過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響
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カテゴリ: 第10回
1.緒言
Ni基合金は原子炉材料として加圧水型軽水炉(Pressurized Water Reactor : PWR)用蒸気発生器伝熱管材料あるいは、異材溶接継手などで大きな使用実績がある。しかし1972年にObrigheimの600合金(Ni-15Cr-8Fe)製蒸気発生器伝熱管拡管部や、1978年に美浜3号機のX-750合金製制御棒クラスタ案内管支持ピンで粒界型応力腐食割れ(Intergranular Stress Corrosion Cracking : IGSCC)が認められた。これらPWR1次系水中でのNi基合金のIGSCCをPWSCC(Primary Water Stress Corrosion Cracking)という。PWSCCの対策として特殊熱処理を施したTT600合金や、さらに耐PWSCC性を改良したTT690合金(Ni-29Cr-9Fe)が開発されプラントに採用されている[1]。 600合金のPWSCC発生メカニズムとして水素脆化説、内部酸化説、すべり酸化説などがあげられている。Scott等[2]は酸素の内方への拡散により酸化物を形成する内部 酸化によって粒界割れが起こるとしている。また戸塚等[3]は600合金を使用しPWR一次冷却水模擬環境中と水素ガス中でHump-SSRT試験を行い、粒界割れが一次冷却水模擬環境中のみならず水素ガス中でも発生しているとし、 PWSCCの主たるメカニズムは水素脆化によるものであるとしている。しかしこれら複数のメカニズムが提案されているが、600合金のPWSCC発生メカニズムは未だ解明されていないのが現状である。 本研究では特定合金成分の選択酸化を伴う内部酸化が600合金の主たるPWSCCメカニズムであるとの立場から、水素を含む過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響を調査することを目的とする。
2. 過熱水蒸気中での割れ感受性評価試験方法
供試材にはNi-Cr二元系合金およびNi-Cr-Fe三元系合金を使用し、Cr含有量の異なる6種類のNi基合金を用いた。Ni基合金の組成をTable1に示す。これらは1230℃/10時間の均質化熱処理と熱間圧延の後に1180℃/30分の溶体化熱処理が施されている。また供試材の機械的特性をTable2に示す。本研究では平板試験片と逆U曲げ試験片(Revers U Bend 試験片:RUB試験片)を使用した。RUB試験片はJIS規格[4]に準拠して製造した。 Table1 Chemistry composition of Ni base alloys (wt%) <0.0010.0010.0010.020.0020.057.8529.35Bal.Ni-30Cr-8Fe<0.0010.0010.0010.020.0010.057.8421.58Bal.Ni-22Cr-8Fe<0.001<0.0010.0010.020.0020.057.8113.69Bal.Ni-14Cr-8Fe0.003<0.001<0.0010.0120.0020.0440.02929.67Bal.Ni-30Cr0.004<0.0010.0010.0070.0030.0460.01921.87Bal.Ni-22Cr0.006<0.0010.002<0.0010.0080.0490.01413.89Bal.Ni-14CrCSPSiMgMnFeCrNi<0.0010.0010.0010.020.0020.057.8529.35Bal.Ni-30Cr-8Fe<0.0010.0010.0010.020.0010.057.8421.58Bal.Ni-22Cr-8Fe<0.001<0.0010.0010.020.0020.057.8113.69Bal.Ni-14Cr-8Fe0.003<0.001<0.0010.0120.0020.0440.02929.67Bal.Ni-30Cr0.004<0.0010.0010.0070.0030.0460.01921.87Bal.Ni-22Cr0.006<0.0010.002<0.0010.0080.0490.01413.89Bal.Ni-14CrCSPSiMgMnFeCrNiTable2 mechanical properties of nickel base alloy -0.26559.7452149Ni-30Cr-8Fe-0.26665.3439118Ni-22Cr-8Fe-0.26852.3423107Ni-14Cr-8Fe113.20.34658.7478156Ni-30Cr132.40.34655.0454124Ni-22Cr110.20.33950.738685Ni-14CrHBWポアソン比伸び(%)引張強さ(MPa)0.2%耐力(MPa)-0.26559.7452149Ni-30Cr-8Fe-0.26665.3439118Ni-22Cr-8Fe-0.26852.3423107Ni-14Cr-8Fe113.20.34658.7478156Ni-30Cr132.40.34655.0454124Ni-22Cr110.20.33950.738685Ni-14CrHBWポアソン比伸び(%)引張強さ(MPa)0.2%耐力(MPa)試験温度は400℃、試験時間は750時間とした。