Flaw Tolerance手法を用いた疲労評価手法の開発

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カテゴリ: 第10回
1諸 言
日本機械学会(JSME)発電用設備規格委員会では原子力機器に対する疲労評価手法を検討するために原子力専門委員会の下に疲労評価タスクを設けて検討を進めている。その検討の一つとして、Flaw Tolerance手法を取り込んだ設計評価手法がある。例えば、ASME B&PV Code Section XI[1]ではAppendix L “Operating Plant Fatigue Assessment”(以降、App. L)として供用中の機器に対してFlaw Tolerance手法を用いた評価手法を整備している。App. Lでは供用中に疲労累積係数(CUF)が1を超える場合に欠陥を想定し、破壊力学評価手法を用いた機器の健全性を踏まえて検査間隔を設定して運転を継続する方法である。疲労評価タスクにおいてもApp. Lを参考にして疲労評価へのFlaw Tolerance手法を取り込むために想定欠陥、非破壊検査能力、技術基準への適合性及びFlaw Tolerance手法を用いた規格の検討を行った[2]。 2想定欠陥 NUREG/CR-6934[3]では、配管内の複数の位置から疲労き裂が発生すると仮定して疲労き裂の発生と進展をモデル化する等価単一欠陥(Equivalent Single Crack: ESC)という評価方法を開発した。この考え方は、近傍の位置から発生した複数の欠陥が合体することにより単一の欠陥になることから、漏洩確率が複数欠陥の場合と等価になる単一の欠陥を設定するものである。 NUREG/CR-6934では確率破壊力学評価コードのpc-PRAISEを用いたが、JSME規格での開発に対しては別の確率論的破壊力学評価コードのPEPPER-M[4]を用いた。PEPPER-Mを適用するための検証として、pc-PRAISEで評価したESCをPEPPER-Mで表1に示す条件で再評価した。その評価結果をPEPPER-Mとpc-PRAISEによるESCのアスペクト比とΔσm(繰返し膜応力)とΔσg(繰返し線形及び非線形勾配応力)の比(Δσm/Δσg)で整理した結果を図1に示す。図1より、以下の条件でPEPPER-MはNUREG/CR-6934のESCを再現できると判断した。 - 円筒用の応力拡大係数を使用 - L/aの中央値としては20を使用 - 配管破断条件の膜応力は流動応力の約0.5を使用 許容欠陥サイズ、応力拡大係数等はJSME維持規格[5]とASME Sec.XIとで異なることから、以下の条件でJSME規格用のESCを設定した結果を表2に示す。 - 初期欠陥深さ:0.5mm - 発生時点でのL/aの中央値:20- 発生時点での欠陥間の距離:ランダム - 欠陥の発生:0年目に全てのき裂が同時に発生 応力拡大係数:JSME維持規格の円筒解 - 疲労き裂進展速度:JSME維持規格 - 荷重条件:設計疲労線図の104回の繰返しピーク応力強さを使用 - 破壊判定:極限評価 3.非破壊検査能力 30.1超音波探傷試験(UT) 非破壊検査手法の国プロジェクト[6]を調査した。クラッドのない炭素鋼溶接継手、クラッド付低合金鋼溶接継手
(外面及び内面UT)、ステンレス鋼溶接継手、クラッドのないノズルコーナー(外面UT)、クラッド付ノズルコーナー(内面UT)及びクラッド付ノズルコーナー(鏡外面UT)のモックアップに対する試験結果を対象とした。その結果、以下のことがわかった。 - JSME維持規格の評価不要欠陥より大きな欠陥深さに対する欠陥検出性は概ね1であった。 - 欠陥長さサイジングのRMS誤差はSec. XI, Appendix VIIIの合格基準の19.1mm以下であった。 - 欠陥深さサイジングのRMS誤差はSec. XI, Appendix VIIIの合格基準の3.2mm以下であった。 また、解決すべきUTの課題として以下が上げられる。 - ステンレス鋼溶接継手の溶接金属部から発生・進展するき裂については、実機の発生事例が少なく、国の実証試験も行われていないことから、UTの検査性を確認するべきである。 - BWRシュラウドの溶接継手部のSCCの深さサイジングに対してフェーズドアレイUTは良好な結果が得られたことが報告されている[7]。フェーズドアレイUTのような新しい技術をステンレス鋼及びニッケル基合金の溶接部へ適用するべきであり、そのUT検査性を把握するべきである。 - JEAC4207[8]は図2に示すようにクラッド付ノズルコーナー部に対する外面UTの欠陥長さの補正方法が記載されており、この方法を適用することで、UT性能が改善され保守的な評価を行える可能性が高い。 - UTでは疲労き裂とSCCとを区別するのは困難である。これを改善するためには他の非破壊検査法との組合せ、UTの高度化などを更なる検討が必要である。 3.2渦電流探傷試験(ECT) 国プロジェクト[9-11]においてECTの欠陥検出性及び欠陥長さサイジングの有効性が確認された。しかしながら、深さ5mmを超えるようなき裂の深さサイジングには適用は難しい。 4.技術基準への適合性 材料、構造及び維持規格に対する通産省省令62号及び高経年化技術評価に対する省令77号に対して調査した。 省令62号第9条の解釈及びJSME設計・建設規格[12]は、設計段階だけでなく供用状態でも疲労累積係数が1を満足することを要求している。省令62号第9条は疲労破壊が生じないこととしている。したがって、Flaw Tolerance手法を取り込む場合は解釈を見直す必要がある。 省令62号第9条の2の解釈及びJSME維持規格では検出された欠陥がJSME維持規格に基づき許容できる場合は継続運転を認めている。