地方太平洋沖地震(以下, 「the GEJE」という。)の影響で再稼働をしていない)。北 陸電力株式会社志賀原子力発電所で観測された2007年能 登半島地震[2],中部電力株式会社浜岡原子力発電所で観 測された駿河湾の地震(2009年)[3]では観測記録はDBE を一部の周期帯でわずかに上回った程度であり安全上重 要な設備への地震の影響は無いものと判断でき,早期の プラントの再稼働が可能であった。しかしながら浜岡原 子力発電所 5 号炉については特異であった地震動の伝搬 の分析を実施する必要が生じ,再稼働は地震の約 1 年 5 ヶ月後であった。さらに,the GEJE では,東北電力株式 会社女川原子力発電所,1F NPS及び福島第二原子力発電 所(以下,「2F NPS」という。)ならびに日本原子力発電 株式会社東海第二原子力発電所が被災したが,それぞれ 観測された地震動はDBEを一部の周期帯でわずかに超え る程度であった。[4] [5] [6] 2.2 2007年新潟県中越沖地震 2007 年 7 月 16 日,新潟県中越沖を震源とするマグニ チュード 6.8 の地震が KK NPS を襲った。発電所におけ る観測記録は一部の周期帯を除いて DBE を超えており, 1 号炉の原子炉建屋基礎版上に設置された加速度計では 680 Galを記録(EW 方向),当時のDBE 273 Gal(EW 方 向)の約2.5倍の加速度であった。この揺れにより,定格 運転中であった3,4,7号炉ならびに起動中であった2号 炉が地震により自動停止(原子炉地震スクラム)した。東 京電力では地震後にプラントのウォークダウン,基本点 検,詳細点検ならびに観測記録を用いた地震応答解析を 実施し設備の状況を確認するとともに,当該地震により 得られた知見を踏まえて新たなDBEを策定し,これに基 づき耐震強化工事を実施してプラントの再稼働を目指し た。これら点検及び解析において,安全上重要な設備に地 震による損傷や機能喪失は確認されず,原子炉安全上の 問題は生じなかったが,一部の低耐震クラスの設備にお いては地震による損傷が見られ,特に 3 号炉の所内変圧 器で発生した火災については社会的な反響が見られた。 2.3 2011年東北地方太平洋沖地震 2011 年3 月11 日に発生した the GEJE では,最大で震 度7,東北地方の太平洋沿岸の広い地域で震度6強を記録 し,東北電力株式会社女川原子力発電所,1F NPSならび に2F NPS,及び日本原子力発電株式会社東海第二原子力 発電所が被災した。特に1F NPSにおいては,定格出力運 転中であった 1,2,3 号炉が地震による揺れの中で緊急 停止(全制御棒の全挿入)に成功したものの,津波による 被害から停止後の冷却に失敗して炉心が溶融し,放射性 物質が環境に放出された。 1F NPS事故とその進展の経緯については,様々な研究 論文や報告書により事故の検証が行われており,本事故 の主要因は津波による非常用電源喪失と海水ヒートシン - 64 - FuNushima Daiichi NPS FuNushima Daini NPS coast The of 2011 TohoNu off the EarthquaNe Pacific 183 Nm 277 (Unit 3) KashiwazaNi-Kariwa NPS The 2007 Niigata-Nen Chuetsu-ONi EarthquaNe 7.16.2007 Mj = 6.8 16 Nm 680 (Unit 1) ToNai Daini NPS 270 Nm 225 HamaoNa NPS The Suruga Bay earthquaNe 8.11.2009 Mj = 6.5 37 Nm 426 (Unit 5) Onagawa NPS 123 Nm 607 (Unit 2) ShiNa NPS The 2007 Noto Hanto EarthquaNe 3.25.2007 Mj = 6.9 18 Nm 264 (Unit 2) Table 1 Examples of earthquaNes in Japanese NPS exceeded their DBEs NPS EarthquaNe Date Magnitude*1 Epicentral distance Maximum observed acceleration at rector base mat (Gal) 3.11.2011 Mj = 8.4 Mw = 9.0 178 Nm 550 (Unit 2) ク喪失であるものと考えられている。特に地震発生から 津波襲来までの間は,安全上重要な設備の健全性は維持 されており,スクラム信号発信後の原子炉の制御が正常 に行われたと考えられる。また,耐震安全性に関して,東 京電力は,観測された地震動に基づく安全上重要な設備 の地震応答解析を実施しており,すべての安全上重要な 設備において健全性が確保されていた可能性が高いこと が報告されている。 