N2ガスをバブリングすることで溶存酸素濃度を1ppb以下に調整した高純度水を蒸発させ、Ar-4%H2ガスと混合し水素/水蒸気比(Partial Pressure Ratio:PPR)により酸化力を制御した反応容器内で試験を行った。PPRは以下の式[5]から導いた。各試験条件をTable3に示す。 [5] 22ln)ln(2222OOHHOHPRTPPRTG=。..Table3 Test condition of this study PPR LOGPO2 Test1 7.79×10-4 -26.321Test2 5.99×10-5 -24.093Test3 1.79×10-3 -27.047なお今回目標とした酸素ポテンシャルの値は極めて低いため、試験中の実際の酸素ポテンシャルが計画した酸素ポテンシャルと必ずしも一致していない可能性があるという問題がある。そこで数種類の純金属(Fe、Ni、Co)を試験チャンバー内に設置して、酸化の有無と酸化物の同定から試験環境中の酸素ポテンシャル範囲をモニタリングした。 3. 試験結果 3.1 酸化力に対する割れ感受性の有無 横軸に酸化力をとり、400℃での純金属の酸化物の解離圧、主要合金成分の解離圧、目標とした試験環境中の酸化力および割れ感受性の有無を示したものをFig1に示す。また純金属の酸化の有無から得られた実際の試験環境中の酸化力の範囲を矢印で示している。 Fig1より過熱水蒸気中においてNi-Cr合金はTes1の試験環境でのみ割れ感受性を示した。割れ感受性はCr含有量の増加とともに低下していた。Test1はNi-14CrだけでなくNi-30Crにおいても割れ感受性を示しており、高い割れ感受性を示す環境であると考えられる。Test2、Test3はNi-14Crでさえ割れ感受性を示さず、Test1の試験環境と比較し割れ感受性の低い環境であり、わずかな酸化力の変化で割れ感受性が大きく変化するものと考えられる。 Fig.1 summary of cracking susceptibility 3.2 表面方向からの分析 割れ感受性を示したTest1でのRUB試験片の表面SEM写真および割れ感受性を示さなかったTest2でのRUB試験片の表面SEM写真をFig2に示す。割れ感受性を示した試験片表面では皮膜の損傷がみられたが、割れ感受性を示さなかった試験片表面では皮膜の損傷がみられなかった。またこの皮膜の損傷の程度はCr含有量の増加とともに低下していた。割れ感受性の有無と皮膜の損傷の有無が相関していることが分かる。 (Test1-Ni14Cr-RUB specimen) (Test2-Ni14Cr-RUB specimen) (Test1-Ni22Cr-RUB specimen) (Test2-Ni22Cr-RUB specimen) (Test1-Ni30Cr-RUB specimen) (Test2-Ni30Cr-RUB specimen) Fig.2 SEM image of specimen surface 上述したように、割れ感受性を示した試験片において皮膜の損傷がみられており、皮膜の良否が割れ感受性に影響する可能性がある。そこで各合金に対して皮膜の分析を行った。ラマン分光分析法を用いてRUB試験片の皮膜酸化物の同定を行った。なお測定は複数回行い再現性を確認した。各試験におけるRUB試験片の表面のラマンスペクトルをFig3に示す。割れ感受性の有無にかかわらず試験片全てにおいてCr2O3が形成されていることが確認された。割れの有無によって形成された酸化物に違いは見られなかった。ラマン分光分析法から得られた空間平均値的な情報のみでは、割れ感受性と酸化皮膜特徴の関係を議論するのは困難であると考えられた。今後、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope : TEM)などを用いた皮膜の微視的構造の観察を計画している。 Fig.3 Measured Raman spectra of RUB specimens 3.3断面方向からの分析 割れ感受性を示したNi-14CrのRUB試験片のき裂断面SEM写真をFig4に示す。割れの形態は粒界割れであった。また、き裂先端SEM写真をFig5に示す。Fig5より、き裂前方に粒界に沿った酸化が10μm程度みられた。 Fig.4 SEM image of cross section of crack (Ni-14Cr) Fig.5 SEM image of crack tip (Ni-14Cr) 本研究では特定合金成分の選択酸化を伴う内部酸化が600合金の主たるPWSCCメカニズムであるとの立場にたっており、特にき裂先端で起きている現象を理解することが必要であると考えられる。そこで割れ感受性を示したTest1のRUB試験片についてTEMを用いたき裂先端部の局所的な分析を行った。Fig6にき裂先端部近傍のEDX分析結果を示す。Fig6より、き裂先端から前方においてCr欠乏領域が存在しており、粒界を経路とした内方酸化が起きていた。Bruemmer等[6]は、600合金をPWR1次系模擬環境でUベンド試験片を用いたSCC試験を行い、粒界割れ先端部にCr酸化物と多孔質なNi相を確認しており、粒界割れは粒界を経路とした内方酸化と関係するとしている。本研究で得られた結果は上述した高温水中での知見と一致しており、粒界を経路とした内方酸化が割れに寄与するものと考えられる。 