アルミニウム溶接時の溶融金属中における気泡の挙動に関する数値解析
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カテゴリ: 第10回
1緒言
アルミニウム合金は,加工性・耐食性に優れ,軽量で比強度が高いことから,主に軽量化へのニーズが高い自動車や航空機などの輸送機械へ利用されている. 一方,近年,構造物および製品の高品質化,高信頼化などへの社会的要請から,溶接,表面処理などを含む幅広い範囲で,高性能,高品質な加工技術の開発が求められている.このようなニーズに応える一つの方法として,レーザや電子ビームなどの高パワー密度熱源を用いた加工法が研究されている.特にレーザは,コヒーレントな光熱源であることから,溶接などの加工に応用しやすく,適用範囲が広い.レーザ溶接はキーホール溶接の一種であり,熱影響部・熱ひずみが小さく,深溶け込み・高速度溶接が可能である.また,大気中での溶接が可能で,ビームの照射位置を精密に制御できるため,複雑な構造物の溶接や精密溶接に適用可能である. 一般に,アルミニウム合金は降伏応力が小さく,熱膨張係数が大きいことから溶接変形が大きく,それを小さくできるレーザ溶接の適用は有効であると考えられる.しかしながら,アルミニウム合金はレーザ光の反射率が高く,さらに熱伝導率・熱拡散率が大きいことから,アルミニウム合金のレーザ溶接では,溶融池の形成自体が比較的困難である.加えて,溶融アルミニウムは動粘性係数が小さく,表面張力が大きいことから,溶接部にポロシティと呼ばれる気孔が発生しやすいことも問題となっている.ポロシティは溶接継手の外観を損なうばかりでなく,機械的特性に悪影響を及ぼすため,その低減あるいは防止は重要な課題である. アルミニウム合金のレーザ溶接時に,欠陥を抑制するようパラメータを決定する際,実験的に決定しており,設計・開発が非効率となっているのが現状である.これに対して,数値シミュレーションを用いてポロシティをはじめとする各種溶接欠陥の発生予測を行うことができれば,開発までに要する期間を大幅に短縮できるものと期待され,工業的にも極めて有意義であると考えられる. そこで本研究では,アルミニウム合金のレーザ溶接時における各種欠陥の中でもとくにポロシティに着目し,その発生を数値シミュレーションにより予測することを目的とした.本稿では,その第一段階として,溶融アルミニウム中での気泡の運動に関する比較的簡易なモデルを用いて計算した結果得られたその挙動に関する基礎的知見について報告する. 2レーザ溶接時の気泡の挙動に関するモデル レーザ溶接時においては,キーホールの形成,プルームと呼ばれるプラズマの発生,溶融池内における対流等々があるた統合的なモデル化は極めて複雑である.とくに,溶融池の形状に影響を与える因子として,プルームによるレーザビームの吸収,溶融池内の対流などが考えられるが,これら全てを同時に考慮することは問題を著しく複雑化することになる. ここでは,Fig. 1中の四角枠で囲った部分に示すように,これらの中で,レーザ溶接の特徴であるポロシティの形成に大きな影響を与えると考えられている,溶融金属中における気泡の動きにのみ着目した解析を試みた. Fig.1 Analysis domain of Laser welding 実際のレーザ溶接時には,高パワー密度でレーザを照射した場合,材料が瞬時に溶融・蒸発してホールが形成され,その内部では激しい対流が生じるため,気泡の挙動はその溶融池内の対流に大きな影響を受けることになる.したがって,レーザ溶接のシミュレーションを行う際には,以下の点について考慮することが重要となる. ・気泡の追跡手法 ・気泡の運動に作用する外力 そこで本研究では,溶融アルミニウム中における気泡の運動に関する数値シミュレーションを行い,その挙動や凝固後の停止位置について計算を試みるとともに,直接観察によりその計算結果の妥当性の検証を試み3.計算モデルと計算方法 30.1計算モデル 気泡の追跡手法では,個々の気泡の運動にNewtonの運動方程式を適用して計算される.一般に,球形の粒子に関しては,Basset-Boussinesq-Ossen formulation(BBO方程式)を基礎とし,以下に詳述する効果を表す項の総和として質点モデル[1][2]が提案されており,流体―気泡の混相流の数値計算においても有用なモデルとして広く利用されている.気泡の運動の方程式は次式で与えられる
