シビアアクシデント時のBWR用原子炉水位計及び 格納容器内温度計システムの開発

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カテゴリ: 第10回
1.緒言
2011 年3 月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故では、炉心損傷に伴って格納容器(PCV)内が設計基準事象を越える高温状態となり、原子炉圧力容器(RPV)内の水位を計測する差圧式水位計やPCV 内の放射線モニタなどが正常に作動しなくなったと推定されている。このような環境下においても、水位、温度、放射線などのプラント重要パラメータの計測を可能とするため、本研究では、過酷事故(SA)計装として次に示す4 項目の開発を進めている。 ・原子炉水位計 ・光ファイバ式水位/温度計 ・光ファイバ式放射線モニタ ・格納容器内温度計 原子炉水位計は、従来の差圧式に対して多様性を持たせるものであり、独立型熱電対式と配管超音波式の2 方式を開発している。また、光ファイバ式水位/温度計及び光ファイバ式放射線モニタでは、PCV 内の水位、温度、放射線計測に対して、水素爆発の防止を図りつつ多点計測に適したシステムの開発を目指している。 格納容器内温度計では、従来温度計の耐環境性を強化し、他の計装が全て動作不能となる厳しい環境においてもプラント状態の把握を可能とする頑健なシステムを開発中である。 以下では、独立型熱電対式の原子炉水位計と格納容器内温度計システムを代表例として開発状況を詳細に報告する。
2.独立型熱電対式原子炉水位計システム
2.1 要求仕様 原子炉水位計は、炉心冷却状態とRPV の健全性を確認することが主な役割である。そのため、RPV が損傷した状態まで動作可能である必要がある。また、事故の教訓から有効燃料上端からRPV底部までの範囲にわたって水位を計測できることが重要となっている。 本システムの要求仕様は、別途まとめているSA 計装の環境条件分類[1]に従い、原子炉圧力容器が損傷するSA2 に対する耐環境性を有することとしている。詳細は以下の通りである。 ・計測レンジ: 有効燃料上端~RPV 底部 ・精度: ±1m ・耐熱性: RPV 内冷却水302℃、蒸気500℃、72 時間
(PCV 内は300℃) ・耐圧性: RPV 内 8.62MPa(PCV 内は1MPa) ・耐放射線性: PCV 内 5MGy 2.2 システム構成 システムの全体構成をFig.1 に示す。炉心内に挿入された既設の中性子検出器計装管の内部に独立型のヒータ付熱電対を高さ方向に配列する。中性子検出器計装管は1 体または複数体を1 つの組として水位計を構成し、その内部に要求精度を満たす間隔でヒータ付熱電対を分散配置する。また、ヒータ付熱電対を配置した中性子検出器計装管は、例えば、中心部と周辺部に2 系統設置することで、炉心損傷時の計測継続性を高める構成とする。 ヒータ付熱電対は圧力容器下部で耐熱ケーブルに接続し、中央操作室に設置した水位温度計測装置に導く。水位温度計測装置は、熱電対信号入力装置、ヒータ用電源装置、計測制御装置で構成する。計測制御装置はヒータ電源からセンサへ通電すると同時に、熱電対の温度変化を取り込み、温度上昇の違いから当該センサが水中にあるか否かを判別する。計測制御装置は、高さ方向に配列したセンサの判別情報を統合して原子炉の離散的な水位を計測する。 Fig.1 System configuration of reactor level meter (Independent thermocouple type) ヒータ付熱電対の構成をFig.2 に示す。ヒータ付熱電対は、先端部にK 型熱電対と発熱用のヒータ線を備える。熱電対接点は発熱部の中央付近に設置する。熱電対とヒータ線はMgO で絶縁し、SUS 製のシースで被覆する。 Fig.2 Material and structure of independent type thermocouple with heater 材料と構造については、類似の構成を持つセンサがこれまでに原子炉内に装荷されており[2]- [4]、耐環境上の問題を生じる可能性は小さいと考える。 また、熱電対に関しては中性子の影響を受けにくく[5]、実績の豊富なK 型が炉内での使用に適していると判断した。 2.3 試験評価 RPV 内の高温高圧条件で試験を実施するために、Fig.3 に示す高温高圧試験装置を用いた。この装置は、内径約50mm、高さ約4m の試験容器の内部に冷却水を注水し、ヒータ加熱により最大圧力約10MPa、最高温度約310℃ の飽和水/蒸気条件を生成する。 