沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価
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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
加圧熱衝撃(PTS:Pressurized Thermal Shock)事象は、加圧された原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel) 内において、冷却材の注水等によって急激な冷却が起きた場合に、RPV 内外面の温度差による応力と内圧による応力が重畳した引張応力が容器内面に発生する現象である。また、炉心領域のRPV 胴板は、中性子の照射によって靭性が低下する。そのため、炉心領域の胴板について、靭性の低下を予測し、内面にき裂を想定して、PTS 事象による非延性破壊の有無を評価する手法(PTS 評価手法) が、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)に対して「原子力発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」(JEAC4206-2007)附属書C に規定されている[1]。 一方、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor) については、「溶接部等熱影響部信頼性実証試験に関する調査[原子炉圧力容器加圧熱衝撃試験]」において、PWR と比較して過渡時におけるPTS 事象への裕度が十分に大きいと評価されており[2]、JEAC4206-2007 の解説に「PTS 事象のような非延性破壊に対して厳しくなる事象はなく、 非延性破壊評価は供用状態A及びBに対する評価で代表される。なお、BWR において供用状態C 及びD の評価が必要な場合には、附属書C の方法が参考になる。」と記載されている[1]。そこで、前述の調査結果およびJEAC4206-2007 附属書C を参考にして、BWR の評価手法を構築し、改良型沸騰水型原子炉(ABWR:Advanced Boiling Water Reactor)を含む国内BWR 全運転プラントについて、供用期間60 年時点でのPTS 評価を行った。本稿では、炉型が大きく異なるBWR2/3/4/5 とABWR とに分けて、代表プラントの評価結果を報告する。
2.評価する運転事象の選定 RPV の設計時には、通常運転および過渡時の事象につ
いて、圧力や温度を設計熱サイクルとして想定した強度評価を行っており、これらの運転事象は、日本機械学会「発電用原子力設備規格 設計・建設規格」において4 つのグループに分類されている[3]。そこで、この4 つの運転状態ごとに、材料の破壊靱性がどのように考慮されているかを整理した。なお、常用系機器であるRPV については、運転状態Ⅰ、Ⅱ、ⅢおよびⅣは、それぞれ供用状態A、B、C およびDに対応している。 RPVは非延性破壊防止の観点からJEAC4206-2007 においては、供用期間中の圧力および温度管理要求が規定されており[1]、通常運転において想定される「耐圧・漏えい試験」および「供用状態A/B(耐圧・漏えい試験を除く)」での温度圧力制限曲線に基づき運転管理されている。温度圧力制限曲線(耐圧・漏えい試験)の例をFig.1に示す。温度圧力制限曲線は、き裂を想定して求めた応力拡大係数KIが、静的破壊靱性値KICを下回る領域を、圧力と温度の組み合わせにより区分して設定するものである。非延性破壊を防止するために、RPV の昇圧または降圧の過程において管理する下限の温度を評価し、Fig.1の斜線で示す運転領域の圧力および温度の組み合わせに運転管理することとしている。供用状態A/B に対して、温度圧力制限曲線を評価することとしており、供用状態A/B における圧力および温度の変化によって生じるPTS 事象は、この曲線を評価する際に考慮されている。 また、原子炉施設の故障等による過渡時の運転状態Ⅲ (供用状態C)では、過渡もしくは事故においてRPV の圧力が高くなる状態(過大圧力事象)を想定している。