. ( ) ( ) √ ∫( ) √ ここでdb は気泡径(m), , はそれぞれ流体の密度(kg・m-3)および気泡,μは粘性係数(Pa・s)である.vf = (uf, vf, wf), vb = (ub, vb, wb)はそれぞれ流体および気泡の速度(m・s-1),F は外力(N)である. 左辺は気泡が運動する際の加速に要する力である.右辺第1 項はStokes 則に対応した粘性抵抗力の項である.第2 項は気泡の周囲の流体が加速されることによって発生する圧力勾配である.第3 項は付加質量項で,気泡が周囲の流体を付随して運動することによって発生する付加的な質量を表している.第4 項はBasset 項と呼ばれており,定常状態の流れパターンからの逸脱の効果を表す項である.最後の項はポテンシャル場による外力である. 元々のBBOT 式には揚力F..は入っていないが,本研究では流れ場の勾配によって発生する揚力F..を考慮に入れている.また,右辺第1項の抗力に関してはStokes 域を超える場合があるために,抗力の一般形式を用いる.さらに,運動の非定常性の影響はないとしてBasset 項は無視し,外力として浮力を考慮する.以上の仮定により,式
“ “アルミニウム溶接時の溶融金属中における気泡の挙動に関する数値解析 “ “周 楓,Qiaofeng ZHOU,小山 和晃,Kazuaki KOYAMA,宮坂 史和,Humikazu MIYASAKA,森 裕章,Hiroaki MORI“ “アルミニウム溶接時の溶融金属中における気泡の挙動に関する数値解析 “ “周 楓,Qiaofeng ZHOU,小山 和晃,Kazuaki KOYAMA,宮坂 史和,Humikazu MIYASAKA,森 裕章,Hiroaki MORI
アルミニウム合金は,加工性・耐食性に優れ,軽量で比強度が高いことから,主に軽量化へのニーズが高い自動車や航空機などの輸送機械へ利用されている. 一方,近年,構造物および製品の高品質化,高信頼化などへの社会的要請から,溶接,表面処理などを含む幅広い範囲で,高性能,高品質な加工技術の開発が求められている.このようなニーズに応える一つの方法として,レーザや電子ビームなどの高パワー密度熱源を用いた加工法が研究されている.特にレーザは,コヒーレントな光熱源であることから,溶接などの加工に応用しやすく,適用範囲が広い.レーザ溶接はキーホール溶接の一種であり,熱影響部・熱ひずみが小さく,深溶け込み・高速度溶接が可能である.また,大気中での溶接が可能で,ビームの照射位置を精密に制御できるため,複雑な構造物の溶接や精密溶接に適用可能である. 一般に,アルミニウム合金は降伏応力が小さく,熱膨張係数が大きいことから溶接変形が大きく,それを小さくできるレーザ溶接の適用は有効であると考えられる.しかしながら,アルミニウム合金はレーザ光の反射率が高く,さらに熱伝導率・熱拡散率が大きいことから,アルミニウム合金のレーザ溶接では,溶融池の形成自体が比較的困難である.加えて,溶融アルミニウムは動粘性係数が小さく,表面張力が大きいことから,溶接部にポロシティと呼ばれる気孔が発生しやすいことも問題となっている.ポロシティは溶接継手の外観を損なうばかりでなく,機械的特性に悪影響を及ぼすため,その低減あるいは防止は重要な課題である. アルミニウム合金のレーザ溶接時に,欠陥を抑制するようパラメータを決定する際,実験的に決定しており,設計・開発が非効率となっているのが現状である.これに対して,数値シミュレーションを用いてポロシティをはじめとする各種溶接欠陥の発生予測を行うことができれば,開発までに要する期間を大幅に短縮できるものと期待され,工業的にも極めて有意義であると考えられる. そこで本研究では,アルミニウム合金のレーザ溶接時における各種欠陥の中でもとくにポロシティに着目し,その発生を数値シミュレーションにより予測することを目的とした.