試作したヒータ付熱電対は、試験容器下部のフランジから内部に挿入して固定した。 4.0m Operation panel Sensor penetration Fig.3 High temperature and high pressure test system Thermocouple input Heater power supply Controller Display Main Control Room Heater Thermo -couple Insulator Enlarged Independent type thermocouple with heater Existing neutron detector tube 3.2mm Heater Thermo -couple Insulator Sheath (MgO) (SUS) K-type thermocouple Heater lead cable (Cu) Heater (NCHW1) この試験体系により、常温から300℃までの飽和水/蒸気に対して、ヒータ付熱電対による水と蒸気の判別性能を評価した。その結果、蒸気中では温度が高いほど、ヒータ加熱時の温度上昇が小さくなるが、Fig.4 に示すように、300℃超においても蒸気中の温度上昇は約17℃あり、水中で最も温度上昇が大きかった常温水中(9.5℃)よりも十分大きく、あらゆる温度条件で水と蒸気の判別が可能であることが確認できた。また、図に示すように、蒸気中では、10 秒で約9.3℃上昇するため、ヒータ加熱時間は10 秒で十分であることが分かった。 Fig.4 Comparison of temperature rise in room temperature water and 312 deg c steam 3.格納容器内温度計システム 3.1 要求仕様 過酷事故時のRPV およびPCV 内の状態を確認するためには温度を計測することが重要である。格納容器内温度計システムはRPV 表面温度、ドライウェル温度、ペデスタル雰囲気温度、圧力抑制室雰囲気温度の監視を目的としている。 本システムの要求仕様は、格納容器が損傷(格納容器内への注水不成功)した場合の環境条件SA3b[1]に対する耐環境性を有することであり、以下の通りである。 ・計測レンジ: 0~1000℃ ・精度: ±20℃ ・耐熱性: 1000℃、72 時間 ・耐圧性: 1MPa ・耐放射線性: 5MGy 3.2 システム構成 格納容器内温度計のシステム構成をFig.5 に示す。格納容器内温度計は、熱電対、無機絶縁(MI)ケーブル、コネクタ、端子箱で構成される。これらのセンサ構成要素はPCV 内に設置するため、耐熱性、防水性、耐放射線性の高い部材を選定した。 熱電対は最大1000℃まで計測するために、シース型のK 型熱電対を用いた。ケーブルは従来利用されていた樹脂製補償導線に代わり、耐熱性の高いMI ケーブルを用いた。このMI ケーブルは素線がクロメルとアルメルのものを用い、補償導線の役割を果たす。 コネクタは耐熱性の高いセラミック製のコネクタを用いた。端子箱はコネクタ部分を防水化することを目的としており、SUS 製の配管および継手から構成した。MI ケーブルと配管を継手で締め付ける構造とし、シール部分や接着部分を排除して耐熱性、防水性を強化した。 PCV 外とは電気ペネトレーションを介して接続され、計測信号を処理記憶する信号処理部及び指示・記録部は、中操盤に設置される。 RPV Reactor building MI cable PCV Thermocouple Penetration Compensating lead wire Connector in junction box Junction box(pipe) Joints K-type Ceramic connector thermocouple MI cable Fig.5 Structure of PCV temperature measurement system 本研究では上記構成からなる温度センサを試作し、耐熱試験により過酷事故への適用可能性を評価した。Fig.6 に試作した温度センサを示す。 K‐type thermocouple MI cable Joints 200mm 25mm Pipe Fig.6 PCV temperature measurement sensor 05101520250 10 20 30 40 50 60 9.3 deg c 5.7 deg c 312 deg c steam Room temperature water Temperature rise (deg c) Elapsed time (sec) 3.3 試験評価 試作した温度センサについて、過酷事故への適用性を評価するために、耐熱試験を行った。