熱疲労割れ破面の電気的接触度評価
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
高サイクル熱疲労割れは原子力プラントにて発生しうる主要経年劣化事象の一つである。高低温水合流部等における温度ゆらぎの制御が熱疲労割れの抑制のために肝要であるが、実務的観点からは、併せて、発生した熱疲労割れの検出・評価のための非破壊検査技術の開発も重要な事柄である。 一般的に熱疲労割れはき裂先端が鋭く、また開口幅が狭いという特徴を有するため[1]、非破壊検査技術による検出及び評価が必ずしも容易では無いとされている。既存技術で検出及び評価が容易ではないきずに対しては、異なる物理現象に立脚した複数の非破壊検査技術の融合が有効であることが示唆されており[2]、よって従来きずの評価に主として用いられてきた超音波非破壊検査に加え、電磁非破壊検査の観点から熱疲労割れの振舞いについての検討を進めることは、原子力プラントの保全活動の高度化という観点からの意義は大きいと考えられる。 先行研究において直流電位差法[3]及び渦電流探傷法[4]の観点からの熱疲労割れの分析が行われ、熱疲労割れの破面の電気的接触は比較的小であることが明らかとされた。しかしながら、いずれにおいても評価は破面全体で接触の度合いが一様と仮定されており、破面の電気的接触の局所的な分布については評価がなされていない。一般的に割れは割れ先端にゆくにつれ接触の度合いが大と
なるため、先端深さを評価する必要があるきず深さサイジングにおいては特に、接触の分布の有無及びその度合いの定量的評価は重要である。 以上の背景に基づき、四端子法により熱疲労割れ破面の電気的接触を直接測定することを試みた。得られた試験結果、及び試験結果に基づく熱疲労割れと応力腐食割れの電気的接触の差異について、本報において報告する。 2材料と方法 2.1熱疲労割れ試験体 本研究においては、厚さ25mmのInconel600平板に対して導入された3体の熱疲労割れ、及びSUS316L平板に導入された4体の熱疲労割れを対象とした。熱疲労割れは高周波誘導加熱と水噴射による冷却により繰り返し熱ひずみを与えることで人為的に導入されたものであり[5]、各きずの表面長さと、破壊試験により明らかとなった最大深さはTable 1にあるとおりである。 22四端子法による電気的接触測定試験 四端子によるきず破面の電気的接触評価のために用いる試験体の製作手順をFig. 1に示す。ワイヤーカットによって割れを数mm間隔で切断し樹脂に埋め込んだ後、ファインカッターによって樹脂ごと試験体を切断することで、中央部に熱疲労割れが貫通している柱状試験体を製作した。前述のように割れ破面接触の深さ方向分布を評価することを目的として、比較的きずが深いInconel600平板に導入した熱疲労割れからは、図に示すように、柱状試験体はきず開口部と先端部の2箇所から取り出した。 柱状試験体の抵抗測定に用いたのは、日置電機株式会社製抵抗計3531及び四端子リード9453であり、電圧測定端子の間隔は6.15mmとした。試験体材料及び形状によらない議論のため、別途測定された母材の導電率及び柱状試験体の断面積を用いて、疲労割れ破面の単位面積当たりの抵抗値相当の値[6]に換算を行った。 Table 1Thermal fatigues considered in this study Flaw ID Material Length [mm] Max. Depth [mm] A Inconel 26.47.3B Inconel 93.2C Inconel 27.27.1D SUS316L 9.42.1E SUS316L 9.12.3F SUS316L 8.52G SUS316L 9.12.1C:\Users\Yusa\Documents\委託業務\2012\NISA\報告書\preparation.gifFig. 1Protocol to prepare samples 3.結果と考察 得られた測定結果をFig. 2にまとめる。図中横軸のsample IDとあるのは柱状試験体の固有番号であり、最初の記号がTable 1に示したどの割れからのものかを示している。また、白抜きの記号はきず先端部から取り出した試験体の測定値である。縦軸は破面の単位面積当たりの抵抗値に相当する値であり、人工スリットのように電気的な接触が0であるきずであれば値は無限大に、また破面が電気的に完全に接触し母材と同一であれば0となる。図中網掛の領域は、文献[6]において報告されている、同様の評価を応力腐食割れに対して実施した場合の測定値の範囲である。図より、熱疲労割れは破面の電気的接触を有し、またきず先端ほど接触の度合いが大ではあるものの、応力腐食割れと比べると電気的接触の度合いは小であることが確認できる。 Fig. 2Electrical resistance across flaw surfaces 4.