WOLおよびDMW PD資格試験の実施方法について

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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
2000年に日本機械学会から維持規格(JSME S NA1-2000) が発行され、2005年には、PD (Performance Demonstration) 試験について定めた日本非破壊検査協会規格(NDIS0603:2005)が発行され、日本のPD資格試験制度が開始されることとなった。一般財団法人 電力中央研究所 PDセンター(以下PDセンター)は、2006年3月から、オーステナイト系ステンレス鋼配管突合せ溶接部に発生したき裂の高さ(深さ)測定に関するPD試験(以下SUS-PD)のPD資格試験機関およびPD試験センターとして、日本非破壊検査協会(JSNDI)から認定を受け、試験を実施している[1]。 PD試験制度は、当面必要性が高く、かつ高い技術レベルが必要とされた部位を優先する、という考え方で整備が進められている。このため上記の通り、まずはステンレス鋼配管のSCC深さ測定を優先して整備された。 その後、施工計画があったことから、SCC補修工法の一つであるウエルドオーバーレイ(WOL: Fig.1(a))に対するPD資格試験(WOL-PD)の検討が進められ[2][3]、さらに損傷事例があり[4]、かつ探傷難易度が高い異種金属溶接部(DMW:Fig.1(b))に対するPD資格試験(DMW-PD)の検討が進められている。



本報告では、これらのPD試験制度の準備状況と想定している試験実施体制、試験内容などについて報告するものである。


Crack
WOL





Pipe

Original
Butt Weld


Butt weld
(a) Weld Overlay
Butter

Stainless Steel



Crack

Low alloy Steel


Cladding



(b) Dissimilar Metal Weld
Fig.1 Overview of Weld overlay and Dissimilar Metal weld

2.PD試験実施体制
WOLの場合は、SCCが検出され、その深さ測定などを経て、補修工法としてWOLが選択された場合に初めてWOL-PD資格が必要となる[5]。このため、当面の受験者は少なく、WOL施工の可能性が示された時点で、受験希望があると想定している。
一方で、DMWについては、ISIで損傷が検出された場合に、直ちに必要な資格であることから、事前に資格を取得しておく必要がある。しかし、DMWはSCC対策工事が進んでいることなどから、必要な試験技術者数はやはり少ないと考えられる。
これらのことから、これらのPD試験を、現状のSUS-PD試験と同様に、国内で試験体を含む試験体制・設備すべてを準備することは経済的に適切ではない。このためこれらのPD試験は、試験体をすでに多数保有している米国EPRI (Electric Power Research Institute) NDEセンターを活用する案が浮上した。
EPRIのPD資格(以下 EPRI PDI)をそのまま活用する案もあるが、日本の継手形状や独自要求の反映が難しく適切とは言えない。またEPRI PDIを取得するためには、手順書の認定に多大な労力が必要であり、受験者が少数の場合には、コストが増大することが予測される。
このためEPRIの試験体、試験会場を借用する形で日本のPD試験制度を運用することが選択された。
これらをまとめたものをTable1に示す。

3.準備状況
3.1 WOL-PD試験
WOL-PDおよびDMW-PD資格試験の実施予定内容は、Table1の通りである。WOL-PDについては、規格および試験体等の準備が完了し、PDセンターおよびEPRIの内部マニュアル類の整備、資格試験機関としての承認取得、および具体的な準備作業を残すのみである。
WOL-PD試験は、EPRIの保有する試験体を活用することとしている。この試験体の妥当性については、超音波探傷の難易度等を評価し、EPRI試験体を使用しても問題ないことを確認している[3]。また試験に使用する試験体は、日本国内で施工の可能性があるBWRプラントの原子炉再循環系配管の母管を模擬したものを含めることができることを確認している。
WOL-PD試験の場合には、従来のSUS-PDと異なり、きずの検出も含められている。これは、WOLの場合には、きず検出であってもき裂の先端を検出することが必要であり、従来のSUS-PDと同様な高い技量が求められているためである。
きず検出の場合には、その採点方法にASME[6]と同様のGrading Unit (採点単位:きず部、無きず部)という考え方が採用されており、これはきずを検出したか否かの判定に使うものである。例えば、あるきずに対し、受験者が少し位置のずれた位置で検出したとする。この場合に、「検出したが、位置がずれていた」と考えるか、「欠陥未検出があり、また欠陥の誤検出があった」と考えるか、の判定をするものである(Fig.2)。Grading Unitは、試験体を受験者にはわからない小さな単位に区分したもので、1つの試験体を、多数の欠陥のあるGrading Unit(きず部)と欠陥のないGrading Unit(無きず部)に区分したものである。採点にあたっては、受験者が検出したきずの位置および範囲をGrading Unitにあてはめ、きず部と無きず部を正しく判定しているかによって、そのきずを検出したかどうかを判定している。このGrading Unitの区分は受験者には一切知らされず、1つの試験体がいくつに区切られているかも知らされない。また単純な格子状に配置しているものでもない。EPRIが長年にわたって実施してきたPD試験の結果を反映したノウハウであり、正しく受験者の技量を評価することを主眼として、Grading Unitの区分が定められているため、これをそのまま採用することとした。
真の欠陥位置