一方、運転状態Ⅱの運転事象のひとつに給水ポンプ停止事象が想定されているが、この事象で想定されているRPV の水位や温度変化率は運転状態Ⅲの過大圧力事象よりも大きく、上述の供用状態A/B の評価が供用状態C の評価を包絡していると言える。 発生頻度が極めて低い事故状態である運転状態Ⅳ(供用状態D)では、BWR2/3/4/5 は再循環系配管の完全破断、ABWRは格納容器内主蒸気配管の完全破断による冷却材喪失事故をそれぞれ想定している。これらの事象においては、非常用炉心冷却系(ECCS)が作動して、炉心領域に冷水が注入されるため、供用状態A/B より大きな温度変化率による熱応力が発生することが考えられる。このため、PTS 事象に対する破壊靱性の裕度を評価すべき事象として、供用状態Dを選定した。 炉心領域(照射前)
飽和圧力温度曲線温度[℃] スタッドボルト締付時主フランジ(未臨界) 主フランジ主フランジ運転領域炉心領域(照射後) 圧力[MPa] Fig.1 温度圧力制限曲線の例(耐圧・漏えい試験) 3.PTS 評価手法の検討 PTS 評価では、事象に対する応力拡大係数KIと中性子照射脆化を考慮した静的破壊靱性値KIC を算出し、KI がKIC を下回ることをもって非延性破壊に対して健全であることを確認する。KICは照射前の材料特性と中性子照射による脆化を考慮した応力拡大係数として算出される。KIは圧力および熱によるRPV内表面近傍の応力を解析によって求め、想定した仮想欠陥先端での応力拡大係数として算出される。PTS 評価に適用する仮想欠陥の寸法、KIおよびKICの算出式、照射脆化によるKIC減少量の算出式等を、関連する規格基準との整合を踏まえて選定し、BWR に対するPTS 評価手法をまとめた。評価フローをFig.2に示す。 材料の化学成分(Cu, Ni ) 冷却材温度の時間変化対象プラントの破壊靭性値(監視試験データ) 評価時期における中性子照射量熱伝導解析板厚方向の温度分布の時間変化冷却材圧力の時間変化(供用状態D) 応力解析内圧応力,熱応力の時間変化最大仮想欠陥(軸方向半楕円内表面欠陥) a=0.25t 2c=1.5t (tは板厚) 2c a 国内脆化予測法による靭性低下予測(JEAC4201附属B) 容器壁内の減衰KI の解析評価KIc KI KIc KI (KI<KIc:健全) 温度(KIc=36.48+22.78exp[0.036(T-RTNDT)] 温度KIc KI KIc プラント評価時期のKIc曲線最大仮想欠陥最深部での温度に対するKic曲線(a)未照射材RTNDT =RTNDT初期値(b)照射材RTNDT =RTNDT初期値+ΔRTNDT計算値+ M 最大仮想欠陥最深部での温度(破壊靭性遷移曲線) 最大仮想欠陥最深部での温度(PTS状態遷移曲線) 最大仮想欠陥最深部での温度に対するKI f = f0・exp(-0.24a/25.4) KI の時間変化JEAC4206附属F F-3300 ASME Code Section XI Appendix Aの解(作用分布応力を線形近似する場合) 照射後未照射 Fig.2 BWR におけるPTS 評価のフロー 4.実プラントのPTS 評価 4.1 評価条件の検討 国内BWR 全運転プラントの構造(内径、板厚、内張り厚さ等)および供用状態Dの設計熱サイクルを調査し、これらの条件毎にグループ化したプラントについて、Fig. 2に示したフローに従って、60年運転を想定した48EFPY(Effective Full Power Years:定格負荷相当年数)時点におけるPTS 評価を行った。 供用状態D の冷却材喪失事象として、BWR2/3/4/5 は、RPV 下部に接続されている再循環系配管の完全破断を想定している一方で、ABWR は、原子炉内蔵型再循環系ポンプ(RIP)の採用によって再循環系配管がないために、格納容器内の主蒸気配管の完全破断を想定している。供用状態Dの設計熱サイクルとして想定する、RPVの水位、炉心領域胴板部分の圧力および同部の冷却材温度をTable.1 に示す。BWR2/3/4/5 は、再循環系配管が完全破断して、ECCS 作動後にRPV の水位が再循環出口ノズルレベルとなり、RPV の圧力は格納容器の圧力まで低下、この圧力に対応する飽和蒸気圧温度まで低下すると想定している。