なお,東京電力福島原子力発電所事故調査委員会調査 報告書【本編】(東京電力福島原子力発電所事故調査委員 会,2012)は,1F NPS 1 号炉で確認された原子炉建屋内 の出水について,安全上重要な非常用復水系(IC 系)の 配管破損が原因であることを示唆するとともに,非常用 ディーゼル発電機の機能喪失は地震を原因とする可能性 があると指摘し,さらなる検証を求めているが,その後の 原子力規制委員会における検討により,当該の出水は燃 料プールのスロッシングによるもの,また,非常用ディー ゼル発電機の機能喪失は津波によるものであるとの検証 結果が得られている。 3.原子力発電所耐震設計の課題と見通し 3.1 基準地震動の超過 1978 年,当時の原子力委員会により「発電用原子炉施 設に関する耐震設計審査指針」(以下,「耐震設計審査指 針」という。)が制定されて以降(1981年に当時の原子力 安全員会により一部改訂),NPS施設に考慮すべき地震力 の算定に,過去の地震の発生状況,敷地周辺の活断層の性 質及び地震地体構造を考慮したDBEならびに静的地震力 を用いることが定められた。この考え方は2013年に規定 された現在の原子力規制庁による新たな規制基準におい ても同様である。この間,断層モデルの導入等,地震学及 び地震工学に関する新たな知見の蓄積を踏まえ,地震力 の算定の高度化が行われてきたが,地震は自然現象であ ることから不確実性を有することを念頭におくことは必 然であり,今後も DBE を超える実際の地震動が NPS で 観測されるリスクを考慮する必要があると考える。現在 の規制基準による既設プラントへのバックフィットの対 応は,あくまでDBE に対する耐震安全性を確認するプロ セスにとどまる。DBE を超える地震が発生した場合の安 全性の確保の方針を,いかに構築しておくかが重要と考 える。 3.2 機器・配管系の耐震設計 NPS の機器・配管系の耐震設計は,上記の規制基準に 基づき実施されるが,その詳細は一般社団法人日本電気 協会の定める「原子力発電所耐震設計技術規程」(以下, 「JEAC4601」という。)等に基づいている。地震応答解析 はDBEを用いた時刻歴応答解析法またはスペクトルモー ダル解析法が適用される(ただし,剛構造の機器・配管系 の地震応答解析には当該設備が設置される建屋・構築物 の最大応答加速度を用いた静的解析法が適用できる)。地 震応答解析は,多質点系モデルまたは 1 質点系モデルを 用いた弾性解析であり,従って,機器・配管系の弾塑性挙 動は等価線形として取り扱うことができる範囲に限られ, 許容値は塑性域に対して十分な余裕を以て規定されてい る。 実際にDBEを大きく超えたKK NPSにおいても,安全 上重要な設備の地震による影響は確認されなかった。こ れは現行の耐震設計体系の有する十分な余裕による要因 が大きいが,予めDBEを超える地震を想定する場合には, その余裕の取り扱いを安全性確保の方針の中で整理して おく必要があるものと考える。 3.3 耐震設計に関わる深層防護 1F NPSの事故後,深層防護に関する種々の検討が各機 関において実施されている。上記の通り,これまでDBE を超える地震動が各NPSにおいて観測されており,この 状態を深層防護の方針としてどう取り入れるか,議論が 必要である。2006 年の耐震設計審査指針の改訂において は,「残余のリスク」を考慮することとし,確率論的安全 評価,いわゆる地震PSAを取り入れることが規定された が,個々の設備の設計にDBEを超える状態を考慮すべき かについては議論されていない。 ここで,IAEAのSafety Guide では,設計での想定を超 える状態を,設計拡張状態(Design Extension Condition) と定義し,これを施設の設計に反映するよう記載されて いる。ここには耐震設計に関する記載は無いが,DBE を 超える地震が発生した状態ついても同様に Design Extension Conditionと捉え,これを考慮した耐震設計の導 入が必要ではないかと考えられる。 Fig.1 は現行の耐震設計体系が有する裕度の概念と,地 震動がDBEを超えて大きくなる場合の設備の地震応答の 増加を示している。現行の耐震設計においては,DBE に 基づき設備の地震応答解析を実施(Fig.1中のResponse by - 65 - analysis using DBE))して許容基準(Fig.1 中のAllowable limit in design)との比較を実施するので,許容基準に対す る解析値の余裕が設計裕度に相当するが,現行の耐震設 計体系においては許容基準と解析手法についても,それ ぞれ裕度を有している。従って,設備の損傷限界ないしは 機能維持限界と実際の設備の地震応答を比較すると,相 当の余裕を有しているものと考えられる(Fig.1 中左の縦 矢印)。さらに設備の集合体としてのシステムを考慮した とき設備の多重化,多様化を施しておけば,システム全体 の機能維持限界をさらに高いレベルに引き上げられる可 能性がある。 DBE を超過する地震動を想定した場合であっても設計 裕度により直ちに設備の応答が許容基準を超えることは 無い。許容基準に相当する応答以下であれば,「設計状態」 (Fig.1中のDesign condition)の範囲内であると考えられ る。