PD 資格試験開始から7年の実施状況

公開日:
カテゴリ: 第10回
1. はじめに
電力中央研究所材料科学研究所PDセンターは、日本非破壊検査協会規格NDIS 0603の附属書に従い、2006年3月より軽水型原子力発電所のオーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部におけるき裂高さ(深さ)測定のPD資格試験を実施している。
受験者数(人)
これまでに2012年1月までのPD資格試験結果を報告[1-6]した。今回は2013年1月までのPD資格試験結果に加え、これまでのPD資格試験結果における受験者の傾向について報告する。

2. PD資格試験の実施状況
2005年 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期
2.1 PD資格試験の実績及び結果
PD資格更新の最大期間は5年であるため、2010年度下期より新規試験、再試験に加えて再認証試験を実施している。2012年度は3回のPD資格試験を実施し、延べ4名が受験した。これより2006年3月の試験開始以降の累計受験者数は89名となった。また、再受験や再認証試験による重複を除く実際の受験者数は48名となった。2012年度の3回のPD資格試験にて合格基準に達したのは0名で、再認証も含めた合格基準に達した者は延べ44名である。2006年3月からのPD受験者数と結果の推移をFig.1に示す。Fig.1より、2006年度上期をピークに受験者数が減少しているものの、その後は2012年下期までほぼ一定の受験者数で推移していることがわかる。
連絡先:(一財)電力中央研究所 材料科学研究所PDセンター
〒240-0196 神奈川県横須賀市長坂2丁目6-1
http://criepi.denken.or.jp/ pd/index.html

他方、2013年3月末までの再認証試験受験対象者が22名であるが、これまでの再認証試験受験者は11名であり、このうち合格基準に達した者は7名であった。
00.10.20.30.40.50.60.7010203040506070PA+ 固定角PA固定角UTその他合格率人数SCC深さ測定で使用する主な手法全受験者合格者(再試験含む)合格率PD資格取得者の半数以上が再認証試験の未受験もしくは不合格によりPD資格を失効させていることがわかる。
PD資格試験開始から7年間における各々の受験種別(新規受験、再受験及び再認証受験)のSCC深さ測定値のRMSEをTable.7に示す。RMSEは(1)式で表されるもので、PD資格試験の合否判定に用いられている。 RMSE=..Σ(.........)2....==1....12…(1)

mi : SCC深さ測定値
ti:SCC深さの真とする値 n:試験体数

2.2 PD資格試験結果と探傷手順
Fig.2はこれまでのPD試験で使用された探傷手順とその結果を示す。図中の受験者数は累計人数である。Fig.2における「固定角UT法」は手動超音波探傷器と横波,縦波及びモード変換波用探触子を組合せた手順、「改良UT法」は固定角UT法にフェーズドアレイ探傷法(PA法)を組み合わせた手順、「PA法」はPA法を主とする手順をそれぞれ示す。Fig.2より改良UT法での受験者、合格者及び合格率が他の方法のそれより高いことがわかる。PD資格試験初期に数名いた手動UT法による合格者は、PD資格失効もしくは再認証試験にて改良UT法に切替えて受験していることから、現時点で固定角UT法によるPD資格保有者はいない。またPA法による受験者数、合格者は数名程度いるが、改良UT法のそれらよりはるかに少ないことがわかる。しかしながら、昨今のPA探傷装置の性能向上、探傷者自身がPA法に慣れたこと及びPA法により得られた探傷結果の扱いの向上により、今後PA法による受験者、合格者は増える可能性は大きいものと思われる。

Fig.3 PD資格試験時期とSCC深さ特定手法
Table.1 これまでの受験者と合格者の試験結果
年度
上/下期
試験回数
新規/再認証受験者
再受験者
受験
合格
RMSE*




