配管要素の組み合わせにより発生した旋回流の 配管減肉に与える影響について
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カテゴリ: 第10回
1.序論
火力・原子力発電所の重要な設備管理項目の一つに配管減肉が掲げられる。配管減肉の主要な原因のひとつは流れ加速型腐食(FAC)である。美浜原子力発電所三号機における配管破断事故もFACにより発生しており、減肉管理は極めて重要である。事故発生時、二次系配管の同じ系統のA 系統・B 系統オリフィス下流部では、減肉傾向に大きな差が発生していた。事故調査の結果、A系統とB 系統で配管レイアウトが異なるため、旋回流によってオリフィス下流部の偏流が異なる分布を示し、壁面近傍での流れの乱れが減肉を促進したと推定されている[1]。 そこで本研究では、旋回流の影響について検討を行った。これまでの検討[2]に引き続いて、旋回流が発生する条件下で酸化物や溶解物の輸送に関する物質移動係数から形状係数を求め、配管要素の組み合わせにより下流部に発生する旋回流が減肉に与える影響を検討した。更に、旋回流の主流の流動状況に着目して、二次流れ流速分布、 スワール数、乱流エネルギー分布に与える影響を調査し減肉との関係を検討した。また、旋回流とオリフィスの組み合わせによって発生する流動状況を評価するため、オリフィス体系の解析について基礎検討を行った。
2.記号説明
Ct1: turbulent sensitivity coefficient Ct2: turbulent intensity at straight pipe Gφ: angular momentum flux [.. . .. . ...2 . ...1] Gz :axial momentum flux [.. . .. . ...2 . ...1] k : mass transfer coefficient [.. . ...1] kc :mass transfer coefficient of drift part [.. . ...1] k’ : mass transfer coefficient of straight pipe [.. . ...1] R0 : radius of pipe [..] Sw : Swirl number [...1] T : geometry factor U : velocity [.. . ...1] Uθ: circumferential velocity [.. . ...1] Uz: axial velocity [.. . ...1] Uτ : frictional velocity [.. . ...1] Uτe : effective friction velocity [.. . ...1]
u’ : turbulent velocity [.. . ...1] y+ : non dimensional distance z : distance from second piping element [..] ρ : density [.... . ...3] ν : kinematic viscosity [..2 . ...2] 3.旋回流の評価手法 (1)形状係数の評価手法 本研究において形状係数は、式(1)に示す直管部と偏流発生部位の物質移動係数の比で表されるものと定義され、偏流発生部位の減肉を定量的に評価する指標である[3]。 摩擦速度は、式(2)で定義されるが、偏流や剥離領域に対する乱流の効果が考慮されていない。そこで、局所的な物質移動を評価するために、過去の知見から乱流エネルギーを考慮に入れた実効摩擦速度が式(3)として考案された[4]。これまでの検討[2]では、流速によって形状係数が各体系で異なる値に収束していた。今回の検討における実効摩擦速度は、平均流速変化に対する直管状態の乱流強度の変化を取り入れ、平均流速に対応した乱流エネルギーの変化に対し補正を加えることとした。 ・・・・・(2) ・・・・・(3) 式(3)中の乱流感度係数Ct1 は暫定的に1 として扱い、平均流速と乱流速度の与える影響が同じになるように設定した。Ct2 は直管流れの場合の平均流速に対する乱流速度の比を示す。Ct2 の算出のため、次章に述べる解析モデルにより求めた直管流れの値を使用した。計算条件として、Table.1 に示す直管条件の計算結果を使用した。 Table 1 Analytical Result in Straight pipe 形状係数の評価では粘性底層にある壁面第一層の値を用いる。粘性底層では流速と同様に乱流速度が壁面距離に比例していると考えられるため、壁面第一層で壁面に平行な流速dU、du’、dy を求め、式(3)の実効摩擦速度を用いることで物質移動係数を算出する。これと直管部分の値との比を取ることで偏流発生部位における形状係数を求め、流れ加速型腐食への影響を評価する。 (2)主流の流動状況の評価手法 旋回流の主流の流れ場の配管要素下流に対する影響を確認するため、二次流れ流速分布、旋回流の強さを示す無次元のスワール数、乱流エネルギー分布を評価する。 