未検出
誤検出
検出した欠陥位置
探傷面から見た図
(Cスコープイメージ)
Grading Unitで区分して採点

正解
Fig.2 Image of Grading Unit


このような考え方を反映した検出の採点基準は、Table2 (NDIS0603:2013 附属書B 表B.1)の通りであり、ASMEとも整合している。同様に、長さおよび深さ測定についても、ASMEと整合させており、各々RMSE3.2mm、RMSE19mm以内を判定基準としている。なお、きず

Table2 Acceptance Criteria of Detection Test
きずの検出
きずの誤検出
きず部の

最低必要
検出数
無きず部の

最大許容
誤検出数
1900/01/04
5
1900/01/09
0
1900/01/05
1900/01/05
1900/01/11
1
7
6
1900/01/13
1899/12/31
1900/01/07
1900/01/06
1900/01/15
1900/01/01
1900/01/08
1900/01/06
18
2
10
8
20
1900/01/02
11
9
22
3
12
9
1900/01/23
3
13
10
26
1900/01/03
14
10
1900/01/27
1900/01/04
15
11
30
5
16
12
32
6
17
12
34
6
18
13
36
1900/01/06
19
1900/01/12
38
7
20
14
40
8

の検出の場合には、きず種別も正しく判定することが求められている。
また、実際の試験の運用にあたっては、EPRIの試験体および試験会場を使用することから、試験体情報の守秘協定や、試験実施記録、採点結果等の保管に関する問題、試験の実際の運用や採点を行う試験員の職責や業務分担などの問題が多数ある。これらについては、EPRIとPDセンターで協議を重ねており、近々最終的な合意が得られる見込みである。

3.2 DMW-PD試験
DMW-PD試験については、その根拠となるNDISの改正作業が進行中である。DMW-PD試験は、実機で正しく評価されなかった例のある、き裂深さ測定が対象となる予定である。
WOLと同様にEPRIの試験体を活用してPD試験の実施を計画している。しかし、EPRIで保有している試験体は、米国内のプラントを模擬したものなどが多く、日本仕様の試験体を準備中である。
Table1 Outline of WOL-PD and DMW-PD Administration (assumption)
試験種別
SUS-PD
WOL-PD
DMW-PD
規程
NDIS0603:2005 附属書
(NDIS0603:2013 附属書A)
NDIS0603:2013 附属書B
準備中
内容
き裂深さ測定
きず検出および
深さ・長さ測定
(原配管厚さの75%tを超える部分のきず検出および長さ,深さ測定)
き裂深さ測定(予定)
資格試験機関
電中研 PDセンター
電中研PDセンター(予定)
電中研PDセンター(予定)
試験員
PDセンター職員等
PDセンター職員および
EPRI PDI監視員
PDセンター職員および
EPRI PDI監視員
試験場所
日本国内
EPRI NDEセンター
(米国 Charlotte)
EPRI NDEセンター
(米国 Charlotte)
試験体
日本国内で整備
EPRI試験体を使用
(一部日本仕様試験体を含む)
EPRI試験体を使用
(一部日本仕様試験体を含む)
試験時期
年数回 定期的に実施
受験希望者と調整
受験希望者と調整
判定基準
(深さ測定)
・RMSE 3.2mm以内
・-4.4mmを下回る測定値のないこと
(検出) Table2の通り
(深さ測定)
・RMSE 3.2mm以内
(長さ測定)
・RMSE 19mm以内
(原配管厚さの75%tを超える長さ)
検討中
受験資格
UTレベル2相当以上保持
附属書A資格の保持
検討中
現在、NDISの改正作業が進められており、実際の試験実施状況が見通せた段階で改めて報告する。


4.まとめ
WOLおよびDMWのPD資格試験は必要性高いものの、想定される受験者数が少ないことから、EPRIの試験体および試験会場を活用することを前提として、準備を進めている。
WOL-PD試験では、新たにきず検出が加わることもあり、PD試験で進んでいる米国EPRIのノウハウを最大限活用した試験方法を採用した。
また日米の異なる資格試験制度の特徴を活かし、かつ求められる技術レベルを維持することを目的として試験準備を進めている。
DMW-PD資格試験については、2015年に第1回資格試験を実施することを想定して準備を進めている。










参考文献
[1] 渡辺恵司、東海林一、秀耕一郎“PD 資格試験開始から6年の実施状況”、日本保全学会 第9回学術講演会予稿集、東京、2012
[2] 社団法人 日本非破壊検査協会 : 日本非破壊検査協会規格「超音波探傷試験システムの性能実証における技術者の資格および認証(NDIS 0603:2013),平成25年1月31日
[3] 東海林一、秀耕一郎、渡辺恵司“ウエルドオーバーレイ施工部に付与された各種人口欠陥の応答性評価”日本保全学会 第9回学術講演会予稿集、東京、2012
[4]”大飯発電所3号機の定期検査状況について(原子炉容器Aループ出口管台溶接部の傷の原因と対策)” 関西電力プレス 2008年9月26日
[5] 経済産業省原子力安全・保安院:発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令の解釈について(別記-13 ウェルドオーバーレイ工法の適用にあたって), 平成23・09・09 原院第2 号, 平成23 年10 月7 日
[6] The American Society of Mechanical Engineers : ASME Boiler and Pressure Vessel Code, Section XI , Appendix VIII 2007 edition


(平成25年6月21日)



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