疲労き裂面の酸化被膜とマルテンサイト相の 渦電流試験への影響評価

公開日:
カテゴリ: 第10回
1.緒 言
原子力・火力発電所の構造物において、高経年化による疲労き裂が発生している。渦電流探傷法(Eddy current testing : ECT)は、配管・容器・機器の表面に発生するき裂を発見するためには重要な非破壊検査法の一つである。ECTはき裂の検出、き裂の開口長さに有効な検査法であるが、き裂深さの評価には誤差を伴うことが認められている。ECT信号への影響因子として、き裂面の酸化被膜およびき裂発生時の応力によるき裂近傍での磁性の発生があげられる[1]。本研究ではこれらの因子が深さサイジングに与える影響の度合いを定量的に評価する。 具体的にはSUS316の試験体の表面に4点曲げにより深さの異なる疲労き裂を進展させ、熱処理によりき裂面に酸化被膜を生成し、き裂深さサイジングに与える影響を評価する。また、疲労き裂の進展に伴う加工誘起マルテンサイトが生じたき裂近傍を熱処理により逆マルテンサイト変態させ磁性を除去してその影響を評価する。
2.試験片と試験方法
2.1 疲労き裂試験片の作製 試験体の材質はSUS316、大きさは300×75mm2、厚さ20mmで、板の中央にき裂を導入させるため、深さが0.5mm、長さ約12mm、幅0.6mmの切欠きを加工する。 4点曲げによる疲労試験はインストロンジャパン8802型を使用して、内側支点間隔を50mm、外側支点間隔を200mm、最大荷重47.5kN、最小荷重2.5kN、試験周波数を15Hzの正弦波で試験する。 切欠きからのき裂の深さ約0.8mmの予き裂を導入し、表面を0.6mm研削して切欠き部分を取り除き、再び4点曲げによりき裂を進展させ、9個の試験体を作製する。疲労き裂試験体は大気中にて電気炉で加熱温度450℃と600℃で深さの異なる各3個の試験体を24、48、72時間の加熱処理により酸化被膜を充填する。 2.2 疲労き裂試験片の性状 渦電流探傷試験後に破壊試験により試験体の疲労き裂の深さを評価した。疲労き裂深さは、450℃加熱処理の試験体No.1~3がそれぞれ1.2,2.3、4.4mmであり、600℃熱処理の試験体No.4~6がそれぞれ0.9、2.5、4.1mmであった。そのほかに熱処理なしの試験体No.7~9の深さは それぞれ1.1、2.1、3.1mmである。 また、硫酸銅+塩酸+エタノール水溶液によるエッチング処理でき裂断面の組織を観察する。このエッチング処理によりマルテンサイト、オーステナイト、およびフェライトが観察できる。その結果、450℃熱処理ではマルテンサイト、フェライトが多く観測された。これは、4点曲げ試験によるき裂導入時の応力により加工誘起マルテンサイトが発生してき裂周辺に磁性が表れたことを示し、600℃熱処理ではマルテンサイトが観察されていないことから逆マルテンサイト変態が生じたと考えられる。 2.3 渦電流探傷試験 渦電流探傷装置はASSORT PCⅡ(アスワン電子社製)で、使用するプローブは自己誘導自己比較のコイルで二つのパンケーキ型コイルが上下に配置されている。二つのコイルの外径がφ5mm、内径φ2mm、高さ3mmで巻き数は337回巻である。試験周波数を50kHzとし、基準信号を材質SUS316の厚さ15mmの板に加工された深さ1mm、幅0.5mmのEDMスリットの信号を振幅1.0V、最大振幅の位相を90°に設定する。プローブは、疲労き裂に対して直行方向にき裂の中心を距離20mm、測定間隔を0.1mmで走査する。熱処理試験体は熱処理の前後で渦電流探傷試験を行いその信号を比較する。 3.試験結果 3.1 深さ評価結果 Fig.1に深さとECT信号の最大振幅の関係を示す。熱処理なしの信号は相対的に増加を示している。600℃熱処理試験体のき裂信号は加熱前よりも小さく、450℃熱処理は大きくなっている。これは、450℃では酸化物による導電率の変化を、600℃ではき裂近傍の磁性の変化を示していると考えられる。 Fig.2にFig.1より求められた加熱処理なしの試験体の校正曲線より求めた評価深さと真値との関係を示す。熱処理なしでは誤差が0.1mm以下であるが、600℃熱処理後のき裂深さ4.1mmは3.5mmと評価される。また450℃熱処理ではき裂深さ4.4mmが4.8mmと評価された。 4.まとめ SUS316の試験体の表面に4点曲げにより深さの異なる疲労き裂を進展させ、熱処理によりき裂面に酸化被膜を生成した試験片と疲労き裂の進展に伴う加工誘起マルテンサイトが生じたき裂近傍を熱処理により逆マルテンサイト変態させ磁性を除去した試験片を用意しき裂深さサイジングに与える影響を評価した。この結果下記の知見を得た。 1. 酸化被膜は、き裂深さが増すと真値よりも深く評価する可能性があり、き裂深さ4.4mmで10%の誤差が認められた。 2. き裂発生時の加工誘起マルテンサイトによる磁性の影響は、き裂深さの過小評価につながる可能性があり、き裂深さ4.1mmで15%の誤差が認められた。 Fig.1 Relationship of depth and ECT amplitude Fig.2 Relationship of true and estimate depth value 謝辞 本研究は、原子力規制委員会 原子力規制庁からの受託事業である「高経年化技術評価高度化事業」の一部として実施した成果であり、関係各位に感謝の意を表します。 参考文献 [1] Tetsuya Uchimoto, Toshiyuki Takagi, Keitaro Ohtaki, Yoichi Takeda and Akira Kawakami, “Electromagnetic modeling of fatigue cracks in plant environment for eddy current testing”, International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics Vol. 39, 2012, pp. 261.268. (平成25年6月21日)
“ “疲労き裂面の酸化被膜とマルテンサイト相の 渦電流試験への影響評価 “ “浦山 良一,Ryoichi URAYAMA,封 浩,Hao FENG,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI“ “疲労き裂面の酸化被膜とマルテンサイト相の 渦電流試験への影響評価 “ “浦山 良一,Ryoichi URAYAMA,封 浩,Hao FENG,内一 哲哉,Tetsuya UCHIMOTO,高木 敏行,Toshiyuki TAKAGI
著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)