スワール数は次の式で表される。 .... = .... ......0 ・・・・・(4) .... = ∫ 2............ ..2.... .. 0・・・・・(5) .... = ∫ 2........ 2...... .. 0・・・・・(6) また乱流エネルギー分布は軸方向の各断面における乱流エネルギーの総和をとったものとして定義する。 4.配管要素組み合わせによる流況への影響 4.1. 解析に用いた計算コード 汎用流体解析プログラムSTARCCM+にて解析を行った。STARCCM+は有限体積法にて離散化し、対流項に対しては二次精度風上差分の差分化を行った。連続の式、ナビエストークス方程式、乱流エネルギーk の方程式、k の散逸率εの輸送方程式をそれぞれ解き、この時k-εの関係式として、Realizablek-ε2 層モデルを用いた。また、一部体系では値が定常的に落ち着かない傾向が見られたことから、非定常解析を行った。そして主流に周期的な変動が見られたために時間平均化処理を行うことで値を算出した。 4.2. 要素間距離と曲率半径の形状係数への影響 破断事故を起こした美浜三号機の配管形状を踏まえ、旋回流が発生すると考えられる2つの連続するねじれの位置となる配管要素を考えた。要素として、エルボ、分岐管を考え、これらを組み合わせたエルボ-エルボ、エルボ-分岐管、分岐管-エルボの3種類の体系について解析を行った。 wall w dy dU U . . . τ . . wall t t e dy d U C u C U U ( ( ' ) 1 2 . . . . . ・・・・・(1) ) 71(1 . . . .. . . .. . . τ τ U U kk T c e解析の結果、全てのケースにおいて旋回流の発生が見られた。また、分岐-エルボ体系の場合はいずれの場合も高い形状係数が確認され、配管要素の組み合わせの影響を強く受けていることがわかった。分岐-エルボ体系では旋回流の発生が確認されたが、配管要素下流部の形状係数へ与える影響は、他の2種類の体系と同じであることを確認した[5]。 4.3. 旋回流の主流の流動状況 前節と同様、3 種類の体系において、配管要素の組み合わせが下流の流動状況に与える影響について評価した。 (1)エルボ-エルボ体系について エルボ-エルボ体系における乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.1、Fig.2 に示す。この時、基準ケースを配管要素間距離0D、曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 Fig. 2 Secondary Flow on 0.5D Point (Elbow-Elbow) エルボ-エルボ体系では、配管要素間の距離が長いケースで旋回流に相反する二次流れが発生していることが確認された。これは、エルボに発生する双子の渦によって生じているものと考えられる。この渦の発生により配管要素間距離が長い場合は一時的に流れが乱れ、配管断面の乱流エネルギーが大きな値を示すことが予想される。 (2)エルボ-分岐体系について エルボ-分岐体系における乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.3、Fig.4 に示す。 この時、基準ケースを配管要素間距離1D、エルボの曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 Fig.3 Turbulent Kinetic Energy (Elbow-T-tube) Fig.4 Secondary Flow on 0.5D Point エルボ-分岐体系では双子の渦と旋回流の渦の3 つが同時に確認された。Fig.3 では、1D 地点においてこれらの3 つの渦が混ざり合い、エルボ-エルボ体系と比べて高い乱流エネルギーを示している。しかし、分岐管単体でも同様の傾向が見られるため、分岐管単体の持つ双子の渦の影響を強く受けていることが予想される。 (3)分岐-エルボ体系について 分岐-エルボ体系におけるスワール数、乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.5、Fig.6 に示す。 Fig.1 Turbulent Kinetic Energy (Elbow-Elbow) この時、基準ケースを配管要素間距離1D、エルボの曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 分岐-エルボ体系では、管中央部に旋回の中心を持ったきれいな旋回流がエルボ出口から発生することが確認された。また、上流に乱流エネルギーが高い配管要素である分岐管があるため、乱流エネルギー分布はエルボ出口までの距離に強く影響を受けていることが予想される。 Fig.5 Turbulent Kinetic Energy (T-tube-Elbow) Fig.6 Secondary Flow on 0.5D Point (T-tube-Elbow) 分岐-エルボ体系の場合は、最初から旋回流の渦が支配的に発生し、その他の渦との合体による乱流エネルギーの上昇が生じていないため高い形状係数が確認されたものと考えられる。