Fig.6 TEM-EDX analysis of crack tip (Test1-Ni22Cr-RUB specimen) 4. 結言 (1) 水素を含む過熱水蒸気中において、Ni-Cr合金はNi/NiO解離圧近傍で割れ感受性を示した。Cr含有量の増加とともに割れ感受性は低下したものの、Ni-30Crにおいても割れ感受性が認められた。一方で、割れ感受性が認められた酸素ポテンシャル範囲は極めて限られていた。 (2) 割れ感受性の有無にかかわらず試験片全てにおいてCr2O3が形成されていることが確認された。割れの有無によって形成された酸化物に違いは見られなかった。ラマン分光分析法から得られた空間平均値的な情報のみでは、割れ感受性と酸化皮膜特徴の関係を議論するのは困難であると考えられた。 (3)SEM観察より、き裂先端から10μm程度前方にかけて粒界に沿った酸化が認められた。また、TEMを用いたき裂先端部の分析より、き裂先端から前方においてCr欠乏領域が存在しており、粒界を経路とした内方酸化が起きていた。これより粒界を経路とした内方酸化が割れに寄与するものと考えられる。 参考文献 [1] 米澤利夫, 日本原子力学会誌, Vol53, No10, pp710-pp715, -2011[2] P.M.Scott et al,:6th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors (1993)pp657-pp665 [3] N.Totsuka et al,:15th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors(2011)pp1667-pp1682. [4] 日本規格協会,金属及び合金の逆U曲げ試験片を用いた応力腐食割れ試験方法,(JIS G 0511),(2006) [5] 丸山俊夫.上田光敏,Taikabutu, 58, (5), pp269-pp274, -2006[6] S.M.Bruemmer et al,:9th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors(1999)pp41-pp47
“ “過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響 “ “熊谷 大介,Daisuke KUMAGAI,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE“ “過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響 “ “熊谷 大介,Daisuke KUMAGAI,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE
Ni基合金は原子炉材料として加圧水型軽水炉(Pressurized Water Reactor : PWR)用蒸気発生器伝熱管材料あるいは、異材溶接継手などで大きな使用実績がある。しかし1972年にObrigheimの600合金(Ni-15Cr-8Fe)製蒸気発生器伝熱管拡管部や、1978年に美浜3号機のX-750合金製制御棒クラスタ案内管支持ピンで粒界型応力腐食割れ(Intergranular Stress Corrosion Cracking : IGSCC)が認められた。これらPWR1次系水中でのNi基合金のIGSCCをPWSCC(Primary Water Stress Corrosion Cracking)という。PWSCCの対策として特殊熱処理を施したTT600合金や、さらに耐PWSCC性を改良したTT690合金(Ni-29Cr-9Fe)が開発されプラントに採用されている[1]。 600合金のPWSCC発生メカニズムとして水素脆化説、内部酸化説、すべり酸化説などがあげられている。Scott等[2]は酸素の内方への拡散により酸化物を形成する内部 酸化によって粒界割れが起こるとしている。また戸塚等[3]は600合金を使用しPWR一次冷却水模擬環境中と水素ガス中でHump-SSRT試験を行い、粒界割れが一次冷却水模擬環境中のみならず水素ガス中でも発生しているとし、 PWSCCの主たるメカニズムは水素脆化によるものであるとしている。しかしこれら複数のメカニズムが提案されているが、600合金のPWSCC発生メカニズムは未だ解明されていないのが現状である。 本研究では特定合金成分の選択酸化を伴う内部酸化が600合金の主たるPWSCCメカニズムであるとの立場から、水素を含む過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響を調査することを目的とする。
2. 過熱水蒸気中での割れ感受性評価試験方法