一方で、ABWR は、格納容器内主蒸気配管の完全破断を想定して、ECCS 作動後にRPV の水位が主蒸気ノズルまで上昇し、圧力は格納容器の圧力まで徐々に低下、RPV 炉心領域の胴板部分の冷却材温度はECCS 注入水の温度と同じ常温まで低下すると想定している。なお、実際には、常温の水がRPV の内部に注入されても、RPV の胴板表面における冷却材の温度が直ちに常温まで低下することは考えられないが、発生応力が大きい保守的な評価となるように、圧力および温度を想定している。 供用状態Dの冷却材喪失事故において、BWR2/3/4/5 の各プラントでは、RPV の圧力とともに冷却材の温度が低下する一方で、ABWR では、BWR2/3/4/5 よりも圧力が緩やかに低下し、格納容器圧力まで低下する前に、ECCS が作動して冷却材の温度が直ちに常温まで低下すると想定している。そのため、より大きな圧力でより大きな温度変化が発生するABWR のほうが、大きな発生応力を生じる可能性が定性的に考えられる。 Table.1 供用状態D(冷却材喪失事故)における RPV の水位および炉心領域胴板部分の圧力/温度の想定 BWR2/3/4/5 ABWR 再循環系配管の完全破断格納容器内主蒸気配管の完全破断RPVの再循環出口ノズルから冷却材が流出し、ECCSが作動RPVの主蒸気出口ノズルから蒸気が流出し、ECCS が作動水位再循環出口ノズル主蒸気出口ノズル圧力温度飽和蒸気温度常温(ECCS注入水温度) 格納容器内圧力まで低下想定事象概要ECCS 作動後 上記のとおり想定した圧力および温度変化に対して、圧力による応力およびRPV胴板の温度分布による熱応力を算出し、これらを足し合わせて応力の時間変化を評価した。圧力による応力は、薄肉円筒に対する内圧の式によって求め、熱応力は、胴板内温度分布の時刻暦解析から熱応力の変化を求めた。解析に用いたモデルをFig.3に示す。それぞれのプラントの内径、板厚、内張り厚さを考慮した無限円筒モデルとし、要素を上下方向に2分割、板厚方向に10 分割した。なお、胴板の内張りは強度部材ではないことから、熱応力の計算には考慮せず、熱伝達解析には考慮した。 胴板の熱伝導率は、低合金鋼のものとし、境界条件は、炉内側(Fig.3の境界1)を強制対流の水または自然対流の蒸気、それ以外は断熱境界とした。供用状態D において、BWR2/3/4/5 は再循環系配管の完全破断を想定しており、水位低下速度を流速とした水の対流の後に、蒸気の自然対流が発生することを熱伝達率の計算に考慮した。一方で、ABWRは格納容器内主蒸気配管の完全破断を想定しており、RIP の運転台数が変わることによる冷却材の流速変化を熱伝達率の計算に考慮した。 断熱境界胴板胴板解析モデル部境界1 軸方向変位考慮半径方向変位考慮 Fig.3 熱応力の解析モデル 4.2 応力解析およびPTS 評価の結果 Fig.4に応力解析の結果を示す。この応力解析の結果より、炉心領域中央に長さが板厚の3/2、深さが板厚の1/4 の仮想欠陥に対するKIを、JEAC4206-2007 附属書F を参照して求めた。このKI と中性子照射脆化を考慮したKIC とを比較し、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線が交わらないことを確認した。供用状態Dとして、ABWR の場合は炉心領域の胴板が直接冷水に曝されるという保守的な想定としている。そのため、ABWRのほうが温度変化とこれに伴う熱応力が大きいが、その場合でも応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線は交わらず、十分なPTS 評価上の破壊靱性の裕度がある。Fig.5- (a)にBWR5 の、Fig.5- (b)にABWR の代表プラントについてのPTS 評価結果を示す。 (a) BWR5 (b) ABWR Fig.4 供用状態Dにおける 内圧および温度変化による発生応力の評価 (a) BWR5 (b) ABWR Fig.5 供用状態DにおけるRPV のPTS 評価 5.おわりに PTS 事象に対する応力拡大係数KIが中性子照射脆化を考慮した破壊靱性値KICを下回ることをもって、非延性破壊に対して健全であるとするPTS 評価フローを、現行の規格/基準を参考にして構築した。 