また、エルボ-分岐体系と比べることにより、分岐管単体の距離による効果よりも、曲率半径の長いエルボを通過することの方が乱流エネルギーを大きく減衰させていることが確認された。 (4)主流の解析のまとめ 配管要素の組み合わせにより、旋回流の発生状況が大きく異なることが明らかとなった。また、配管要素の影響が大きい場合には双子の渦の発生が見られ、それが旋回流の渦と合体して乱流エネルギーが大きな値を示した。また、合体する箇所において流れが拡散し、その後落ち着くことで形状係数の相違が小さくなった可能性がある。 Fig.7 に各配管要素の組み合わせの中で最もスワール数の大きいケースを対象に0D、13D、25D 地点のスワール数を比較した。分岐-エルボ体系で一番大きなスワール数を示したケースは、エルボ-エルボ体系で旋回流が発生した直後のスワール数と比べ25D 地点でも高いスワール数を示しており、強く長く持続していた。またエルボ-エルボ体系やエルボ-分岐体系でも配管要素の組み合わせにより、旋回流が発生した後ではスワール数は減衰しにくく、長い距離離れた地点でも旋回流が強く残っていることが予想される。 Fig.7 Swirl Number in each Combination of Pipe Elements 美浜三号機の配管破損事故の体系は今回の解析で行った分岐-エルボ体系に対応し、その40D 下流にあるオリフィス下流部で配管破損が発生した。形状係数の解析の結果では、オリフィス流入時には形状係数が十分に減衰していることが予想される。しかし、配管要素組み合わせにより一度高い形状係数を示すと旋回流の主流ではスワール数は40D 位置となっても十分減衰していないことが考えられる。そのため、旋回流がオリフィスと組み合わされ、壁面に旋回流が当たりオリフィス下流部が部分的に顕著に減肉した可能性がある。 これまでは、旋回流の影響をオリフィス流入前の形状係数の値で評価することを検討してきたが、今回の解析で主流の流れ場によって大きく左右される可能性が示された。そのため、オリフィス下流で局所的に減肉を促進させるような旋回流の流入条件のパラメータについて検討する必要がある。 5.オリフィスによる流況への影響 旋回流の流れ場とオリフィスの組み合わせによって発生する流動状況の基礎検討として、オリフィス単体が下流部に与える影響について検討した。 5.1.解析体系 解析モデルについては2 章と同様のものを使用し、メッシュの切り方や解析体系を変更して解析を行った。解析体系、解析条件をTable.2、Fig.8 に示す。 Table 2 Computational Condition Fig.8 Orifice Layout for Analysis 5.2 オリフィス単体体系の形状係数解析結果 Fig.9 にオリフィス単体下流で得られた形状係数分布を示す。解析結果から再付着点位置が2.6D地点にあることを確認した。美浜三号機の配管を模擬した実験結果であるFig.10 と比較することにより、従来知見[6]と良く一致していることが確認できた。 Fig.9 Distribution of Geometry Factor (Orifice, Ct1=1) Fig.9 においてオリフィス単体における形状係数分布はオリフィス下流の1.5D 地点でピーク値を示し、下流3D 地点付近にかけて形状係数は一旦減少し、再度上昇した後減少する。これはオリフィス下流で見られる一般的な減肉傾向と大きく異なる。 3D 地点で大きく落ち込んだ原因として、3D 地点手前に再付着点があるために形状係数の計算値は流速の影響をほとんど受けず、乱流エネルギーのみから評価されていることが考えられる。このため、減肉量分布を正しく模擬する形状係数が得られる様に、1章の(3)式に示した乱流エネルギーと流速の比率(Ct1)について見直すこととした。 Fig.10 Extent of Thinning and Re-adhesion Point[6] 5.3 オリフィス体系に対する乱流感度係数Ct1の補正について 現在使用しているRealizabled k-εモデルは大規模な変動についてしか取り扱うことができない。そのため、Realizabled k-εモデルよりも小規模な変動に対しても対応できるLES 計算の方が信頼性の高い解析が可能となると考えられる。そこで過去の実験解析[7]からLES 計算によって求められた乱流速度と流速の比と、今回得られたオリフィス下流部で見られた乱流速度と流速の比との違いに着目した。参照したLES 計算による解析では、乱流速度が軸方向流速に対して約1.5 倍の値を示す結果が得られている。 Fig.11 Distribution of Flow Velocity on Downstream of Orifice (Realizabled k-ε Model) Fig.11 に、乱流モデルによって軸方向流速に対する乱流速度の変化を示す。