供試材にはNi-Cr二元系合金およびNi-Cr-Fe三元系合金を使用し、Cr含有量の異なる6種類のNi基合金を用いた。Ni基合金の組成をTable1に示す。これらは1230℃/10時間の均質化熱処理と熱間圧延の後に1180℃/30分の溶体化熱処理が施されている。また供試材の機械的特性をTable2に示す。本研究では平板試験片と逆U曲げ試験片(Revers U Bend 試験片:RUB試験片)を使用した。RUB試験片はJIS規格[4]に準拠して製造した。 Table1 Chemistry composition of Ni base alloys (wt%) <0.0010.0010.0010.020.0020.057.8529.35Bal.Ni-30Cr-8Fe<0.0010.0010.0010.020.0010.057.8421.58Bal.Ni-22Cr-8Fe<0.001<0.0010.0010.020.0020.057.8113.69Bal.Ni-14Cr-8Fe0.003<0.001<0.0010.0120.0020.0440.02929.67Bal.Ni-30Cr0.004<0.0010.0010.0070.0030.0460.01921.87Bal.Ni-22Cr0.006<0.0010.002<0.0010.0080.0490.01413.89Bal.Ni-14CrCSPSiMgMnFeCrNi<0.0010.0010.0010.020.0020.057.8529.35Bal.Ni-30Cr-8Fe<0.0010.0010.0010.020.0010.057.8421.58Bal.Ni-22Cr-8Fe<0.001<0.0010.0010.020.0020.057.8113.69Bal.Ni-14Cr-8Fe0.003<0.001<0.0010.0120.0020.0440.02929.67Bal.Ni-30Cr0.004<0.0010.0010.0070.0030.0460.01921.87Bal.Ni-22Cr0.006<0.0010.002<0.0010.0080.0490.01413.89Bal.Ni-14CrCSPSiMgMnFeCrNiTable2 mechanical properties of nickel base alloy -0.26559.7452149Ni-30Cr-8Fe-0.26665.3439118Ni-22Cr-8Fe-0.26852.3423107Ni-14Cr-8Fe113.20.34658.7478156Ni-30Cr132.40.34655.0454124Ni-22Cr110.20.33950.738685Ni-14CrHBWポアソン比伸び(%)引張強さ(MPa)0.2%耐力(MPa)-0.26559.7452149Ni-30Cr-8Fe-0.26665.3439118Ni-22Cr-8Fe-0.26852.3423107Ni-14Cr-8Fe113.20.34658.7478156Ni-30Cr132.40.34655.0454124Ni-22Cr110.20.33950.738685Ni-14CrHBWポアソン比伸び(%)引張強さ(MPa)0.2%耐力(MPa)試験温度は400℃、試験時間は750時間とした。N2ガスをバブリングすることで溶存酸素濃度を1ppb以下に調整した高純度水を蒸発させ、Ar-4%H2ガスと混合し水素/水蒸気比(Partial Pressure Ratio:PPR)により酸化力を制御した反応容器内で試験を行った。PPRは以下の式[5]から導いた。各試験条件をTable3に示す。 [5] 22ln)ln(2222OOHHOHPRTPPRTG=。..Table3 Test condition of this study PPR LOGPO2 Test1 7.79×10-4 -26.321Test2 5.99×10-5 -24.093Test3 1.79×10-3 -27.047なお今回目標とした酸素ポテンシャルの値は極めて低いため、試験中の実際の酸素ポテンシャルが計画した酸素ポテンシャルと必ずしも一致していない可能性があるという問題がある。そこで数種類の純金属(Fe、Ni、Co)を試験チャンバー内に設置して、酸化の有無と酸化物の同定から試験環境中の酸素ポテンシャル範囲をモニタリングした。 3. 試験結果 3.1 酸化力に対する割れ感受性の有無 横軸に酸化力をとり、400℃での純金属の酸化物の解離圧、主要合金成分の解離圧、目標とした試験環境中の酸化力および割れ感受性の有無を示したものをFig1に示す。また純金属の酸化の有無から得られた実際の試験環境中の酸化力の範囲を矢印で示している。 Fig1より過熱水蒸気中においてNi-Cr合金はTes1の試験環境でのみ割れ感受性を示した。割れ感受性はCr含有量の増加とともに低下していた。Test1はNi-14CrだけでなくNi-30Crにおいても割れ感受性を示しており、高い割れ感受性を示す環境であると考えられる。Test2、Test3はNi-14Crでさえ割れ感受性を示さず、Test1の試験環境と比較し割れ感受性の低い環境であり、わずかな酸化力の変化で割れ感受性が大きく変化するものと考えられる。 Fig.1 summary of cracking susceptibility 3.2 表面方向からの分析 割れ感受性を示したTest1でのRUB試験片の表面SEM写真および割れ感受性を示さなかったTest2でのRUB試験片の表面SEM写真をFig2に示す。割れ感受性を示した試験片表面では皮膜の損傷がみられたが、割れ感受性を示さなかった試験片表面では皮膜の損傷がみられなかった。またこの皮膜の損傷の程度はCr含有量の増加とともに低下していた。割れ感受性の有無と皮膜の損傷の有無が相関していることが分かる。 (Test1-Ni14Cr-RUB specimen) (Test2-Ni14Cr-RUB specimen) (Test1-Ni22Cr-RUB specimen) (Test2-Ni22Cr-RUB specimen) (Test1-Ni30Cr-RUB specimen) (Test2-Ni30Cr-RUB specimen) Fig.2 SEM image of specimen surface 上述したように、割れ感受性を示した試験片において皮膜の損傷がみられており、皮膜の良否が割れ感受性に影響する可能性がある。