本論ではこれより大きな地震動を想定した状態を Seismic Design Extension Condition(以下,「SDEC」という。) と定義した。 IAEAのSafety Guide に従えば,このSDECにおける安 全性の確保を目的とした設備の設計手法の構築が急務で あると考える。 以上を踏まえ,自然現象である地震の不確実性を考慮 しDBEを超過するような地震動が発生する状態をSDEC と定義したとき,SDECにおけるNPS の安全上重要な機 器の機能維持を確実にする耐震設計手法の高度化を目指 す。具体的には機器の弾塑性挙動を踏まえ,これらの損傷 限界ないしは機能維持限界を表現する塑性率を定義し, 塑性率を一定値以下に抑える静的震度設計の提案を行う。 これにより,DBE と静的震度に基づく現行の耐震設計体 系の高度化,多様化とともに,機器の損傷ないし機能喪失 の防止を図る。 - 66 - Fig. 1 Safety margin in the current seismic design and design extension condition - 67 - 参考文献 [1] ToNyo Electric Power Company, Impact of the Niigata Chuetsu-oNi EarthquaNe on the ToNyo Electric Power Company (TEPCO) KashiwazaNi-Kariwa Nuclear Power Station and countermeasures, available from, (2007), (accessed on 15, January, 2017). [2] HoNuriNu Electric Power Company, Report on seismic safety evaluation of ShiNa Nuclear Power Station based on the 2007 Noto Hanto earthquaNe, available from < http://www.riNuden.co.jp/ press/attach/07041902.pdf#search=%27%E8%83%BD %E7%99%BB%E5%8D%8A%E5%B3%B6%E5%9C %B0%E9%9C%87+%E5%BF%97%E8%B3%80%E5 %8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%27>, (2007), (accessed on 15, January, 2017), (in Japanese). [3] Chubu Electric Power Company, Situation of the HamaoNa Nuclear Power Station in Suruga Bay earthquaNe, available from < http://www.chuden.co.jp/energy/hamaoNa/hama_picNup/ jishin_ suruga/index.html>,(2007), (accessed on 15, January, 2017), (in Japanese). [4] Nagasawa, K., SaNuraba, T., Kato, K., Tomura, N., Abe, S., A digest of the Nuclear Safety Division Report on the FuNushima Dai-ichi Accident Seminar (3); Incidents at FuNushima Dai-ni, Onagawa and ToNai No.2 Nuclear Power Station, The Atomic Energy Society of Japan, Journal of the Atomic Energy Society of Japan, Vol.55, No.10 (2013), pp. 12 - 22 (in Japanese). [5] Nagasawa, K., Structural integrity of FuNushima-Daiichi SSCs after the 2011 Great East Japan EarthquaNe,IAEA experts' meeting on protection against extreme earthquaNes and tsunamis in the light of the accident at the FuNushima Daiichi Nuclear Power Plant, PR21, IAEA (2012), available from (accessed on 15, January, 2017) [6] TohoNu Electric Power Company, Analysis of earthquaNe observation records at Onagawa Nuclear Power Station in the 2011 off the Pacific coast of TohoNu