供用状態AおよびB については、温度圧力制限曲線の評価においてPTS 事象が考慮されており、供用状態C は供用状態B で想定される事象よりも水位および温度の変化が小さく、これに包絡されることから、冷却材喪失事故である供用状態DをBWR のPTS 評価における想定事象として選定した。 国内BWR 全運転プラントを対象として、構造および設計熱サイクルを考慮してグループ化し、供用状態D におけるPTS 評価を行った。全てのプラントについて、60 年運転を想定した48EFPY 時点で、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC 曲線とは交わらずに破壊靱性の裕度が十分にあることが確認された。BWR の場合は、供用状態C およびD において、PTS 事象のような非延性破壊に対して厳しい運転事象はなく、非延性破壊評価は供用状態A およびB に対する評価で代表できることが確認された。 参考文献 [1] 社団法人 日本電気協会、“JEAC 4206-2007 原子力発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法”、平成19 年12 月 [2] 財団法人 発電設備技術検査協会、“溶接部等熱影響部信頼性実証試験に関する調査[原子炉圧力容器加圧熱衝撃試験]”、平成4年3 月 [3] 一般社団法人 日本機械学会、“JSME S NC1-2010 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(2010 年追補版)<第 I 編 軽水炉規格>”、平成23 年6 月 (平成25 年6 月21 日)
“ “沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価 “ “桝田 祐貴,Yuki MASUDA,高橋 淳介,Junsuke TAKAHASHI,廣川 文仁,Fumihito HIROKAWA,山田 浩二,Koji YAMADA“ “沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価 “ “桝田 祐貴,Yuki MASUDA,高橋 淳介,Junsuke TAKAHASHI,廣川 文仁,Fumihito HIROKAWA,山田 浩二,Koji YAMADA
加圧熱衝撃(PTS:Pressurized Thermal Shock)事象は、加圧された原子炉圧力容器(RPV:Reactor Pressure Vessel) 内において、冷却材の注水等によって急激な冷却が起きた場合に、RPV 内外面の温度差による応力と内圧による応力が重畳した引張応力が容器内面に発生する現象である。また、炉心領域のRPV 胴板は、中性子の照射によって靭性が低下する。そのため、炉心領域の胴板について、靭性の低下を予測し、内面にき裂を想定して、PTS 事象による非延性破壊の有無を評価する手法(PTS 評価手法) が、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)に対して「原子力発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法」(JEAC4206-2007)附属書C に規定されている[1]。 一方、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor) については、「溶接部等熱影響部信頼性実証試験に関する調査[原子炉圧力容器加圧熱衝撃試験]」において、PWR と比較して過渡時におけるPTS 事象への裕度が十分に大きいと評価されており[2]、JEAC4206-2007 の解説に「PTS 事象のような非延性破壊に対して厳しくなる事象はなく、 非延性破壊評価は供用状態A及びBに対する評価で代表される。なお、BWR において供用状態C 及びD の評価が必要な場合には、附属書C の方法が参考になる。」と記載されている[1]。そこで、前述の調査結果およびJEAC4206-2007 附属書C を参考にして、BWR の評価手法を構築し、改良型沸騰水型原子炉(ABWR:Advanced Boiling Water Reactor)を含む国内BWR 全運転プラントについて、供用期間60 年時点でのPTS 評価を行った。本稿では、炉型が大きく異なるBWR2/3/4/5 とABWR とに分けて、代表プラントの評価結果を報告する。
