ガイド波を用いたエルボ管の欠陥位置推定における 誤差に関する基礎的研究

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カテゴリ: 第10回
1.諸 言
現在配管の検査には,配管の肉厚方向に超音波を伝搬させて探傷する超音波探傷法(Ultrasonic Testing:UT)法が主な検査手段として用いられている[1]。UT 法は肉厚の定量に長けているが,検査範囲が狭く,大量の配管の検査に非常に多くの時間とコストがかかることが問題である。 上記の背景から効率的な検査方法として配管の長手方向に長距離伝搬するガイド波[2-4]を用いた手法が注目されている。ガイド波とは,広義には材料表面や平板,棒状材料,鉄道レールなどの長手方向に伝搬する超音波のことである[5]が,狭義には配管を伝搬する超音波ことである。ガイド波は一般に伝搬モードが無数に存在し,それぞれが速度分散性を持つため,取扱う上で厄介な問題も発生するが,エネルギーの散逸が少なく遠方まで伝搬可能なため,利用上大きなメリットを有している。さらに速度分散性の無いT(0,1)モードガイド波を選択的に励起検出して用いることが一般的であるが,こうすることで実用上の使い勝手は向上している。 本報告では,T(0,1)モードガイド波を用いた配管 N の欠陥位置推定において,エルボ管(ショート・ロング,50Aと100A)で行った実験結果として30, 40, 50 kHzの場合を示す。結果,エルボ部を伝搬するガイド波では周波数毎に時間遅れが発生すること確認できた。この時間遅れを補正すれば,精度の高い位置評定が可能であることを示す。
1900/01/01
実験 1900/01/01 2:24:00実験条件と試験配管 図1に実験配置図を示す。T(0,1)モードガイド波の励起には圧電式リング型センサーを用いた。試験体には,直径60.5 mm,肉厚3.9 mmの50Aアルミニウム配管にロングエルボあるいはショートエルボを溶接したもの(以下それぞれ50Aロング,50Aショートと呼ぶ),また直径114.3 mm,肉厚6.0 mm
100Aアルミニウム配管にロングエルボを溶接したもの(以下100Aロング)を用いた。エルボ部の中心軸に沿った長さは50Aロング,1900/02/18Aショート,100Aロングでそれぞれ1900/04/29,80,239 mmである。用いたガイド波はT(0,1)ねじりモードで周波数は1900/01/29, 1900/02/08, 50 kHzとした。本実験では模擬欠陥として締付バンドを使用し,図1899/12/31の①から⑩の位置に設置して反射波の伝搬時間を求め,Time-of-Flight法により欠陥位置を推定した。推定位置と実際の位置との比較を行うことで,減肉位置の推定に関して考察を行った。
Weld line③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩①②ReceiverTransmitter
図1実験配置図

2.2 T(0,1)モードの音速測定
Time-of-Flight法による管軸位置の推定では,T(0,1)モードガイド波の音速(群速度)が必要である。ここでは実験で用いたエルボ管1900/01/02種類の直管部を用いて音速測定を行なったので示す。音速測定では,図1899/12/31のエルボ管左端から2420mmの位置に圧電式リング型センサーを設置した。図2に50Aロングの直管部で得られた包絡線時間波形をしめす。包絡線時間波形は,RF時間波形にWavelet変換を施すことで得ている。信号AはTransmitterから30 mmだけ離れたReceiverでただちに検出される信号で,信号Bは左端の反射信号である。AとBの伝搬時間差 .tとエルボ管左端とReceiver間の距離L == 2420mmから音速は2L/.tで求めた。T(0,1)モードガイド波は周波数によらず音速一定の非分散特性を有する波動である。実験では,周波数1900/01/29, 1900/02/08, 50 kHzで測定して,その平均値をその配管の音速値とした。表1に,実験で求めた音速値を示した。各配管で見ると周波数による音速差は0.01以下で有ることが確認できた。表1の音速値は,Time-of-Flight法による模擬欠陥の管軸位置推定に用いた。
2.52.01.51.00.50.0Amplitude (V)1.51.00.50.0 Propagation time (ms)AB
図250Aロングエルボ配管のwavelet波形


表1899/12/31各配管における波の群速度
50A
100A
Long
Short
Long
3139±7 m/s
3126±9 m/s
3147±12 m/s


3.実験結果と考察
図1900/01/02(a), (b), (c)に50Aロングで得られたRF時間波形として30 kHz, 40 kHz,と50 kHzの場合を示した。①から⑩は,図1899/12/31の模擬欠陥位置に対応している。①から⑩の全ての波形で見られる0.4 ms近傍の1900/01/01つの波束は,エルボ部前後の溶接線での反射信号である。図中で番号によって移動している波は,模擬欠陥での反射信号である。エルボ部やその溶接線近傍である④から⑤では,反射信号は不明瞭であることが確認できる。
図4(a), (b), (c)には,図3(a), (b), (c)に対応するWavelet包絡線信号をそれぞれ示した。ただし,包絡線を求める前に模擬欠陥信号を溶接線信号から分離し,明瞭にするために各①から⑩のRF時間波形から欠陥のないRF時間波形を差分した波形に対してWavelet包絡線信号を求めている。模擬欠陥での反射波の伝搬時間は,図4のピーク値から求めた。
図5, 図1900/01/05, 図7にそれぞれ50Aロング,50Aショート,100Aロングにおける欠陥位置推定結果をそれぞれ周波数別に示す。横軸に実際の減肉位置を管軸の中心線に沿った距離として示した。縦軸はガイド波による推定位置(管軸中心線距離)である。全ての図中に示した斜め45の直線は,減肉位置と推定位置が一致する線を示した。①から④のエルボ手前部では偏差の小さい良い推定がなされているが,エルボ部以降では推定値の偏差が大きく,また45の線から一定値だけ後方に評定されている。以下,エルボ部手前とその先に分けて考察する。