乱流速度が軸方向流速に対して約1/3 の値を示しており、Realizabled k-εモデルでは乱流エネルギーが過小評価されている可能性が示された。そこで、軸方向流速に対する乱流速度の感度係数を4 とし、形状係数への乱流速度分布の寄与が大きくなるよう補正することとした。 乱流感度係数の値(Ct1)を4 に変更した場合のオリフィス下流に現れる形状係数の分布をFig.12 に示すが、形状係数の変化はなだらかとなり、Fig.10 で示される減肉形状と傾向が一致した。 Fig.12 Distribution of Geometry Factor (Orifice, Ct1=4) 6.結論 . 配管要素組み合わせのパラメータと主流の流況の変化との関係を確認した。配管要素の影響が大きい場合には双子の渦の発生が確認された。それが旋回流の渦と合体して乱流エネルギーが大きな値を示した。またスワール数の減衰は小さく、配管要素の組み合わせで一度大きな値を示すと下流まで持続することが明らかとなった。 . 美浜三号機事故の体系では、配管要素の下流40D 地点にオリフィスが設置されており、今回の検討で、旋回流の主流がその位置で減衰していないことが明らかとなった。このため、旋回流がオリフィスと組み合わさりA 系統、B 系統における減肉分布の差が生まれた可能性が示された。 . 旋回流とオリフィスの組み合わせにより発生する流況の調査の基礎検討として、オリフィス単体での解析を行った。その結果、オリフィスの解析においては、Realizabled k-εモデルで乱流エネルギーを正しく評価するためには乱流感度係数を大きく設定する必要があることが分かった。 . 今後はオリフィス下流で局所的に減肉を促進させる旋回流の流入条件について検討する必要がある。 参考文献 [1] Nuclear and Industrial Safety Agency, Draft report of Secondary pipe failure accident(Flow analyses) in Mihama Unit 3, Dec. 13, 2005, in Japanese [2] S.Suzuki, T.Nakamura, K.Yoneda ““配管要素の組み合わせにより発生する旋回流の物質移動係数評価““ 日本保全学会第9 回学術講演会 B4-3 [3] S.Suzuki,T.Nakamura ““Evaluation of mass transfer coefficient under swirl flow generated by the combination of pipe elements““ PVP2012-78108 [4] K. Yoneda, R. Morita ““Quantitative Evaluation of Effective Factors on Flow Accelerated Corrosion (Part4)- Evaluation of Wall Thinning Profile in Piping Elements-““,CRIEPI Research Report L09006 , June , 2010[5] K.Yamamoto S.Suzuki T.Nakamura “Evaluation of Mass Transfer Coefficient under Swirl Flow Generated by the Combination of Pipe Elements” ,PVP2013-97657 [6] K. Yoneda, R. Morita et al. ““Quantitative Evaluation of Effective Factors on Flow Accelerated Corrosion (Part2)- Evaluation of Wall Thinning Profile in Piping Elements-““,CRIEPI Research Report L07015 , June , 2008[7] K. Yoneda, R. Morita et al. ““Investigation of Flow Characteristics Affecting on Pipe Wall Thinning (Part 1)- Turbulent Properties at Orifice Downstream in Single-Phase Flow““,CRIEPI Research Report L05007 , July , 2006 (平成25 年6 月21 日)“ “配管要素の組み合わせにより発生した旋回流の 配管減肉に与える影響について “ “山本 啓,Kei YAMAMOTO,鈴木 翔太,Shota SUZUKI,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,米田 公俊,Kimitoshi YONEDA,渡辺 瞬,Syun WATANABE“ “配管要素の組み合わせにより発生した旋回流の 配管減肉に与える影響について “ “山本 啓,Kei YAMAMOTO,鈴木 翔太,Shota SUZUKI,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,米田 公俊,Kimitoshi YONEDA,渡辺 瞬,Syun WATANABE
