北海道電力の安全対策の強化の取り組み
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カテゴリ: 第10回
1.緒 言
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波により、福島第一原子力発電所では全交流電源および海水による冷却機能が喪失した。全交流電源および冷却機能の喪失により、原子炉を冷却できない状態が長く続き、燃料の損傷や原子炉建屋での水素爆発が発生した。その結果、大量の放射性物質が環境に放出された。また使用済燃料プールの冷却を行なうこともできなくなった。
そこで、福島第一原子力発電所での事故を踏まえ、泊発電所においてこれまでに実施した対策、および今後実施予定の安全対策の強化の取り組みについて紹介する。
2.泊発電所の設計(対策前の状況)
泊発電所などが採用している加圧水型軽水炉(PWR)(Fig.1)では、原子炉内の燃料が核分裂することで発生する熱は、蒸気発生器で2次系の冷却水と熱交換することで冷却される。PWRでは万一全交流電源および冷却機能を喪失した場合でも、蒸気発生器で発生する蒸気を駆動源とするタービン動補助給水ポンプにより、蒸気発生器に冷却水を給水することにより、炉心を冷却することが可能である。
連絡先:青柳正樹、〒060-8677札幌市中央区大通東1丁目、北海道電力株式会社、
E-mail: m-aoyagi@epmail.hepco.co.jp
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地
泊発電所の使用済燃料ピット(プール)については、使用済燃料を冷却するために十分な水量を保有しているが、全交流電源および冷却機能を喪失した場合には、使用済燃料から発生する崩壊熱と呼ばれる熱によりピット水が蒸散しピット水位は低下していく。
Fig.1 加圧水型原子炉
3.泊発電所の安全対策
3.1 緊急安全対策およびシビアアクシデント対策について
福島第一原子力発電所の事故を受けて速やかに、以下の緊急安全対策等を実施した。
(1) 電源の確保(代替給電):非常用ディーゼル発電機が起動できず、交流電源をすべて失った場合に備え、移動発電機車(3200k W、500k W)を配備した。また、蓄電池が切れる(5時間)前に移動発電機車より給電することで、中央制御盤などで発電所のパラメータを監視できるようにした。 (2) 冷却機能の確保(代替給水):仮設ポンプ・ホースを配備し、ろ過水タンクや原水槽、海水などからも、蒸気発生器および使用済燃料ピットへ給水できるようにした。
(3) 浸水防止(水密性向上):原子炉の安全を確保するために重要な機器(中央制御盤などに電気を供給する分電盤・タービン動補助給水ポンプ・非常用ディーゼル発電機)が設置されているエリアの水密性を向上した。 (4) その他の安全対策:移動発電機車による代替給電や蒸気発生器、使用済燃料ピットへの代替給水などの対策が確実に実施できるよう、夜間休日の体制の強化・マニュアルの制定・訓練を実施した。 (5) シビアアクシデント対策:万一、シビアアクシデント(炉心の重大な損傷など)が発生した場合でも迅速に対応することができるよう、高線量対応防護服・がれき撤去用重機の配備、水素爆発防止のため原子炉格納容器からアニュラスに漏えいした水素を外部に放出する手順・中央制御室内の放射性物質を除去し居住性を保つための手順の整備、緊急時の発電所構内通信手段の確保を実施した。
3.2 中長期的な安全対策について
緊急安全対策およびシビアアクシデント対策に加え、安全性・信頼性をより一層高める対策として、防潮堤の設置、高台への非常用発電機の配備、新規貯水設備の設置、事故時の指揮所(免震重要棟)の設置など、Fig.2に示す電源の確保・冷却機能の確保・浸水防止などに係る対策を実施する計画である。
海水ポンプ海水ポンプ電動機電動機電動機外部電源の信頼性向上対策を実施する。(平成27年度上期目途).3号機にも66kV送電線を接続.1,2号機予備変圧器等を高台に移設.3号機の非常用所内高圧母線から1,2号機の非常用所内高圧母線へ給電するためのケーブル敷設津波の影響を受けないよう、浸水対策を強化する。.水密性の高い扉への改造など(平成25年度目途).1~3号機出入管理建屋の入口部を水密性の高い扉へ改造(平成23年10月実施済).1~3号機循環水ポンプ建屋の出入口周辺に防潮壁を設置(平成24年3月実施済)移動発電機車を追加で配備する。(平成24年6月配備済)淡水を貯蔵する新規貯水設備(5000m3×3基)を発電所後背地の高台に設置する。