2.評価する運転事象の選定 RPV の設計時には、通常運転および過渡時の事象につ
いて、圧力や温度を設計熱サイクルとして想定した強度評価を行っており、これらの運転事象は、日本機械学会「発電用原子力設備規格 設計・建設規格」において4 つのグループに分類されている[3]。そこで、この4 つの運転状態ごとに、材料の破壊靱性がどのように考慮されているかを整理した。なお、常用系機器であるRPV については、運転状態Ⅰ、Ⅱ、ⅢおよびⅣは、それぞれ供用状態A、B、C およびDに対応している。 RPVは非延性破壊防止の観点からJEAC4206-2007 においては、供用期間中の圧力および温度管理要求が規定されており[1]、通常運転において想定される「耐圧・漏えい試験」および「供用状態A/B(耐圧・漏えい試験を除く)」での温度圧力制限曲線に基づき運転管理されている。温度圧力制限曲線(耐圧・漏えい試験)の例をFig.1に示す。温度圧力制限曲線は、き裂を想定して求めた応力拡大係数KIが、静的破壊靱性値KICを下回る領域を、圧力と温度の組み合わせにより区分して設定するものである。非延性破壊を防止するために、RPV の昇圧または降圧の過程において管理する下限の温度を評価し、Fig.1の斜線で示す運転領域の圧力および温度の組み合わせに運転管理することとしている。供用状態A/B に対して、温度圧力制限曲線を評価することとしており、供用状態A/B における圧力および温度の変化によって生じるPTS 事象は、この曲線を評価する際に考慮されている。 また、原子炉施設の故障等による過渡時の運転状態Ⅲ (供用状態C)では、過渡もしくは事故においてRPV の圧力が高くなる状態(過大圧力事象)を想定している。一方、運転状態Ⅱの運転事象のひとつに給水ポンプ停止事象が想定されているが、この事象で想定されているRPV の水位や温度変化率は運転状態Ⅲの過大圧力事象よりも大きく、上述の供用状態A/B の評価が供用状態C の評価を包絡していると言える。 発生頻度が極めて低い事故状態である運転状態Ⅳ(供用状態D)では、BWR2/3/4/5 は再循環系配管の完全破断、ABWRは格納容器内主蒸気配管の完全破断による冷却材喪失事故をそれぞれ想定している。これらの事象においては、非常用炉心冷却系(ECCS)が作動して、炉心領域に冷水が注入されるため、供用状態A/B より大きな温度変化率による熱応力が発生することが考えられる。このため、PTS 事象に対する破壊靱性の裕度を評価すべき事象として、供用状態Dを選定した。 炉心領域(照射前)
飽和圧力温度曲線温度[℃] スタッドボルト締付時主フランジ(未臨界) 主フランジ主フランジ運転領域炉心領域(照射後) 圧力[MPa] Fig.1 温度圧力制限曲線の例(耐圧・漏えい試験) 3.PTS 評価手法の検討 PTS 評価では、事象に対する応力拡大係数KIと中性子照射脆化を考慮した静的破壊靱性値KIC を算出し、KI がKIC を下回ることをもって非延性破壊に対して健全であることを確認する。KICは照射前の材料特性と中性子照射による脆化を考慮した応力拡大係数として算出される。KIは圧力および熱によるRPV内表面近傍の応力を解析によって求め、想定した仮想欠陥先端での応力拡大係数として算出される。PTS 評価に適用する仮想欠陥の寸法、KIおよびKICの算出式、照射脆化によるKIC減少量の算出式等を、関連する規格基準との整合を踏まえて選定し、BWR に対するPTS 評価手法をまとめた。評価フローをFig.2に示す。 