火力・原子力発電所の重要な設備管理項目の一つに配管減肉が掲げられる。配管減肉の主要な原因のひとつは流れ加速型腐食(FAC)である。美浜原子力発電所三号機における配管破断事故もFACにより発生しており、減肉管理は極めて重要である。事故発生時、二次系配管の同じ系統のA 系統・B 系統オリフィス下流部では、減肉傾向に大きな差が発生していた。事故調査の結果、A系統とB 系統で配管レイアウトが異なるため、旋回流によってオリフィス下流部の偏流が異なる分布を示し、壁面近傍での流れの乱れが減肉を促進したと推定されている[1]。 そこで本研究では、旋回流の影響について検討を行った。これまでの検討[2]に引き続いて、旋回流が発生する条件下で酸化物や溶解物の輸送に関する物質移動係数から形状係数を求め、配管要素の組み合わせにより下流部に発生する旋回流が減肉に与える影響を検討した。更に、旋回流の主流の流動状況に着目して、二次流れ流速分布、 スワール数、乱流エネルギー分布に与える影響を調査し減肉との関係を検討した。また、旋回流とオリフィスの組み合わせによって発生する流動状況を評価するため、オリフィス体系の解析について基礎検討を行った。
2.記号説明
Ct1: turbulent sensitivity coefficient Ct2: turbulent intensity at straight pipe Gφ: angular momentum flux [.. . .. . ...2 . ...1] Gz :axial momentum flux [.. . .. . ...2 . ...1] k : mass transfer coefficient [.. . ...1] kc :mass transfer coefficient of drift part [.. . ...1] k’ : mass transfer coefficient of straight pipe [.. . ...1] R0 : radius of pipe [..] Sw : Swirl number [...1] T : geometry factor U : velocity [.. . ...1] Uθ: circumferential velocity [.. . ...1] Uz: axial velocity [.. . ...1] Uτ : frictional velocity [.. . ...1] Uτe : effective friction velocity [.. . ...1]
u’ : turbulent velocity [.. . ...1] y+ : non dimensional distance z : distance from second piping element [..] ρ : density [.... . ...3] ν : kinematic viscosity [..2 . ...2] 3.旋回流の評価手法 (1)形状係数の評価手法 本研究において形状係数は、式(1)に示す直管部と偏流発生部位の物質移動係数の比で表されるものと定義され、偏流発生部位の減肉を定量的に評価する指標である[3]。 摩擦速度は、式(2)で定義されるが、偏流や剥離領域に対する乱流の効果が考慮されていない。そこで、局所的な物質移動を評価するために、過去の知見から乱流エネルギーを考慮に入れた実効摩擦速度が式(3)として考案された[4]。これまでの検討[2]では、流速によって形状係数が各体系で異なる値に収束していた。今回の検討における実効摩擦速度は、平均流速変化に対する直管状態の乱流強度の変化を取り入れ、平均流速に対応した乱流エネルギーの変化に対し補正を加えることとした。 ・・・・・(2) ・・・・・(3) 式(3)中の乱流感度係数Ct1 は暫定的に1 として扱い、平均流速と乱流速度の与える影響が同じになるように設定した。Ct2 は直管流れの場合の平均流速に対する乱流速度の比を示す。Ct2 の算出のため、次章に述べる解析モデルにより求めた直管流れの値を使用した。計算条件として、Table.1 に示す直管条件の計算結果を使用した。 Table 1 Analytical Result in Straight pipe 形状係数の評価では粘性底層にある壁面第一層の値を用いる。粘性底層では流速と同様に乱流速度が壁面距離に比例していると考えられるため、壁面第一層で壁面に平行な流速dU、du’、dy を求め、式(3)の実効摩擦速度を用いることで物質移動係数を算出する。これと直管部分の値との比を取ることで偏流発生部位における形状係数を求め、流れ加速型腐食への影響を評価する。 (2)主流の流動状況の評価手法 旋回流の主流の流れ場の配管要素下流に対する影響を確認するため、二次流れ流速分布、旋回流の強さを示す無次元のスワール数、乱流エネルギー分布を評価する。 スワール数は次の式で表される。 .... = .... ......0 ・・・・・(4) .... = ∫ 2............ ..2.... .. 0・・・・・(5) .... = ∫ 2........ 2...... .. 0・・・・・(6) また乱流エネルギー分布は軸方向の各断面における乱流エネルギーの総和をとったものとして定義する。 4.配管要素組み合わせによる流況への影響 4.1. 解析に用いた計算コード 汎用流体解析プログラムSTARCCM+にて解析を行った。STARCCM+は有限体積法にて離散化し、対流項に対しては二次精度風上差分の差分化を行った。連続の式、ナビエストークス方程式、乱流エネルギーk の方程式、k の散逸率εの輸送方程式をそれぞれ解き、この時k-εの関係式として、Realizablek-ε2 層モデルを用いた。また、一部体系では値が定常的に落ち着かない傾向が見られたことから、非定常解析を行った。そして主流に周期的な変動が見られたために時間平均化処理を行うことで値を算出した。 4.2. 要素間距離と曲率半径の形状係数への影響 破断事故を起こした美浜三号機の配管形状を踏まえ、旋回流が発生すると考えられる2つの連続するねじれの位置となる配管要素を考えた。要素として、エルボ、分岐管を考え、これらを組み合わせたエルボ-エルボ、エルボ-分岐管、分岐管-エルボの3種類の体系について解析を行った。 wall w dy dU U . . . τ . . wall t t e dy d U C u C U U ( ( ' ) 1 2 . . . . . ・・・・・(1) ) 71(1 . . . .. . . .. . . τ τ U U kk T c e解析の結果、全てのケースにおいて旋回流の発生が見られた。また、分岐-エルボ体系の場合はいずれの場合も高い形状係数が確認され、配管要素の組み合わせの影響を強く受けていることがわかった。分岐-エルボ体系では旋回流の発生が確認されたが、配管要素下流部の形状係数へ与える影響は、他の2種類の体系と同じであることを確認した[5]。 4.3. 旋回流の主流の流動状況 前節と同様、3 種類の体系において、配管要素の組み合わせが下流の流動状況に与える影響について評価した。 (1)エルボ-エルボ体系について エルボ-エルボ体系における乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.1、Fig.2 に示す。この時、基準ケースを配管要素間距離0D、曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 Fig. 2 Secondary Flow on 0.5D Point (Elbow-Elbow) エルボ-エルボ体系では、配管要素間の距離が長いケースで旋回流に相反する二次流れが発生していることが確認された。これは、エルボに発生する双子の渦によって生じているものと考えられる。この渦の発生により配管要素間距離が長い場合は一時的に流れが乱れ、配管断面の乱流エネルギーが大きな値を示すことが予想される。 (2)エルボ-分岐体系について エルボ-分岐体系における乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.3、Fig.4 に示す。 この時、基準ケースを配管要素間距離1D、エルボの曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 Fig.3 Turbulent Kinetic Energy (Elbow-T-tube) Fig.4 Secondary Flow on 0.5D Point エルボ-分岐体系では双子の渦と旋回流の渦の3 つが同時に確認された。Fig.3 では、1D 地点においてこれらの3 つの渦が混ざり合い、エルボ-エルボ体系と比べて高い乱流エネルギーを示している。しかし、分岐管単体でも同様の傾向が見られるため、分岐管単体の持つ双子の渦の影響を強く受けていることが予想される。 (3)分岐-エルボ体系について 分岐-エルボ体系におけるスワール数、乱流エネルギー分布、二次流れ分布についてFig.5、Fig.6 に示す。 Fig.1 Turbulent Kinetic Energy (Elbow-Elbow) この時、基準ケースを配管要素間距離1D、エルボの曲率半径を1D とし、配管要素間距離または曲率半径を変更した場合と比較した。 分岐-エルボ体系では、管中央部に旋回の中心を持ったきれいな旋回流がエルボ出口から発生することが確認された。また、上流に乱流エネルギーが高い配管要素である分岐管があるため、乱流エネルギー分布はエルボ出口までの距離に強く影響を受けていることが予想される。 Fig.5 Turbulent Kinetic Energy (T-tube-Elbow) Fig.6 Secondary Flow on 0.5D Point (T-tube-Elbow) 分岐-エルボ体系の場合は、最初から旋回流の渦が支配的に発生し、その他の渦との合体による乱流エネルギーの上昇が生じていないため高い形状係数が確認されたものと考えられる。