(平成26年度目途)非常用発電機を高台に配備する。(平成27年度目途)電源の確保冷却機能の確保浸水防止海水ポンプ電動機の予備機を確保する。(平成24年4月配備済)代替海水取水ポンプ車載型1台を確保する。(平成24年9月配備済)高さ海抜16.5m長さ約1.3kmの防潮堤を敷地海岸部に設置する。(平成26年12月目途)その他の対策燃料損傷に伴い発生する水素濃度低減のため、触媒式水素再結合装置を設置する。(平成25年度目途)指揮機能強化のため、免震構造で放射線防護機能を有した事故時の指揮所(免震重要棟)を設置する。(平成27年度目途)6.5m敷地レベル(海抜約10m)循環水ポンプ建屋原子炉補助建屋原子炉建屋原子炉格納容器フィルタ付ベント設備を設置する。(平成27年度目途)フィルタ支持がいしの耐震対策泊発電所につながる送電線のうち「支持がいし」が設置された鉄塔4基について「可とう性のあるがいし」へ取替える。(平成23年9月実施済)
3.3 新規制基準への対応(再稼働に向けた対応)について
現在、原子力規制委員会において発電用軽水型原子炉施設に係る「新規制基準」の検討が続けられており、今年7月に法令として施行される予定である。このため、本基準の要求事項に適合するため、緊急安全対策およびシビアアクシデント対策、中長期的な安全対策で実施済み・計画済みの対策に加えて、追加で必要となる対応について検討しているところである。このうち猶予期間が与えられない対策については、発電所の再稼働に向けて最優先で実施しているところである。
4.結 語
北海道電力では、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、事故発生直後より泊発電所の緊急安全対策およびシビアアクシデント対策を実施したことに加え、安全性・信頼性をより一層高めるための中長期的な対策も継続的に実施し、泊発電所の安全性・信頼性の向上に積極的に取り組んでいるところである。また、原子力規制委員会で策定中の「新規制基準」に適切かつ迅速に対応し、泊発電所の再稼働に向け最大限の努力を続けているところである。
(平成25年6月19日)
Fig.2 中長期的な安全対策
“ “北海道電力の安全対策の強化の取り組み “ “青柳 正樹,Masaki AOYAGI“ “北海道電力の安全対策の強化の取り組み “ “青柳 正樹,Masaki AOYAGI
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波により、福島第一原子力発電所では全交流電源および海水による冷却機能が喪失した。全交流電源および冷却機能の喪失により、原子炉を冷却できない状態が長く続き、燃料の損傷や原子炉建屋での水素爆発が発生した。その結果、大量の放射性物質が環境に放出された。また使用済燃料プールの冷却を行なうこともできなくなった。
そこで、福島第一原子力発電所での事故を踏まえ、泊発電所においてこれまでに実施した対策、および今後実施予定の安全対策の強化の取り組みについて紹介する。
2.泊発電所の設計(対策前の状況)
泊発電所などが採用している加圧水型軽水炉(PWR)(Fig.1)では、原子炉内の燃料が核分裂することで発生する熱は、蒸気発生器で2次系の冷却水と熱交換することで冷却される。PWRでは万一全交流電源および冷却機能を喪失した場合でも、蒸気発生器で発生する蒸気を駆動源とするタービン動補助給水ポンプにより、蒸気発生器に冷却水を給水することにより、炉心を冷却することが可能である。
連絡先:青柳正樹、〒060-8677札幌市中央区大通東1丁目、北海道電力株式会社、
E-mail: m-aoyagi@epmail.hepco.co.jp
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地
泊発電所の使用済燃料ピット(プール)については、使用済燃料を冷却するために十分な水量を保有しているが、全交流電源および冷却機能を喪失した場合には、使用済燃料から発生する崩壊熱と呼ばれる熱によりピット水が蒸散しピット水位は低下していく。
Fig.1 加圧水型原子炉
3.泊発電所の安全対策
3.1 緊急安全対策およびシビアアクシデント対策について
福島第一原子力発電所の事故を受けて速やかに、以下の緊急安全対策等を実施した。
(1) 電源の確保(代替給電):非常用ディーゼル発電機が起動できず、交流電源をすべて失った場合に備え、移動発電機車(3200k W、500k W)を配備した。また、蓄電池が切れる(5時間)前に移動発電機車より給電することで、中央制御盤などで発電所のパラメータを監視できるようにした。 (2) 冷却機能の確保(代替給水):仮設ポンプ・ホースを配備し、ろ過水タンクや原水槽、海水などからも、蒸気発生器および使用済燃料ピットへ給水できるようにした。