RMSE*
新規
再認
新規


2006/03/01
2
8

3

3.33
1
0

2006

7
18

6

1900/01/04 6:00:00
1900/01/10
5
1900/01/01 22:04:48

1900/01/02
3

1899/12/31

3.76
3
2
1900/01/01 0:57:36
1905/06/29

1900/01/02
1900/01/03

0:00:00

5.13
4
3
2.19

1900/01/02
3

1

3.88
2
1899/12/31
2.57
2008

3
1899/12/31

0


3
2
1.73

2
1

1


2
2
1.49
2009

1900/01/01
3

3

1.75
1
1


1
2

0

4.88



2010

2
2

1

2.49
2
2
1.28

1

2

2
1.92
1
1

2011

2
1
2
1
1
2.58




3
1
5
1
4
2.79



2012

1
1

0






2

2

0

1
0

計 37回
48
11
18
7
3.92
30
19
2.4
* :受験者のRMSE平均(1名以下の場合は示さず)
PD資格試験前期(試験開始~2008年度)と後期(2009年度~2013年1月まで)において、SCC深さ測定値を最終判定した探傷手法による分類を受験者全体及び合格者内でまとめた結果をFig.3に示す。全ての期間において、固定角UT法よりPA法がSCC深さの最終判定手順として多用されていること、さらにPD資格試験後期におけるSCC深さの最終判定でのPA法の比率がPD資格試験前期のそれに比べ大きくなっていることがわかる。このPA法の比率の増大は、PA法により得られた探傷データの解析技術などが向上し、エコー識別性や画像表示の点で他の方法より優れたPA法に重点を移しているためと考えられる。

Fig. 2 手順書記載の手法別の受験者数・合格率
図4BW.tifC:\Documents and Settings\WATANABEKeiji\デスクトップ\保全学会第10回学術講演会\梗概図3.tiff合格者及び不合格者それぞれにおけるSCC深さ測定値を最終判定した探傷手法の統計値をまとめたものがFig.4である。固定角UT法での最終判定の場合、合格者と不合格者の間での標準偏差に大きな差がみられるが、誤差平均に大きな差が見られなかった。これは、探傷者の技量の差異に起因した正負両方向への誤差が主たる原因であると考えられる。

Fig.4 SCC深さの最終特定手法による
誤差平均及び標準偏差
一方でPA法での最終判定の場合には、標準偏差と誤差平均ともに合格者と不合格者の間で大きな差がみられた。特に、PA法にて最終判定を行なった不合格者の誤差平均が、合格者のそれに比べかなり大きくなっている。これは、探傷作業により得られたデータを評価するさいに、端部エコーを正しく見極めることができず、画面表示感度を上げるなどを行い、より深い位置にある材料ノイズを端部エコーと取違えたことが主な原因であると推測される。
2.3 PD資格試験結果と受験者年齢
Fig.5は、受験者及び合格者の年代別にSCC深さの値を最終判定した探傷手法を分類した結果である。20~30歳代では受験者・合格者ともにPA法による最終判定が殆どであるが、40歳代では固定角UTによる最終判断の比率が若干大きいことがわかる。しかしながら、50歳代の受験者における固定角UTによる最終判断の比率が40歳代のそれとほぼ同じであるが、50歳代の合格者では固定角UTによる最終判断の比率が小さいことがわかる。これより、若い世代の方がPA法の扱いに習熟しており且つPA法に重点を置いて判断していると考えられる。一方で、経験豊富な世代でもPA法による探傷結果をうまく使うことが試験合否のポイントであると考えられる。

Fig.5 受験者年代別のSCC深さの最終特定手法
2.4 PD資格試験不合格者の動向分析
PD資格試験の合格基準は以下の①及び②である。
① SCC深さ測定値のRMSEが3.2 mmを超えない ② SCC深さ測定値は真とする値に対し4.4 mmを超えて下回らない
Fig.6は不合格者の原因を分類した結果をまとめたものである。上記の合格基準の②のみ逸脱した者は不合格者全体の19%と少なく、不合格の主たる原因が①の基準の逸脱に因ることがわかる。