また、エルボ-分岐体系と比べることにより、分岐管単体の距離による効果よりも、曲率半径の長いエルボを通過することの方が乱流エネルギーを大きく減衰させていることが確認された。 (4)主流の解析のまとめ 配管要素の組み合わせにより、旋回流の発生状況が大きく異なることが明らかとなった。また、配管要素の影響が大きい場合には双子の渦の発生が見られ、それが旋回流の渦と合体して乱流エネルギーが大きな値を示した。また、合体する箇所において流れが拡散し、その後落ち着くことで形状係数の相違が小さくなった可能性がある。 Fig.7 に各配管要素の組み合わせの中で最もスワール数の大きいケースを対象に0D、13D、25D 地点のスワール数を比較した。分岐-エルボ体系で一番大きなスワール数を示したケースは、エルボ-エルボ体系で旋回流が発生した直後のスワール数と比べ25D 地点でも高いスワール数を示しており、強く長く持続していた。またエルボ-エルボ体系やエルボ-分岐体系でも配管要素の組み合わせにより、旋回流が発生した後ではスワール数は減衰しにくく、長い距離離れた地点でも旋回流が強く残っていることが予想される。 Fig.7 Swirl Number in each Combination of Pipe Elements 美浜三号機の配管破損事故の体系は今回の解析で行った分岐-エルボ体系に対応し、その40D 下流にあるオリフィス下流部で配管破損が発生した。形状係数の解析の結果では、オリフィス流入時には形状係数が十分に減衰していることが予想される。しかし、配管要素組み合わせにより一度高い形状係数を示すと旋回流の主流ではスワール数は40D 位置となっても十分減衰していないことが考えられる。そのため、旋回流がオリフィスと組み合わされ、壁面に旋回流が当たりオリフィス下流部が部分的に顕著に減肉した可能性がある。 これまでは、旋回流の影響をオリフィス流入前の形状係数の値で評価することを検討してきたが、今回の解析で主流の流れ場によって大きく左右される可能性が示された。そのため、オリフィス下流で局所的に減肉を促進させるような旋回流の流入条件のパラメータについて検討する必要がある。 5.オリフィスによる流況への影響 旋回流の流れ場とオリフィスの組み合わせによって発生する流動状況の基礎検討として、オリフィス単体が下流部に与える影響について検討した。 5.1.解析体系 解析モデルについては2 章と同様のものを使用し、メッシュの切り方や解析体系を変更して解析を行った。解析体系、解析条件をTable.2、Fig.8 に示す。 Table 2 Computational Condition Fig.8 Orifice Layout for Analysis 5.2 オリフィス単体体系の形状係数解析結果 Fig.9 にオリフィス単体下流で得られた形状係数分布を示す。解析結果から再付着点位置が2.6D地点にあることを確認した。美浜三号機の配管を模擬した実験結果であるFig.10 と比較することにより、従来知見[6]と良く一致していることが確認できた。 Fig.9 Distribution of Geometry Factor (Orifice, Ct1=1) Fig.9 においてオリフィス単体における形状係数分布はオリフィス下流の1.5D 地点でピーク値を示し、下流3D 地点付近にかけて形状係数は一旦減少し、再度上昇した後減少する。これはオリフィス下流で見られる一般的な減肉傾向と大きく異なる。 3D 地点で大きく落ち込んだ原因として、3D 地点手前に再付着点があるために形状係数の計算値は流速の影響をほとんど受けず、乱流エネルギーのみから評価されていることが考えられる。このため、減肉量分布を正しく模擬する形状係数が得られる様に、1章の(3)式に示した乱流エネルギーと流速の比率(Ct1)について見直すこととした。 Fig.10 Extent of Thinning and Re-adhesion Point[6] 5.3 オリフィス体系に対する乱流感度係数Ct1の補正について 現在使用しているRealizabled k-εモデルは大規模な変動についてしか取り扱うことができない。そのため、Realizabled k-εモデルよりも小規模な変動に対しても対応できるLES 計算の方が信頼性の高い解析が可能となると考えられる。そこで過去の実験解析[7]からLES 計算によって求められた乱流速度と流速の比と、今回得られたオリフィス下流部で見られた乱流速度と流速の比との違いに着目した。参照したLES 計算による解析では、乱流速度が軸方向流速に対して約1.5 倍の値を示す結果が得られている。 Fig.11 Distribution of Flow Velocity on Downstream of Orifice (Realizabled k-ε Model) Fig.11 に、乱流モデルによって軸方向流速に対する乱流速度の変化を示す。乱流速度が軸方向流速に対して約1/3 の値を示しており、Realizabled k-εモデルでは乱流エネルギーが過小評価されている可能性が示された。