そこで各合金に対して皮膜の分析を行った。ラマン分光分析法を用いてRUB試験片の皮膜酸化物の同定を行った。なお測定は複数回行い再現性を確認した。各試験におけるRUB試験片の表面のラマンスペクトルをFig3に示す。割れ感受性の有無にかかわらず試験片全てにおいてCr2O3が形成されていることが確認された。割れの有無によって形成された酸化物に違いは見られなかった。ラマン分光分析法から得られた空間平均値的な情報のみでは、割れ感受性と酸化皮膜特徴の関係を議論するのは困難であると考えられた。今後、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope : TEM)などを用いた皮膜の微視的構造の観察を計画している。 Fig.3 Measured Raman spectra of RUB specimens 3.3断面方向からの分析 割れ感受性を示したNi-14CrのRUB試験片のき裂断面SEM写真をFig4に示す。割れの形態は粒界割れであった。また、き裂先端SEM写真をFig5に示す。Fig5より、き裂前方に粒界に沿った酸化が10μm程度みられた。 Fig.4 SEM image of cross section of crack (Ni-14Cr) Fig.5 SEM image of crack tip (Ni-14Cr) 本研究では特定合金成分の選択酸化を伴う内部酸化が600合金の主たるPWSCCメカニズムであるとの立場にたっており、特にき裂先端で起きている現象を理解することが必要であると考えられる。そこで割れ感受性を示したTest1のRUB試験片についてTEMを用いたき裂先端部の局所的な分析を行った。Fig6にき裂先端部近傍のEDX分析結果を示す。Fig6より、き裂先端から前方においてCr欠乏領域が存在しており、粒界を経路とした内方酸化が起きていた。Bruemmer等[6]は、600合金をPWR1次系模擬環境でUベンド試験片を用いたSCC試験を行い、粒界割れ先端部にCr酸化物と多孔質なNi相を確認しており、粒界割れは粒界を経路とした内方酸化と関係するとしている。本研究で得られた結果は上述した高温水中での知見と一致しており、粒界を経路とした内方酸化が割れに寄与するものと考えられる。 Fig.6 TEM-EDX analysis of crack tip (Test1-Ni22Cr-RUB specimen) 4. 結言 (1) 水素を含む過熱水蒸気中において、Ni-Cr合金はNi/NiO解離圧近傍で割れ感受性を示した。Cr含有量の増加とともに割れ感受性は低下したものの、Ni-30Crにおいても割れ感受性が認められた。一方で、割れ感受性が認められた酸素ポテンシャル範囲は極めて限られていた。 (2) 割れ感受性の有無にかかわらず試験片全てにおいてCr2O3が形成されていることが確認された。割れの有無によって形成された酸化物に違いは見られなかった。ラマン分光分析法から得られた空間平均値的な情報のみでは、割れ感受性と酸化皮膜特徴の関係を議論するのは困難であると考えられた。 (3)SEM観察より、き裂先端から10μm程度前方にかけて粒界に沿った酸化が認められた。また、TEMを用いたき裂先端部の分析より、き裂先端から前方においてCr欠乏領域が存在しており、粒界を経路とした内方酸化が起きていた。これより粒界を経路とした内方酸化が割れに寄与するものと考えられる。 参考文献 [1] 米澤利夫, 日本原子力学会誌, Vol53, No10, pp710-pp715, -2011[2] P.M.Scott et al,:6th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors (1993)pp657-pp665 [3] N.Totsuka et al,:15th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors(2011)pp1667-pp1682. [4] 日本規格協会,金属及び合金の逆U曲げ試験片を用いた応力腐食割れ試験方法,(JIS G 0511),(2006) [5] 丸山俊夫.上田光敏,Taikabutu, 58, (5), pp269-pp274, -2006[6] S.M.Bruemmer et al,:9th international conference on degradation of materials in nuclear power systems-water reactors(1999)pp41-pp47
“ “過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響 “ “熊谷 大介,Daisuke KUMAGAI,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE“ “過熱水蒸気中におけるNi基合金での割れ感受性、粒界酸化、皮膜酸化物に及ぼす酸化力の影響 “ “熊谷 大介,Daisuke KUMAGAI,阿部 博志,Hiroshi ABE,渡邉 豊,Yutaka WATANABE