検出された欠陥を仮想欠陥に置き換えればFlaw Tolerance手法は供用可能である。その場合、この考え方を解釈で明記するべきである。 高経年化技術評価の審査マニュアルの低サイクル疲労[13]では疲労累積係数が1を超える部位は検査結果等の追加の情報が要求されている。したがって、Flaw Tolerance手法が認められるようにこのマニュアルを見直す必要がある。 5.Flaw Tolerance規格 ASME Sec. XI, App. Lは運転中プラントに適用できる。また、ASME Sec. VIII, Div. 3 (KD-4)[14]は設計に対するFlaw Tolerance手法を規定している。Flaw Tolerance手法そのものは欠陥を想定した破壊力学評価手法であり、基本的に維持段階だけでなく設計段階でも使用できる。 Sec.XI, App. Lは供用期間中に非破壊検査(基本的にUT)を基に欠陥を想定するが、Sec. VIII, Div. 3は非破壊試験の表面検査(磁粉探傷試験、浸透探傷試験)による表面長さからアスペクト比を0.04375として欠陥深さを設定する。そこで、JSME維持規格の配管に対する評価不要欠陥(表EB-2000-3)とJSME設計・建設規格の表面検査の判定基準にアスペクト比を0.04375として求めた深さを比較した結果を図3に示す。図3より、Sec.VIII, Div.3の考え方は合理的と考えられ、表面検査は建設時には基本的には適用可能なので合理的な欠陥が想定可能となる。ここで、供用期間中においても表面検査としてECTを適用して合理的な欠陥深さを設定することも可能と考えられる。 上述の運転開始時点に欠陥を想定する手法(図4)をここでは運開時欠陥想定法と呼ぶ。運開時欠陥想定法のポイントは初期に想定する欠陥寸法であり、欠陥深さの感度を調べるため、オーステナイト系ステンレス配管(外径:.406.4mm、板厚t:40.5mm)を対象に欠陥深さ(a)を3.24mm(a/t==0.08)と0.5mmとし、膜応力:曲げ応力を4.16666666666667E-02と4.23611111111111E-02に対して応力レベルを設計疲労線図の100000回の応力振幅(281MPa)を用いてサンプル計算を実施した結果を図5に示す。想定の100000回に対して環境疲労係数を10と仮定すると、初期欠陥深さ0.5mmが想定寿命と概ね整合した。ただし、環境疲労を考慮したとしても設計疲労線図による寿命とFlaw Tolerance手法による寿命が等価になるかはわからない。 もう一つの考え方として、CUF ==1.0を疲労き裂の発生と解釈し、それ以降を疲労き裂進展評価を行って破壊力学評価を行う方法が考えられる(図6)。この方法をここではHybrid法と呼ぶ。疲労き裂進展及び破壊力学評価自体は実績のあるものであり、CUF ==1.0での想定欠陥が課題である。NUREG/CR-6909[15]では、変位制御下の疲労試験において0.25荷重低下で定義される疲労寿命は約3mm深さの欠陥と言われている。一つの考え方としてCUF ==1.0での想定欠陥を評価不要欠陥とすれば基本的に非破壊検査での検出も可能であり、合理的と考えられる。 4.結 言 疲労評価へのFlaw Tolerance手法を取り込むために想定欠陥、非破壊検査能力、技術基準への適合性及びFlaw Tolerance手法を用いた規格の検討を行い、運開時欠陥想定法とHybrid法を考えた。いずれも想定する欠陥が評価でのポイントであり、引き続き検討を行う。 謝 辞 本報は、日本機械学会・発電用設備規格委員会・原子力専門委員会に設置された疲労評価タスクの成果です。ここに関係者各位に深く御礼を申し上げます。 参考文献 [1] ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section XI, “Rules for Inservice Inspection of Nuclear Power Plant Components”, ASME. [2] Asada, S., et al., “Development of Fatigue Assessment Method Based on Flaw Tolerance Concept”, ASME, Pressure Vessels & Division Conference, PVP2013- 97773, 2013. [3] Gosselin, S. R., et al., “Fatigue Crack Flaw Tolerance in Nuclear Power Plant Piping, A Basis for Improvements to ASME Code Section XI Appendix L”, NRC, NUREG/CR-6934 PNNL-16192, 2007[4] Machida, H., et al., “Development of Probabilistic Fracture Mechanics Analysis Code for Pipes with Stress Corrosion Cracks”, Journal of Power and Energy Systems, Vol. 3, No.1, 2009. [5] 日本機械学会、“発電用原子力設備規格 維持規格(2008年版)”、JSME S NA1-2008. [6] (独)原子力安全基盤機構、“平成16年度実用原子力発電施設検査技術実証事業に関する報告書(超音波探傷試験における欠陥検出性及びサイジング精度に関するもの)【総括版】”、2005.4. [7] 