劣化・メンテナンス等を考慮した機器リスク評価

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カテゴリ: 第10回
1.はじめに
運転開始後の年数を経た原子力発電プラントについて、その健全性を評価するためには、プラントを構成する機器の健全性を評価する必要がある。機器は、経年化と共に構成する材料に劣化を考慮する必要性が生じ、またメンテナンス状況等によっても健全性に影響が生じる。したがって、機器に劣化・メンテナンス等を考慮したプラントの健全性評価は、経年化したプラントには重要な意味を持つことになる。これまで、経年化プラントのこのような健全性評価手法は開発されていないことから、その開発が待たれている状況である。本報告では、機器の健全性を機器の機能損傷確率として評価し、そこにどのように劣化やメンテナンス等の保全情報を取り込むかについて、考え方を提示するものである。
2.プラントの構成機器
プラントは次の4 つの機能を果たす多くのシステムで構成されている。 (1)バウンダリ機能 (2)炉心冷却機能 (3)炉心制御機能 (4)共通機能 各システムは、配管、弁、ポンプ、電気・計装・制御機器等の機器で構成されている。したがって、これら機器の健全性を評価することによって、各システムの健全性が評価され、さらにプラントとしての健全性が評価されることになる。 ここでは、(2)炉心冷却機能を果たすシステムのうち、非常用炉心冷却系(ECCS)に着目して評価を進める。 ECCS はさらにいくつかのシステムにより構成されているが、代表的なシステムとして低圧炉心スプレイ系(LPCS 系)を検討対象とする。概略系統図を図-1 に示しているが、構成する機器としては次の4 機器が上げられる。 ・配管 ・弁 ・ポンプ ・その他、電気・計装・制御機器 Fig.1 Low Pressure Core Spray System 3.機器の評価 ここでは、LPCS 系を構成する機器のうちポンプについて、劣化、メンテナンス等の保全を考慮した健全性評価手法について考え方をまとめる。 ポンプの健全性を、ポンプの損傷確率を求めることで評価する。ポンプの機能には、「送水機能」、「バウン
ダリ」、「機器の支持」の3 機能がある。ポンプの機能損傷が発生する確率として、「バウンダリ」によるものは小さいと判断し、「送水機能」と「機器の支持」の2 機能について考慮する。送水機能の損傷としてポンプが動作要求時に動作しない動作不良確率と、機器の支持に関する機能損傷として支持構造部の損傷確率について考慮する。 3.1 動作不良 ポンプの動作不良としては、停止中のポンプに起動の動作要求があるにも関わらず動作しない不良と、運転中のポンプが停止する不良が考えられる。これらに関係する劣化要因としては、主にポンプの回転部(消耗品含む)、電気計装制御関係部に次の劣化要因を考えることができる。 ・摺動部固着 ・モータ絶縁劣化 ・ケーブル劣化 ・計装・制御機器劣化 (1) 停止中ポンプの起動にあたっての動作不良確率(損傷確率)の考え方 1) 基本の動作不良確率 ・動作不良確率(損傷確率)の初期値をここでは10-4 回/年(参照:JNES の研究)とするが、今後、最新の知見により見直す必要がある。(図-2 の「基本線」参照) ・ポンプが起動にあたって動作不良を起こすのは、考えられる上述の劣化要因のうち、摺動部の固着の寄与が大きいと考えられるが、今後、データの蓄積等を行っていくことが必要である。 動作不良への寄与 大:摺動部固着 動作不良への寄与 小:モータ絶縁劣化、ケーブル劣化、計装・制御機器劣化 2) 不具合対応部品の有無、消耗品の影響 ・ポンプに不具合があり、恒久対策部品への取替が出来ていない場合、一時的に従来部品または暫定対策品を使用して運転されることがある。このような場合には、損傷確率は若干増加するとする。 ・消耗品は定期的に取替えられるべきものであるが、取替推奨時期を超えて使用された場合、ポンプの損傷確率は、不具合による従来部品の使用の場合に比較してさらに増加するものとする。