EarthquaNe and survey results of tsunami (2011), available from < https://www.tohoNu- epco.co.jp/ICSFiles/afieldfile/2011/04/26/110407_np_t3. pdf#search=%27%E5%A5%B3%E5%B7%9D%E5%8 E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B+%E9%9C%87% E5%A4%AE%E8%B7%9D%E9%9B%A2%27>, (accessed on 15, January, 2017)(in Japanese). - 68 -“ “耐震設計に対する深層防護の適用について“ “長澤 和幸,KazuyuNi NAGASAWA,川口 善之,YoshiyuNi KAWAGUCHI,古谷 賢,Masaru FURUYA
2007年に発生した新潟県中越沖地震(以下,「the NCO EarthquaNe」という。)[1]後の東京電力(株)によるプラント の調査,観測記録を用いた地震応答解析や大型加振台を 用いた健全性評価のための試験などにより,耐震安全上 重要な設備には地震による被害は無く,また,低耐震クラスの設備においても被害は限定的であるなどの貴重な経験が得られている。 まず,2011年東北地方太平洋沖地震(以下,「the GEJE」 という。)にて被災した福島第一原子力発電所(以下,「1F NPS」という。)における機器の地震応答を塑性率の他, エネルギー等の観点から分析し,1FNPS における地震の影響を考察した。 これまでの地震経験に基づき,耐震設計と深層防護に関わる課題を明らかにし,自然現象である地震の不確かさを考慮した耐震設計拡張状態(Seismic Design Extension Condition(SDEC))を定義した上で耐震設計体系の多様化という目標を設定し,耐震設計の高度化,多様化を志向するための手法として用いる「塑性率」による耐震設計の高度化を図る。
2.背 景
2.1 最近の国内原子力発電所における地震経験
2.国内原子力発電所における地震経験
2.1 最近の原子力発電所における地震経験
国内の原子力発電所(以下「NPS」という。)設備の耐 震設計は,敷地周辺で発生する可能性のある最大の揺れ を想定した基準地震動(以下,「DBE」という。)と,建築 基準法に基づく地震層せん断力係数に施設の重要度分類 に応じた係数を乗じて得られる震度を用いて行われるが, 近年では,国内のNPS において,DBE を超過する地震動 が観測されている。 この例としてTable 1に示す地震が挙げられる。 ※1 The values of magnitudes indicate the Japan Meteorological Agency’s Magnitude, Mj. In the 2011 off the Pacific coast of TohoNu EarthquaNe, its moment magnitude is also described as Mw. このうち,柏崎刈羽原子力発電所(以下,「KK NPS」と いう。)で観測されたthe NCO EarthquaNeでは,最大でDBE の約 2.5 倍の地震動が観測された(1 号炉)。この地震に よる安全上重要な設備への影響は確認されなかったが, 新たなDBEの策定や耐震強化対策等の実施により1,5, 6 及び 7 号炉の 4 プラントの再稼働に約 3 年半を要した (他のプラントは 2011 年東北地方太平洋沖地震(以下, 「the GEJE」という。)の影響で再稼働をしていない)。北 陸電力株式会社志賀原子力発電所で観測された2007年能 登半島地震[2],中部電力株式会社浜岡原子力発電所で観 測された駿河湾の地震(2009年)[3]では観測記録はDBE を一部の周期帯でわずかに上回った程度であり安全上重 要な設備への地震の影響は無いものと判断でき,早期の プラントの再稼働が可能であった。しかしながら浜岡原 子力発電所 5 号炉については特異であった地震動の伝搬 の分析を実施する必要が生じ,再稼働は地震の約 1 年 5 ヶ月後であった。さらに,the GEJE では,東北電力株式 会社女川原子力発電所,1F NPS及び福島第二原子力発電 所(以下,「2F NPS」という。)ならびに日本原子力発電 株式会社東海第二原子力発電所が被災したが,それぞれ 観測された地震動はDBEを一部の周期帯でわずかに超え る程度であった。[4] [5] [6] 2.2 2007年新潟県中越沖地震 2007 年 7 月 16 日,新潟県中越沖を震源とするマグニ チュード 6.8 の地震が KK NPS を襲った。発電所におけ る観測記録は一部の周期帯を除いて DBE を超えており, 1 号炉の原子炉建屋基礎版上に設置された加速度計では 680 Galを記録(EW 方向),当時のDBE 273 Gal(EW 方 向)の約2.5倍の加速度であった。この揺れにより,定格 運転中であった3,4,7号炉ならびに起動中であった2号 炉が地震により自動停止(原子炉地震スクラム)した。