耐熱試験は、温度センサを電気炉内に入れ、空気雰囲気で1000℃、72 時間加熱した。 耐熱試験後の温度センサをFig.7 に示す。SUS 製の本体部分は酸化と考えられる表面の変化があったが、形状の変化等はなく、外観上の問題は特に確認されなかった。 MI cable K‐type thermocouple Fig.7 The sensor after a heat test Fig.8 に耐熱試験時の計測温度と抵抗値を示す。この結果、1000℃、72 時間の耐熱試験中、計測温度と抵抗値はほぼ一定であり、耐熱試験後も断線等は発生しなかった。したがって、要求仕様の温度条件下で適用可能な見通しを得た。 0510152025300200400600800100012000 20 40 60 80 Measured temperature Electrical resistance Measured temperature (deg c) Electrical resistance (ohm) Time(hour) Fig.8 Result of a heat test 4.結言 原子炉圧力容器や格納容器が損傷に至るような過酷事故環境下においても、水位、温度、放射線量などのプラント重要パラメータの計測を可能とするため、SA 計装システムを開発している。今回センサを試作し、事故時の高温環境を模擬した試験を実施して次の結果を得た。 ・独立型ヒータ付熱電対により300℃の環境で水と 蒸気の判別が可能。 ・PCV 温度計として、ケーブル・コネクタを含めた システムの耐熱1000℃を確認。 今後、各種試験を積み重ね、実機適用を目指す。 なお、本研究は、国内電力11社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、日本原子力発電、電源開発) および国内プラントメーカ3社(日立GEニュークリア・エナジー、東芝、三菱重工業)の共同研究成果の一部であり、経済産業省 資源エネルギー庁の発電用原子炉等安全対策高度化技術開発補助金交付事業として実施している。 参考文献 [1] 池内武司、他、“軽水炉型原子力発電プラントの シビアアクシデント時の計装システムの開発”、保全学会第10 回学術講演会(2013) [2] C.H. Neuschaefer, “Reactor vessel level monitoring system, an aid to the operators in assessing an approach to inadequate core cooling,” IEEE Transactions on Nuclear Science, vol. NS-29, No.1, pp. 669.673, February 1981. [3] 荒克之、他、“2進コード化熱電対式水位計の開発と炉容器内水位計測への適用試験”、日本原子力学会 Vol.35, No.11, pp.999-1014(1993) [4] D.L. Bell, et al, “Radcal-based reactor vessel monitoring system for inadequate core cooling determination,” IEEE Transactions on Nuclear Science, vol. NS-32, No.1, pp. 669.673, February 1981. [5] 若山直昭、他、“高温ガス炉計装用核種センサーの現状と開発研究課題、日本原子力学会Vol.22, No.12, pp.845~859(1980) (平成25 年6 月21 日) “ “シビアアクシデント時のBWR用原子炉水位計及び 格納容器内温度計システムの開発 “ “伏見 篤,Atsushi FUSHIMI,金田 昌基,Masaki KANADA,村田 昭,Akira MURATA,鈴木 啓嗣,Hirotsugu SUZUKI,有田 節男,Setsuo ARITA“ “シビアアクシデント時のBWR用原子炉水位計及び 格納容器内温度計システムの開発 “ “伏見 篤,Atsushi FUSHIMI,金田 昌基,Masaki KANADA,村田 昭,Akira MURATA,鈴木 啓嗣,Hirotsugu SUZUKI,有田 節男,Setsuo ARITA
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