(図-2 参照) Fig.2 Influence of Consumable Parts and Defect Parts 3) 試験運転の効果 ・停止中のポンプをX 年後に試験運転した場合、動作不良への寄与が大きいと考えられる摺動部固着については固着していないことが確認されたため、損傷確率が大きく回復する。一方、試験運転によっては、電気計装制御関係の劣化については改善されていないため、その寄与分は復帰しないことになる。 基本線 大きく回復 10-4 回/年 10-3 回/年 損傷確率 X 年 X 年後に試験運転した場合の線 初期値 10 年 Fig.3 Effect of Test 4) 分解点検を行った場合 ・分解点検を行ったことだけでは、上述の劣化要因に改善を与えてはいないため、損傷確率が改善されることはないと考える。しかし同時に行われる試験運転により、3)項の効果が得られることになる。 ・分解点検後の試験運転の条件が、プラント運転時に実際に使用される温度・圧力である場合、分解点検におけるヒューマンファクターの影響を除去できたとして、損傷確率が摺動部固着分だけ大きく回復するとする(図-4 の分解点検(a)参照)。 ・分解点検後の試験運転の条件が、実際に使用される温度・圧力ではない場合、分解点検におけるヒューマン基本線 不具合部品有 消耗品の取替 時期超過 初期値 10年 10-4回/年 10-3回/年 損傷確率 ファクターの影響が除去しきれていないと判断し、損傷確率の回復率は小さくする(分解点検(b))。その後、実際に使用される温度・圧力での試験を実施すれば、分解点検(a)のラインに回復するとする。 ・ここで、電気計装制御関係機器の劣化の影響は、これらの機器が取り替えられない限り、継続する。これらの機器が更新されれば、損傷確率もその分だけ回復することになる。 大きく回復 基本線 分解点検(a) 分解点検(b) 10-4 回/年 10-3 回/年 2X 年 3X 年 損傷確率 初期値 X 年 10年 Fig.4 Effect of Decomposition and Inspection (2) 運転中ポンプが停止する動作不良確率(損傷確率)の考え方 1) 基本の動作不良確率 ・運転中ポンプが動作不良(停止)となるのは、前述と同様に主にポンプの回転部または電気計装制御関係部分が原因と考えられる。ポンプ回転部の劣化要因である摺動部の固着により停止する可能性は、ポンプが運転状態であるため非常に小さいと考えられ、停止中ポンプの場合に想定される寄与率より格段に小さいと考える。 これにより、運転中ポンプが停止する確率の初期値もほぼ1 桁下がると考え、初期値を10-5回/年とする。損傷確率の経年変化は図-5(基本線)となる。 (なお、米国の運転実績に基づくデマンド故障率においても、電動ポンプの継続運転失敗の確率は、起動失敗確率より1桁低い。) 2) 不具合対応部品の有無、消耗品の影響 ・不具合対応部品の有無、消耗品の影響については、(1) の2)と同じである。 3) 分解点検を行った場合 ・プラント寿命中、ポンプを分解点検等のために運転停止し、再度運転再開した場合には、損傷確率は図-5 のように基本線に復帰すると考えられる。主な劣化要因である摺動部固着、電気計装制御関係の劣化について改善されていないためである。 ・一方、点検時に電気計装制御機器を全て更新した場合には、損傷確率は大きく回復することになる。(全更新ケース)。 Fig.5 Effect of Decomposition and Inspection 3.2 支持構造部損傷 (1)考えられる劣化要因 当該ポンプ支持構造部の劣化要因として、炭素鋼製であることから腐食が考えられる。 (2)評価法 ・支持構造部として基礎ボルトの評価について考える。 ・プラント運転開始時の基礎ボルト径が腐食により、経年的に一様に減少していくと考える。 ・工認の強度評価を利用して評価を行う。模擬の地震力を負荷し、判定値をオーバーする地震力を求める。基礎ボルト径が減少しているため、設計当初よりは、低い地震力で判定値をオーバーすることになる。 ・地震の大きさとその発生確率は図-6 のような関係がある。