(3) 浸水防止(水密性向上):原子炉の安全を確保するために重要な機器(中央制御盤などに電気を供給する分電盤・タービン動補助給水ポンプ・非常用ディーゼル発電機)が設置されているエリアの水密性を向上した。 (4) その他の安全対策:移動発電機車による代替給電や蒸気発生器、使用済燃料ピットへの代替給水などの対策が確実に実施できるよう、夜間休日の体制の強化・マニュアルの制定・訓練を実施した。 (5) シビアアクシデント対策:万一、シビアアクシデント(炉心の重大な損傷など)が発生した場合でも迅速に対応することができるよう、高線量対応防護服・がれき撤去用重機の配備、水素爆発防止のため原子炉格納容器からアニュラスに漏えいした水素を外部に放出する手順・中央制御室内の放射性物質を除去し居住性を保つための手順の整備、緊急時の発電所構内通信手段の確保を実施した。
3.2 中長期的な安全対策について
緊急安全対策およびシビアアクシデント対策に加え、安全性・信頼性をより一層高める対策として、防潮堤の設置、高台への非常用発電機の配備、新規貯水設備の設置、事故時の指揮所(免震重要棟)の設置など、Fig.2に示す電源の確保・冷却機能の確保・浸水防止などに係る対策を実施する計画である。
海水ポンプ海水ポンプ電動機電動機電動機外部電源の信頼性向上対策を実施する。(平成27年度上期目途).3号機にも66kV送電線を接続.1,2号機予備変圧器等を高台に移設.3号機の非常用所内高圧母線から1,2号機の非常用所内高圧母線へ給電するためのケーブル敷設津波の影響を受けないよう、浸水対策を強化する。.水密性の高い扉への改造など(平成25年度目途).1~3号機出入管理建屋の入口部を水密性の高い扉へ改造(平成23年10月実施済).1~3号機循環水ポンプ建屋の出入口周辺に防潮壁を設置(平成24年3月実施済)移動発電機車を追加で配備する。(平成24年6月配備済)淡水を貯蔵する新規貯水設備(5000m3×3基)を発電所後背地の高台に設置する。(平成26年度目途)非常用発電機を高台に配備する。(平成27年度目途)電源の確保冷却機能の確保浸水防止海水ポンプ電動機の予備機を確保する。(平成24年4月配備済)代替海水取水ポンプ車載型1台を確保する。(平成24年9月配備済)高さ海抜16.5m長さ約1.3kmの防潮堤を敷地海岸部に設置する。(平成26年12月目途)その他の対策燃料損傷に伴い発生する水素濃度低減のため、触媒式水素再結合装置を設置する。(平成25年度目途)指揮機能強化のため、免震構造で放射線防護機能を有した事故時の指揮所(免震重要棟)を設置する。(平成27年度目途)6.5m敷地レベル(海抜約10m)循環水ポンプ建屋原子炉補助建屋原子炉建屋原子炉格納容器フィルタ付ベント設備を設置する。(平成27年度目途)フィルタ支持がいしの耐震対策泊発電所につながる送電線のうち「支持がいし」が設置された鉄塔4基について「可とう性のあるがいし」へ取替える。(平成23年9月実施済)
3.3 新規制基準への対応(再稼働に向けた対応)について
現在、原子力規制委員会において発電用軽水型原子炉施設に係る「新規制基準」の検討が続けられており、今年7月に法令として施行される予定である。このため、本基準の要求事項に適合するため、緊急安全対策およびシビアアクシデント対策、中長期的な安全対策で実施済み・計画済みの対策に加えて、追加で必要となる対応について検討しているところである。このうち猶予期間が与えられない対策については、発電所の再稼働に向けて最優先で実施しているところである。
4.結 語
北海道電力では、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、事故発生直後より泊発電所の緊急安全対策およびシビアアクシデント対策を実施したことに加え、安全性・信頼性をより一層高めるための中長期的な対策も継続的に実施し、泊発電所の安全性・信頼性の向上に積極的に取り組んでいるところである。また、原子力規制委員会で策定中の「新規制基準」に適切かつ迅速に対応し、泊発電所の再稼働に向け最大限の努力を続けているところである。
(平成25年6月19日)
Fig.2 中長期的な安全対策
“ “北海道電力の安全対策の強化の取り組み “ “青柳 正樹,Masaki AOYAGI“ “北海道電力の安全対策の強化の取り組み “ “青柳 正樹,Masaki AOYAGI