302520151050Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩
(a) 30 kHz
151050Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩①
(b) 40 kHz
1086420Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)⑦⑩①②③④⑤⑥⑧⑨
(c) 50 kHz
図3RF時間波形
14121086420Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩
(a) 30 kHz
1086420Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩
(b) 40 kHz
86420Amplitude (V)1.00.80.60.40.20.0 Propagation time (ms)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩
(c) 50 kHz
図4Wavelet波形

①から④のエルボ部手前の位置評定は,直管部における評価である。表2に,実際の欠陥位置に対する推定位置の誤差の平均値と標準偏差を配管別および周波数別に示した。
50Aショートの30 kHzの場合で23.4±4.0 mmと比較的大きな推定誤差が確認されたが,それ以外は7.0 mm以下と良好であった。評定誤差は,推定値である伝搬時間に最も大きく依存すると思われる。ここで伝搬時間はTransmitterに隣接(距離30 mm)する。Receiverで直ちに検出される信号A(図2参照)を基準に模擬欠陥での反射時間を計測している。ここに信号Aの伝搬距離が短いことで十分にガイド波として成長していない波動として検出されることで,基準時刻である信号Aの計時に誤差が多く含まれる可能性があること,また波長の長い30 kHzでは,上記の理由による誤差が大きくなる可能性があることが,原因の一つとして考えられる。しかし詳細は不明であり,今後の課題である。
次にエルボ先の⑥から⑩の評定結果を見ていく。表3に,実際の欠陥位置に対する推定位置の誤差の平均値と標準偏差を配管別および周波数別に示した。この場合では,全てにおいて評定結果が実際の欠陥位置よりも一律に後方に位置している。ここで実験に使用した3つの配管の30, 40, 50 kHzにおける⑥から⑩のデータに対して最小二乗近似直線を求めその傾きを求めてみると,その平均と偏差は0.954± 0.072ときわめて1に近くなった。傾きが1であることは,一律に後方に位置していることを定量的に示しており,エルボ先もT(0,1)モードガイド波が,その音速で伝搬していることを示している。各図中の点線は,傾き1の拘束条件付きで求めた最少二乗近似直線を示している。一方で評定結果が後方に位置するのは,エルボ部でのガイド波の遅れ時間が,周波数別・配管別に発生していると考えるのが妥当である。この原因として,エルボ伝搬や溶接部による波動の乱れや高次モードの発生が考えられる。この発生理由の解明には波動シミュレーションによる解析を行う予定である。いずれにしても,エルボ先では,表3に示す誤差分だけ補正することで比較的高い精度で欠陥位置評定が可能である。



図5 50Aロングエルボ配管における推定位置



図650Aショートエルボ配管における推定位置




図7100Aロングエルボ配管における推定位置




表2それぞれの配管における各周波数による
エルボ手前部の推定誤差と偏差

50A long
50A short
100A long
30 kHz
-4.9±5.5 mm
23.7±4.0 mm
7.4±5.7 mm
40 kHz
1.5±2.3 mm
3.3±9.7 mm
4.3±6.7 mm
50 kHz
4.7±2.3 mm
6.6±3.1 mm
5.6±4.0 mm

表3それぞれの配管における各周波数による
エルボ越え部の推定誤差と偏差

50A long
50A short
100A long
30 kHz
85.6±9.7 mm
112.2±51.7 mm
143.0±25.0 mm
40 kHz
65.9±8.8 mm
67.6±16.1 mm
102.2±27.0 mm
50 kHz
61.7±8.7 mm
69.5±13.3 mm
125.8±11.9 mm

4.結言
本報告では,エルボ管に導入した模擬欠陥に対し,T(0,1)モードガイド波による軸方向位置の評定を行った。直管部における位置評定では,比較的高い精度での位置評定が可能であることを示せた。ただし,Time-of-Flight法による位置評定では,伝搬時間の決定方法が重要であり,高精度な計測は今後の課題である。エルボ部においては,ガイド波に時間遅れが発生することを実験的に示した。また発生する時間遅れは周波数,エルボの形状,配管の寸法によりそれぞれ違うことを示した。確認できた時間遅れを各周波数,各エルボで補正値として使用することで,エルボ先の欠陥においても比較的高い精度で欠陥位置評定がされることを示した。

参考文献
[1] 発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格JSME S CA1-2005, 日本機械学会.
[2] 非破壊検査,ガイド波による探傷,52-2003
[3] 非破壊検査,ガイド波による探傷Ⅱ, 54(2005)
[4] 非破壊検査,ガイド波による探傷III, 61-2012
[5] JIS Z2300 非破壊検査用語集


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