上述の判定値をオーバーした地震力の発生確率を図-6 から求め、その地震発生確率をその基礎ボルトの損傷確率とみなすこととする。例えば、2 Ss で判定値をオーバーすれば、その地震力の発生確率X (<10-4回/年)を基礎ボルトの損傷確率とする。 運転 再開 全更新ケース 基本線 運転 停止 10-5回/年 10-3回/年損傷確率 初期値(運開時) 100年 X 10-4 回/年 地震発生確率 (*) Ss 2 Ss 地震の大きさ Fig.6 Probability of Earthquake (3)保全の効果、基礎ボルトの強度 ・基礎ボルト径は、検査を実施しなければ、プラント運開時より腐食により減少し続けることになる。 ・ある時点で検査を行えば、その時点で基礎ボルト径を測定値に変更することで、保全の効果を付与することができる。 ・基礎ボルトの判定値は、工認ベースの値とミルシートの実力ベースの値のいずれでも評価は可能である。 Fig.7 Evaluation of Pump 3.3 ポンプの損傷確率 ・ポンプの損傷確率は、上述の「動作不良」についての確率と、「支持構造部」に関する損傷確率を加えたものになる。 ・以上のポンプ評価フローを図-7 に示す。 同様に、配管、弁についても同様の評価を行うことができる。これにより、LPCS 系の損傷確率が評価され、最終的にはプラント全体の健全性評価を行うことができる。 4.まとめ 劣化、メンテナンス等の保全状況を考慮した機器の健全性評価手法についての考え方を提示した。今後、試計算を行っていくとともに、他機器、他システムの評価を行っていく必要がある。 *:「地震発生確率」は、ある地震力 以上の地震が発生する確率を示(動作不良確率悪)化 (動作不良確率回復(機器の支持) (送水機能) 消耗品として評価機器の支持送水機能(*2) -2-1地震発生確率(※3)を損傷確率とする。判定値オーバー動作要求時、 動作せず 動作せず運転中停止運転中ポンプ停止中ポンプ評価する重要な機能を定義(1)バウンダリ機能(2)冷却機能(3)制御機能一般にサブ機能を構成する機器・配管・弁(*1) ・ポンプ(*1) ・タンク・熱交換器・ファン(*1) ・建屋・燃料・RPV ・ほか*1:電動機、ケーブル、計装・制御機器は、各動的機器の中で評価される。動作不良確率ポンプ損傷確率:以下の損傷確率の和物理的な故障原因(1)ポンプの回転部、電力関係部の考えられる劣化・摺動部固着・モータ絶縁劣化・ケーブル劣化・計装・制御機器劣化(2)消耗品の劣化・パッキン劣化・摺動痕、摺動減肉絶縁劣化モデルなど試験運転分解点検(+試験運転) HF 監視動作不良確率サブ機能を抽出:全48 *2:運転ポンプのため保守不良考慮せず。HF 等、保守後直ぐ判明。支持構造部損傷動作不良支持構造部劣化要因: 腐食ほか強度評価支持構造部損傷確率検査ボルト等の強度: 工認ベースor 実力ベース模擬地震力炉心冷却構成機器を抽出配管弁ポンプ熱交換器(*1) 不具合対応部品の有無消耗品の取替時期超過分解点検(+試験運転) サブ機能の喪失確率を求めるため、各機器の損傷確率を求める。バウンダリ羽根車、主軸軸受モータ計装・制御機器ほかケーシングメカシールほか基礎ボルトほか*3:「地震発生確率」は、ある地震力以上の地震が発生する確率を示す。例: Ss : 10-4回/年(動作不良確率回復率減) ) (損傷確率の求め方を検討) (動作不良確率回復) (動作不良確率の設定法検討) (損傷確率の求め方を検討) サブ機能炉心冷却機能対象機器ポンプ機器の機能喪失確率評価フローの例(動的機器) “ “劣化・メンテナンス等を考慮した機器リスク評価 “ “宮野 廣,Hiroshi MIYANO,荒井 滋喜,Shigeki ARAI,出町 和之,Kazuyuki DEMACHI“ “劣化・メンテナンス等を考慮した機器リスク評価 “ “宮野 廣,Hiroshi MIYANO,荒井 滋喜,Shigeki ARAI,出町 和之,Kazuyuki DEMACHI
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