東 京電力では地震後にプラントのウォークダウン,基本点 検,詳細点検ならびに観測記録を用いた地震応答解析を 実施し設備の状況を確認するとともに,当該地震により 得られた知見を踏まえて新たなDBEを策定し,これに基 づき耐震強化工事を実施してプラントの再稼働を目指し た。これら点検及び解析において,安全上重要な設備に地 震による損傷や機能喪失は確認されず,原子炉安全上の 問題は生じなかったが,一部の低耐震クラスの設備にお いては地震による損傷が見られ,特に 3 号炉の所内変圧 器で発生した火災については社会的な反響が見られた。 2.3 2011年東北地方太平洋沖地震 2011 年3 月11 日に発生した the GEJE では,最大で震 度7,東北地方の太平洋沿岸の広い地域で震度6強を記録 し,東北電力株式会社女川原子力発電所,1F NPSならび に2F NPS,及び日本原子力発電株式会社東海第二原子力 発電所が被災した。特に1F NPSにおいては,定格出力運 転中であった 1,2,3 号炉が地震による揺れの中で緊急 停止(全制御棒の全挿入)に成功したものの,津波による 被害から停止後の冷却に失敗して炉心が溶融し,放射性 物質が環境に放出された。 1F NPS事故とその進展の経緯については,様々な研究 論文や報告書により事故の検証が行われており,本事故 の主要因は津波による非常用電源喪失と海水ヒートシン - 64 - FuNushima Daiichi NPS FuNushima Daini NPS coast The of 2011 TohoNu off the EarthquaNe Pacific 183 Nm 277 (Unit 3) KashiwazaNi-Kariwa NPS The 2007 Niigata-Nen Chuetsu-ONi EarthquaNe 7.16.2007 Mj = 6.8 16 Nm 680 (Unit 1) ToNai Daini NPS 270 Nm 225 HamaoNa NPS The Suruga Bay earthquaNe 8.11.2009 Mj = 6.5 37 Nm 426 (Unit 5) Onagawa NPS 123 Nm 607 (Unit 2) ShiNa NPS The 2007 Noto Hanto EarthquaNe 3.25.2007 Mj = 6.9 18 Nm 264 (Unit 2) Table 1 Examples of earthquaNes in Japanese NPS exceeded their DBEs NPS EarthquaNe Date Magnitude*1 Epicentral distance Maximum observed acceleration at rector base mat (Gal) 3.11.2011 Mj = 8.4 Mw = 9.0 178 Nm 550 (Unit 2) ク喪失であるものと考えられている。特に地震発生から 津波襲来までの間は,安全上重要な設備の健全性は維持 されており,スクラム信号発信後の原子炉の制御が正常 に行われたと考えられる。また,耐震安全性に関して,東 京電力は,観測された地震動に基づく安全上重要な設備 の地震応答解析を実施しており,すべての安全上重要な 設備において健全性が確保されていた可能性が高いこと が報告されている。 なお,東京電力福島原子力発電所事故調査委員会調査 報告書【本編】(東京電力福島原子力発電所事故調査委員 会,2012)は,1F NPS 1 号炉で確認された原子炉建屋内 の出水について,安全上重要な非常用復水系(IC 系)の 配管破損が原因であることを示唆するとともに,非常用 ディーゼル発電機の機能喪失は地震を原因とする可能性 があると指摘し,さらなる検証を求めているが,その後の 原子力規制委員会における検討により,当該の出水は燃 料プールのスロッシングによるもの,また,非常用ディー ゼル発電機の機能喪失は津波によるものであるとの検証 結果が得られている。 3.原子力発電所耐震設計の課題と見通し 3.1 基準地震動の超過 1978 年,当時の原子力委員会により「発電用原子炉施 設に関する耐震設計審査指針」(以下,「耐震設計審査指 針」という。)が制定されて以降(1981年に当時の原子力 安全員会により一部改訂),NPS施設に考慮すべき地震力 の算定に,過去の地震の発生状況,敷地周辺の活断層の性 質及び地震地体構造を考慮したDBEならびに静的地震力 を用いることが定められた。この考え方は2013年に規定 された現在の原子力規制庁による新たな規制基準におい ても同様である。この間,断層モデルの導入等,地震学及 び地震工学に関する新たな知見の蓄積を踏まえ,地震力 の算定の高度化が行われてきたが,地震は自然現象であ ることから不確実性を有することを念頭におくことは必 然であり,今後も DBE を超える実際の地震動が NPS で 観測されるリスクを考慮する必要があると考える。現在 の規制基準による既設プラントへのバックフィットの対 応は,あくまでDBE に対する耐震安全性を確認するプロ セスにとどまる。