オーステナイト系ステンレス鋼照射ブロック材を用いた照射下ミクロ組織の非破壊検査技術開発

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
高速炉の炉心構造材料として使用されるオーステナイト系ステンレス鋼は、長期間にわたり高温環境下で中性子の照射を受けると、照射中に生成される原子空孔の集合によりボイドスエリングを生じ、材料の寸法変化や劣化を引き起こすことはよく知られており、過大なスエリングが発生すれば変形や応力腐食割れなどの影響が現れる可能性がある[1]。従って、中性子照射によって生じるボイドなどのミクロ組織変化を定量的に評価することは、炉心構造材料の健全性及び余寿命評価を行う上で重要な課題であり、構造材料の信頼性の向上に資する非破壊検査技術の開発が期待される。 超音波法は材料内部の欠陥や損傷を非破壊で評価できる手法として原子力プラントなどにおいて適用例は多く、き裂などの比較的マクロな欠陥の検出に利用されている。 しかし、中性子照射によって材料内部に発生したボイドなどのミクロ組織変化を非破壊で定量的に評価することが課題であった。 本研究では、超音波を用いて照射による構造材料内部のミクロ組織変化を定量的に評価する非破壊検査技術の開発を行った。具体的には、米国高速実験炉であるEBR-II(Experimental Breeder Reactor -II)において反射材として供されてきたオーステナイト系ステンレス鋼照射ブロック材に対して超音波試験を実施し、材料内部に発生したミクロ組織変化を非破壊で定量的に評価した。また、密度測定及び透過型電子顕微鏡により組織観察を実施し、超音波試験によるミクロ組織の定量性について評価した。
2.試験方法
2.1 供試材 本研究で用いた供試材は、米国高速実験炉EBR-IIにて反射材として供されてきた304ステンレス鋼冷間加工材である。Table 1.に未照射材の化学成分を示す。 供試材は、EBR-II炉心第8列で4年間照射され、その後第16列に移動された集合体U9807を構成していたブロ ック材である。U9807はブロック材を格納するラッパー管及び5体の六角形状のブロック材で構成されており、炉心下部に位置していたブロック材から順に、Block 1~Block 5までの番号が付けられた[2]。EBR-IIの炉心高さ位置と各ブロック材の配置の概略図をFig. 1に示す。これら照射ブロック材は、軸位置に依存して照射温度範囲370~420℃で照射され、損傷量は最大33dpaであった[3,4]。また、Fig. 2の面毎の照射量のグラフから、照射ブロック材の3, 6面はほとんど照射量に差がないことから炉心コアに対して同じ向きをしていたと考えられる。本研究では照射温度、照射量に基づいて、最もコアに近く照射量が大きいBlock3を選定し、ミクロ組織の定量を実施した。選定した照射ブロック材の詳細をTable 2.に示す。 Table 1. Chemical composition of the archive material (wt %). Alloy C Si Mn P S Ni Cr Fe Type 304 0.0560.431.570.0270.038.8119.26Balance Figure 1. Schematic diagram of block stacking position with respect to core height. DPA35302520151050Position (inches from core centerline)-15-10-5051015Figure 2. Calculated dose distribution for four faces of U9807 hex-duct for axial height range of Block 3. Table 2. Summery of investigation of Block Block ID Block 3 Face to face thickness [mm] 52.37longitudinal length [mm] 243.28Irradiation dose Flat1: 26 - 33 Flat4: 20 - 23 Average temperature [oC] 370 ~ 410 2.2 超音波試験 超音波試験は、米国Westinghouseのホットセルにて実施し、中心周波数10MHzの超音波プローブを用いて水浸法にて測定を行った。測定では、材料への超音波の入射角度を遠隔で操作可能なゴニオメータを用い、入射角を±0.004°で制御した。また、材料の測定位置を遠隔で制御可能なXYステージを用いて、0.1 mm以下の精度で測定した。超音波試験は、まず照射ブロック材の側面から軸方向に測定した。その後、照射量が大きな部分から厚さ25 mmのコイン材を切り出し、深さ方向の分布を定量評価するために切り出した断面から測定を実施した。 2.3 密度測定及びミクロ組織観察 米国Westinghouseのホットセルにて、照射ブロック材に対して密度測定及びミクロ組織観察を実施した。まず密度測定は、液浸法にて測定を行い、照射ブロック材から軸方向に厚さ25 mmのコイン材を切り出し、合計5試料について密度測定を行った。密度測定を行うための照射ブロック材切り出し箇所の概略図をFig. 3に示す。Block 3から切り出したコイン材は、原子炉下部方向からそれぞれ3A~3Eと識別番号を振った。次に、軸方向における密度測定及び超音波試験結果から、深さ方向に密度測定を行う試料を選定し、厚さ10 mmの5試料を深さ方向に切り出して密度測定を行った。 ミクロ組織観察は、Philips CM30透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、加速電圧250 keVで測定を行った。TEM観察用試料は密度測定に用いた試料から直径3mmのディスクを深さ方向に3箇所打ち抜いて作製した。密度測定及びコイン材断面における超音波試験結果から、コイン材3D、3Eに対して1面から深さ12.5,mm 、25mm、37.5mmの3深さでミクロ組織観察を行った。 