平澤泰治他、“フェーズドアレイUT法を用いた炉内機器溶接部の探傷技術開発”、非破壊検査協会 平成13年度春季講演大会、2001.5. [8] 日本電気協会、“水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程”、JEAC4207-2008、2008. [9] (独)原子力安全基盤機構、“平成18年度 低炭素ステンレス鋼の非破壊検査技術実証に関する事業報告書[総括版]”、2007[10] (独)原子力安全基盤機構、“平成20年度 ニッケル基合金溶接部の非破壊検査技術実証に関する事業報告書”、2009[11] (独)原子力安全基盤機構、“平成20年度 容器貫通部狭隘部の非破壊検査技術実証に関する事業報告書”、2009[12] 日本機械学会、“発電用原子力設備規格 設計・建設規格(2012年版)”、JSME S NC1-2012[13] (独)原子力安全基盤機構、“高経年化技術評価審査マニュアル 低サイクル疲労”、JNES-SS-509-3、2009[14] ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section VIII, Division 3, “Alternative Rules for Construction of High Pressure Vessels”, ASME. [15] Copra, O. K., et al., “Effect of LWR Coolant Environments on the Fatigue Life of Reactor Materials”, NRC, NUREG/CR-6909 ANL-06/08, 2007. (平成25年6月21日) ==Δ....Δ.... Table 1Condition of Comparison Analysis Items Multiple cracks or ESC Appendix L Reproduction analysis Crack depth at initiation Multiple cracks and ESC ・0.02in (0.5mm) ・same as App. L Aspect ratio at initiation Multiple cracks ・Median of aspect ratio for 0.02in crack depth == 20 ・standard deviation of ln = 0.682 ・All aspect ratios on one weld is assumed to be same. ・Median of aspect ratio for 0.02in crack depth: 5 and 20 (2 cases) ・standard deviation of ln = 0.518 (Re-sampling is performed when the sampled aspect ratio is one or less) ・2 cases - All aspect ratios on one weld is assumed to be same - Each aspect ratio is sampled at random. Distance between cracks Multiple cracks ・2in equally spaced ・2 cases: 2in averaged and 2in equally spaced Initiation time of cracks Multiple cracks and ESC ・Initiation time is determined by sampling the scatter of the S-N curve. ・Multiple cracks are assumed to initiate at the same time. ・100% initiation at 0 year is assumed because the initial time of cracks seems to give little impact on comparison of through-wall crack probability for multiple cracks and ESC. da/dN Multiple cracks and ESC ・Sampled based on da/dN data. ・All da/dN for cracks in one weld is assumed to be the same ・da/dN curve for austenitic stainless steels. da/dN=CΔK4/(1-R)0.5[in./cycle] Median of C=9.14E-12, Std. deviation=2.20E-11 ・same as App. L Pipe dimensions Multiple cracks and ESC ・OD 2in, Schedule 80 to OD 22in, Schedule 160・same as App. L Loading condition Multiple cracks and ESC ・2SALT = 1793MPa (260ksi) ・60 years for 250 cycle/40years ・σM/σG = 0.0~3.0 ・Bending moment on piping is not considered. ・same as App. L Pipe break condition Multiple cracks and ESC ・Not clear ・2 cases: No break