Fig.6 PD資格試験不合格者の原因分類
-10123456781時間未満1以上1.5時間未満1.5以上2時間未満2以上2.5時間未満2.5以上3時間未満3以上3.5時間未満3.5以上4時間未満4時間以上RMSE,誤差平均(mm)探傷時間誤差平均(合格者)誤差平均(不合格者)RMSE(合格者)RMSE(不合格者)現行のPD資格試験では口径別又は肉厚別の3種類の試験体を用いて10個のSCC深さを測定する。このため前述の(1)式より、+10.1mm以上の誤差があるSCC深さ測定値が存在すると①の基準を逸脱することになる。Fig.6より、不合格者の約半数が+10.1mm以上の誤差があるSCC深さ測定値を回答していることがわかる。さらに、+10.1mm以上の誤差があるSCC深さ測定値の回答のみでの不合格者は不合格者全体の32%であり、②の基準の逸脱に因る不合格者の割合(19%)より大きいことがわかる。これより、②の基準逸脱に対して警戒するあまりに過大評価となったため不合格となる傾向が見受けられる。
Fig.7は合格者・不合格者各々の誤差平均及びRMSEを探傷時間毎にまとめたものである。合格者の場合、探傷時間が長くなるとRMSEが若干増加する傾向にあるが、概ね妥当な値を測定し誤差平均もほぼゼロであることがわかる。一方不合格者の場合には、3.5時間以上の探傷時間で誤差平均が大きく+側の値になること、さらに探傷時間が長くなるとRMSEが増加することが見られる。この原因として、探傷中の端部エコーの選定に多大な時間を費やしているが曖昧な状態で選定していることが考えられる。
以上のことから、PD資格試験の不合格の多くは端部エコーの選択が正しくできず、時間をかけて試行してみるものの、自らの選択に自信が持てずに②の基準逸脱を過度に警戒し、深いエコーを選択していることがわかる。

3. まとめ
オーステナイト系ステンレス鋼配管溶接部に発生するき裂の深さ測定に関するPD資格試験を開始してから7年が経過した。これまで、計37回の試験を実施し、再認証者も含めた合格基準に達した者は延べ44名となった。これまでの試験結果の解析で得られた結果は以下の通りである。
1) 現行のPD資格試験ではフェーズドアレイ法と手動探傷を組み合せた手順書による受験者が最も多く、その合格率も高い。

Fig.7 探傷時間毎の誤差平均及びRMSEの推移
2) SCC深さの最終判定でも、受験者及び合格者の年代を問わずフェーズドアレイ法が多く用いられている。特に最近ではPA法の結果を最終の判定値とする傾向が高い。
3) PD資格試験の不合格の多くは、端部エコーが正しく選択できずに時間をかけて試行してみるものの、自らの選択に自信が持てずに合否判定基準「SCC深さ測定値は真とする値に対し4.4 mmを超えて下回らない」の逸脱を過度に警戒し、深いエコーを選択している。
参考文献
[1] 笹原,直本,秀,神戸 “PD資格試験開始から一年の実施状況” 第4回保全学会予稿集,福井,2007.
[2] 直本,笹原,秀 “PD資格試験開始から2年の実施状況” 第5回保全学会予稿集, 水戸, 2008.
[3] 秀,笹原,直本,渡辺 “PD 資格試験開始から4年の実施状況” 第7回保全学会予稿集, 静岡, 2010.
[4] 渡辺,笹原,東海林,秀 “PD 資格試験開始から5年の実施状況” 第8回保全学会特別編予稿集, 東京, 2011.
[5] 笹原,直本,秀,井上 “SCC深さ測定のPD 試験受験者の技量評価” 保全学, Vol.9 No.1, p.44, 2010.
[6] 渡辺,東海林,秀 “PD 資格試験開始から6年の実施状況” 第9回保全学会予稿集, 東京, 2012.

“ “PD 資格試験開始から7年の実施状況 “ “渡辺 恵司,Keiji WATANABE,東海林 一,Hajime SHOHJI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE“ “PD 資格試験開始から7年の実施状況 “ “渡辺 恵司,Keiji WATANABE,東海林 一,Hajime SHOHJI,秀 耕一郎,Koichiro HIDE
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