本稿では,その第一段階として,溶融アルミニウム中での気泡の運動に関する比較的簡易なモデルを用いて計算した結果得られたその挙動に関する基礎的知見について報告する. 2レーザ溶接時の気泡の挙動に関するモデル レーザ溶接時においては,キーホールの形成,プルームと呼ばれるプラズマの発生,溶融池内における対流等々があるた統合的なモデル化は極めて複雑である.とくに,溶融池の形状に影響を与える因子として,プルームによるレーザビームの吸収,溶融池内の対流などが考えられるが,これら全てを同時に考慮することは問題を著しく複雑化することになる. ここでは,Fig. 1中の四角枠で囲った部分に示すように,これらの中で,レーザ溶接の特徴であるポロシティの形成に大きな影響を与えると考えられている,溶融金属中における気泡の動きにのみ着目した解析を試みた. Fig.1 Analysis domain of Laser welding 実際のレーザ溶接時には,高パワー密度でレーザを照射した場合,材料が瞬時に溶融・蒸発してホールが形成され,その内部では激しい対流が生じるため,気泡の挙動はその溶融池内の対流に大きな影響を受けることになる.したがって,レーザ溶接のシミュレーションを行う際には,以下の点について考慮することが重要となる. ・気泡の追跡手法 ・気泡の運動に作用する外力 そこで本研究では,溶融アルミニウム中における気泡の運動に関する数値シミュレーションを行い,その挙動や凝固後の停止位置について計算を試みるとともに,直接観察によりその計算結果の妥当性の検証を試み3.計算モデルと計算方法 30.1計算モデル 気泡の追跡手法では,個々の気泡の運動にNewtonの運動方程式を適用して計算される.一般に,球形の粒子に関しては,Basset-Boussinesq-Ossen formulation(BBO方程式)を基礎とし,以下に詳述する効果を表す項の総和として質点モデル[1][2]が提案されており,流体―気泡の混相流の数値計算においても有用なモデルとして広く利用されている.気泡の運動の方程式は次式で与えられる
. ( ) ( ) √ ∫( ) √ ここでdb は気泡径(m), , はそれぞれ流体の密度(kg・m-3)および気泡,μは粘性係数(Pa・s)である.vf = (uf, vf, wf), vb = (ub, vb, wb)はそれぞれ流体および気泡の速度(m・s-1),F は外力(N)である. 左辺は気泡が運動する際の加速に要する力である.右辺第1 項はStokes 則に対応した粘性抵抗力の項である.第2 項は気泡の周囲の流体が加速されることによって発生する圧力勾配である.第3 項は付加質量項で,気泡が周囲の流体を付随して運動することによって発生する付加的な質量を表している.第4 項はBasset 項と呼ばれており,定常状態の流れパターンからの逸脱の効果を表す項である.最後の項はポテンシャル場による外力である. 元々のBBOT 式には揚力F..は入っていないが,本研究では流れ場の勾配によって発生する揚力F..を考慮に入れている.また,右辺第1項の抗力に関してはStokes 域を超える場合があるために,抗力の一般形式を用いる.さらに,運動の非定常性の影響はないとしてBasset 項は無視し,外力として浮力を考慮する.以上の仮定により,式
“ “アルミニウム溶接時の溶融金属中における気泡の挙動に関する数値解析 “ “周 楓,Qiaofeng ZHOU,小山 和晃,Kazuaki KOYAMA,宮坂 史和,Humikazu MIYASAKA,森 裕章,Hiroaki MORI“ “アルミニウム溶接時の溶融金属中における気泡の挙動に関する数値解析 “ “周 楓,Qiaofeng ZHOU,小山 和晃,Kazuaki KOYAMA,宮坂 史和,Humikazu MIYASAKA,森 裕章,Hiroaki MORI