condition and 130MPa Failure criteria Multiple cracks and ESC ・Not clear ・Limit load criteria of JSME Code Flow stress Multiple cracks and ESC ・Not clear ・σf ==250MPa Stress intensity factors Multiple cracks and ESC ・pc-PRAISE function ・Stress intensity factor solution for plate and cylinder in the JSME Fitness-for-Service (2008 Edition) Fig. 1 Comparison of PEPPER-M and pc-PRAISE Crack length estimated Crack depth summed that by UT measured and errata Table 2 ESC Aspect Ratio for the JSME Code No Nor. Dia (A) OD [mm] Sch. Ferritic Pipe Austenitic SS (BWR) Austenitic SS (PWR) Membrane : Bending Membrane : Bending Membrane : Bending 4.16666666666667E-020.5:0.5 6.94444444444444E-044.16666666666667E-020.5:0.5 6.94444444444444E-044.16666666666667E-020.5:0.5 6.94444444444444E-0415060.5801111179111610111525060.51601112251012191113153100114.3801415231415221415254100114.31201517261416251516295100114.31601517271315291416306150165.2801717251517271516287150165.21201718281617321518238150165.21601720391618391620359200216.38018192918393219213110200216.312020233717203918213311200216.316018214415174316194112300318.58022243820214020234013300318.512018224015184216204514300318.516014194422133912153615400406.48022254118214119234116400406.412015194013303713163717400406.416013174511133910131918500508802023401619392023371950050812014194312153813153520500508160131854911389123521600609.68017224215173715183622600609.612014194610133511133423600609.6160121754810359103624650660.48018234414163614173325650660.412014194710113510123626650660.4160111655893891137(Note) Median of L/a == 20 Fig. 2 Crack Length Estimation for Fig.3 Comparison of Assumed Crack Depth a Nozzle Corner with Cladding[8] Flaw Depth Time Service Life Allowable Flaw Depth Initial Flaw 00.250.50.751020004000600080001000012000Number of Cycle a/ t Fen=10 Initial a =3.24mm, M/B=∞ Initial a =3.24mm, M/B=1 Initial a =0.5mm, M/B=∞ Initial a =0.5mm, M/B=1 Flaw Depth Time Service Life Allowable Flaw Depth Acceptance Standard Time of CUF=1 Fig. 4 Initially Assumed Flaw Case Fig.5 Sample Analysis for Initial Crack Depth Fig.6Hybrid Case
“ “Flaw Tolerance手法を用いた疲労評価手法の開発 “ “朝田 誠治,Seiji ASADA,竹田 周平,Shuhei TAKEDA,平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,齋藤 利之,Toshiyuki SAITO,齋藤 格,Itaru SAITO,堂崎 浩二,Koji DOZAKI“ “Flaw Tolerance手法を用いた疲労評価手法の開発 “ “朝田 誠治,Seiji ASADA,竹田 周平,Shuhei TAKEDA,平澤 泰治,Taiji HIRASAWA,齋藤 利之,Toshiyuki SAITO,齋藤 格,Itaru SAITO,堂崎 浩二,Koji DOZAKI
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