DBE を超える地震が発生した場合の安 全性の確保の方針を,いかに構築しておくかが重要と考 える。 3.2 機器・配管系の耐震設計 NPS の機器・配管系の耐震設計は,上記の規制基準に 基づき実施されるが,その詳細は一般社団法人日本電気 協会の定める「原子力発電所耐震設計技術規程」(以下, 「JEAC4601」という。)等に基づいている。地震応答解析 はDBEを用いた時刻歴応答解析法またはスペクトルモー ダル解析法が適用される(ただし,剛構造の機器・配管系 の地震応答解析には当該設備が設置される建屋・構築物 の最大応答加速度を用いた静的解析法が適用できる)。地 震応答解析は,多質点系モデルまたは 1 質点系モデルを 用いた弾性解析であり,従って,機器・配管系の弾塑性挙 動は等価線形として取り扱うことができる範囲に限られ, 許容値は塑性域に対して十分な余裕を以て規定されてい る。 実際にDBEを大きく超えたKK NPSにおいても,安全 上重要な設備の地震による影響は確認されなかった。こ れは現行の耐震設計体系の有する十分な余裕による要因 が大きいが,予めDBEを超える地震を想定する場合には, その余裕の取り扱いを安全性確保の方針の中で整理して おく必要があるものと考える。 3.3 耐震設計に関わる深層防護 1F NPSの事故後,深層防護に関する種々の検討が各機 関において実施されている。上記の通り,これまでDBE を超える地震動が各NPSにおいて観測されており,この 状態を深層防護の方針としてどう取り入れるか,議論が 必要である。2006 年の耐震設計審査指針の改訂において は,「残余のリスク」を考慮することとし,確率論的安全 評価,いわゆる地震PSAを取り入れることが規定された が,個々の設備の設計にDBEを超える状態を考慮すべき かについては議論されていない。 ここで,IAEAのSafety Guide では,設計での想定を超 える状態を,設計拡張状態(Design Extension Condition) と定義し,これを施設の設計に反映するよう記載されて いる。ここには耐震設計に関する記載は無いが,DBE を 超える地震が発生した状態ついても同様に Design Extension Conditionと捉え,これを考慮した耐震設計の導 入が必要ではないかと考えられる。 Fig.1 は現行の耐震設計体系が有する裕度の概念と,地 震動がDBEを超えて大きくなる場合の設備の地震応答の 増加を示している。現行の耐震設計においては,DBE に 基づき設備の地震応答解析を実施(Fig.1中のResponse by - 65 - analysis using DBE))して許容基準(Fig.1 中のAllowable limit in design)との比較を実施するので,許容基準に対す る解析値の余裕が設計裕度に相当するが,現行の耐震設 計体系においては許容基準と解析手法についても,それ ぞれ裕度を有している。従って,設備の損傷限界ないしは 機能維持限界と実際の設備の地震応答を比較すると,相 当の余裕を有しているものと考えられる(Fig.1 中左の縦 矢印)。さらに設備の集合体としてのシステムを考慮した とき設備の多重化,多様化を施しておけば,システム全体 の機能維持限界をさらに高いレベルに引き上げられる可 能性がある。 DBE を超過する地震動を想定した場合であっても設計 裕度により直ちに設備の応答が許容基準を超えることは 無い。許容基準に相当する応答以下であれば,「設計状態」 (Fig.1中のDesign condition)の範囲内であると考えられ る。本論ではこれより大きな地震動を想定した状態を Seismic Design Extension Condition(以下,「SDEC」という。) と定義した。 IAEAのSafety Guide に従えば,このSDECにおける安 全性の確保を目的とした設備の設計手法の構築が急務で あると考える。 以上を踏まえ,自然現象である地震の不確実性を考慮 しDBEを超過するような地震動が発生する状態をSDEC と定義したとき,SDECにおけるNPS の安全上重要な機 器の機能維持を確実にする耐震設計手法の高度化を目指 す。具体的には機器の弾塑性挙動を踏まえ,これらの損傷 限界ないしは機能維持限界を表現する塑性率を定義し, 塑性率を一定値以下に抑える静的震度設計の提案を行う。 これにより,DBE と静的震度に基づく現行の耐震設計体 系の高度化,多様化とともに,機器の損傷ないし機能喪失 の防止を図る。 - 66 - Fig. 1 Safety margin in the current seismic design and design extension condition - 67 - 参考文献 [1] ToNyo Electric Power Company, Impact of the Niigata Chuetsu-oNi EarthquaNe on the ToNyo Electric Power Company (TEPCO) KashiwazaNi-Kariwa Nuclear Power Station and countermeasures, available from