Figure 3. Cutting from Blocks 3 for density and microstructural examination. Strips were cut from flat 1 to flat 4 for density measurements and later subdivided into five smaller chunks for density and electron microscopy measurements. Coin 3E is shown above as an example. 3.結果と考察 3.1 超音波試験 照射材中の超音波の音速は、ボイドの発生により低下し、炭化物の析出により上昇することが知られている[5-10]。まず、照射量が比較的高いBlock3の1面から軸方向に測定した超音波音速結果をFig. 4に示す。Fig. 4より、全体的にBlock3の超音波音速は、未照射材の音速である5745 m/sより遅い結果となっており、ボイドの発生による音速の低下が見られた。また、音速が遅い領域が5、6面側に偏っていることから、5、6面側が炉心に向いていたと推測される。 Figure 4. Ultrasonic velocity measurements along the longitudinal directions of Block 3. 照射ブロック材の軸方向における超音波試験結果から、照射量が高く音速の低下が著しい箇所からコイン材3Dを切り出し、また比較のために音速の低下が比較的小さい箇所からコイン材3Bを切り出し、切り出した断面から超音波試験を実施した。結果をFig.5に示す。コイン材3Dの音速分布は、中心部で最も音速が遅く、5面側まで音速の遅い領域が分布していることがわかる。この音速低下の5,6面側への偏りは、Fig. 4の照射ブロック材の軸方向の音速測定結果と一致していることがわかる。また、照射ブロック材の周囲は冷却材と接していた一方で、ブロック材の内部は照射によるγ熱によって周囲に比べて照射時の温度が高く、ボイドの発生が中心部で促進されたものと考えられる[11-14]。同様に、コイン材3Bでは、コイン材3Dと比較して音速低下は小さいが、中心部で最も音速が遅く、5面側まで音速の遅い領域が分布している結果が得られた。 -30-20-100102030Y_position(mm)-30-20-100102030X_position(mm)Ultrasonic velocity (3D)57205710570056905680567056605650Velocity(m/s)Flat1Flat4Flat2Flat6Flat3Flat5Ultrasonic Velocity of unirradiated material: 5745 m/s 57005700569056805680567056605710570057005690569056905680Figure 5. Ultrasonic velocity measurements across the surfaces of coins 3B and 3D. 3.2 密度測定及びミクロ組織観察 照射ブロック材の軸方向に切り出したコイン材の密度測定結果をTable 3.に示す。Fig. 4の軸方向における音速結果と同様に、コイン材AからEの方向へ未照射材からの密度が低下する結果が得られた。次に、軸方向における密度測定及び超音波試験結果から、コイン材3A、3Eに対して深さ方向に密度測定を行った。結果をTable 4.に示す。Fig. 5のコイン材断面における音速結果と同様に、側面1からの深さが26mmである中心部で最も密度が低下する結果が得られた。以上の結果を踏まえて、深さ方向にミクロ組織が分布していると推測されるコイン材3D、3Eの深さ方向にミクロ組織観察を実施した。Fig. 6, 7にコイン材の代表的な微細組織写真を示し、Table 5.にミクロ組織の定量結果を示す。ボイドの発生量は密度測定結果と同様に中心部で最大である結果が得られた。一方で、M23C6タイプの炭化物の析出が認められたが、深さ方向にほとんど分布が見られなかった。 Table 3. Average density changes of coins due to irradiation. 3A 3B 3C 3D 3E ΔV/V (%) -1.35-1.55-1.76-1.86-1.94Table 4. Average density changes in the depth direction of coins due to irradiation. Depth from Flat1 (mm) 516263647 3E -0.0156-0.023-0.027-0.0234-0.0171 3A -0.0112-0.0141-0.0172-0.0163-0.0134(a) 12.5 mm (b) 25.0 mm (c) 37.5 mm Figure 6. Voids observed in 304 stainless steel in Blocks 3. Depth was measured from flat 1. (a) 12.5 mm (b) 25.0 mm (c) 37.5 mm Figure 7. Carbide precipitates observed in 304 stainless steel coins cut from Blocks 3. 3.3 照射下ミクロ組織の定量 非破壊でミクロ組織を定量的に評価することは、炉心構造材料の健全性及び余寿命評価を行う上で重要な課題であり、これまでボイドなどのミクロ組織の超音波音速への影響を評価した多くの研究がなされてきた[5-10]。しかしながら、炭化物とボイドが共存する照射環境下において、炭化物析出による影響を含めた照射下ミクロ組織を定量的に扱った研究は.ない。そこで、本研究では、前報において導出した照射下ミクロ組織と超音波音速の関係式[14-20]を用いて、炭化物及びボイドの分離・定量を行った。また、密度測定及びミクロ組織観察結果と比較し、超音波試験によるミクロ組織の定量性を評価した。 