そこで、軸方向流速に対する乱流速度の感度係数を4 とし、形状係数への乱流速度分布の寄与が大きくなるよう補正することとした。 乱流感度係数の値(Ct1)を4 に変更した場合のオリフィス下流に現れる形状係数の分布をFig.12 に示すが、形状係数の変化はなだらかとなり、Fig.10 で示される減肉形状と傾向が一致した。 Fig.12 Distribution of Geometry Factor (Orifice, Ct1=4) 6.結論 . 配管要素組み合わせのパラメータと主流の流況の変化との関係を確認した。配管要素の影響が大きい場合には双子の渦の発生が確認された。それが旋回流の渦と合体して乱流エネルギーが大きな値を示した。またスワール数の減衰は小さく、配管要素の組み合わせで一度大きな値を示すと下流まで持続することが明らかとなった。 . 美浜三号機事故の体系では、配管要素の下流40D 地点にオリフィスが設置されており、今回の検討で、旋回流の主流がその位置で減衰していないことが明らかとなった。このため、旋回流がオリフィスと組み合わさりA 系統、B 系統における減肉分布の差が生まれた可能性が示された。 . 旋回流とオリフィスの組み合わせにより発生する流況の調査の基礎検討として、オリフィス単体での解析を行った。その結果、オリフィスの解析においては、Realizabled k-εモデルで乱流エネルギーを正しく評価するためには乱流感度係数を大きく設定する必要があることが分かった。 . 今後はオリフィス下流で局所的に減肉を促進させる旋回流の流入条件について検討する必要がある。 参考文献 [1] Nuclear and Industrial Safety Agency, Draft report of Secondary pipe failure accident(Flow analyses) in Mihama Unit 3, Dec. 13, 2005, in Japanese [2] S.Suzuki, T.Nakamura, K.Yoneda ““配管要素の組み合わせにより発生する旋回流の物質移動係数評価““ 日本保全学会第9 回学術講演会 B4-3 [3] S.Suzuki,T.Nakamura ““Evaluation of mass transfer coefficient under swirl flow generated by the combination of pipe elements““ PVP2012-78108 [4] K. Yoneda, R. Morita ““Quantitative Evaluation of Effective Factors on Flow Accelerated Corrosion (Part4)- Evaluation of Wall Thinning Profile in Piping Elements-““,CRIEPI Research Report L09006 , June , 2010[5] K.Yamamoto S.Suzuki T.Nakamura “Evaluation of Mass Transfer Coefficient under Swirl Flow Generated by the Combination of Pipe Elements” ,PVP2013-97657 [6] K. Yoneda, R. Morita et al. ““Quantitative Evaluation of Effective Factors on Flow Accelerated Corrosion (Part2)- Evaluation of Wall Thinning Profile in Piping Elements-““,CRIEPI Research Report L07015 , June , 2008[7] K. Yoneda, R. Morita et al. ““Investigation of Flow Characteristics Affecting on Pipe Wall Thinning (Part 1)- Turbulent Properties at Orifice Downstream in Single-Phase Flow““,CRIEPI Research Report L05007 , July , 2006 (平成25 年6 月21 日)“ “配管要素の組み合わせにより発生した旋回流の 配管減肉に与える影響について “ “山本 啓,Kei YAMAMOTO,鈴木 翔太,Shota SUZUKI,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,米田 公俊,Kimitoshi YONEDA,渡辺 瞬,Syun WATANABE“ “配管要素の組み合わせにより発生した旋回流の 配管減肉に与える影響について “ “山本 啓,Kei YAMAMOTO,鈴木 翔太,Shota SUZUKI,中村 隆夫,Takao NAKAMURA,米田 公俊,Kimitoshi YONEDA,渡辺 瞬,Syun WATANABE