結言 人工的に導入した熱疲労割れに対して、割れ破面電気的接触の度合い及びその分布を四端子法により測定し、熱疲労割れ破面の電気的な接触は0ではないものの応力腐食割れのものと比べると小であること、また破面にわたって必ずしも一様ではないことを明らかとした。 謝辞 本成果は原子力規制庁からの受託事業である平成23及び24年度高経年化技術評価高度化事業にて得られた成果の一部である。 参考文献 [1] J. Wale, “Crack characterisation for in-service inspection planning . an update”, SKI Report 2006:24, 2006. [2] D. Horn and W.R. Mayo, “NDE reliability gains from combining eddy-current and ultrasonic testing”, NDT&E Int., Vol. 33, 2000, pp. 351-362[3] 遊佐ら, “熱疲労割れの直流電位差法による測定及び分析”, 日本保全学会第9回学術講演会. [4] J. Wang et al., “Discussion of numerical modeling of thermal fatigue cracks based on eddy current signals”, NDT&E Int., Vol. 55, 2013, pp. 96-101[5] M. Kemppainen et al., “Advanced flaw production method for in-service inspection qualification mock-ups”, Nucl. Eng. Des., Vol. 224, 2003, pp. 105-117[6] N. Yusa and H. Hashizume, “Four-terminal measurement of the distribution of electrical resistance across stress corrosion cracking”, NDT&E Int., Vol. 44, 2011, pp. 544-546
“ “熱疲労割れ破面の電気的接触度評価“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,王 晶,Jing WANG“ “熱疲労割れ破面の電気的接触度評価“ “遊佐 訓孝,Noritaka YUSA,橋爪 秀利,Hidetoshi HASHIZUME,王 晶,Jing WANG
高サイクル熱疲労割れは原子力プラントにて発生しうる主要経年劣化事象の一つである。高低温水合流部等における温度ゆらぎの制御が熱疲労割れの抑制のために肝要であるが、実務的観点からは、併せて、発生した熱疲労割れの検出・評価のための非破壊検査技術の開発も重要な事柄である。 一般的に熱疲労割れはき裂先端が鋭く、また開口幅が狭いという特徴を有するため[1]、非破壊検査技術による検出及び評価が必ずしも容易では無いとされている。既存技術で検出及び評価が容易ではないきずに対しては、異なる物理現象に立脚した複数の非破壊検査技術の融合が有効であることが示唆されており[2]、よって従来きずの評価に主として用いられてきた超音波非破壊検査に加え、電磁非破壊検査の観点から熱疲労割れの振舞いについての検討を進めることは、原子力プラントの保全活動の高度化という観点からの意義は大きいと考えられる。 先行研究において直流電位差法[3]及び渦電流探傷法[4]の観点からの熱疲労割れの分析が行われ、熱疲労割れの破面の電気的接触は比較的小であることが明らかとされた。しかしながら、いずれにおいても評価は破面全体で接触の度合いが一様と仮定されており、破面の電気的接触の局所的な分布については評価がなされていない。一般的に割れは割れ先端にゆくにつれ接触の度合いが大と
なるため、先端深さを評価する必要があるきず深さサイジングにおいては特に、接触の分布の有無及びその度合いの定量的評価は重要である。 以上の背景に基づき、四端子法により熱疲労割れ破面の電気的接触を直接測定することを試みた。得られた試験結果、及び試験結果に基づく熱疲労割れと応力腐食割れの電気的接触の差異について、本報において報告する。 2材料と方法 2.1熱疲労割れ試験体 本研究においては、厚さ25mmのInconel600平板に対して導入された3体の熱疲労割れ、及びSUS316L平板に導入された4体の熱疲労割れを対象とした。熱疲労割れは高周波誘導加熱と水噴射による冷却により繰り返し熱ひずみを与えることで人為的に導入されたものであり[5]、各きずの表面長さと、破壊試験により明らかとなった最大深さはTable 1にあるとおりである。 