Table 5. Summary of TEM observation results Coin Identity Depth from Flat 1 (mm) Void Precipitate Swelling (%) Concentration (1021m-3) Average Diameter (nm) Swelling (%) Concentration (1021m-3) Average Diameter (nm) 3E 12.51.842.2200.460.7114252.762.6220.440.911537.51.952.9200.521899/12/31 2:24:00163D 12.51899/12/31 4:19:121900/01/01 7:12:00180.130.71141900/01/242.941.7280.50.911537.52.083.2230.731.116 )21)(1()33.01()1()5.35.21(0............csEcsV-1E:材料の縦弾性係数, ρ:密度, ν:ポアソン比 s: ボイド体積率 c: 炭化物体積率 ρ0: 初期密度 -2 0)33.01(..cs... Table 5.のミクロ組織観察結果から、ボイドは深さ方向に分布を持つが、炭化物は深さ方向にほとんど分布を持たないことがわかっている。そこで、炭化物が深さ方向に0.45%で一定に分布していると仮定して、コイン材3Dの断面における音速結果からボイドスエリングを定量し、密度測定及びミクロ組織観察結果と比較した。結果をFig. 8に示し、Fig. 9に1,4面方向におけるボイドスエリング量を密度測定及びミクロ組織観察結果と比較した結果を示す。定量したボイドスエリング分布は密度測定及びミクロ組織観察結果と概ね一致する結果が得られ、相違は0.3%以下であった。 Figure 8. Distribution of void swelling across the surfaces of coin 3D. Figure 9. Calculated void swelling distribution of coin 3D (face 1 to face 4) compared with density measurement and microscopy evaluations. 前述の解析では、炭化物の発生量を深さ方向に一定であると仮定してボイドスエリングの定量を行ったが、密度測定及び超音波音速結果から、炭化物及びボイドを分離・定量することも可能である。Fig. 10に示す未照射材からの密度及び超音波音速の変化率から、式(1),(2)の関係式を用いて定量した結果をFig. 11に示す。TEM観察におけるミクロ組織の局所的なバラツキの範囲内(±10%)で一致する結果が得られた。 Figure 10. Density and velocity change from that of archive material in coin 3D (face 1 to face 4). Figure 11. Calculated microstructure contributions (open points) and TEM observation (solid points) of void swelling and carbide precipitation. 3.結言 本研究では、米国高速実験炉EBR-IIにおいて反射材として供されてきた照射ブロック材に対して超音波試験を実施し、中性子照射によるミクロ組織変化と超音波信号の関係から、照射下ミクロ組織を定量的に評価し、以下の結果を得た。 ① 厚みのある炉心構造材料では、ミクロ組織が深さ方向に分布を持つことが確認された。 ② 照射ブロック材に超音波試験を実施し、音速分布を得ることでボイドなどの照射下ミクロ組織の分布を明らかにした。 ③ 密度測定及び超音波音速結果から、炭化物及びボイドを分離・定量評価し得る可能性が示された。 謝辞 本研究は、特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託事業において得られた成果の一部であり、ここに謝意を表します。 参考文献 [1] (社) 日本金属学界編 金属便覧:第11章 原子力材料 -1990[2] EBR-II REFLECTOR HEX BLOCK MEASUREMENT, Battele Memorandum No. 8121, 2003. [3] F. A. Garner, C. A. Black, D. J. Edwards, J. Nucl. Mater. 245 (1997) 124. [4] F. A. Garner et. al. , , International Conference on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems [5] 鈴木誠也他, “SUS304のクリープ変形に伴う超音波速度変化”, 日本材料学会, 22, 108 [6] K. Kawashima, T. Isomura and S. 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“ “オーステナイト系ステンレス鋼照射ブロック材を用いた照射下ミクロ組織の非破壊検査技術開発 “ “江藤 淳二,Junji ETOH,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE, フランク ガーナー,Frank GARNER,沖田 泰良,Taira OKITA“ “オーステナイト系ステンレス鋼照射ブロック材を用いた照射下ミクロ組織の非破壊検査技術開発 “ “江藤 淳二,Junji ETOH,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE, フランク ガーナー,Frank GARNER,沖田 泰良,Taira OKITA
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