材料の化学成分(Cu, Ni ) 冷却材温度の時間変化対象プラントの破壊靭性値(監視試験データ) 評価時期における中性子照射量熱伝導解析板厚方向の温度分布の時間変化冷却材圧力の時間変化(供用状態D) 応力解析内圧応力,熱応力の時間変化最大仮想欠陥(軸方向半楕円内表面欠陥) a=0.25t 2c=1.5t (tは板厚) 2c a 国内脆化予測法による靭性低下予測(JEAC4201附属B) 容器壁内の減衰KI の解析評価KIc KI KIc KI (KI<KIc:健全) 温度(KIc=36.48+22.78exp[0.036(T-RTNDT)] 温度KIc KI KIc プラント評価時期のKIc曲線最大仮想欠陥最深部での温度に対するKic曲線(a)未照射材RTNDT =RTNDT初期値(b)照射材RTNDT =RTNDT初期値+ΔRTNDT計算値+ M 最大仮想欠陥最深部での温度(破壊靭性遷移曲線) 最大仮想欠陥最深部での温度(PTS状態遷移曲線) 最大仮想欠陥最深部での温度に対するKI f = f0・exp(-0.24a/25.4) KI の時間変化JEAC4206附属F F-3300 ASME Code Section XI Appendix Aの解(作用分布応力を線形近似する場合) 照射後未照射 Fig.2 BWR におけるPTS 評価のフロー 4.実プラントのPTS 評価 4.1 評価条件の検討 国内BWR 全運転プラントの構造(内径、板厚、内張り厚さ等)および供用状態Dの設計熱サイクルを調査し、これらの条件毎にグループ化したプラントについて、Fig. 2に示したフローに従って、60年運転を想定した48EFPY(Effective Full Power Years:定格負荷相当年数)時点におけるPTS 評価を行った。 供用状態D の冷却材喪失事象として、BWR2/3/4/5 は、RPV 下部に接続されている再循環系配管の完全破断を想定している一方で、ABWR は、原子炉内蔵型再循環系ポンプ(RIP)の採用によって再循環系配管がないために、格納容器内の主蒸気配管の完全破断を想定している。供用状態Dの設計熱サイクルとして想定する、RPVの水位、炉心領域胴板部分の圧力および同部の冷却材温度をTable.1 に示す。BWR2/3/4/5 は、再循環系配管が完全破断して、ECCS 作動後にRPV の水位が再循環出口ノズルレベルとなり、RPV の圧力は格納容器の圧力まで低下、この圧力に対応する飽和蒸気圧温度まで低下すると想定している。一方で、ABWR は、格納容器内主蒸気配管の完全破断を想定して、ECCS 作動後にRPV の水位が主蒸気ノズルまで上昇し、圧力は格納容器の圧力まで徐々に低下、RPV 炉心領域の胴板部分の冷却材温度はECCS 注入水の温度と同じ常温まで低下すると想定している。なお、実際には、常温の水がRPV の内部に注入されても、RPV の胴板表面における冷却材の温度が直ちに常温まで低下することは考えられないが、発生応力が大きい保守的な評価となるように、圧力および温度を想定している。 供用状態Dの冷却材喪失事故において、BWR2/3/4/5 の各プラントでは、RPV の圧力とともに冷却材の温度が低下する一方で、ABWR では、BWR2/3/4/5 よりも圧力が緩やかに低下し、格納容器圧力まで低下する前に、ECCS が作動して冷却材の温度が直ちに常温まで低下すると想定している。そのため、より大きな圧力でより大きな温度変化が発生するABWR のほうが、大きな発生応力を生じる可能性が定性的に考えられる。 Table.1 供用状態D(冷却材喪失事故)における RPV の水位および炉心領域胴板部分の圧力/温度の想定 BWR2/3/4/5 ABWR 再循環系配管の完全破断格納容器内主蒸気配管の完全破断RPVの再循環出口ノズルから冷却材が流出し、ECCSが作動RPVの主蒸気出口ノズルから蒸気が流出し、ECCS が作動水位再循環出口ノズル主蒸気出口ノズル圧力温度飽和蒸気温度常温(ECCS注入水温度) 格納容器内圧力まで低下想定事象概要ECCS 作動後 上記のとおり想定した圧力および温度変化に対して、圧力による応力およびRPV胴板の温度分布による熱応力を算出し、これらを足し合わせて応力の時間変化を評価した。圧力による応力は、薄肉円筒に対する内圧の式によって求め、熱応力は、胴板内温度分布の時刻暦解析から熱応力の変化を求めた。解析に用いたモデルをFig.3に示す。それぞれのプラントの内径、板厚、内張り厚さを考慮した無限円筒モデルとし、要素を上下方向に2分割、板厚方向に10 分割した。なお、胴板の内張りは強度部材ではないことから、熱応力の計算には考慮せず、熱伝達解析には考慮した。 胴板の熱伝導率は、低合金鋼のものとし、境界条件は、炉内側(Fig.3の境界1)を強制対流の水または自然対流の蒸気、それ以外は断熱境界とした。