22四端子法による電気的接触測定試験 四端子によるきず破面の電気的接触評価のために用いる試験体の製作手順をFig. 1に示す。ワイヤーカットによって割れを数mm間隔で切断し樹脂に埋め込んだ後、ファインカッターによって樹脂ごと試験体を切断することで、中央部に熱疲労割れが貫通している柱状試験体を製作した。前述のように割れ破面接触の深さ方向分布を評価することを目的として、比較的きずが深いInconel600平板に導入した熱疲労割れからは、図に示すように、柱状試験体はきず開口部と先端部の2箇所から取り出した。 柱状試験体の抵抗測定に用いたのは、日置電機株式会社製抵抗計3531及び四端子リード9453であり、電圧測定端子の間隔は6.15mmとした。試験体材料及び形状によらない議論のため、別途測定された母材の導電率及び柱状試験体の断面積を用いて、疲労割れ破面の単位面積当たりの抵抗値相当の値[6]に換算を行った。 Table 1Thermal fatigues considered in this study Flaw ID Material Length [mm] Max. Depth [mm] A Inconel 26.47.3B Inconel 93.2C Inconel 27.27.1D SUS316L 9.42.1E SUS316L 9.12.3F SUS316L 8.52G SUS316L 9.12.1C:\Users\Yusa\Documents\委託業務\2012\NISA\報告書\preparation.gifFig. 1Protocol to prepare samples 3.結果と考察 得られた測定結果をFig. 2にまとめる。図中横軸のsample IDとあるのは柱状試験体の固有番号であり、最初の記号がTable 1に示したどの割れからのものかを示している。また、白抜きの記号はきず先端部から取り出した試験体の測定値である。縦軸は破面の単位面積当たりの抵抗値に相当する値であり、人工スリットのように電気的な接触が0であるきずであれば値は無限大に、また破面が電気的に完全に接触し母材と同一であれば0となる。図中網掛の領域は、文献[6]において報告されている、同様の評価を応力腐食割れに対して実施した場合の測定値の範囲である。図より、熱疲労割れは破面の電気的接触を有し、またきず先端ほど接触の度合いが大ではあるものの、応力腐食割れと比べると電気的接触の度合いは小であることが確認できる。 Fig. 2Electrical resistance across flaw surfaces 4.結言 人工的に導入した熱疲労割れに対して、割れ破面電気的接触の度合い及びその分布を四端子法により測定し、熱疲労割れ破面の電気的な接触は0ではないものの応力腐食割れのものと比べると小であること、また破面にわたって必ずしも一様ではないことを明らかとした。 謝辞 本成果は原子力規制庁からの受託事業である平成23及び24年度高経年化技術評価高度化事業にて得られた成果の一部である。 参考文献 [1] J. Wale, “Crack characterisation for in-service inspection planning . an update”, SKI Report 2006:24, 2006. [2] D. Horn and W.R. Mayo, “NDE reliability gains from combining eddy-current and ultrasonic testing”, NDT&E Int., Vol. 33, 2000, pp. 351-362[3] 遊佐ら, “熱疲労割れの直流電位差法による測定及び分析”, 日本保全学会第9回学術講演会. [4] J. Wang et al., “Discussion of numerical modeling of thermal fatigue cracks based on eddy current signals”, NDT&E Int., Vol. 55, 2013, pp. 96-101[5] M. Kemppainen et al., “Advanced flaw production method for in-service inspection qualification mock-ups”, Nucl. Eng. Des., Vol. 224, 2003, pp. 105-117[6] N. Yusa and H. Hashizume, “Four-terminal measurement of the distribution of electrical resistance across stress corrosion cracking”, NDT&E Int., Vol. 44, 2011, pp. 544-546
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