供用状態D において、BWR2/3/4/5 は再循環系配管の完全破断を想定しており、水位低下速度を流速とした水の対流の後に、蒸気の自然対流が発生することを熱伝達率の計算に考慮した。一方で、ABWRは格納容器内主蒸気配管の完全破断を想定しており、RIP の運転台数が変わることによる冷却材の流速変化を熱伝達率の計算に考慮した。 断熱境界胴板胴板解析モデル部境界1 軸方向変位考慮半径方向変位考慮 Fig.3 熱応力の解析モデル 4.2 応力解析およびPTS 評価の結果 Fig.4に応力解析の結果を示す。この応力解析の結果より、炉心領域中央に長さが板厚の3/2、深さが板厚の1/4 の仮想欠陥に対するKIを、JEAC4206-2007 附属書F を参照して求めた。このKI と中性子照射脆化を考慮したKIC とを比較し、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線が交わらないことを確認した。供用状態Dとして、ABWR の場合は炉心領域の胴板が直接冷水に曝されるという保守的な想定としている。そのため、ABWRのほうが温度変化とこれに伴う熱応力が大きいが、その場合でも応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線は交わらず、十分なPTS 評価上の破壊靱性の裕度がある。Fig.5- (a)にBWR5 の、Fig.5- (b)にABWR の代表プラントについてのPTS 評価結果を示す。 (a) BWR5 (b) ABWR Fig.4 供用状態Dにおける 内圧および温度変化による発生応力の評価 (a) BWR5 (b) ABWR Fig.5 供用状態DにおけるRPV のPTS 評価 5.おわりに PTS 事象に対する応力拡大係数KIが中性子照射脆化を考慮した破壊靱性値KICを下回ることをもって、非延性破壊に対して健全であるとするPTS 評価フローを、現行の規格/基準を参考にして構築した。 供用状態AおよびB については、温度圧力制限曲線の評価においてPTS 事象が考慮されており、供用状態C は供用状態B で想定される事象よりも水位および温度の変化が小さく、これに包絡されることから、冷却材喪失事故である供用状態DをBWR のPTS 評価における想定事象として選定した。 国内BWR 全運転プラントを対象として、構造および設計熱サイクルを考慮してグループ化し、供用状態D におけるPTS 評価を行った。全てのプラントについて、60 年運転を想定した48EFPY 時点で、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC 曲線とは交わらずに破壊靱性の裕度が十分にあることが確認された。BWR の場合は、供用状態C およびD において、PTS 事象のような非延性破壊に対して厳しい運転事象はなく、非延性破壊評価は供用状態A およびB に対する評価で代表できることが確認された。 参考文献 [1] 社団法人 日本電気協会、“JEAC 4206-2007 原子力発電所用機器に対する破壊靭性の確認試験方法”、平成19 年12 月 [2] 財団法人 発電設備技術検査協会、“溶接部等熱影響部信頼性実証試験に関する調査[原子炉圧力容器加圧熱衝撃試験]”、平成4年3 月 [3] 一般社団法人 日本機械学会、“JSME S NC1-2010 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(2010 年追補版)<第 I 編 軽水炉規格>”、平成23 年6 月 (平成25 年6 月21 日)
“ “沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価 “ “桝田 祐貴,Yuki MASUDA,高橋 淳介,Junsuke TAKAHASHI,廣川 文仁,Fumihito HIROKAWA,山田 浩二,Koji YAMADA“ “沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における 加圧熱衝撃の評価 “ “桝田 祐貴,Yuki MASUDA,高橋 淳介,Junsuke TAKAHASHI,廣川 文仁,Fumihito HIROKAWA,山田 浩二,Koji YAMADA